寅壱を訪ねるのには、けっこうエネルギーが要る。いや、べつに駅から遠いとか山の上にあるとかじゃなくて、気合を入れて行かねばならない、という意味だ。たとえば新商品の話を聞いていて、ど真ん中にあるポケットがただの飾りだったり、デニムが脱色で真っ白になっていたりしても、「え?」「は?」と絶句するわけにはいかない。なんらかのリアクションを返して、商品の魅力が伝わるようなコメントを引き出さねばならないのだ。その際、初見では理解が及ばないものに対して「うわぁ、なんだ!」「ちょっとコレって……」と、やっていると、すぐ「驚き疲れ」してしまう。今回もそんな期待と不安に胸を膨らませながら、編集部はワークウェアの聖地、児島に向かった。
寅壱
春夏コレクションを語る平井さん
フロントの意匠は凝っている
●制服としての寅壱
「寅壱といえば、ファッション性の高いアイテムです。それに近年は、仕事着というよりカジュアルで自然に着られるものといった流れがあったわけですけれど、少し変化も現れてきました。必ずしも見栄えやオシャレ感が第一ではなくて、素材や使い勝手のよさを重視する声もじわじわ増えています。感性の鋭い若い人の中にも、先輩が落ち着いたデザインの作業服で働いている姿を見て、憧れたりする人もいるわけで。つまり、単にファッション的に最先端であればいい、という話ではなくなってきていますね」
こう語るのは商品企画部の平井さん。どうやら、細身のストレッチデニムに代表される“オシャレ作業着”を求める風潮にも変化が表れているようだ。
「とくに当社の場合、ターゲットは若者だけではありません。ベテランの職人さんや制服として着る中高年のユーザーさんも多いので、そちらにも響く商品を作っていこう、と。現場のドレスコードはどんどんカジュアルに流れていますが、やはり遊びじゃなくて仕事なんだというか、カッコよさの中に少し大人っぽさがあるような路線を探っています。もちろんデザインや華やかさも大切ですが、ワークウェアの核は機能性ですからね」
こう語った上で、平井さんは2024年春夏モデルの新商品を取り出す。まずは軽量ストレッチ作業着「3561シリーズ」。たしかにファッション性やオシャレ感覚というベクトルよりも、作業着やユニフォームといった志向性を強く感じるワークウェアだ。
「このアイテムが目指したのは、第一に定番感ですね。ここ数年、すごくファッション性の高い商品やワンシーズンだけの限定モデルといったものが多かったので、そろそろユニフォームにできるオーソドックスなものも必要だろう、万人受けするモデルも欲しいよね、というわけです。制服採用してもらいたいので、樹脂ファスナーを使ったりして価格も抑えました。化繊ウェアは定期的に出していましたが、ここまでユニフォームらしいものは久しぶりかもしれません」
言われてみれば、過去にもシーズンごとに「制服にもできる」といったアイテムは登場していた。ちょっと派手でヤンチャ感のあるウェアでも、工務店などの少人数チームならそれほど威圧感はない。個人で着てもいいし、ユニフォームでもイケる、という説明がなされていた。対して今回は、真正面から「制服にする」ことを目指したアイテムというわけだ。
「ジャケットとシャツの上にカーゴとジョガーの下、という4種類の展開も、ユニフォームを意識してのことです。それにカラーも全体的に大人しい。それから、強調しておきたいのはポリウレタン不使用ですね。『捲縮加工』といって、バネのように伸び縮みするポリエステル糸を使うことで、生地にストレッチ性を持たせました。ポリウレタンを使わないことで、伸縮を繰り返してもヘタリにくく、長期間お使いいただけます」
デザインから価格、アイテム展開、素材選びまで、すべて制服仕様なのだ。
●真夏の「MA-1」
続いて登場したのは、カジュアル作業着「9278シリーズ」。アメリカ軍のフライトジャケット「MA-1」のような外観が特徴的だ。インパクトのあるデザインの上着に、対応するパンツはカーゴジョガー。そしてカーゴハーフ! なんと「上が長袖・下が短パン」という驚愕のセットアップである。長い息とともに、思わず「寅壱らしい……」という言葉が飛び出す。
「デザインが目を引きますけど、じつはこれ、寅壱で初めての春夏モデルのニット作業着なんです。『SPEEDRY』といって、綿のようなナチュラル感がありながら、吸水性や速乾性もある機能糸を使って着心地のよさを実現しました。見た目よりずっと軽くて、汗をかいてもベタつきがないので、夏でも快適ですよ」
解説を聞いているうちに、違和感の正体がわかった。「ニット」も「MA-1」も、夏のウェアを語るときに普通なら出てこないワードなのだ。
