【イーブンリバー】道なき道をゆく永遠の挑戦者image_maidoya3
ますますアカ抜けてきた。いよいよ冴えわたってきた。イーブンリバーの新しいカタログが届いたときのまいど屋の偽らざる感想である。頭の固い頑固者が見たらきっと目をむいて怒り出すか、あるいはただ首を振って立ち去ってしまうだろう。いったいこれのどこが仕事着なんだって。だが、先入観を捨て去ってよく観察してみれば、いつものように際どい所で踏みとどまったワークウェアとしてのアイデンティティーはいささかも揺らいでいないことに気付く。アウトサイダー的なデザインの陰に巧妙に隠されている、骨太な信念を感じることができる。そして、そんなイーブンリバーの世界観に共感する人々が、非常な勢いで増え始めている。異端視されていたビートルズが、やがて世界中で熱狂的に迎え入れられたように。
  このブランドが作業服業界では異色の存在であることは、三年前のレポートで既に書いた。同じ論調で改めて焼き直ししたって意味のないことは編集部も重々承知している。読者の皆さんの批判を覚悟の上で今回再びイーブンリバーを取り上げるのは、彼らの進化が我々の想像をはるかに超えてスピードを増しているからだ。邪道だなんていう人はもはや少数派で、ようやく時代がイーブンリバーに追いついてきた。そんな予定稿のような結論を許さない、理解者さえも拒絶するかのような孤独な独走。そう、いつもイーブンリバーは我々の期待を裏切って、はるか先を走ってゆく。追いつくなんてことはできやしない。これからも、きっと永遠に。いったい彼らはどこに向かうのか。我々をどこへ導こうとしているのか。今回のインタビューで少しでも彼らの目指す世界に近づければと思う。
 

イーブンリバー
image_maidoya4
左から『US-902』、新商品『USD-102』、『USD-202』
image_maidoya5
ベルト通しもひと手間多い『USD-202』(手前)、『USD-102』(奥)
「先を行っているように見えますか?そんな風に言っていただけると嬉しいです。長年、私たちはお客さま目線で何らかのサプライズを出せるよう、チャレンジを続けてきました。本気でそう考えているから、他人が通ったことのない道をあえて進むこともしょっちゅうあった。道を間違えたかなと思ったことだって何度もあるんです。私たちが先を行っているのだとしたら、きっと正しい道を選んだんでしょう。そうでなければ、誰も先を行っているなんて言いませんからね」。今度の取材目的を聞いて、穏やかに話し始めたのは代表取締役の平川吉輝(ひらかわ・よしてる)さん。ポロシャツに綿パンというこなれたスタイルが示すとおり、気さくな社長さんだ。「スタイル面で言えば目線はカジュアル。普段に着てもいいよね、くらいの感覚のもの。もちろん、ワークなので丈夫さ、着やすさ、作業性の良さを押さえた上で。それと、ワークウェアは制服だから、パッと見てウチのだとわかるようなものを作っていきたい」。
  イーブンリバーが本格的にカジュアルワークを始めたのは14年前のこと。以来、毎年のように新商品を出して型番を重ねてきた。「第1号の『US-00』は、とにかく丈夫なシリーズ。今でもリピートが多いですが、当初は “こんなん着る人、ごくごく一部でしょ”なんて言われて、なかなか相手にされなかった(笑)」。
  時代は変わり、今や各社競ってカジュアルワークを出している。しかし、平川社長は「ウチのは一味違うから」と、まったく意に介さない。「週末に作業服屋さんを見て回ると分かるんですが、イーブンリバーの売り場に立ち寄るお客さんは、オシャレに対して意識の高い方が多い。いいカジュアルウェアを着ているし、乗っているクルマにもこだわりがある。そういう方たちに満足いただける商品を出していくのが我々の仕事です」。
  一年の3分の1は海外出張という平川社長。それだけでもかなり多忙なはずだが、帰国すれば取引先を飛び回り、さらに週末は市場ウォッチ。ワーク専門店からカジュアルショップ、デパートに至るまで、足を運ぶ場所は多岐にわたるそうだ。そんな平川社長が率いるイーブンリバーのこだわり。いったいどんなものなのか?「まず生地。作業服にふさわしい、しっかりしたものを選んでいる。生地(紡績糸)が良くなかったらいい商品はできないんです。でも、“これ使いたいな”という生地はやっぱり値段が高い。それをどう安く買うか、知恵と腕の見せどころです」。
