【桑和】せめぎ合う二つの顔image_maidoya3
あれは二年前、いや正確に言うなら二年と一か月前のことだ。そのときの秋冬作業服特集のレポートで、月刊まいど屋は桑和が思い切った方向転換をし始めたと書いた。それまでの優等生的無難路線をかなぐり捨て、ひとによって好き嫌いがはっきりと分かれる、自己主張の強い商品作りへとそろりと足を踏み出したのだと。今考えてみても、それはソツのなさというただ一点の美徳によって多くの販売店から信頼されてきた桑和にとって、かなりの冒険だったはずだ。誰にでも販売できる定番品だからこそ、安心して桑和を仕入れているんじゃないか。誰からも嫌われない、大人しいいい子でいつづけてくれよ。販売店側の口には出さないそんな本音が、当時の桑和の内部には澱のように重くのしかかっていたはずだからだ。
  しかしある日、桑和は自分たちがはまりつつあった落とし穴にようやく気付いた。販売店にとってリスクが少ないということが、消費者にとっての真のメリットとは必ずしもイコールでないことに。消費者は、特に桑和だからという積極的な理由からではなく、販売店の店頭にきちんと在庫が積まれ、手に取った印象の割には値段が良心的で、使ってみれば品質がしっかりしているからそれを選んでいただけなのだ。いわゆるリーズナブル、今風に言えばコスパがいいということだ。それはそれで桑和が拠って立つひとつの存在意義ではあるのだろうが、一方では消費者に訴えかける絶対的な価値、他では代替しようのない独自性のようなものが決定的に欠けている。極言すれば、そのような立ち位置は、別のメーカーがさらに品質を上げ、価格を抑えた値段で販売すればたちどころに脅かされるであろう。桑和はそのことに気付いたからこそ、これまで慣れ親しんできた、誰からも悪く言われることがない八方美人的仮面を脱ぎ捨て、彼ら自身の内部にあって表現されることを求めていたインディビジュアリティーを開放するようになったのだ。10人中9人に嫌われても、残りの1人の心とは激しく共振するような、唯一無二の世界観を。
  あれから二年がたった。桑和のその勇気ある試みは成功したのだろうか。編集部は、まいど屋で日々、桑和の販売状況に接しているから、もちろんその答えを知っている。そして今度の秋冬コレクションでも、桑和はしっかりと、確信に満ちた足取りで彼らの挑戦を続けていることもわかっている。これからそれを読者の皆さんにお伝えしよう。インタビューに応じてくれた生産部 生産企画課長 洲脇さんの口を借りて。
 

