まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。今回は特別企画として「まいどノマスク」誕生秘話をお届けしました。猛暑でもマスクが手放せない「ウィズ・コロナ」の時代、ただ涼しいだけじゃなく気持ちまで軽くなるこのマスクで、夏を乗り切ってみませんか? いやマジで、付け心地のいい生地に手の込んだ縫製など、モノとしては最高の夏用マスクなんです! ここだけの話ですが、もし「デザインが……」という方がいらっしゃったら、ヤマメンさんのホームページから無地やデニム風プリントのマスクが購入できますので、ぜひ!

●わが園芸ライフ

この原稿を書いているのは7月27日。またしても新型コロナの感染が急拡大しています。すでに東京や大阪では予断を許さない状況です。緊急事態宣言のころのような要請はないものの、再び"自粛モード"になる日も近いかもしれません。はぁーーー、あのストレスフルな日々がまた始まるのか……、とウンザリしているのは編集長だけではないはず。とはいえ、前回の「ステイホーム」の日々には、家で楽しく過ごすためのたくさんの知恵が出されました。それらを振り返って今から準備しておほうがいいかもしれません。

その代表が園芸ブームです。植物を育てるのは精神的にも安らぎそうなので、編集長もやってみました。まずは手軽な「豆苗の水栽培」からチャレンジ。スーパーで売ってるカイワレ大根の親玉みたいなやつです。よくテレビや雑誌でニンジンやダイコンの捨てる部分から葉っぱを育てる方法が載っていますが、あれはいかにも節約という感じで気が滅入ってしまう。対して、豆苗はパッケージに「水につけて2回目も収穫してください」と書いてある(今回はじめて気づいた)。水栽培なら土で手が汚れることもなくゴミも出ません。さっそく刈り取った後の豆苗の根をトレイに入れてベランダに置いてみました。

虫がわかないように毎日水を変えていると面白いほど育っていく。1週間ほどで2回目の収穫です。やわらかい新芽だから、そのまま生でいただきます。自分で育てた野菜はおいしい。ただ、ここで少し欲も出てきました。

「3回目はどうか?」

念のためにネット検索してみると「やめておいた方がいい」との書き込みが多数。ここで「じゃあやろう」と思うのが自分でも不思議ですが、とにかく3回目の栽培を始めました。

1週間後、ほとんど育っていません。でも10本前後ちょろちょろと生えてくるので、ある程度の長さになったら、その都度ラーメンや豆腐にトッピングして食べる。しかし、日が経つごとに収穫は減っていき、2週間後にはもはや伸びる芽が2、3本になっていました。こうなると、だんだん育っているかチェックするのもバカらしくなってきます。そういえば、水換えも最初のうちは毎日してたけど、そのうち2、3日おきになってしまっている。いや4、5日に1回くらいか? ……あれ? そういえば最後に水替えしたのはいつだっけ?

「ベランダで虫がぶんぶん飛んでいる」と、娘に指摘されたときは、もうすっかり豆苗のことは忘れていました。

「お……、おう」。意を決した編集長はレジ袋を携えてベランダに出て、飛び回る虫ごと苗を袋に突っ込んで厳重に口を結ぶ。――こうしてわが"豆苗ライフ"はバッドエンドを迎えたのでした。

みなさんに言っておきます。豆苗再生の3回目はダメ、ゼッタイ!

●出張とサイクリング

読者は既にごぞんじでしょうが、編集長の趣味は自転車です。といっても高性能なロードバイクで風を切って疾走するより、前傾姿勢のゆるいスポーツ自転車やミニベロ(小径車)で、田舎道をのんびり走るのが好き。よくここにも書いているように、出張や旅行ではレンタサイクルを使ってあちこちに足を伸ばします。クルマの運転ができなくても(免許はあるけれど20年近くハンドルを握っていない)、電車と自転車を組み合わせればだいたいどんなところでも行けるのです。

観光案内所や役所で借りるレンタサイクルはめちゃくちゃ安いし、街の自転車事情と同じように電動アシスト車も増えてきます。ママチャリは重量があるのでほぼ"平地限定"ですが、電動アシストがあれば坂はまったく敵ではありません。バッテリーの能力も年々上がっていますから、峠の2、3カ所は余裕。山がちな土地のレンタサイクルはだいたいアシスト車をそろえているので、水と補給食さえ用意しておけば、びっくりするくらいどこでも行けます。クルマのように駐車場所を探す必要もなく、いい景色を見つけたらすぐ停まって写真を撮ったりできる。しかも、自転車で一日中走り回れば、それなりの消費カロリーになるから旅先でのグルメも心置きなく堪能できるわけで、旅先で自転車に乗るのはいいことづくめなのです。

問題は雨です。雨の日に行楽地をそぞろ歩いたりするのは意外と趣があるものですが、自転車において雨でいいことはひとつもない。ランナーやハイカーの中には「雨も嫌いじゃない」という人が少数ながらいるでしょうけれど、サイクリストの中にそんな人間は一人もいないと断言できます。濡れたり視界が悪かったりするのは我慢できるとしても、二輪ではタイヤが滑ったら一巻の終わりですからね。

今回の岡山出張でも、どこか走れないかと狙っていたのですが、あいにくの天気でした。それも傘に叩きつけるような大雨。日本三名園のひとつ、後楽園で知られる岡山城もとてもじゃないが行けません。

くそっ、でもまっすぐ家に帰るのだけはイヤだ! ――とホテルの部屋でグーグルマップを見ていると、岡山城の近くに行ったことのない施設を見つけました。岡山市立オリエント美術館です。コロナにもかかわらずちゃんと開館しているらしい。さっそく大雨の中、オリエント美術館に向かいます。

●「オリエント」とは?