  付属品もしかり。オリジナルドットボタンやリベットを多用したイーブンリバーのウェアは、在るべきところに在るべき付属品がちゃんと収まって、いい味を出している。「付属品が多いと、その分、値段が高くなる。でも、付属品を使うからこそ雰囲気が出て印象も引き締まる。ワイルド感ある太いファスナーとかね」。
  また、デザインやシルエットでは、1つの型番で10回以上も試作品を作り、ミリ単位で修正を加えていくという。「どうせ作業服だからとか、太い人も細い人もいるからコレでいいじゃんなんて妥協はしません。お客さんもそういう細かい部分のこだわりを分かってくれている。だから、新しいのが出ればまた着てみようとなる。ファッション衣料と違って、ワークは在庫を持たなければならないから、1シリーズ出すのに相応の資金が要ります。ウチのような規模のメーカーは、これなら資金を投入してもいいと確信しなければ、商品を出すことができないんです」。
  さて、そんなイーブンリバーが今期も渾身の新作をデビューさせた。業界の常識などには全く頓着しない彼ららしく、意表を突いたパンツ単品。しかもデニム素材でワザありフォルム。その名も『ハイブリッドデニムカーゴ』(型番:USD-102)、『ハイブリッドデニム3Dカーゴ』(型番:USD-202)である。「ジーンズ=綿100%という認識がある中、あえてポリエステル30%混で作りました。綿の良さに、軽い、縮みにくい、乾きやすい、イージーケアといったポリエステルの良さをプラスして、はきやすく、扱いやすく、ね」。
  デニム素材にも驚かされるが、やはり一番のサプライズはパターンのカット。ひどいO脚で、テーブルの上で広げてみたときの見た目はなんともカッコ悪いカーゴパンツ『USD-102』は、はくと驚くほどフィットしてスタイルよくキマる。「大きくカーブしているから、はいた時のヒザの感覚が違って、立ったりしゃがんだりの上下動作が非常にラク。最近は上下別でコーディネートする方が増えているので、チャレンジでパンツ単品を出しました」。
  一方、3Dカーゴ『USD-202』は立体裁断がウリ。前身が細くなった生地の接ぎ方が特徴で、こちらも平置きするとO脚でカッコ悪いが、はくとすっきりキレイにキマって動きやすい。「このタイプは6~7年前に出した『ユーロ3Dカーゴ』 (型番:US-902)で既にやっていています。『ユーロ』を出した時は、最初は全く反応がなかったけど、はき心地がいいので口コミでジワジワと広がって人気が出たんですよ」。
  続いて、もうひとつの新作。こちらは綿100%のマイクロへリンボン『US-1306』シリーズ。パッと見ただけでは平織りにしか見えない生地は、目を凝らしてよーく見ると、ごくごく細かな杉綾模様があり、ギシギシに目が詰まっている。「ハードな現場でも安心して着ていただける、非常に強度のある生地です。アイテムはシャツとカーゴで、ブルゾンはナシ。これだけ高密度な生地でブルゾンを作ると重くなり過ぎるのでやめました。カーゴのポケット口を太番手の糸でステッチしたり、存在感ある太いファスナーを使ったりして洗い加工のハード感を際立たせています」。
  以上、今秋の新商品2シリーズ。9月に出して1ヶ月ちょっと(取材時点)だが、早くも上々の手ごたえを感じているという。「商品づくりで一番悩むのは、こだわりすぎてもダメ、無難すぎてもダメ、っていうこと。仕事着なのでサジ加減が難しいんです。ユーザーさんがここまでだったら何とかついてきてくれるだろうというところを慎重に見極めて、その半歩先位のところまでこだわってみる。たとえ他社さんがマネしようとしても、どこか違う。そんなウチらしい視点を大切にして、これからもサプライズを届けていきたい」。
  さてさて、絶妙なサジ加減で送り出されてきた商品の数々。平川社長は半歩先だと言っていたが、読者の皆さんはどう感じただろう。イーブンリバーに振り切られずに追いついていけそうだろうか。インタビューを終えた今でも、編集部にはまだ彼らがかなり独走しているように見えるのだが。以下に売れ筋のコレクションを改めて紹介しておくので、後は皆さん自身の目で判断してみてほしい。
 
image_maidoya6
マイクロへリンボンカーゴ『US-1302』のこだわりのポケットまわり