【チャプター1】食べコレ!とは何かimage_maidoya3
今、僕の前のパソコンモニターに、あなたの知らない店のホームページが静かに映し出されている。そう、文字通り、本当に静かに。WEBサイトであるなら、静かであるのは当たり前だろうとあなたは言うかもしれない。だが、それはまるで暗い穴の中に潜んでじっとしているささやかな生命体のように、ある明確な意思を持って息をひそめているようにも見える。注意してよく耳を澄ませればかすかな呼吸が聞こえ、手を伸ばせばほんのわずかに体温を宿していることがわかるのだろうが、そこまでしようとするひとはまずいまい。それにこの生まれたばかりのホームページは、僕たち以外に誰も立ち入ることのできない、非公開の社内ネットワークの中に横たわっているのだから、世間の誰かに気付かれる恐れはもともとないのだ。時計の針は夜12時を回っている。そろそろ明日のグランドオープンに備え、家に帰らねばならない。僕はオフィスの電気を消す。デスクの上のパソコン画面の周辺だけが、ぼおっと明るく浮き上がって見える。僕は再び自分の席に近づき、それからパソコンの画面にそっと手を触れ、その表面を優しくなでる。温かな体温が僕の指先に伝わってくる。そこにはゆっくりとした鼓動さえ脈打っているように思える。それは本当にこの店の心臓の鼓動なのだろうか?それとも僕自身の血液が流れる音を、自分の指先を通じて感じているだけなのだろうか?
  店の名は食べコレ!という。明日、あなたがこの長い物語を読み始めるころには、店は既に公のものになり、最早保護してくれる者のいない厳しい世間へと足を踏み出していることだろう。このまいど屋本店のトップページにも目立つようにリンクが張られ、未知への不安に震えながら皆さんが入場してくるのを待っていることだろう。そのときもやはり食べコレ!は、今この瞬間と同じように、人目を避けるようにして静かにあなたを迎え入れるのだろうか。それとも新たに誕生した生命に特有の騒々しい情熱に包まれ、あなたを歓待しようと努めるのだろうか。あなたがどちらの印象をもたれるのか、それは僕にはわからない。ただ確かなのは、どっちに転んだって、僕たちはあなたと食べコレ!のそんな初対面のやり取りを、ハラハラしながら、同時にこれ以上ない幸福感に包まれながら、そっと見守っているだろうということだ。明日は記念すべき日になるだろう。僕たちが過去一年以上もの長きにわたり、まるで親鳥が卵を温めて雛をかえすみたいにせっせと育てた自慢の息子は明日、ようやくデビューを迎える。食べコレ!が生を受けることになった経緯を、これから話していこうと思う。
 

