まいど屋コミック212号/理髪店でスッキリ

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212話理髪店でスッキリ

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お話に出てくるアイテム

MB-1016
ケーシー（男性用）

本当に、髪はあっと言う間に伸びてきますね。散髪して具合がいいのは一週間ほどで、二週目に入るともう寝グセを直すのに時間がかかるようになってきます。三週目には整髪料も効かなくなり、四週目に入ると努力をすることすらアホらしくなり、男は中身で勝負だなどと勝負する相手もいないことを忘れてとりあえず洗面所の鏡に映る自分の姿に妥協し、えいやとオフィスに向かうことになるわけです。そうしてようやくその週末、僕はまた近所の床屋に出掛けていく。古いお店です。店主は僕が子供の頃から知っている老人で、この先何年続くのかもわからない。店の外にある青と赤と白がくるくる回る例の看板は、もうとっくに壊れて二三周回っては動きを止め、またゆっくりと回り出すようなことを繰り返している。それは僕に、昔テレビで見たオリンピックのマラソン選手を思い起こさせます。長い距離を走り抜け、トラックに戻ってきた彼女はふらつきながら体を痙攣させ、何度も立ち止まり、それでもゴールを目指していた。あと少し。そこまで行けば全てが終わる。もう少しだけ。そこにたどり着ければ。僕が店内に一脚しかない椅子に腰を下ろすと、老人は僕にエプロンをまわし、それから頭に霧吹きで水を掛ける。僕も老店主も、一言もしゃべりません。僕はどんな仕上がりを望んでいるのか言わないし、彼もまた、どうすればいいのか訊くこともない。しんと静まり返った店内で店主は僕の後ろに立ち、鋏を動かし始める。金属がこすれる音がリズミカルに聞こえてきます。彼は途方もなく長い時間をかけて経験を積み、今またひとりの客に向き合っている。僕はただ、文庫本を読みながら、彼が仕事を終えるのを待つ。あと30分。それは僕にとって、至福の時間です。そこでは時が静かに流れている。全てが終わり、老店主が床に散らばった髪の毛を片付け始めるまで。

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