【鳳皇】夢のお告げ?でオンリーワンをゆく!image_maidoya3
鳳皇の特集って、過去にまだ一度しかやっていなかったんだ。そう気づいたのは今回、鳶特集の企画を詰めていたとき。まいど屋にラインナップするブランドコレクションの中では比較的新しい方だが、それでもニューフェースとして登場してからもう3年は経っている。その間、多くのお客さまに親しまれ、それなりに人気も出てきたというのに、月刊まいど屋としてあり得ないほど露出が低い。別にメーカーさんとの関係が悪いわけでもなく、いや逆に、電話ではいつも社長さん直々にかわいがってもらっているのだから、本来ならもう少し取り上げていたっておかしくないはずだ。書きたいことだってたくさんたまっているし。いったい、どうしてこんなにスルーし続けていたんだろ。
  ある事情で過去2年半の間、鳶特集ができなかったからっていう理由はあるにせよ、これじゃ編集部の怠慢と言われても返す言葉がない。まいど屋社内の都合ばかり優先して、読者の皆さんの方を向いていないんじゃないかと疑われても仕方がない。皆さん、反省してます。すみませんでした。罪滅ぼしと言っちゃあなんですが、今回はいつにも増してキアイを入れて取材してます。お相手は前回同様、村上社長。ジョーク満載の軽妙な語り口の裏に秘められた真剣な想いをレポートします。本当はあまり公にしたくないらしいここだけの話もこっそり聞いてきたので、どうか許してくださいね。
 

