【フォーク】"ヤンチャな白衣"で独自路線!image_maidoya3
五月、それは病の季節――。爽やかな風が吹き山並みが新緑に染まる一方で、心にはなぜか座礁したタンカーから漏れ出す重油のごとく、どんよりしたものが……。朝起きるのがツライ、デスクワークに集中できない、上司の顔を見るだけで動悸が激しくなる、などなど、メンタルの不調に苦しむ読者も多いだろう。
   心の乱れはいつしか体に波及し、入社時は健康の見本のようだった新入社員も、やがては生活習慣病に片足を突っ込んだ中年に。そして、このストレス社会が徐々に日本人の心身を侵し始める。超高齢社会もあいまって社会保障費は膨張を続け、財政を圧迫。経済格差がどんどん広がり、世間には排他的で不寛容な空気が蔓延する。民主主義はあっけなくポピュリズムに飲み込まれ、昔ながらの共同体が自壊するなか、ネトウヨがヘイトスピーチを喚き散らす……。
   と、そんな暗黒の未来を回避するためのひとつのカギが「医療」である。総合病院をはじめ、訪問医療や診療所、介護など、さまざまな医療行為が人々の健康を守り、社会を支えている。
   さらに言えば5月12日は「看護の日」である(入稿直前に知りました)。そこで今回の「月刊まいど屋」は、医療業界を支えるメディカルウェアを特集することにした。
   高齢化を背景に、医療のニーズが増大していくなか、メーカーは、どんなふうに医療現場を支えるユニフォームを作っているのか。東京と大阪のメーカーを訪ねた。
 

フォーク
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7045スクラブ着用の下北裕樹さん
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斜めラインが特徴のジップスクラブ7048SC
●「カラーといえばスクラブ」の時代に
 
   最初に訪れたのはフォーク株式会社。本社ビルの入り口近くには、ぬいぐるみの「キティちゃん」と共に、キュートな女性用事務服がディスプレイされている。同社はもともと女性向けの事務服メーカーだからである。
   同社は、会社合併をきっかけにメディカルウェアに進出し、2010年に「スクラブ」を発表。この新商品のヒットにより、白衣の会社として知られるようになった。今や「フォークといえばスクラブ」と言っていいほどだ。
  「スクラブ」とは、もともと欧米生まれの手術衣で、ゆったりしたVネックのTシャツのようなもの。動きやすくて着心地がいいことに加えて、ガシガシ洗濯しても傷まないといった利便性も支持され、さまざまな医療現場で使われるようになった。またその今までの白衣と違った「見た目」もウケて、欧米ではいつのまにか看護師や医者のトレードマークとなった。筆者も90年代、NHKで放送していた海外ドラマ「ER緊急救命室」で、医者がみんなこれを着ているのを観て「日本の病院とぜんぜん違うな」と思った記憶がある。
   そんなスクラブだが、日本の医療現場にはなかなか入ってこなかった。病院で働いている人は忙しいのでなかなかユニフォームまで気が回らない、といった感じだったらしい。そこで同社は、いち早く日本人の体に合うスクラブを開発。この「カラースクラブ」のヒットで「白衣から、さまざまな色のスクラブへ」という近年の流れに先鞭をつけた。
  「ユーザーからの支持を得て、ずっと白しかなかった病院の中に『色』を持ち込むことができました。今では『(病院で)カラーといえばスクラブ』というイメージになっています。特に当社のPANTONEスクラブは、もはや『カラースクラブの代名詞』と言っていいくらいです」
   こう語るのは企画室室長の下北裕樹さん。この道25年、新製品の開発を手がけるかたわら後進の育成にも取り組むベテランデザイナーだ。
   では、看護師や医師がこれまでの白衣でなく、スクラブでカラーを採り入れることにはどんなメリットがあるのだろう? 下北さんは、患者側とスタッフ側に分けてその効果を説明する。
  「一番大きいメリットは、患者さんにリラックスしてもらえることですね。『白衣症候群』という言葉もあるくらいで、世の中には白衣のお医者さんが目の前に来ただけでも、緊張して血圧が上がったりする人もいる。そんなふうに病院の雰囲気が苦手な患者さんでも、カラーなら身構えさせずに接することができる、というわけです」
   一方で、「着る側」の気持ちも見逃せない。特に看護師は女性が多いのでウェア選びは重要だ。
  「女性にとって『イマドキの服で働ける』ということは大きい。これはリクルーティング(採用活動)の面でも効いてきますね。やはり女性はイマイチなユニフォームで働くのはイヤなわけです。あとは、見た目だけでなく快適性も重要ですね。より快適なウェアをつくるために、実際に現場の看護師や医師に着用してもらい、その感想をインタビューしています」
   心理的な効果だけでなく、カラーを採り入れることで病院業務の効率化もできるという。たとえばA棟とB棟からなる総合病院で、それぞれ手がける分野が違っているといったケースなら、片方の棟だけカラースクラブを導入してみる。こうすることによって二つの棟の違いを際立たせ、患者だけでなくスタッフにとっても働きやすい現場になるという。
 
