【快走編】新時代のワークスタイル!image_maidoya3
このように始まったUber Eatsライフ。といってもノルマもなければ事務所に足を運ぶこともない。ウバッグと専用アプリだけがドライバーの証だ。編集長は気楽なライター稼業だが、それでも取引先との打ち合わせをはじめ電話やメールのやりとりがあり、ひとつの原稿が手を離れるには最低でも1週間ほどかかる。報酬が振り込まれるのは早くて来月末だ。これに対して、Uberなら「気が向いたときに1時間だけ稼働する」なんてことも可能。どんなバイトであろうと「空き時間にフラリと働きたい」なんてことは許されないわけで、この束縛のなさは素晴らしい。また、距離に応じて支払われる報酬も一つひとつの配達を終えるごとにリアルタイム加算されていくので、モチベーションが上がる。しかも週払いだから、入金のタイミングでちょっといいものを食べる、といった具合に生活にハリが出る。そして何より「体ひとつで稼ぐ」というのは気分がいい。いやー、もう朝から晩まで机に張り付く生活なんかやってられないっつーの、Uber Eats 最高! というわけで、「快走編」では、このゴキゲンな配達員ライフと最新ワーキングスタイルについて語りたい。

快走編
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飲食店のレジでピックアップする
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ウバッグの詰め方には気を使う
●愉快な「数珠鳴り」
 
  アプリの出発ボタンを押してオンラインにしておくと、Uberから「配達リクエスト」が入って来る。これを配達員は「鳴る」という。依頼を引き受けるとすぐさま飲食店に料理を「ピック」しに行き、受取後、自転車を走らせてスマホに表示された家を訪ね「ドロップ」する。以上が最もシンプルな配達の流れだ。
 
  しかし、ランチやディナーの時間帯には「数珠鳴り」と呼ばれる現象がよく起きる。たとえば、吉野家で牛丼をピックし、ドロップ先の家の近くまで来たタイミングでまたアプリが鳴るのだ。これは「牛丼をドロップしたあと、すぐまた別の飲食店にピックに行けますか?」という意味である(このとき、いったん自転車を停車して「受付」ボタンを押さねばならないため、手袋はスマホ対応のものがオススメ)。で、牛丼をドロップして「配達完了」を押すと、はじめて次のピック先がマクドナルドであるとわかる。ハンバーガーをピックし、ドロップ先に向かっているとまたアプリが鳴って、という具合に「数珠鳴り」が続くと待機時間なしのフル稼働だから、効率がいい。時給換算で1000円は確実に超える。
 
  ランチタイム稼働の編集長も、よく「数珠鳴り」になった。家の近くにある唐揚げ専門店の弁当を届けていたら、アプリが鳴って、また走っていたらアプリが鳴って、と5回ほど連続するのは珍しくない。うれしいけれど、かなり忙しい。走り続けているうちに暑くなっても上着を脱ぐ暇がない。マンションのエレベーターの中だけが、つかの間の休息だ。数珠鳴り中は、水を飲むのも信号待ちくらいにしかできない。
 
  数珠鳴りの場合、次のピックは直前のドロップ地点から近くの店が選ばれる。つまり、数珠鳴りで配達を繰り返すと、いつの間にか自宅から40分くらい離れた地点に流れ着いたりする。当然、そこから家に帰る移動に報酬は発生しない。だから「ひょっとして、次のリクエストは自宅方面かも……」と考えて、オンラインのまま自転車を走らせていると、さらに遠方に飛ばされたりして、いつまでも家に帰れなかったりする。
 
  そういう場合は「オフライン」にして黙々と自宅に向かってペダルを回せばいいのだけれど、往々にして迷いが生まれる。「あと1件やれば3000円超えなのに」などと欲が出る結果、つい「リクエスト待ち」にしてしまうのだ。
 
  ●Uber Eatsのお客さん像
 
  今どきコンビニに行けばいくらでもおいしい弁当が売っている。それなのにUber Eatsに配達料を払ってまで料理を届けてもらうなんて、利用者はよほど裕福なのではないか。ひょっとしたら豪邸にドロップしに行って1000円くらいチップがもらえるかもしれない……。編集長も配達を始めるまでそんなことを思っていた。
 
  だが、これはまったく的外れな想像だった。Uber Eats利用者はごく普通の人々だ。子育て家庭もあれば学生マンションもある。長屋暮らしのお年寄りのケースもあった。まだ明らかに富裕層とわかるような家に配達したことはない。
 
  強いて配達先の特徴を挙げるなら、「やや不便な立地」だろうか。住宅街の奥にある一戸建てでコンビニまで徒歩10分くらいあるとか、丘の上に何棟も立ち並ぶマンションで、敷地を出るだけでも5分くらいかかるとかいった具合だ。堺は古い街なので、クルマはもちろん自転車でも通りにくいような細い道もある。肩をこすりそうな狭い路地の奥から奥へと進んで行くと、配達先の一軒家が出てきて「うわ、こんなところに家があったのか!」なんてこともあった。このロケーションでは大通りに出るのも一苦労だろう。
 
