まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。いよいよ秋も深まってきました。衣替えがまだの方も今なら間に合いますよ、というわけで今月は秋冬物ワークウェア特集をお送りしました。細身のカジュアル作業服から、ワークシーンを選ばないオーソドックスなモデル、会社の制服にちょうどいい定番ユニフォームタイプまで、まさに"ワークウェアの現在形"を切り取ることができたんじゃないかと手ごたえを感じています。

●災害列島に生きる

この原稿を書いているのは今は10月中旬。テレビをつけると台風19号の被害を伝える生々しい映像がたくさん流れています。この度の台風にかかる災害で命を落とされた方へ、心からご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

この日本に生きている以上、災害とは無縁でいられないことが今回の台風で改めて示されたと感じています。台風といえば、地方が被害に遭うものというイメージがありましたが、今回は地方で河川が氾濫しただけでなく、東京や川崎のような都市部でも水害に見舞われました。気候変動の影響で「台風とはこういうもの」という"定石"も通用しなくなっているようで、これからは個々人が先入観を排し、災害からの自己防衛を考えなければなりません。

災害への備えというと、ネット掲示板やSNSでは
「何日分の食料をストックすればいいのか」
「非常用持ち出し袋には何を入れておくべき?」
「ライフラインが止まったときはどうすれば……」
といった話が、よくやり取りされています。

こういう基本的な対策はもちろん講じておくべきでしょうけれど、私は防災を考えるとき、もっと大事なことがあると思っています。このことを教えてくれたのは、もう10年近く前のラジオ番組でインタビューに答えていた年配の女性。1995年に起きた阪神淡路大震災の被災者です。

「実際に大地震が起きたら、非常用の袋なんて持ち出せません。気が動転してそれどころじゃない。災害時には、食料や物資が不足するのはもう仕方ないと思っておいた方がいいです。そんなことより大事なのは『なにがなんでも生き残る!』という意思ですよ。被害を前にして心が折れてしまうと、命を守るためのベストな行動がとれなくなって、あっという間に体が弱ってしまう。あの震災でもそんな人を多く見ました。だから、災害時には少しでも早く気を確かに持つように努めてください」

食料や物資より「生きる意思」の方が大事だ、と。これは「根性で何とかしろ」といった精神論に聞こえるかもしれません。しかし、私はこれも災害への「備え」のひとつだと思っています。日ごろから食料と物資にプラスして「心構え」を養っておくのです。

つまり、いつなんどきでも、
「今ここで地震に遭うかもしれない」
「高潮が来たらこのあたりはどうなるか」
「もしこの建物が火事になったら……」
というふうに考えながら生活していくのです。

●南海トラフ巨大地震に備えよ

あの2011年3月11日より前から、三陸沖地震による津波は「いつか必ず起こる」と言われており、その脅威が迫っていることを訴える本もありました。ところが、悲劇は起きてしまった。

一方、いま政府の地震調査委員会が「今後30年以内に70-80%の確率で起きる」との見解を発表しているのは、太平洋沖が震源地となる「南海トラフ巨大地震」です。東日本大震災以上の甚大な被害をもたらすとも言われています。ここまで、脅威が迫っていることが明らかなのだから、心構えを作っておくことはさほど難しくないでしょう。

数年前、大阪で大きな地震があったとき、私は「南海トラフか!?」と思わず声を上げました。幸い大きな被害もなく、テレビをつけると駅で「電車が止まって通勤できない」と嘆く会社員の声を紹介したり、みんな平気で傾いた看板やぶら下がった天井板の下を歩いている様子を映したりしている。

正直いって「ノンキ過ぎるだろ……」と感じました。揺れはおさまったけれど、余震もあるかもしれないし、出火の危険性もある。巨大地震の前兆かもしれない。ヘラヘラしている場合ではないのです。少なくとも太平洋側の住民なら、通勤のことなんかより、南海トラフをはじめ、もっと心配することがあるはずです。

こんな地震くらいでなにマジになってんの? とよく言われます。でも、どんなに笑われようと繰り返し言い続けなければなりません。いま生きている日本人は、高確率で南海トラフ大地震を体験することになるからです。このことは子供にも伝えています。その「心構え」の有無が生死を分けることになるからです。

地球規模で見れば、現代は経済の停滞や温暖化などの環境問題に加えて、テロや戦争といった政治的リスクも高まっています。将来的には東アジア地域での軍事衝突も避けられないかもしれません。しかし、日本にとって差し迫った危機は、戦争よりも断然、自然災害です。日本人は核開発や弾道ミサイルのリスクより、地震や津波、台風のことをもっと真剣に考えるべきなのです。

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というわけで、今回も「月刊まいど屋」にお付き合いいただき、ありがとうございました。 次回はいよいよ12月ということで、冬のお約束「防寒特集」をお送りします。どうぞご期待ください!