【鳳皇】トレンドハンターが狙う次の獲物image_maidoya3
つい数日前、切羽詰まって鳳皇を展開する村上被服の村上社長に電話をした。どう切羽詰まっていたのかは編集部の楽屋話なのでこうした公式レポートであまり言いたくはないのだけれど、その点がまさにこのレポートの核心に関わる部分なので、仕方なくお話しすることにする。実は、今月の鳶服特集の企画の立て方に問題があったのだ。10月に鳶の特集をやると決めたのは、寅壱が久しぶりに新カタログを出したからだ。鳶服ネタを待ちわびていた編集部としては合理的な判断だ。で、このページの上の見出しにも表示されているように、まずは寅壱を取材した。ところが、その後が続かない。他の鳶服ブランドからは、新作の情報が全然入ってこないのだ。関東鳶しかり、三段鳶しかり、新商品が全くない。まさか寅壱一本だけで今月号をアップするわけにはいかないから、編集部はしばし呆然とした。そして最後に泣きついたのが村上社長だったというわけ。
  ウチも新商品ないですわ、と渋る社長に、編集部は受話器に頭をこすりつけるようにして強引に取材を申し込んだ。一つあるじゃないですか、夏に出たヤツが。あれはオールシーズン素材で、これからの季節にピッタリですよね。社長、お願いしますよ。まいど屋を助けると思って。
  「じゃけえ、一つじゃ、きっと記事なんか書けるもんきゃ」
  「いや、社長の話術があれば、レポートはいくらでも体裁が作れます。じゃ、10日に伺いますね」
  こうして編集部は急遽、鳳皇の取材に向かうことになった。失礼を承知で、同時にほっと胸をなでおろして。あ、そうそう、読者の皆さんにだけは失礼のないように言っておくけど、取材では結果的に、予想以上の収穫がありました。じゃなきゃ、こうして月刊まいど屋に掲載することはありません。それにしても、やっぱり、さすがだよなぁ、村上社長は。
 