鳳皇
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独特のオーラを放つ村上社長
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新作の立ち衿ベスト『3799』
「いやぁ、まいど!お客さま相談係の村上です!!」。大きな声、朝イチとは思えないテンション、そして、一瞬にして場の雰囲気を明るくする強烈な個性。そう、このひとこそ、鳳皇ブランドで知られる村上被服(広島県府中市)の代表取締役社長、村上泰造氏。ちなみに、まいど屋が村上社長に電話する時は、用件に関係なく、「クレーム担当のひとお願いします」というのが常。そう告げると、必ず村上社長に取り次がれて「はい、お客さま相談係です」と出てくれる、実にノリのいい社長さんなのだ。
  「ウチは1960年創業じゃけど、鳶服を始めたのは15~16年前。バブルの後に参入した後発組じゃけぇ、業界じゃ底辺の底辺におる。それでも伝統の鳶スタイルに働きやすさをプラスして、何か社会のお役に立てるようにと気負ってやりょうる。鳶服はカタチが独特じゃけぇ中々難しいんじゃが、ウチの工場の技術を活かしてがんばって縫っとる。輝かしい未来に向かって、この備後の地鳳皇から“職人さん応援!日本の絆”って意味でも日本製にこだわり、伝統を守り続けていきたい」。村上社長、ここまで一気に話すと、らしくない公式発言に少々照れたのか、「ま、偉そうなことを言うのはこのくらいにして・・・(笑)」と頭をかく。では、その想い、どのようにカタチにしているのか?実際の商品を前にとくと語っていただこう。
  まずは、昨年デビューした『6403』シリーズから。このシリーズ、伝統の鳶スタイルではないが、綿100%の厚手のランダムピケを、洗い加工によって柔らかく、味のある風合いに仕上げている。「ええじゃろ、このカーゴのポケット。ワシらは『平成26年のポケット革命』と言っとる。前ポケットを低めに付けてあるけぇ、安全帯を付けたままでもランヤードが収納できるし、座ったままでも運転中でもスルッと手が入ってモノが取り出せる」。
  ブルゾンと長袖シャツは、衿端に細めの樹脂ワイヤーが入っていて、衿を好きな形にスタイリング可。しかも、ガテン系女子のために、レディース仕様のブルゾン、シャツ、カーゴも揃えている。「こう見えても、ない頭を駆使して、眠らずに・・・じゃなく、熟睡して考える。そうすると、夢の中にアイデアが出てくるけぇ。ここ府中にゃぁ、夢のお告げで土の中から見つかったという『首なし地蔵』があるが、ワシも同じ(笑)」。
  どうやら夢のヒラメキで商品づくりをするらしい村上社長。そのお告げ的アイデアは、これから夏に向けたアイテムにもしっかりと取り入れられている。「夏の主力は綿100%の布帛シャツ。たとえば『3700』の立ち衿シャツは、5年前に単品で白を出したら、こんなの誰が買う?売れるんか?と言われた。でも何度も夢に出てきおるんで、次の年に紺とシルバーグレー、その次にサックスとピンクを出して色を増やしていったら、そこそこ認知されるようになって、今やウチの主力商品。カラーは全部で9色じゃけど、意外にも職人さんたちにはピンクがウケて、定番のネイビーより、ピンク、サックスの方がよく出る」。
  実は、鳳皇ではつい最近、この立ち衿シャツと同じ生地で立ち衿ベスト『3799』を出したばかり。「サックスはスギちゃん、ピンクは春日のために作った(笑)。夏はコンプレッションだけ、という職人さんもいるけど、一方で“ポケットがないので不便” 、“衿がないから現場に入れない”という声もある。それで、コンプレッションの上に着る衿付きベストを考えた。5つポケットで、無線機やスマホを入れるファスナーポケットもある」。この日、社員さんが着ていたのもこのベスト。安全帯の邪魔にならないショート丈で、衿を立てると刺し子仕上げの衿裏が見えてバックスタイルもカッコいい。
  さて、夏といえば暑さ対策。汗で服内がムレると、仕事だって思うように進まない。「涼しい鳶服なら江戸前超ロング『1508』やね。トロピカルという夏向きの生地で作っているから、サラッと爽やかに着られる」。こちら、細身仕立ての裾口3つボタン。地味めの表地とは裏腹に、ワイン系のツヤ生地に黒の織り柄が入ったゴージャスな裏地が施されている。「朝起きて、ズボンを広げたときにいちばん目に入るのが裏地。こういう裏地だと、“よっしゃ、今日はこのズボンで頑張ろか!”となる。ヤル気を掻き立てられて朝からテンションが上がるけぇ」。
  そして、この『1508』も、この春、同じ夏素材でスピンオフ商品を2つ出している。「ひとつは、コンプレッションの上から着るメッシュベスト。『1508』にも上着があった方がいい!という声に応えてね。もうひとつはロングニッカで、ワシの知る限り、どのメーカーにも夏素材のロングニッカがなかったから作った。自社リサーチなんで絶対とは言えんが、たぶんやっているのはウチだけ」。(*編集部注:トロピカル素材のロングニッカは寅壱さんにもひとつあります。社長、ごめんなさい。)
  おっといけない。鳶服の王道の王道を忘れていた。遅ればせながら、村上社長イチオシという自慢の品を紹介してもらおう。「いろんな素材でチャレンジしてきたが、やっぱり職人さんはサージが好き。肌触りや強さがええんじゃろな。中でも日本製のサージを使った『1261』シリーズは人気がある。着心地はええし、国内縫製じゃけぇ品質面でもご安心いただける。上は立ち衿シャツ。下は江戸前超ロング、七分、乗馬ズボンと種類も揃っとる。乗馬ズボンなんかは、国内で縫う所がなくなってモノがなくなってきたけ、植木職人さんが探していたというのを耳にして、ウチの工場で作るようになった」。
  さらにこのシリーズについては、社長からうれしいNEWSがひとつ。「最近、女子の職人さんが増えとるけぇ、女子用の細身3つボタンもやるよ。ウエスト、尻まわり、股上と女性のボディに合わせたシルエットづくりに試行錯誤して、やっと製品化できるようになった。今年の夏は別注対応になるけど、どこよりも先に定番化していきたい」。とりあえず別注ということなので、今年の夏はまいど屋の画面には掲載されないが、興味のあるかたは直接まいど屋にご連絡を。何とか納期が早まるように、社長をせっついてみます。
  今後についても、「どうせやるなら個性的なものをやったほうがいい」、「職人さんが着るような特殊なものを国内縫製していきたい」と村上社長は意欲を見せる。そこには、「SMAPの歌じゃないけど、ナンバーワンよりオンリーワンや!」という信念があるようだ。「営業でいろんなところへ出て行ってお店の声を聞き、ウチとして実現できることをやっていく。お店のほうがユーザーさんのことをよく知っているからね。それと、どうせ言うたってコイツは作らんな、というヤツにはいい情報を教えてくれん。現場の声をある程度汲み取ってカタチにしていかんと、次から情報がもらえんけぇ」。
  現場ユーザーの声に夢の中のアイデアまでプラスして次々と商品化されていく鳳皇の職人服。ニッチな部分を見つけては、本気でしっかり突いてくるところがファンの支持を集めているのだろう。最後に蛇足ながら、このレポートを読んで何だかいかがわしい雰囲気のメーカーだなぁと感じてしまった読者の方がいたとしたら、それは全くの誤解です。村上被服はセンスも技術力もあるちゃんとした会社です。社長の話がどうもインチキ臭く聞こえるのは、編集部に中国地方出身のスタッフが誰もいないから。広島弁って、文章にするのが本当に難しいんだから。インタビューの速記録を見ながらお話を再現してみたんだけど、これであってるんですかね、社長?
 
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江戸前超ロング『1508』、ロングニッカ『1506』のこだわり裏地
 

    

耐久性よし!肌当たりよし!値段が安いのがさらによし!堅牢なナチュラルコットン100%素材をプレーンなシルエットに仕立てた1401シリーズ

やっぱ、綿だね!気持ちいい!そんな職人さんの声が聞こえてきそうな天然コットン100%のベーシックウェア。現場を重ねるたびに、洗濯をするごとに、身体に馴染んで手放せなく愛着仕様。カラーも基本のネイビー、ホワイト、シルバーの3色。


タフな面構えが頼もしい!動きやすさを重視して伝統に回帰した無骨な実力派、7891シリーズ

シブい色目ににじみ出る男の風格。しっかりした穿き心地で動きやすく、崩れず、ハードに使えるタフな作りで職人服の王道をゆくシリーズ。素材は丈夫で洗濯耐久性にも優れたポリエステル100%。カラーはホワイト、シルバー、ブラック、スミクロ、ネイビーの5色。