桑和
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商品企画を手掛ける生産企画課の洲脇課長
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スタイリッシュなストレッチ軽防寒ブルゾン『41800』
おっしゃる通りです、と洲脇さんは苦笑しながら話始めた。「確かに社内には非常に大きい危機感があったんです。このままだと取り残されるのではないか、気付いたときにはお客さまに置いて行かれているんではないかという漠然とした恐怖感がありました。それで、ここ数年は若手の意見を取り入れながら、デザイン性に磨きをかけてきた。積極的に商品化したのは、社内でも意見が割れるようなデザインです。当然、デザインは好き嫌いの世界ですから、キャッチーなものになればなるほど、反対意見も大きくなる。でも、そこで全員がYesというようなものにしていたのでは、今までと全く変わらない。だからとにかく、無難なものはこの際封印しようと。桑和が生まれ変わるためにね」。
  洲脇さんはそこで一息つき、最近発売された作業着のシリーズをいくつか挙げながら、商品化に至るまでの裏話を語ってくれた。話に出てきた商品は今回の防寒特集に関係のないウェアなのでここには書かないが、社内でかなり熱い議論が交わされた末の商品化だったようだ。そして意外なことに、デザイン路線が定着してきたように見える今でも、社内のベクトルは安定的に同じ方向を向いているわけではなく、相変わらず激しい意見の衝突が続いているのだという。誤解しないでいただきたいのですが、と前置きして洲脇さんは続ける。「社内が対立しているという意味ではないんです。もちろん、みんな真剣ですから、声が大きくなることはありますけど。でもそれは、あくまで建設的な意味での意見のぶつけ合いなんですよ。当社にはまだまだ “手頃な商品を作ってくれるメーカー”というイメージがあるので、販売店さんからは価格面での要望が強くあります。それに応えていきながら、『G.GROUND』など商品力のあるブランドの価値を高めていこうとみんなで頑張っているんです」。
  独自のスタイリングを提案する路線と、価格と機能のバランスを追求するコスパ路線。今シーズンの防寒も、この2方向がせめぎ合いながら、新しい桑和を提案している。そしてそうした彼らの努力は、これまでのところ上々の成果を上げているようだ。「出足から好調です。夏前の先行販売で予想以上の数字が出たんです。それで、12月に間に合うように追加生産しました」。
  それでは桑和が提案する防寒ウェア、スタイリング路線のNEWアイテムから紹介してもらおう。トップバッターは、『G.GROUND』ブランドのストレッチ軽防寒ブルゾン『41800』。遠目で見ると無地、近くでよく見ると迷彩柄というシャドーカモフラのスタイリッシュなブルゾンである。「より先鋭的でカジュアルなものを、というお客さまのニーズに応えて出しました。そこが出発点です。なかなかの仕上がりでしょ」。洲脇さんがサンプルとして用意してあったブルゾンをこちらに寄こす。「でも、それだけじゃ、やっぱり桑和として納得できないんですよね。物足りないというか。それで、プラスアルファにもこだわった。特徴はとにかく軽いこと。そしてストレッチで動きやすく、風を通しにくくて暖かい。単にスタイリングを追っかけただけじゃなく、作業服としての使い勝手が非常にいいんですよ」。
  モード感ある細身のスタイリング。光沢感ある生地とエンボス加工のマット感が醸し出す表情には、セクシーな男の色気さえ感じられる。「熱で生地の目を潰して迷彩柄を出しているので独特の素材感になっています。そして結果として、風を通しにくくもなっているんです。裏フリースで保温性もあり、冬場の外仕事用のアウターとして、かなりいい出来に仕上がったと思っています」。
  両脇ポケットはモノが落ちにくい逆玉縁仕様、左胸には縦ファスナーポケット、右胸には反射プリントのワンアクセント、袖口にはポケットに手を突っ込まなくても手のひらを保温できる指穴付きと、こだわりは細部まで抜かりない。
  スタイリング路線、次なるNEWアイテムは、ミリタリーテイストのデザインにボリューミーなファー衿が華やぎを添える防寒ブルゾン『44503』。こちらもブランドは『G.GROUND』。「とにかく特別にカッコいいウェアをめざしました。ここ1~2年、ミリタリーテイストのものがトレンドなので、そうしたエッセンスをデザインに組み込みながら、光沢感ある生地で中綿入りのフライトジャケットを作ったんです」。
  ただ、デザインに妥協をしなかった分、それを実際にパターンに落とし込むときにはかなりの試行錯誤があったようだ。「身頃や袖をスリムにするとカッコよく見えますが、動きにくくなります。見た目と運動性。これらをどう両立させるかで苦労するんです。『44503』ではその一つの答えとして肘にストレッチキルトを採用しました。生地そのものが伸びるわけではありませんが、シャーリングにしているので思った以上に動きやすい。デザインによって犠牲にされた作業性を回復するためにたどり着いた答えだったのですが、結果としてはデザイン的にもいいアクセントになった。今季の会心作ですね」。
  裾と袖は暖かいリブ仕様。左胸に縦型ポケット、袖には大き目のファスナーポケットとペン差しが付いてミリタリー感を演出。ファー衿を取り外してすっきりシンプルに着こなすこともできる。
  さて、スタイルに重きを置いた「新しい桑和」を紹介した後は、販売店の支持がいまだ衰えないコスパ追求路線のNEWアイテムへ。こちらはどちらかと言えば「従来の桑和」に近いのだが、やはりデザイン的なブラッシュアップは相当進んでいるようだ。つまり、価格設定という制限の中で、見た目、機能ともに最大限のものが追求されているということなのだ。「イチ押しは防水防寒『44403』です。ポリエステル100%の表地は裏PVCコーティングで中綿入り。衿は起毛トリコット。フードは取り外し可能で、ヘルメットの上から被れる大型サイズです」。
  この『44403』シリーズ、誕生にはちょっとした秘話がある。「従来品に『2803』という防水防寒があります。耐水圧3,000mmの中綿・裏アルミメッシュキルトで、お店で2,980円ぐらいで買えるので売れ筋だったのですが、為替の関係で今では5,000円近くになってしまいました(*編集部注:28年11月現在、まいど屋では4400円)。今まで愛用していただいたお客さまに申し訳ない気持ちでいっぱいで、何とかできないかと。そこで売価を店頭3,980円ぐらいに抑えるつもりで、素材やデザインを徹底的に見直したところ、目標のコストダウンを達成しながら、なんと耐水圧を倍以上の7,000mmにグレードアップできたんです。災い転じてというか、これがお客さまに非常に好評で・・・」(*編集部注:28年11月現在、まいど屋では3600円)。
  NEWアイテムでは従来品のカラーバリエ6色から色数を減らし、ブルゾンは4色、パンツは汎用性の高いブラック1色に。ブルゾンは脇、袖下、背にブラックの切り替え配色をしてパンツとのコーディネート性を高めている。
  それでは最後にもうひとつコスパ路線の注目NEWアイテム、肌触りのいいニット素材のストレッチウインドブレーカー『43301』と『43302』について。今季トップ3に入る防寒の人気商品であり、洲脇課長の自信作でもある。「表がニット、裏がPUフィルムです。見た目はソフトで風を通すように見えるでしょ。でも、実際は防風性が非常に高いんです。しかも、ストレッチが効いて服が体についてくるので動きやすい」。
  『43301』は羽織っても着られるフルジップタイプ。『43302』はVネックで被って着るタイプで、パンツにインできるように長め丈。どちらも定価で4,200円と非常にこなれているため、一部で欠品が出るほど人気になっている。「実は、2015年に出した防風カラーブルゾン『3400』(定価6,200円)の廉価版なんです。『3400』は裏メッシュの凝った作りで企業向けに人気がある商品ですが、営業から、もっと安くできないかと振られまして、よし、やってやろうじゃないかと。『3400』の肉をそぎ落として必要な機能だけ残し、色も絞り込みました。削ってばかりじゃありませんよ。デザイン的な洗練度を高めるために胸に縦ファスナーのカラーアクセントを入れたりして工夫しています」。
  以上が桑和の社内で熱い議論を繰り返した末に生まれてきた、今年のNEW防寒アイテムたちだ。読者の皆さんは、皆さんの心に刺さるようなアイテムを何か見つけられただろうか?繰り返しになるが、桑和には二つの顔がある。そして彼らはそれぞれの顔を使い分けながら、これまでのところ、もくろみ通りの成功を収めているように見える。着ていることで心まで満たされるスタイリング路線では、スカッとするほど思い切りのいいデザインによって新たなファンを着実に開拓しているし、従来からのリーズナブルな路線でも相変わらず長年のユーザーを喜ばせているようだ。まいど屋は日々、全国のお客さまに接する中で、そのことを誰よりもよく知っている。メーカーの公式見解をそのまま受け売りしているわけではなく、まいど屋自身の実感としてそう言える。今回の取材はまいど屋が桑和に対して抱いていたそうした感想を、具体的な証言で裏づけるものになった。桑和のチャレンジは着実に前へ前へと進んでいる。そして、そのチャレンジが好影響をもたらし、従来路線のレベルをも押し上げているのだ。
 
