【アイトス】「誠実さ」で変化に挑むimage_maidoya3
大阪市中央区船場--。この界隈は大阪では「いとへんの街」と呼ばれている。「いとへん」とは「糸」の部首が付く漢字のことで、つまりは「繊維業者が集まる街」という意味である。ランドマークの船場センタービルには、アパレル関係の卸売店が立ち並び「小売お断り」の注意書きがあちこちにある。といってもこの街を訪れる人の目的は買物ではなく、街歩きやグルメだったりする。大阪人が「あそこはいとへんやからカレーうまいで」というのは「繊維関係のインド人が多いから本格的なカレーが食える」の意味。「いとへんの街は安く呑めててええわ」は「低賃金な繊維業界の人が利用する飲食店はコスパがいい」との見解が込められている。そんな由緒ある繊維街には、背広やレディースファッションだけでなく、白衣や作業服を扱う店もちらほらある。目立たないけれど必要とされる「いとへん」。そう、アイトスがその代表だ。

アイトス
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新作のフルハーネス対応ブルゾン
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サイドファン空調服にスペーサーを装着
●本当の「フルハーネス対応」
 
  取材に応じてくれたのは商品部の柴田さんと大西さん。では、さっそく春夏コレクションの概要から教えてもらおう。
 
  「今回のテーマは、変化への対応です。といっても時事問題とかじゃなくてワーキング環境の変化。たとえば今年の1月から高所作業でのフルハーネスが義務化されました。これまで普通の作業着に胴ベルトの安全帯で現場に出ていた人が、フルハーネスをつけて仕事しなきゃいけなくなった。これは大きな変化だろう、と。そんなわけで去年から着々と開発してきたものを、今シーズンの新作として発表しました」
 
  と言って柴田さんが取り出したのは「AZ-6831 長袖ブルゾン」。肩から腕にかけてのツッパリをなくす独自技術「ムービンカット」とストレッチ性のある生地で動きやすさに配慮した商品だ。左右の胸にある縦ポケットはフルハーネス対応ブルゾンではすっかりおなじみのデザインだが、この商品のポイントは他にあるという。
 
  「いやー、私も普通のポケットはベルトが邪魔で出し入れできないから縦ポケットだ、と思ってたんですけどね。開発のためにある電気工事の会社にヒアリングしたら『胸のポケットなんて縦だろうと横だろうと使えないよ』と。考えてみればわかるんですが、胸ポケットって前から見てH字になったベルトで押し付けられるわけで、モノが入れられないんですよ。縦にすればベルトをよけながらポケットを開くことはできるけれど、モノを入れるスペースがない。だから、このブルゾンの縦ポケットは『ハーネスを着けてないとき用』なんです。高所作業が終わって、事務所に戻ったりクルマの運転したりするときにタバコとか入れてください、というわけです」
 
  いきなり常識を覆す回答が飛び出した。フルハーネス対応のブルゾンのアイコンとなりつつある縦ポケットが、ハーネス着用時には無意味だったとは。では、このブルゾンの『使えるポケット』はどこにあるのか? そんな疑問を口にすると、柴田さんは待ってましたとばかりに袖を持ち上げる。本来ならペン差し程度しかないはずのその場所に、ファスナー付きのポケットがあった。
 
  「この袖ポケットが、このブルゾンの“本命ポケット”です。この位置ならフルハーネスのベルトとも干渉しないし、作業の邪魔にもならない。潰されちゃって使えない胸ポケットに匹敵する容量があって、しかも出し入れしやすいよう開口部は縦。ファスナーで完全に閉じるので高所で物を落とす心配もありません」
 
  こうした細かい配慮は“フルハーネス初心者”をターゲットにした戦略でもあるという。
 
  「義務化を見越して、去年あたりからフルハーネスを着用して作業するようになった人が多いのですが、なかには『前より動きにくい』とか『モノが持ち歩けなくなった』とか不満を抱えている人もいると思うんです。そんな痒いところに手が届くウェアをお届けできたら、と。ベルトが当たる部分の補強やムービンカットによる可動性といった当たり前の機能に加えて、収納面も理にかなった誠実な設計にすることで、フルハーネス用のウェア選びに迷っている人にもアピールできると考えています」
 
  ●アイトスは譲らない
 
  続いて、柴田さんは「AZ-3330 長袖ブルゾン」を筆頭とする新作の上下もの作業着シリーズを並べ出した。先ほどのフルハーネス対応ブルゾンと同様に、こちらもパッと見たところ革新的な商品に見えないけれど、どんな「ワーキング環境の変化」に対応したウェアなのだろう。
 
  「これはコロナ禍もあって拡大を続けるネット通販など、物流や流通の現場を支えるためのウェアです。私たち作業着メーカーは、つい建設業の技能者、つまり職人さん向けのウェアを作ることばかり考えがちなんですけど、今やこういう軽作業の業界も大変ハードな現場になっていて、女性もたくさんいる。そういう作業所でも動きやすくて快適に働ける作業着をつくろうというコンセプトで開発が始まりました」
 
  では、そのような軽作業の業界で求められる作業着というのは、建設や土木といったガテン系向けのものとどう違うのだろう?
 