ファッション界には「サマーニット」というのはあるけれど、あんな大きな網目は作業着としては論外。さらに「MA-1」はどうかと言えば、そもそも高高度の低温からパイロットを守る防寒着であって、それを模倣した一般アパレルも当然、冬物だ。つまり、この「9278シリーズ」は「秋冬物の素材とデザインで作った夏物」なわけで、二重にひねくれ……、いや、これ以上ないほど傾奇者なアイテムなのだ。ついでに言えば、「MA-1」も儀礼的な軍服というよりほぼワークウェアだから、この商品は「ワークウェアをモチーフにしたワークウェア」ということになって、もうわけがわからない。このぶっ飛んだコンセプトを理解するには、着用してみるしかないだろう。
「襟なしで袖口やリブがニットというMA-1のデザインは、作業しやすくてワークウェアとしても優れているんですよ。あと、職場がOKならハーフパンツを合わせてもらえれば、夏場でも快適なスタイルになります。パンツのポケットは二重になっているので、収納力もある。価格も当社のファッション性の高いアイテムとしては抑え目ですから、ぜひ手にとってみてください」
最後にどうしても気になったのは、右胸の反射ワッペンである。カタログの表記は「面ファスナー着脱型反射プレート」で、早い話がマジックテープ式の反射材だ。この着脱機構によって、反射材を同サイズの面ファスナーのある左腕ペン差しに移動させられる。しかし、これって一体なんの意味が……。
「公式回答は、『反射材を活用するため』ですけど、正直いって、おもしろいからやってみたって感じです。反射材を動かしてみるのもちょっとした気分転換になる。また、ウェアに面ファスナーがあったら、反射材に限らずいろいろ固定できて便利なんじゃないか、これを使って服をカスタマイズしたりできないか、と。いま企画チームで研究しているところですが、今後あっと驚く活用法を提案できると思いますよ」
●夏パンツの決定版!
さて、次は、もはや「夏の風物詩」とも言えるパンツ企画を語ってもらおう。ここ数年、寅壱はいつも空調服に合わせる涼感パンツを発表している。上下作業着のパンツではコンプレッション系インナーや空調服に合わせにくい、夏は「下」を選ぶのが難しいといったユーザーに向けての提案である。
今回は、高耐久カーゴパンツ「1212シリーズ」。「ジョガー」と「ハーフ」の2タイプ展開だ。
「既存アイテムで好評の『吸汗ピケ』という素材を使った新作パンツです。ポリエステル100%なのにストレッチ性があって、汗をかいてもすぐ乾く。しかも軽くて耐久性もバッチリ。この素材なら最強に涼しいパンツができるのでは、という発想で作りました。点接触なので、少しくらい汗を吸ってもサラッとした肌触りをキープします。新デザインのロゴもいいでしょ? これさえあれば、上は空調服でもTシャツでも自由な着こなしを楽しめますよ。」
いかにも着心地の良さそうなサラサラ触感。現場や状況によって、ジョガーとハーフを使い分けるのもいいかもしれない。とくにハーフパンツは一般アパレルのものと違って収納力があるので、使い勝手が良さそうだ。
「夏場は上がTシャツやコンプレッションになるから、ポケットが不足しがちです。そこでこのシリーズは、前面4つ、後面3つで合計7つのポケットを付けました。お尻のポケットは二重になっていて、浅い方にスマホを入れておけば、座ったときにも体重がかかりにくい。ポケット位置も動きを妨げないように配慮しています。ポケット7つはワークウェアのパンツでも多い方ですが、ハーフパンツとなるとほとんどないんじゃないでしょうか」
とくにワーカーは普通の人より小物が多い。財布・カギ・スマホに、タバコ・メモ帳・予備バッテリー。これだけでもう6つになるけれど、このパンツなら、まだポケットがひとつ空いている。ジョガーに限らず、ハーフパンツでも。
これは空調服ユーザーにも朗報だろう。ファン付きウェアは、ポケットにものを入れると風の流れが阻害されるし、ファンの稼働中は内ポケットへのアクセスが困難。というわけで、見た目に反してぜんぜん収納力がないのだ。しかし、このパンツならその穴を埋められる。
初夏まではジョガーパンツにシンプルなトップス。真夏になればハーフパンツにチェンジ。こんなふうにしても携帯品の収納はほぼ変化ゼロというのは画期的かもしれない。さらに猛暑の作業では上を空調服に換装し、状況が許すときには下をハーフにしたら……。
寅壱パンツの夢は現場を駆け巡る。
「寅壱といえば、ファッション性の高いアイテムです。それに近年は、仕事着というよりカジュアルで自然に着られるものといった流れがあったわけですけれど、少し変化も現れてきました。必ずしも見栄えやオシャレ感が第一ではなくて、素材や使い勝手のよさを重視する声もじわじわ増えています。感性の鋭い若い人の中にも、先輩が落ち着いたデザインの作業服で働いている姿を見て、憧れたりする人もいるわけで。つまり、単にファッション的に最先端であればいい、という話ではなくなってきていますね」
こう語るのは商品企画部の平井さん。どうやら、細身のストレッチデニムに代表される“オシャレ作業着”を求める風潮にも変化が表れているようだ。