チャプター1
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食べコレ!のロゴ
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業種別で入口がわかりやすいトップページ
まいど屋がどうして食べコレ!を始めたのか。そのことについて語り始める前に、まずは食べコレ!とは何かについて説明しなければならない。多少回り道ではあるが、そうすることであなたがこの後の物語をより深く理解できるようになると信じるからだ。食べコレ!はまいど屋のグループ店としては3つ目の、飲食業向けの専門店である。カフェやレストランなどで働くひとが着る業務用のウェアを、日本最大級の品ぞろえで取り扱う。
  食べコレ!とは何か?今回の月刊まいど屋の企画のために改めてスタッフに訊いてみると、様々な答えが返ってくる。曰く、「こだわりのある飲食店が、とことんこだわって自分の店にピッタリの商品を探せる店」。あるいは、「飲食店のイメージ作りのヒントが満載されている場所」。それぞれのスタッフごとに言うことが違い、それがこのサイトの奥行きの深さを表していると信じたいのだが、あえて最大公約数的にまとめるのなら、「ウェアはもちろん、帽子やコックタイなどの小物やシューズを含めて、頭のてっぺんから足の先までトータルに揃う店」といったところだろうか。
  店の作りは、これまでのまいど屋になかった発想を取り入れた。食べコレ!立ち上げメンバーとして当初から企画に携わってきたコンテンツチームの北平さんは、「まいど屋とは全く違うコンセプトで作られたお店だから、今までまいど屋でお買い物をされていたお客さんは少し面食らうかもしれないね」と言って無理をして作ったような笑顔を見せる。本当は自信があるのか、それとも未知への不安を打ち消そうと心の中で戦っているのかはわからないが、とにかく笑顔には違いない。彼女の解説を聞こう。「まいど屋って、言ってみれば検索型のお店でしょ。言い方は悪いけど、お客さまに対して何を売りたいのかを必ずしも明確にしていない。どの商品に対しても公平なスタンスで、選択はあくまでお客さまにゆだねているよね。たくさん商品を用意したから、後はお客さま自身で条件を指定して検索し、勝手に商品を見つけてくれって。だからまいど屋のトップページは今でも確信犯的に、飾り気の全くないシンプルなデザインのままでいる。それはそれで一つのあり方だけど、お客さまに対してもう少し踏み込んで、こんなのいかがですかとアドバイスしてみるって方法もあるかもしれないじゃない。提案型っていうのかな。幸い、まいど屋にはこれまでの経験でかなり専門的な知識が積み上がっているから、そろそろそういったことを試してもいい時期なんじゃないのかと」。
  具体的に説明すると、食べコレ!はカフェ、居酒屋、パン屋さんなど業種別で分けた20の専門サイトの集合体になっている。そうすることで、これといってアイテムを決めていないひとや、漠然としたイメージはあっても何をどう選んだら良いのかわからないひとでも、ジャンルさえわかれば役に立ちそうな商品群にたどり着けるようにした。トップページには、世の中にある飲食店をほぼ網羅する20業種をイメージ画像でジャンル分け。画像をクリックすれば、それぞれの専門サイトへ遷移する。もちろん、トップページからはアイテム別で商品を探すこともできるし、キーワード検索や型番検索もできるようにしてあるが、メインはあくまで業態別の商品提案だ。再び北平さん。「レストランでも、フレンチとアジアンでは同じアイテムに対して求めるテイストが違うじゃない。事前にジャンル分けがあれば、見当違いの商品をひたすらチェックするなんていうムダもなくなるんじゃないかなぁ」。
  商品の見せ方についても、まいど屋とは違った工夫を凝らした。「実際の着用感がわかるように、また、コーディネートの参考にしてもらえるように、モデル着用画像を多用してあるよね。商品ページではメイン画像にカーソルを合わせるだけで拡大表示でき、細部までしっかり確認できる。また、私たちが提案する関連商品も同じページで併せて紹介しているので、よりトータルで具体的なイメージをつかめるはずだよ」。
 
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  以上、食べコレ!についてのおおよその予備知識を、この物語に関わるスタッフの口を借りて読者の皆さんにお伝えしてみた。では、ここで改めて最初の問いに戻ろう。どうしてまいど屋は食べコレ!を始めたのか。どうしてそれが専門店でなくてはいけなかったのか?「まいど屋は『働くひとのネットストア』がコンセプト。すべて揃っているのがウリだけど、逆に言えば作業服、メディカル、事務服等々、職種・商品数が多すぎてお客さまの心をつかむような明確な個性を打ち出しにくかった」と北平さんは言う。例えばせっかく飲食業の方たちが訪れても、ファーストビューで出ていってしまうこともある。「コックウェアやエプロンを探している方が見て、あ、ここは違うなって。品揃え、知識、経験、私たちにはどれも十分すぎるほど揃っているのに。それがとても残念で・・・」。彼女をはじめ、スタッフの多くは常々そんなフラストレーションを抱えていたらしい。
  そう、結局、僕たちは本店であるまいど屋の片隅の、その他大勢のジャンルの一つとしてではなく、飲食業関係だけにフォーカスを絞った専門の店で皆さんをお迎えしたかったのだ。その店は、飲食業関係の皆さんにとって心休まる場所であり、頼りになる友人であり、最後の駆け込み寺だ。食べコレ!に頼んでおけば、大体いつも満足のいくようにしてくれる。仮にもしダメだったとしても、食べコレ!を試した結果なのだから諦めもつく。そういう存在でありたいと願って作った特別な場所なのだ。
  北平さんは、これまで食べコレ!に費やした膨大な時間と労力、そしてチーム一人ひとりが抱えた葛藤と重圧を噛みしめるかのようにこう言った。「飲食店にとって、お店のイメージを左右するユニフォームはとても大切。お客さまご自身でコーディネートを考えるのも楽しいのだろうけど、何か参考にするものがないと選択肢が多すぎて決められない。私たちがセレクトしたコーディネートがお店の雰囲気にぴったり合えば、そのまま一式揃えればいいし、少し組み合わせを変えて自分たちらしさを出してもいい。そんな自由度の高さ、選ぶ楽しさが今度生まれてくる食べコレ!の強みになるのだろうと思うな」。
 
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システムの不具合をチェックするスタッフ