  ●白衣は「医者の作業服」
 
   医療機関に「色」を持ち込んだ同社のスクラブは、現場の声を聞きつつ改良を重ねられ、今では「ジップスクラブ」という主力製品も生まれている。
   これはTシャツのように被って着るものだったスクラブを羽織って着られるように改良したもの。ファスナーで服の前面左側をつなぎ合わせる仕組みになっている。
   従来型のスクラブは、着るときに髪が乱れたり、化粧が服の内側に付いたりする問題があったが、このタイプなら心配ない。スクラブではできなかった女性らしいシルエットを作れるようになったこともあり、2014年にはユニフォーム業界で初となるグッドデザイン賞を受賞。動きやすい素材や形、ストレッチ性、通気性などが好評を呼び、特にカイロプラクティックや介護の現場でよく使われているという。
   さらに「働いているときも美しくありたい」という女性の声を反映した製品として、下着メーカー・ワコールと共同開発したスクラブ「HIコレクション」がある。女性的なシルエットとエレガントなカラーも特徴的だが、一番ユニークなのはウェアの内側にあしらわれた花柄である。
   外からは見えない内側の柄に、一体どんな意味があるのだろう?
  「これも病院で働く女性に少しでも気分がよくなってもらおうという工夫なんです。出勤してロッカールームで着替えるとき、この(ワンピースのように足から履いて着るタイプの)スクラブの内側に花柄があれば、お花畑に足を踏み入れるような感覚を味わってもらえるんじゃないか、と。当初は『こんな派手なウェアはダメ』という声もありましたが、今や好評を得ています」(下北さん)
   このように「女性の目」を意識する同社だが、逆路線のブランドもある。「ディッキーズ」のメディカルウェアだ。先ほどのエレガント路線に対して、こちらは「ワイルド」をキーワードに、スクラブやドクターコートを展開。すぐに人気商品となった。
   医療とワイルド――。一見ヘンテコにも思えるこの組み合わせについて、下北さんは次のように語る。
  「これは、言ってしまえば他社製品へのアンチテーゼです。たとえばドクターコートなら、近ごろ大手メーカーでは3万円近くする高級品が人気を集めているのですが、そういう流れに対してうちは『白衣はもっとカジュアルに着たらいいんじゃないか』と言いたい。というのも医者から見れば白衣は作業着なんですね。動きやすくて、ラフに扱えて、しかもシワになりにくい、といったものが求められていた。だからこのディッキーズブランドでは、白衣の方向性をグッとワークウェア側に振りました。『カジュアルな白衣で思いっきり働いて下さい!』というわけです」
   ドクターコートにはデニム素材を使うことでジーンズのテイストを採り入れ、スクラブのカラーは「軍モノ」をイメージしている。
   下北さんが「他社の「ドレス」的なウェアに対し、独自のポジションを確立した」と言う通り、かなりヤンチャな印象のメディカルウェアだ。
 
  ●必ずユーザーの声を聞く
 
   以上のようにメディカル分野で「独自路線」を歩む同社のウェアだが、その背景には何があるのだろう。
  「ウェアをデザインする上で、何か『もっとこうしたい』みたいなものはあるんですか?」
   こう質問すると下北さんは次のように答えてくれた。
  「うーん、結局のところ一番大事なのは、自分の考えよりお客さんの声を聞くことなんです。新しいウェアを作ったら、必ず着てもらってから『どうでしたか?』と聞きに行く。ワコールと共同開発した「HIコレクション」にしろジップスクラブにしろ、現場の『もっとこういうのがほしい』『こうだったらいいのに』という声をきっかけに生まれました。すべてのアイデアは現場から得られるんです」
   そんな下北さんがいま視線を注いでいるのが、インナーやパンツ、看護師用の上着といった、スクラブ周辺商品だ。今年からスクラブに合わせるパンツや女性用インナーを発売しているが、今後はさらに、防寒用インナー、男性用インナー、カーディガンなどを開発していくという。
  「病院から支給されるスクラブと違ってインナーや靴は自腹購入。だから価格も抑えないといけないし、ユーザーの目も厳しい。ものすごくシビアですよ」
   名刺には「翁デザイナー」の肩書を入れている下北さんだが、次のチャレンジを語るときの目は子供のようにきらめいていた。
 
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ラフでタフなディッキーズの白衣
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袖を折り返した姿もサマになる

    

ナースウェアといえばこれ!これがフォークの真骨頂!ベストセラーのレディース・ジップスクラブ!

羽織って着るため髪型も化粧も崩れない、フォーク代表作のジップスクラブ。前面や襟元、袖まわりのラインがさりげない女性らしさを演出。インナーカラーで袖を折り返してもエレガント。重量を分散してくれるPHSポケット、ループ付き小分けポケットなどがナースの仕事をサポート。型番7024は、介護職のユニフォームとしてよく使われているポロシャツのテイストを採り入れた。グッドデザイン受賞モデル。


「軍モノ」テイストに頑丈素材!このスクラブはヤバすぎる!ハードな医療現場でその真価を発揮する、超タフなカラースクラブ

綿のやさしさ、ポリエステルの丈夫さに加え、ストレッチ素材の抜群の動きやすさでメディカル現場の要望にがっちり応えたディッキーズのスクラブ。右脇のPHS用ポケット、右肩のストラップを結び付けられるループに加えて、左肩の「ディッキーズ」ロゴ入りリベットポケットがアクセントとなっている。スモーキーなミリタリー系カラーは着こむほど洗うほどに変化。女性向けにカラーはピンクもラインナップ。

  • image_maidoyaスクラブ
    ■型番:7033SC
    ■定価:\6,500
    ■販売価格:\4,540
  • image_maidoyaスクラブ
    ■型番:7040SC
    ■定価:\6,900
    ■販売価格:\4,820
  • image_maidoyaスクラブ
    ■型番:7045SC
    ■定価:\7,800
    ■販売価格:\5,450