「とくに当社の場合、ターゲットは若者だけではありません。ベテランの職人さんや制服として着る中高年のユーザーさんも多いので、そちらにも響く商品を作っていこう、と。現場のドレスコードはどんどんカジュアルに流れていますが、やはり遊びじゃなくて仕事なんだというか、カッコよさの中に少し大人っぽさがあるような路線を探っています。もちろんデザインや華やかさも大切ですが、ワークウェアの核は機能性ですからね」
こう語った上で、平井さんは2024年春夏モデルの新商品を取り出す。まずは軽量ストレッチ作業着「3561シリーズ」。たしかにファッション性やオシャレ感覚というベクトルよりも、作業着やユニフォームといった志向性を強く感じるワークウェアだ。
「このアイテムが目指したのは、第一に定番感ですね。ここ数年、すごくファッション性の高い商品やワンシーズンだけの限定モデルといったものが多かったので、そろそろユニフォームにできるオーソドックスなものも必要だろう、万人受けするモデルも欲しいよね、というわけです。制服採用してもらいたいので、樹脂ファスナーを使ったりして価格も抑えました。化繊ウェアは定期的に出していましたが、ここまでユニフォームらしいものは久しぶりかもしれません」
言われてみれば、過去にもシーズンごとに「制服にもできる」といったアイテムは登場していた。ちょっと派手でヤンチャ感のあるウェアでも、工務店などの少人数チームならそれほど威圧感はない。個人で着てもいいし、ユニフォームでもイケる、という説明がなされていた。対して今回は、真正面から「制服にする」ことを目指したアイテムというわけだ。
「ジャケットとシャツの上にカーゴとジョガーの下、という4種類の展開も、ユニフォームを意識してのことです。それにカラーも全体的に大人しい。それから、強調しておきたいのはポリウレタン不使用ですね。『捲縮加工』といって、バネのように伸び縮みするポリエステル糸を使うことで、生地にストレッチ性を持たせました。ポリウレタンを使わないことで、伸縮を繰り返してもヘタリにくく、長期間お使いいただけます」
デザインから価格、アイテム展開、素材選びまで、すべて制服仕様なのだ。
●真夏の「MA-1」
続いて登場したのは、カジュアル作業着「9278シリーズ」。アメリカ軍のフライトジャケット「MA-1」のような外観が特徴的だ。インパクトのあるデザインの上着に、対応するパンツはカーゴジョガー。そしてカーゴハーフ! なんと「上が長袖・下が短パン」という驚愕のセットアップである。長い息とともに、思わず「寅壱らしい……」という言葉が飛び出す。
「デザインが目を引きますけど、じつはこれ、寅壱で初めての春夏モデルのニット作業着なんです。『SPEEDRY』といって、綿のようなナチュラル感がありながら、吸水性や速乾性もある機能糸を使って着心地のよさを実現しました。見た目よりずっと軽くて、汗をかいてもベタつきがないので、夏でも快適ですよ」
解説を聞いているうちに、違和感の正体がわかった。「ニット」も「MA-1」も、夏のウェアを語るときに普通なら出てこないワードなのだ。
ファッション界には「サマーニット」というのはあるけれど、あんな大きな網目は作業着としては論外。さらに「MA-1」はどうかと言えば、そもそも高高度の低温からパイロットを守る防寒着であって、それを模倣した一般アパレルも当然、冬物だ。つまり、この「9278シリーズ」は「秋冬物の素材とデザインで作った夏物」なわけで、二重にひねくれ……、いや、これ以上ないほど傾奇者なアイテムなのだ。ついでに言えば、「MA-1」も儀礼的な軍服というよりほぼワークウェアだから、この商品は「ワークウェアをモチーフにしたワークウェア」ということになって、もうわけがわからない。このぶっ飛んだコンセプトを理解するには、着用してみるしかないだろう。
「襟なしで袖口やリブがニットというMA-1のデザインは、作業しやすくてワークウェアとしても優れているんですよ。あと、職場がOKならハーフパンツを合わせてもらえれば、夏場でも快適なスタイルになります。パンツのポケットは二重になっているので、収納力もある。価格も当社のファッション性の高いアイテムとしては抑え目ですから、ぜひ手にとってみてください」
最後にどうしても気になったのは、右胸の反射ワッペンである。カタログの表記は「面ファスナー着脱型反射プレート」で、早い話がマジックテープ式の反射材だ。この着脱機構によって、反射材を同サイズの面ファスナーのある左腕ペン差しに移動させられる。しかし、これって一体なんの意味が……。
「公式回答は、『反射材を活用するため』ですけど、正直いって、おもしろいからやってみたって感じです。反射材を動かしてみるのもちょっとした気分転換になる。また、ウェアに面ファスナーがあったら、反射材に限らずいろいろ固定できて便利なんじゃないか、これを使って服をカスタマイズしたりできないか、と。いま企画チームで研究しているところですが、今後あっと驚く活用法を提案できると思いますよ」
●夏パンツの決定版!