  「手足だけでなく全身が動きやすいのは当然として、これからの季節は快適性が大事になります。そこでこのシリーズでは、従来の春夏もの作業着の3倍の通気性を持たせることにしました。これは一見、簡単そうですがワークウェアにおいては困難なんです。ふつう生地というのは高通気であればあるほど耐久性が低くなる。めちゃくちゃ快適ですがすぐダメになります、という商品は作業着メーカーとしては出せないので、そこは当社と素材メーカーの開発力でカバーしました。耐久性の面では通常の作業着にまったく劣らないのに、風がよく通って涼しい。ほかの面で付加価値が大きいなら耐久性は少しくらい犠牲にしてもいい、といった考え方もあるのかもしれませんが、アイトスはそこだけは何があっても譲りません。それが作業着メーカーの使命ですから」
 
  このシリーズには「AZ-3337 半袖シャツ」という少し変わったウェアがある。これはコンビニ店員のシャツをヒントに開発された新ジャンルのワーキング用トップス。半袖ブルゾンでもポロシャツでもない独特のウェアだ。「コンビニで見るあれが欲しいという声があったので作ってみた」とのこと。作業着に向き合う姿勢は保守的だが、商品開発は意外に革新的なのだ。
 
  ●運命の出会い
 
  そして、プレゼンの最後に登場したのは、ごぞんじ空調服である。といってもファンやバッテリーのパワーアップといった話ではなく、ファンの位置を変更した新モデル。従来の空調服と比べてファン位置がやや前に移動し、腕の下のポジションになった。これによってクルマや重機の運転時に、ファンが背もたれに当たるのを防げる。このような工夫も「変化」への対応だと、開発した大西さんは語る。
 
  「このサイドファン式の空調服は、生協なんかの宅配業の人にヒアリングして開発しました。同じ運転でも長距離トラックのドライバーなんかはエアコンが効くから、暑さは大して問題ない。しかし、こういう近距離の運転をしてマンションの中を歩き回って……、という業務の人は、車内を冷やす暇がないんですね。しかも運動量も多いから、熱中症のリスクが高い。そして現在、コロナ禍もあって宅配業はすごく忙しいわけです。そういうニーズを背景に、クルマの中でも歩き回っているときでも体を冷やし続けられる空調服を作ろう、と。ただこれは、ファンを横に付ければ解決という話でもない。たとえファンが当たらなくても、背もたれに押されてウェア内の風の流れがなくなったら、ぜんぜん涼しくないんです。そこで、ウェア内部に取り付ける専用のスペーサーも用意しました」
 
  と言って大西さんが取り出したのは、コイル状の樹脂がもじゃもじゃに詰まったカサの高い物体。なるほど、これなら背もたれの圧力がかかっても風の流れはなくならない。しかも既存の人工芝のようなスペーサーより見た目もスマートだ。
 
  「これは3Dメッシュという素材で、産業資材の展示会で見つけました。要は何かものを挟むことでウェアと体を離しておきたいわけですが、スポンジやウレタンみたいなものだと当たっているところが暑いし、汗も吸うから不快です。でも、この立体構造なら軽くて高さも出せるし、スペーサー自体の通気性もすばらしい。本当に運命の出会いでした」
 
  新たな保安規則から宅配ニーズの高まりまで、アイトスはワーキングの変化に挑み続ける。
 
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スペーサーはカサ高で信頼度バツグン
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柴田さん(左)と大西さん

    

“きちんと感”の中に最高の動きやすさ! 大定番「ムービンカット」シリーズ

物流業やビルメンテナンス、製造業などのユニフォームに最適な動きやすい作業服。アイトス独自の「ムービンカット」により、肘を曲げても肩から腕にかけてのツッパリ感なし。さらに生地のストレッチ性も合わせてバツグンの運動性能を実現している。男女兼用モデルなので、女性の多い職場のユニフォームにもおすすめ。


フルハーネス対応に帯電防止モデルも! 「ムービンカット」プロ仕様シリーズ

建設業や製造業など、安全対策が求められる現場のための作業服。肩から腕にかけての独自製法「ムービンカット」とストレッチ性のある生地で、現場でのあらゆる体勢をサポート。フルハーネス対応モデルは、ベルトの着圧で胸ポケットが潰れてしまうため、左右の袖に大容量ポケットを取り付けている。