まいど屋コミック193号/折りたたみヘルメット

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まいど屋コミック193号／折りたたみヘルメット

193話折りたたみヘルメット

>折りたたみヘルメット

お話に出てくるアイテム

AA21
防災用ヘルメットIZ

もう随分と昔のことになるが、ときどき思い出す光景がる。しばらく海外暮らしをして、日本に戻ってきたときのことだ。僕の乗った飛行機は着陸に向け、成田空港の手前で高度を下げ始めていた。僕は窓から懐かしい日本の大地を見下ろしていた。国を離れた後は一度も帰国しなかったから、4年ぶりの日本だ。僕は食い入るように、青々と続く田園地帯を見つめていた。やっと帰ってきたんだ。僕は、これから僕を無条件で受け入れてくれるはずのその母なる国土を、その国の形を、何の疑いも持たずに眺め続けた。今考えれば、僕は間違っていたんだと思う。その時感じていたはずのわずかな感覚のズレに、もっと注意を払うべきだったんだと思う。車や建物の輪郭まで識別できるようになってきたとき、僕の中では少しずつ、しかし確かに違和感が広がっていた。それが何なのかはわからなかったけど、僕は僕が帰ってきた場所が、僕のものではないような気がし始めていた。そんなバカなことがあるものか。僕は首を振って、センチメンタルな帰国の感慨の中に自分を沈めた。ここが故郷でなければ、僕は一体何者なんだ？

ST#130
回転式ヘルメットCr

違和感の正体が明らかになるには、長い時間がかかった。その間、僕はわけもわからないまま、ただ一方的に疎外感を募らせていった。もっと早く、それを適切に理解していれば、帰国後の僕の生活はずっと違ったものになっていたかもしれない。少なくとも、あれほどの遠回りはしなかっただろう。僕を落ち着かない気分にさせ、ときに苛立たせたのは、どうしようもない窮屈さだった。僕はあらゆる場所で何かにぶつかった。物理的にも、心理的にも。何もかもが小さく見えた。道は狭かったし、トイレは低かったし、空は銭湯にある壁画みたいに狭く切り取られていた。建物という建物が小さく、せせこましく感じられた。吸っている空気さえ薄く思えた。そして、社会そのものの雰囲気も。僕が帰ってきたのは、大人になってから訪れる子供時代の思い出の場所だった。そこは確かに昔僕がいた場所だけど、僕の記憶にある風景とはサイズがひとつ分違っていた。僕は場違いな場所にいる異邦人だった。周囲に誰もいないときには、よくスティングのEnglishman in New Yorkを口ずさんだ。それは僕が、ニューヨークでやはりよく口ずさんでいたのと同じ曲だ。Be yourself no matter what they sayと僕は歌う。僕は合法的にここにいる。僕は合法的異邦人なんだ。結局どこにいたって。

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折りたたみヘルメット

それから、色々な紆余曲折を経て、僕はまいど屋を始めた。余計な回り道をして時間をムダにしてしまったにせよ、その頃にはもう、自分の中にあった部外者意識はかなり薄らいでいた。僕は今度こそ業界のやり方にうまく自分を順応させながら、それでも僕なりの方法で、それまでにない形態の販売店を作ろうと努力した。それが報われたどうかは今の時点でまだわからないけど、なんとか10年以上やってこれたことだけは確かだ。もしも皆さんが、まいど屋はちょっと変わった店だなと感じられたなら、それはもしかしたらスティングのあの曲が、まいど屋の奥深くに息づいているからかもしれないです。

まいどズラ

ところで僕はなんでこんな話を書いたんだろう？ああ、そうそう、例の折り畳み式ヘルメットを考え出すような精神構造はどこから生まれてきたのか、それを説明するための前フリが、予想外の方向に膨らんで収拾がつかなくなったんだ。最初の目論見では、日本人は何でも小型化するのが好きだって話をしたかったんです。そして本題に関連したささやかなエピソードとして、機上から見たあの小さな町並みのことを描写したかっただけなんです。あの異常な小ささは、この国でずっと暮らしていると気付きませんから。みんな慣れてしまっているから、それが日本でしか通じない独特の価値観であること、しかしまた特有のアドバンテージになっていることがわからない。小さなトランジスタラジオや、持ち運べるカセットデッキがこの国から生まれたのは、決して偶然ではない気がする。狭い庭に自然を再現する日本庭園。力強い生命力を鉢の上で表現する盆栽。みんな根は同じじゃないですか。そこにサラッと触れてから、ヘルメットのことを書こうと思ってたんですよ。ヘルメットを小さく畳むアイデアは、この日本からしか出てこないんだって。そんな狙いだったんだけど、見事に着地に失敗しました。すみません。

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