さて、次は、もはや「夏の風物詩」とも言えるパンツ企画を語ってもらおう。ここ数年、寅壱はいつも空調服に合わせる涼感パンツを発表している。上下作業着のパンツではコンプレッション系インナーや空調服に合わせにくい、夏は「下」を選ぶのが難しいといったユーザーに向けての提案である。
今回は、高耐久カーゴパンツ「1212シリーズ」。「ジョガー」と「ハーフ」の2タイプ展開だ。
「既存アイテムで好評の『吸汗ピケ』という素材を使った新作パンツです。ポリエステル100%なのにストレッチ性があって、汗をかいてもすぐ乾く。しかも軽くて耐久性もバッチリ。この素材なら最強に涼しいパンツができるのでは、という発想で作りました。点接触なので、少しくらい汗を吸ってもサラッとした肌触りをキープします。新デザインのロゴもいいでしょ? これさえあれば、上は空調服でもTシャツでも自由な着こなしを楽しめますよ。」
いかにも着心地の良さそうなサラサラ触感。現場や状況によって、ジョガーとハーフを使い分けるのもいいかもしれない。とくにハーフパンツは一般アパレルのものと違って収納力があるので、使い勝手が良さそうだ。
「夏場は上がTシャツやコンプレッションになるから、ポケットが不足しがちです。そこでこのシリーズは、前面4つ、後面3つで合計7つのポケットを付けました。お尻のポケットは二重になっていて、浅い方にスマホを入れておけば、座ったときにも体重がかかりにくい。ポケット位置も動きを妨げないように配慮しています。ポケット7つはワークウェアのパンツでも多い方ですが、ハーフパンツとなるとほとんどないんじゃないでしょうか」
とくにワーカーは普通の人より小物が多い。財布・カギ・スマホに、タバコ・メモ帳・予備バッテリー。これだけでもう6つになるけれど、このパンツなら、まだポケットがひとつ空いている。ジョガーに限らず、ハーフパンツでも。
これは空調服ユーザーにも朗報だろう。ファン付きウェアは、ポケットにものを入れると風の流れが阻害されるし、ファンの稼働中は内ポケットへのアクセスが困難。というわけで、見た目に反してぜんぜん収納力がないのだ。しかし、このパンツならその穴を埋められる。
初夏まではジョガーパンツにシンプルなトップス。真夏になればハーフパンツにチェンジ。こんなふうにしても携帯品の収納はほぼ変化ゼロというのは画期的かもしれない。さらに猛暑の作業では上を空調服に換装し、状況が許すときには下をハーフにしたら……。
寅壱パンツの夢は現場を駆け巡る。
反射材は面ファスナーで移動する
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「9278」ジャケットをよろしく!
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これが寅壱の新定番! 軽量ストレッチ作業着「3561シリーズ」 オーソドックスなデザインにお手頃価格が魅力の上下ワークウェア。薄手で軽量な生地は耐久性バツグン。ポリウレタンを使わず、バネのように伸び縮みするポリエステル糸を使うことでストレッチ性を持たせ、長期使用でもヘタリが起きにくい。万人受けする見た目なので、ユニフォーム採用もオススメ。 |
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着てみな……、飛ぶぞ! MA-1カジュアル作業着「9278シリーズ」 フライトジャケット「MA-1」を思わせる外観がユニークなニット素材の上下ワークウェア。素材の機能糸「SPEEDRY」は、体の動きにフィットするだけでなく、吸水性や速乾性が特徴。綿のような風合いと機能に裏打ちされた着心地のよさを実現している。右胸の反射材は、面ファスナーで左腕に移設可能。 |
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