オリエントってなんやねん? というのが普通の反応でしょう。これはヨーロッパから見て「東方」を意味する言葉で、多くの場合、古代のメソポタミアやエジプトを指します。つまり、太陰暦もピラミッドもオリエント文化。バビロニア王国のハンムラビ大王もエジプト古王国のファラオたちもオリエントの登場人物、というわけです。時代が下るとペルシャ帝国やアレクサンドロス大王が率いるギリシャも遠征してきます。

じつは編集長はめちゃくちゃ好きなんです、このメソポタミア文明が。とくに好きなのはシュメール文明と、それを引き継いで世界帝国となったアッシリア。理由は単純で、歴史上で初めて文字による文明を築き上げたから。一般的にはエジプトの象形文字のほうが有名かもしれませんが、さらに古くてさまざまな民族・国家で使われたのはシュメールの人々が作った楔形文字で、紀元前7世紀のアッシリア王アッシュール・パニパル王はニネベの王宮に世界初の図書館を作っています。つまり、活版印刷やインターネットに至る活字文化の源流は、メソポタミアにあるのです!

楔形文字は粘土板に棒を押し付けて記録します。メモ程度なら表面をならして再利用していたようですが、文書を残しておきたい場合は粘土板を焼き上げていました。つまり当時の本は平べったい瓦のようなもので、図書館は重たい瀬戸物の板を大量に積み上げていたわけです。現代人は「なんて不便な時代なんだ!」と思うでしょう? ところが、これが大間違いなんですね(ニヤリ)。

驚くべきことに、メソポタミアで大量につくられた粘土板の文書は、今でもしっかり残っているのです。イラクなんかの遺跡では数千年前の粘土板が出土するし、もちろん文字もくっきり。パピルスや木簡・竹簡じゃこうはいきません。なんせ土器なんかと同じですからね、物理的な破壊で粉々にでもならない限り、ほぼ永久に残るんじゃないでしょうか? ちなみに日本では今のところ最古の文字史料は2020年に島根県松江市田和山遺跡で出土した弥生時代中期(西暦0年前後)の「すずり」とのことですから(※文字ではなく偶然ついた模様との見方もある)、メソポタミア文明おそるべし! です。

●アッシリア・レリーフ

前置きが長くなりましたが、いよいよ岡山市のオリエント美術館に足を踏み入れます。

まっさきに目につくのはホールの壁に取り付けられたモザイク画。シリアで出土した5世紀ごろのもので、磨いた小石を埋め込んで、ヒョウやトラなどの猛獣にアヒルや犬なんかの身近な動物を描いています。まだイスラム教が登場する前のローマ帝国属州時代の中東で、文化もどこか素朴でのびのびとしている。"つかみ"としては最高です。

展示品はほぼ時代順に並んでいます。土器や青銅器を横目で見ながら進んでいくと、いよいよシュメール文明へ。印章に続いて楔形文字が登場します。取引や金品の貸し借りを記録しているという、粘土に棒を押し付けて刻んだ文字は信じがたいほど緻密。現代人が同じくらいの大きさのメモ帳に書くより多くの情報を記録できたでしょう。

続いて登場するのは「有翼鷲頭精霊像浮彫」。紀元前9世紀ごろ新アッシリアの宮殿を飾っていたレリーフ(浮彫)です。「鷲の頭、翼を持つ空想上の生物、精霊アプカル」を描いているとのことで、素晴らしい重厚感。2004年、開館25周年を記念して購入された本物で、これに隣り合ったり関連したりしている部分は、大英博物館やルーヴル美術館、メトロポリタン美術館でしか見ることができません。世界史上でも最重要といっていい「文明の起源」を物語る文化財が、ここ岡山市にあるのです!

人も少なかったので、レリーフの前に置かれたソファに座って飽きるまで眺める。これは究極の贅沢と言えます。このレリーフを彫った職人はもちろん、制作を命じたアッシリア王ですら、約3000年後、こんなふうに鑑賞されるとは夢にも思わなかったでしょう。時の流れというのは、ほんとうにおもしろいものです。私たちの生きている現代も、いつかこんなふうに想像されるのでしょうか?

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というわけで、今月も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。マスクの夏を乗り越えて、来月はオフィスウェア特集をお届けする予定です。読者のみなさまもどうか体調管理にお気を付けください。