  ピック後に地図でドロップ地点を見て「え?」と思うケースも多い。先日、マクドナルドのセットを届けたのは、幹線道路を挟んだ向かいのマンションだった。マクドナルドから徒歩3分くらい。信号待ちになると5、6分はかかるだろうか。こんな近距離なのに配達依頼をするなんてよほどの面倒くさ……いやいや、いろいろ深い事情があるのかもしれない。ランチどき、カウンターに並んで注文するとけっこう時間もかかるし。しかし、配達員の立場で言えば、こういうのはいいお客さんである。1件の配達が10分もかからず終わる。距離がないぶん報酬は低い(300円くらい)が、その代わりすぐほかのリクエストをこなせる。
 
  ●高まる「置き配」ニーズ
 
  ここまで読んで「客とやりとりした話がない」と思う読者がいるかもしれない。そう、じつはUber Eatsの配達で、客と話すことはほとんどないのだ。ひとつ目のレポートのように、ドアからお客さんが出てくるのは5回に1度くらい。ほとんどの配達はドアの前に置いて立ち去る「置き配」である。
 
  マンションの場合、オートロックだけはインターホンで開けてもらうが、あとはエレベーターに乗ってドアの前まで行ったら、袋に入った弁当やハンバーガーをおいて立ち去るだけ。このとき、Uberアプリには「写真を撮れ」という指令が来る。最初は「人さまの家を写していいの?」と戸惑ったものの、次第に慣れた。撮影した写真は利用者に送られ「ちゃんと置きましたよ」の証となる。なお、配達人は料理を置いたらバッグの中の整理などせず、1秒でも早く立ち去らねばならない。「置き配」を選んだお客さんは配達員との接触はもちろん、姿を見せることも望んでいないからだ。そんなわけで、今まで置き配のお客さんがドアを開けて出てくるところを見たことはない。Uber Eatsの配達員にはコミュニケーション能力はまったく要らないのだ。
 
  ただし、配達員の立場で言えば「置き配」はオススメできない。せっかく保温に気を配って運んできた料理を冷たいコンクリートの上に置くのは非常に抵抗があるし、実際に冷める。弁当ならいいけれど、ハンバーガーショップの袋なんかは安定しないので、倒れないかも心配だ。それに小雨が降っていたり、玄関が濡れていたりすると「ホントに置き配でいいの?」と心配になる。料理に雨がかかったら嫌じゃないか、レジ袋に入っているとはいえ地面に食べ物を置くのはどうなのか、などと考える自分は神経が細かすぎるのかもしれない。もちろん、料理が冷めようと袋が倒れようと、配達人には何の関係もないことで、収入にもまったく影響しない。それでもせっかく運んだからにはベストな状態で食べてほしいのである。せめて置き配した料理は間髪入れず回収してほしい!
 
  もちろん配達先で長話をされても困るけれど、まったく人と関わらないのもつまらない。たまには直接受取で、配達先の玄関にベビーカーが置いてあり、奥から若いお母さんが出てきたりする。こういう方が「ああ、赤ちゃんを連れて出かけるのも大変だからなぁ」「自分が届けた料理で息抜きしてもらえるのか」という具合に、社会の役に立てた実感が持てて気分がいい。
 
  ●「ついで稼働」が楽しい
 
  配達員デビューから数日、ほぼ毎日ランチタイム稼働を続けている。冒頭に書いたように「気が向いたとき」「時間があるとき」に働けるというのが、Uber Eatsのメリットだが、ほかにもユニークな働き方ができることがわかってきた。
 
  たとえば、返却期限を迎えたDVDがあって、自転車でTSUTAYAに行かねばならないとしよう。返却のためだけに家を出るのは億劫だな、と。こういうとき、ついでにUber Eatsをやればいいのである。自宅で「出発」ボタンを押して、配達リクエストが来たらウバッグとDVDを持ってスタート。いくつか配達をこなしているうちに、必ずTSUTAYAの近くを通ることになる。ピック先に向かう途中や配達中ではなく、リクエスト待ちの状態なら返却くらいなら余裕だ。同じように図書館の本を返すとかドラッグストアでシャンプーを買うとか、簡単な用事はUber Eatsの稼働中に済ませられる。さすがに「数珠鳴り」になるとなかなか店には立ち寄れないけれど、それはそれでお金になるからいいのである。
 
  あと、ランチタイムにUber Eatsをやりながら「どこでご飯にしようかな~?」なんてことを考えるのも楽しい。先日は、11時からの数珠鳴りが1時間半ほどで止まったので、近くの「かつや」でランチにしようと思った。家からは遠くてめったに行かない店だが、配達の巡り合わせによっては簡単に立ち寄れるのだ。「今日は3000円近く稼いだから、カツ丼の“松”にしちゃおうか? そうだ、豚汁もつける?」などと考えていたら、店を目前にしてアプリが鳴った。
 
  「ま、まさか……、かつやを届けろと言うのでは!?」。
 
  と思ったら、そこから自宅方向に10分ほどのCoCo壱番屋でのピックだった。カツ丼を諦め、ココイチでカツカレーを受け取ると、なんと配達先は自宅の近所である。
 
  カツカレーを届け終わると、そのままアプリをオフにして帰宅。買い置きしてある蕎麦を茹でて食べた。その日の稼働を始めたときには想像もつかなかったオチである。予想外のわびしいランチを食べながら、「次こそはUber Eatsのついでにカツ丼を食べてやる」という決意を抱いたのだった。
 
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マンションに「置き配」完了!
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公園でバッグを畳んで帰宅する