鳳皇
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細身江戸前超ロング『5488』を手にする営業部の小川さん
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腰裏が決め手!ストレッチで動きやすいジョガーパンツ
「じゃけぇ~、今の流れで行くと、どこもかしこもデニム系のストレッチになるけぇ、その流れを見越して、今年の春は鳶服でストレッチを考えた。それが3月に出した細身江戸前超ロング『5488』。これまで “ストレッチの効いた鳶服は邪道”と言われとったけぇ、おそらく、鳶服でストレッチ素材を使ったのはウチが初めて」。・・・と濃厚な備後弁でグイグイ押してくる村上社長。発言をそのまま表記すると、一般の読者にはワケがわからなくなるので、以下、備後弁はニュアンスのみにとどめ、後は全て標準語に翻訳して書き記すことにする。
  「『5488』は細身で裾は三つ釦。伸縮性に優れたストレッチ素材に加え、股の部分に特殊カット(アーチカット)を入れとるで、これだけスリムでワタリが少なくても、しゃがんだり、脚を開いたりといった動作がスムースにできる、ほら」。村上社長はそう言いながら、そのパンツをこちらに手渡した。両手につかんで左右に引っ張ると、確かに生地がよく伸びるのがわかる。股部のアーチカットもうまく立体縫製されており、動きやすそうだ。生地は綿、ポリエステル、ポリウレタン混。タテムラ糸で織り上げているので、縦方向に微妙な濃淡が出て表情に味わいがある。また、長財布が入る深い後ろポケット、ペン差し、コインポケットなど細かな気配りもぬかりない。同シリーズではブルゾン『5403』、シャツ『5407』、カーゴパンツ『5404』もラインナップし、トータルコーデも自在にできそうだ。
  また、このシリーズには変わり種としてジョガースタイルの『5493』があるのが大きな特徴。「三つ釦もダメ、超超ロングもダメというなかで、新しい鳶スタイルの一つとして出した」という。前述の『5488』と同じ時期のリリースだ。「今、流れはカジュアルパンツからジョガーパンツに変わってきている。今年1月の展示会でサージ素材のジョガーを提案したら好評で、数店舗でモニターをとってテスト販売することにした。そしたら職人さんのウケが良くてね。好評の声とともにさまざまな助言をいただいた」。
  モニターの意見に基づく大きな改良点は、サージからストレッチ素材への変更だ。また、股下が長すぎて足元がモタつくとの指摘から、丈を短くして足元をすっきりさせた。写真1を見るとわかるが、たまたま同席してくれた身長170cmちょいの営業マン、小川さんが着用すると、あつらえたかのようにフィットしているのがわかる。
  使い勝手を追求した村上社長の工夫はまだまだある。「当社のジョガーがユニクロなどのカジュアルブランドと違うのは、腰周りが深く、腰がビシッとキマるように腰裏をしっかり作っているから。職人さんは安全帯をするし、腰が安定せんと仕事にならんけぇ」。裾は後ろ部分にリブ編みを付けてはきやすさとフィット性をアップ。股下アーチカットはもちろん、長財布が入る後ろポケット、ペン差し付ポケットなど、機能性にもこだわっている。
  「これまでは一発大量生産というやり方だったので、失敗することも多かった」と村上社長は笑う。今回は皆さんの意見をしっかり聞いた上で商品化しようと、じっくり取り組んだ」。わしゃぁ、せっかちじゃけ~という社長だが、今までになく手堅く準備を進めた商品づくりに自信を見せる。
  さて、次に紹介するのは、鳶服の基本ともいえる七分シリーズ。村上社長が今後力を入れていきたいと話すアイテムだ。「昔の鳶職人さんは七分一辺倒だったけど、七分から八分へと、だんだん丈が伸びていって、ここにきて原点回帰。再び七分が注目されるようになってきた」。確かにまいど屋でも、ここ数年七分の販売数量が大きく伸びてきているから、社長の読みは間違っていない。生地も縫製も日本製の『1270』は、昔ながらの紺のサージで、裾はサッと着用できるファスナー仕様。『2700』はポリエステル100%で裾ファスナー。『4700』は綿100%で裾は六つ釦。それぞれタイプは違うが、どれも本格派の安定感がある。
  また、同じような流れで、乗馬ズボンも旬の鳶スタイルとして注目を集め始めており、村上社長はこのジャンルの強化にもしっかりしたプランを持っているようだ。「昔から庭師さん向けに乗馬ズボンを販売してきたけど、去年ぐらいから鳶の若い職人さんの間で人気が出てきたのを肌で感じている。作業環境が変わったのも理由なんだろうけど、乗馬ズボンはコンパクトで動きやすいけぇ」。鳳皇では、現在、日本製サージで国内縫製の『1265』、ポリエステル素材の『2750』、綿100%コール天素材の『17000』など4アイテムを揃えているが、今後さらに拡張していく予定だそうだ。
  職人さんのウェアが鯉口から立襟シャツへとあっという間に変わってしまった例が示す通り、現場のトレンドの移り変わりは予想以上に早い。乗り遅れないためにも、「アンテナを立てて時代に合わせながらやっていく」と意気込みを熱く語る村上社長。最後に、こう付け加えてインタビューを締めくくった。「新しい提案をするのは楽しい。作る側は反応が楽しみ。着る側も楽しみ。それでいいじゃないか。当社は職人さんたちと一緒に成長していきたいし、ウチにはそれをやれる環境があるけぇ」。
 
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ジョガーパンツの裾仕様(手前)とアーチカット(奥)
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パワフルで明るい村上社長

    

現場に出たなら、四の五の言わず、身体を動かせ!スタイルにこだわる職人が、ホンキの仕事っぷりを見せつけるにはうってつけの5403シリーズ

縦方向の微妙な濃淡が味わい深い、ストレッチ素材の鳶服シリーズ。素材は綿70%、ポリエステル28%、ポリウレタン2%。ボトムは股の部分にマチを入れたアーチカットにより、スリムなシルエットでも股がよく伸び、キツイ動作もらくらくスムース。細身江戸前超ロングは裾三つ釦、長財布が入る深い後ろポケット、ペン差し、コインポケット付き。ライトグレー、ネイビー、オリーブの3色。


洗練スタイルをラフに着こなせ!鳳皇流の粋がここにある、3700シリーズ

全9色の豊富なカラーバリエでコーディネートに威力を発揮する立ち襟シャツ。生地はナチュラルな着心地がうれしい綿100%。フロントはヒヨク仕立て、襟裏は刺し子仕上げ。シリーズには他にショートベストや超超ロングもあるが、手持ちのウェアに自由に合わせても全く問題なし。