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耐水圧7,000mmの防風防寒『44403』シリーズ
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ニットで防風のストレッチウインドブレーカー『43301』

    

悪天候などものともしない!雨や雪をパワフルに弾き飛ばす防水防寒、44403シリーズ

脇、袖下、背にブラックを配色したスポーティーなデザイン。耐水圧7,000mmの防水性を発揮するポリエステル100%の表地は裏PVCコーティングで中綿入り。衿は起毛トリコット。胸に止水ファスナーポケット、脇に逆玉縁ポケット、内ポケット付き。前後に反射パイピングを施し、夜間の視認性もアップ。ヘルメットの上から被れる大型フードは取り外し可。カラーバリエはブルゾン4色、パンツ1色。


異次元の暖かさと防水性能を体感せよ!トップレベルの防水性能と保温力を誇る寒冷地仕様、2204シリーズ

耐水圧10,000mm以上、透湿性22,000g/㎡・24hの軽くて丈夫なナイロン表地に、3Mシンサレートの高機能中綿を使用した防水防寒ウェア。やや斜めに配したフロント止水ファスナー、衿アジャストファスナーがスタイリッシュ。袖内側リブ仕様、衿フリース使い、ヘルメット着用対応フード付き。サロペットはゴム入りサスペンダー、裾アジャストファスナー付き。