【ジーベック】不可解な行動のウラを読むimage_maidoya3
ジーベックの動きが激しくなってきた。従来からこのメーカーを特徴づけていた攻めの姿勢に、最近では明確な意図を感じさせる戦略性が加わってきているように思う。彼らがどんな全体像を描いてアクションを加速しているのかは、残念ながらまいど屋ごときの分析能力ではうかがい知ることはできないのだが、その確信に満ちた足取りの裏には、彼らが拠り所とし始めたに違いない、何か絶対的なものが控えているだろうことは何となく想像できる。絶対的な何か---それは恐らくジーベックの社内で隅々まで共有され、スタッフ各自が自らの血肉とするくらいに信じ込んでいるような何かであろう。そしてそれは、宗教的教義を思わせるほどの強力な動機づけとなって彼らを突き動かしているのだろう。そうでなければ、つい最近も業界を騒然とさせた突然の全商品値下げ(*詳しくは月刊まいど屋2016年5月号のまいど通信を参照されたい)などは説明が付かない。常識では考えられない行動の元をたどれば、多くの場合、常識とは相いれない、それであるがゆえに内部のメンバーにとっては強力な求心力を持つ原理が働いているはずなのだ。
  彼らの不可解な振る舞いをそう読み解いていくと、ジーベックのコレクション構成がかなり大胆に方向転換しつつある謎もある程度は解けてくる。今季の新カタログを見てみるがいい。まるで今まで積み上げてきた資産を否定するかのように、「新定番」というキャッチを多用した一連の新商品が巻頭を飾っている。現場を重視した「現場服」という概念が立ち上げられ、我々にそれを受け入れるかどうかを迫っている。表現はソフトであるが、あたかも恫喝するかのように二者択一を要求するプレゼンテーションのやり口は、確かに彼らが何かを仕掛けようとしていることを物語っている。
  そう、彼らは何かをたくらんでいる。その手掛かりをつかむのが今回の取材の目的だ。まいど屋はまいど屋が持てるありったけの能力を使って、その何かが何であるのかを探り出す。そしてこのイントロに記したようなファジーな印象論ではなく、それを具体的な形で読者の皆さんの前に提示してみようと思う。そろそろもうこの辺で無意味な能書きは止めにする。ジーベック企画部、村田課長の話を聞こう。
 

