まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。今月は特集「秘境駅めぐり」をお届けしました。なかなか仲間とワイワイ行楽に出かけたり、家族で旅行したりできないこのご時世、少しでも旅気分を味わっていただければ幸いです。今回、訪れた大井川鉄道やJR飯田線以外にも秘境駅は全国にあるので、みなさんもぜひ身近な秘境駅に行ってみてくださいね!

●鉄道か徒歩か

いったいなぜ秘境駅なのか? 白状すると、昨年末に行った東海道の影響です。1・2月号でご報告したとおり、めちゃくちゃハードな徒歩旅行でした。来る日も来る日も歩き続ける旅のなかで、何度も脳裏をよぎったのが「鉄道に乗りたい」。ローカル線でのんびりと移動したい、車窓からじっくり景色を眺めたい、無人駅でぼけーっと次の電車を待ちたい、と。

そして帰宅後、ふと思い出した本が秘境駅訪問家の牛山隆信氏のデビュー作『秘境駅へ行こう』です。この本を初めて読んだのは20代の終わり頃だったと記憶していますが、衝撃的な内容でした。集落で暮らす数人しか利用しない駅に、徒歩でもオフロードバイクでも到達できない駅、「住人」がいる北海道の無人駅など、唯一無二のルポにとてつもないインパクトを受けました。今月号は、そんな牛山氏へのリスペクトを込めた企画です。

で、実際にのんびりした鉄道旅行をしてどうだったのか? じつは想像していたよりずっと味気ないものでした。徒歩旅行していると、電車なら本が読めていいな、休憩できていいな、飲み食いできていいなと思うんですけど、実際に往復6時間も飯田線に乗ってみると「もういい」という気持ちでいっぱい。とくに日没後、帰りの鈍行列車は本当にウンザリでした。

いま思えば、徒歩旅行って「課題」がたくさんあるから退屈しないんですね。目的地までどのくらいかかるか考えて、地図を確認しながら歩き、さらに食事や休憩ができる場所やトイレも自分の目で探す必要がある。その上で宿を手配し、暗くなる前にはチェックインしないといけない。

こういう旅を経験してしまうと、鉄道旅行は退屈で物足りなく感じてしまうのです。つまり、シートにもたれて楽に移動できるというメリットがデメリットになってしまう。旅に出ているのに、ぼーっと座っているなんてもったいない。時間はかかるし疲れるけど、歩くほうがおもしろいし体にもいいよな、と。今回の企画では、となり駅までの短いハイキングもやりましたが、こちらのほうが鉄道より充実した気分になりました。価値観の逆転です。

と、ここまで書いておきながら、正直、自分でも「わけのわからん人間になってしまった」と思います。しかし、これが偽らざる感想なのです。

●次の徒歩旅行は?

そんなわけで、私はいま次の徒歩旅行のプランを練り始めています。

場所は未定ですが、縦走登山ほどキツくない長距離コースにしようと思っています。中山道や熊野古道といったメジャーなロングトレイルに、梅雨の前にはチャレンジしたい。寒いのは着込めばなんとかなりますが、近年の暑さは危険だからです。

荷物は「日帰りハイキング+ビバーク装備」が正解ではないかと考えています。ビバーク装備とは、簡易テント(ツェルト)・寝袋・マットの3点セット。つまり登山でいえば「日帰り」と「テント泊」との中間くらいの荷物です。山の縦走と違って補給はできるので、水や食料は最低限しか持たず、ツェルトも「使わない前提」でバックパックの底に詰め込んでおきます。もちろん野宿はしたくないので基本的に格安ホテルに泊まるわけですが、「いざというときはこれで一夜を明かす」と覚悟しておく。そうすれば宿の心配が減るぶん、移動距離を伸ばせるのではないか、と。

これなら快適そうなキャンプ場があった場合、泊まることもできる。また簡単な毛布しかないネットカフェでは寝袋が活躍するでしょう。仮にビバークになってしまっても、翌日は早めにホテルにチェックインすれば、体力を回復できます。「野営装備を持ったヤド泊」というのは、矛盾するようでなかなか人に説明するのが難しいスタイルですが、合理的です。

さらに「踏破」にもこだわらないようにしようと思います。これは東海道で懲りました。どう考えてもつまらないところは路線バスでショートカットし、雨の日は宿でのんびりするか、思い切って鉄道で別のエリアに行く。これは、コースによっては不可能なことも多いので、あくまで理想ですけど。とにかく無理しないで安全・快適に徒歩旅行を楽しもう、というわけです。

あとはペースですね。歩くのは1日4−5時間、距離にして25km以内に抑えて、1日に4時間くらいは机に向かう時間を確保しようと計画しています。これも東海道の教訓です。あのときは歩く以外なにもできないようなスケジュールを組んでしまった結果、仕事の「不良債権」が山積みになり、帰宅後、ヒドイ目に遭いましたから。

机に向かっていれば足を休ませられるし、旅が終わったあと死ぬほど忙しくなることもない。歩いていれば目や手を休ませられるし、ストレス解消にもなる。これで足の痛みにも座りっぱなしにも苦しめられることはありません。われながらいいアイデアではないでしょうか。

仕事と旅を両立するこのスタイル、はたして実現可能なのか? 近いうちに試してみようと思っています。

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というわけで、今月も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次回も『月刊まいど屋』をお楽しみに!