まいど通信


        

●地場産業が生きている

 まいど! 編集長の奥野です。今月も最後までお付き合いいただきありがとうございます。
 今月は「春夏作業服」をテーマにお届けしました。取材を行ったのは4月。そのころは6月アタマに夏服の話って「ちょっと早いかな?」と思っていたのですが、ぐんぐん気温は上がり、いま(5月下旬)はもう完全に初夏の日差しです。今年は酷暑との予報もちらほら出ていますね。
 今月も各メーカーを訪ね歩いて最新ワークウェアの話を聞かせてもらいました。その中で印象深かったのは、なんといっても倉敷市・児島です。
 もう、とにかくジーンズ、ジーンズ、ジーンズ、ジーンズ……と、文字数を稼いでいるわけではありません。本当に駅に着いた瞬間から、右を見ても左を見ても、上を見ても下を見てもジーンズだらけなんです。到着した日に作業服の取材を終えて、翌日は国産ジーンズの店がたくさんあるストリート、メーカー開設のジーンズ博物館などを見学しましたが、ひと月経った今でも「お腹いっぱい」。もう一生分のジーンズを見た気分です。
 とはいうものの、やはり「地場産業が元気」というのはいいものです。仕事柄、いろんな土地に行って話を聞きますが、地域産業というのは、だいたい「昔は○○の街だった。今でもやっているのはあそことあそこだけ」という具合。産業構造の変化や少子高齢化もあって、地方の産業は瀕死のケースがほとんどなわけです。
 ところがこの「ジーンズの児島」ですよ。もうドン引きするほどのジーンズ押し。工場の近くを歩いているとインディゴ染料の臭い(たぶん)が流れてくるし、公衆トイレも当然のようにジーンズ柄。天井からジーンズがぶら下がっているのを見たくらいではもう何も思わなくなります。
 あ、そうそう、ジーンズ以外の児島の話としては、鷲羽山が気持ちよかったです。わかりやすく言うと、瀬戸大橋の北端(岡山県側)ですね。取材の翌日には駅前の児島商工会議所でレンタサイクルを借り、山頂の展望台まで行ってみました。自転車で登れるのか? キツかったら引き返そう、と思っていたけれど、レンタサイクルの電動アシストを「強」にしてやれば、おお、余裕! なかでも下津井電鉄の廃線跡「風の道」を走るコースは、駅舎からスタートしてかつての線路の上を走るといった非日常感もあって、たまらないものがありました。何度でも走ってみたいコースです。
 口コミによると山頂のテーマパーク鷲羽山ハイランドもマニアックな人気を集めているそうで(今回は時間がなかったのでスルー)、ひそかにいろんな見どころあるなあ、と感じ入ってしまいました。岡山、おそるべしです。

●ワークか、カジュアルか

 さて今回、春夏作業服の取材を進めていて何度も話に上ったのが、「ワークか、カジュアルか」の問題です。
 いわゆる「コテコテの作業服」はカッコ悪い、見た目を気にする若い人は買ってくれない、売り場でもいいところに並べてもらえない。そこで、作業服に求められる機能は残しつつ、流行を意識したカジュアルなデザインにする――と、こういうのが今の業界の流れと言っていいでしょう。思いっきりカジュアルに寄せるか、少しだけ寄せてワークの味も残すか、メーカーによってその方針は違いますが、どこもこの「ワークとカジュアル」の間で模索しているように見えました。
 とくにショップでの個人販売において「カジュアルの方が売れる」は間違いなさそうです。もし私が職人だったら「いかにも」な作業服より今風のカッコいいワークウェアを選ぶし、そのまま街に遊びに行ける点でも「コスパがいい」と判断するでしょう。そんなわけで、カジュアル化の流れは止まらない。
 しかし、このようにワークウェアをカジュアルに寄せることで、新たな問題も生まれます。
 まず、商品がアパレル業界のカジュアルウェアと競合してしまうこと。たとえば作業用に細身のカーゴパンツが欲しい人は「作業服の店で買わなくても、ユニクロで買ったらいいんじゃないか? ペン差しは付いていないけれど、安いし」というふうに考えるでしょう。これが、昔ながらの「ザ・作業服」を買うケースだったら、客の脳裏には「ユニクロ」のユの字もよぎらなかったわけです。はたしてユニクロやしまむらに勝てるのか?
 さらに、商品サイクルが早まることがあります。「カジュアルに寄せる」というのは、とりもなおさず「流行を追う」ことを意味するわけで、自ずと今だけ売れるウェアを作ることになってしまう。流行商品は2、3年もすると時代遅れになるので、次から次へと新しい商品を開発し、売れなくなったのはどんどん廃番にし……おや、こうなるとシーズンごとに新発表と処分セールを繰り返すアパレル業界と同じではないか? と。
 ごぞんじの通り、作業服やユニフォームは「前と同じヤツをくれ」が普通にある世界です。ファッションは言うまでもなく、家電やバイクにこんな客はいません。だからメーカーは死にもの狂いで、次から次へと新商品を開発し続けるしかない。飽くことなきイノベーション、といえば聞こえはいいけれど、どこか自転車操業みたいな気も……。
 と、そんな業界から見れば「定番ロングセラー品が何年にもコツコツと売れ続ける」というのは、かなりうらやましい話のはずです。そんな恵まれた環境を捨てて、わざわざ熾烈な競争の世界に飛び込んでいくのか。作業服のメーカーが生き残っていくには、本当にその道しかないのか?
「変わらないでいるためには変わり続けなければならない」
 口にするのは簡単ですが、実践となると非常に難しいテーマですね。

 ☆

 それにしても、先月・今月は平成最後の5月であり6月ですよ。次回の夏はもう、新元号になっているわけです。
 こう考えると、なんだかそわそわしてきます。平成が終わる前になにかやっておくべきじゃないのか! みたいな。一方で、自分も昭和、平成ときて次で3つ目の元号を生きることになるわけか……、としみじみしたり。
 しかし、こんなふうに「ひとつの時代」を捉えている日本人というのは、世界ではかなり珍しいそうです。中国も韓国も、もう元号は使っていません。西暦で1990年代、清朝末期、といった認識はあっても、日本人がいう「昭和史」に相当する感覚はない。日本って東アジアでもかなり特殊な国なのかもしれません。
 さて「平成史」は今後どう語られるのでしょうか? バブル崩壊後の失われた20年とデフレの時代? いや、それじゃあまりにも華がなさすぎるような……。でも、戦争はもちろん軍事衝突も起きなかったのだから、少なくとも「平和が成る」は達成された。ここだけは平成をフルで生きた世代として、自慢できる点ではないでしょうか? ひょっとしたら「平成」の30年間は偉大な時代として後世に記憶されるかもしれません。
 というわけで、今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 次回7月号は、いわゆる「空調服」(正式にはファン付きウェア)を特集する予定です。お楽しみに!