ジーベック
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コスパ抜群の新定番を謳った『1680』シリーズ
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綿100%の新定番『2020』シリーズ
「何かたくらんでるように見えますか。そう思われたのなら、それは光栄、ってことなんでしょうね、きっと。私たちにしてみれば、その時々のマーケットの流れを読んで、普段通りに対応しているつもりなのですが、外から眺めるとそうは見えなかったのかもしれません。まあ、言われてみれば、確かにここ最近、これまでの延長線上にはないような動きをしてきましたからね」。約1年ぶりに会う村田さんは、まいど屋がジーベックに抱く感想を聞くと、そう言ってニヤリと笑った。前回取材時の主任から課長に昇格していて、それなりの風格が備わってきたように見えた。相変わらず少年のように細身ではあるけれど。
  「2015年に全体的に値上げをしました。それまで2,900円で買えたものが3,000円代に。3,900円が4,000円代に。この影響が思った以上に大きく、売れにくくなった。バイヤーやショップの店長さんからも言われましたね。メーカーはいいものを作っていればいいわけじゃないんだと。お客さんには予算があるので、いくらいい商品でも価格が上がってしまえば手を出しにくくなる・・・って」。
  そこでジーベックは新たな道を模索した。一度値上した既存商品を値下げして元に戻したのもその一つだが、新たな商品展開でも価格ニーズを意識して動いたのだ。品質や機能を落とすことなく、ユーザー満足度の高い商品をいかにリーズナブルに提供できるか。その一点を突き詰めて行き着いたのが新定番だという。「必要な機能はきちんと備えたまま、生地と縫製を東南アジアにシフトして価格を抑えました。単に安いのではなく、納得いくデザインと品質で買いやすい。そういう商品を新定番と謳って、まず2シリーズを出したんです」。
  新シリーズ『1680』と『2020』は、どちらもブルゾンが定価で6,300円、スラックス4,500円、ラットズボン4,900円(いずれも税抜き)と、ジーベックの中では価格は低め。前者はT/C、後者は綿100%でそれぞれ作業着の王道素材を真正面から採用し、目先を変えてごまかすようなことをしていない。シーンを選ばないシンプルなデザインやその意欲的な価格設定を見ても、ボリュームゾーンを狙った戦略的な商品であることは明らかだろう。「安かろう、悪かろう、じゃなく、きちんと作り込んだものをどこまで低価格にできるのか。それが自分たちの挑戦だった」と村田課長は振り返る。ではいったい新定番は具体的にどんな商品に仕上がったのか。
  「あらゆる現場に対応できるすっきりとしたデザインと機能。これが『1680』シリーズの特長です。生地は、ポリエステル65%、綿35%の丈夫なツイル素材。もちろん帯電防止です。背にはノーフォークが付いて動きやすく、右胸にはスマホが収納できるファスナーポケットも付けました」。村田課長はそう言うとポケットに手を入れ、手首のあたりまですっぽり入ることを示してくれる。なるほど、これならiPhoneでもしっかり収まりそうだ。「その他、必要な機能だってしっかり備えていますし、付属品にもいいものを使っています。例えばファスナーはYKKの『メタルックス』で、樹脂を金属のように見せているハイグレードタイプなんです。ネームも従来の織りネームより単価が高いエンボスネームを付け、シャレた雰囲気が出るようにこだわりました」。
  パンツはスラックス(型番:1682)と、サイドにファスナーポケットとペン差しの付いたラットズボン(型番:1683)の2タイプ。カラーは定番の4色を揃えている。
  もう一つの新定番『2020』シリーズは、火を扱う現場でも活躍する綿100%素材。「ベーシックでカジュアルの匂いのする作業服です。ファスナーなどの付属はすべて金属。それも、あえてツヤ消しを使用し、生地の風合いにしっくり馴染むようにしています。左胸はファスナーポケットも付いたWポケット。左袖にもファスナーポケットを付け、収納性と見た目の洗練度を高めています」。
  アイテムは、ブルゾン(型番:2020)と、ノータックスラックス(型番:2022)、ノータックラットズボン (型番:2023)の3アイテム。カラーはコットンの風合いが生きるキャメルをはじめ、4色を揃えている。
  さて、コスパに優れた『新定番』を従来のコスト積み上げ式によるモノづくりに対するアンチテーゼとするならば、現場を徹底重視した『現場服』シリーズは、これまで磨き上げてきた作業着としての機能性をより先鋭的な形で示した試みだと言える。幅広い用途に対応できるオールラウンダーであるよりは、もっと個別のシーンに特化した、それゆえハマる現場には他の選択肢を考えられなくしてしまうような、磁力の強い個性をウリにする。今回登場した新作『2170』には、特にそんな傾向が強いのではないか。「現場服の看板である動きやすさの完成度と洗練されたカジュアル感が、このシリーズでひとつの頂点に達したのではないかと思っています。一見、ミリタリー調の今風な顔立ちですが、とにかく身体を動かしやすい。ストレッチ性のある生地を使用し、さらに立体裁断で予め袖がカーブしているので疲れにくいんです。パンツも予め膝が曲がった状態なので屈伸がラクですよ」。
  現場での使い勝手を高めた数々の工夫にも注目すべきポイントがたくさんある。ブルゾンには左胸に深さのあるファスナーポケット、左右の内側には野帳や長財布も入る内ポケットを。カーゴにもファスナーポケットとマチ付きの大きなサイドポケットを付け、十分な収納を確保。パンツのウエスト部はベルト仕様ではなく、ソフトではき心地がラクな見返し仕様にしている。「最近、ストレッチのカジュアルワークが他社から出ていますが、デザインを優先するあまり、ポケットが小さい、細身で動きにくい、という声もあります。ガタイのいいお兄ちゃんがパツパツで着るのはちょっと・・・ということで、ジーベックでは適度なゆとりと収納力に重きを置いているんです」。
  生地は、肌触りもいい綿97%、ポリウレタン3%のストレッチオックス。見かけのハード感とは違って、ソフトな肌触りは洗い加工ならでは。カラーはウォルナッツやアーミーグリーンなどシャレ感ある4色だ。
  「デザインや価格を含め、今や“普通の作業服”の定義が昔と変わってきているように思うんです。私たちはその流れを見ながら常に自分たちを変えていかなくてはいけない。ジーベックが何か企んでいるように見えるとするならば、それは私たちがしっかりと目を見開いて、ユーザーの求める姿に変わり続けているからじゃないでしょうか。私たちの行動原理はいたってシンプルであり、それはつい最近こしらえたようなものではありません。常にマーケットを意識する---昔から不変のその考え方が、まいど屋さんが言う“教義”なのだとしたら、確かに私たちはそれを絶対的なものとして共有する信者であるのかもしれませんね」。このところのジーベックの大胆な方向転換を理解する鍵。その答えは、村田課長のこの言葉の中にあるように思う。
 
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前作の現場服『2140』(左)と新作『2170』(右)
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はき心地のラクなウエスト見返し仕様

    

アクティブワークを目いっぱいサポートする!動きやすさと機能性、そして着心地にとことんこだわり抜いた2170シリーズ

立体裁断とストレッチで動きやすくてガンガン働ける「現場服」の新作。生地はバイオウォッシュのソフトな肌触りが心地いい、綿97%、ポリウレタン3%のストレッチオックス。フロントはフルジップで衿を立てて着てもカッコよし!深いファスナー胸ポケット、両側に野帳も入る内ポケットなど収納も充実。スラックスとカーゴは、ソフトなはき心地のウエスト見返し仕様。カラー4色。


現場を問わないオールラウンダー!一流の高スペックをすっきりと洗練されたデザインにちりばめた1680シリーズ

すっきりデザインにオリジナルワッペンやメタルックスファスナーをピリッと効かせ、見た目も申し分ナシ。生地は、あらゆる現場に対応可能なポリエステル65%、綿35%の丈夫な帯電防止ツイル素材。背中ノーフォークで動きやすいうえ、両脇ポケットはモノが落ちにくい逆玉ポケット、右胸はファスナーポケットも付いたWポケット仕様。カラー4色。