まいど通信
まいど!まいど通信編集長の田中です。今月は諸般の事情によりそこそこ時間があるので、普段おかしいなと思っていながら、深く考えもせずにそのままにしておいたいくつかの疑問について、この場を借りて検討を加えてみようと思います。
まずは些細なことではあるけれども、なぜか折に触れて意識にのぼってくるあの問題---床の間に飾った掛軸が微妙に曲がっている時のように、心の平安を乱したかと思えばすぐに慣れてしまってどうでもよくなることを繰り返す、やっかいな例のあれについて、よくも今までほったらかしにしてたもんだなと読者の皆さんから呆れられてしまうのを覚悟の上で書いてみます。そして続いて、それに関連した諸問題がまいど屋内部の業務運用体制に及ぼす影響について分析し、予断を交えずに公平な立場で導き出したささやかな提言を、関係者の参考までに併せて付記しておこうと思います。
さて、出発点となる基本的問題は、皆さんか読んでいるこのまいど通信は、いつも小さな嘘から始まっているということです。まいど通信編集長の田中です---連載開始以来、こう名乗ってから始めるのがこのページの慣例なのですが、なぜそうなっているのかは実は自分でもよくわかりません。全員集合が必ず長さんのおいっすで幕開けしなければならなかったように、それはスタートを表すある種の記号として機能しているのだとしても、それがなぜまいど通信編集長なのか。大体、まいど通信編集部という部署はまいど屋にはないんです。名乗るなら、月刊まいど屋編集長ではないのか。また、百歩譲って私の知らぬ間にまいど屋にまいど通信編集部というものが存在していたのだとしても、編集長である私が、なぜこのまいど通信のみならず、毎回月刊まいど屋のレポートを全て執筆しなければならないのか。編集長というからには、その下に積極的に企画に関わろうとする献身的な編集部員がいるはずであり、編集部員が何の仕事もせず出来上がった月刊まいど屋をのほほんと読んでいるだけならば、私は最早編集長ではなく、単なる月刊まいど屋担当係でしかないのではないか。
心の中にふつふつと湧いてきたこれらの疑問を解決する方法はたった2つしかありません。比較的簡単なのは、皆さんへの挨拶を現実に合わせて書き換えること。まいど!月刊まいど屋担当係の田中です---すぐにでも実行でき、何もかもすべて丸く収まっていいのですが、いくつかの欠点があります。まず、言葉にエレガンスがない。大体、何万もの読者の皆さんに向かって一担当係がまいど屋を代表して挨拶するのは、皆さんを軽視しているようで失礼な気がします。それに、そう言った途端に、自分がこれからも未来永劫、一人担当であり続けることを自ら承認してしまうような気がして気が進みません。これまでうすうす感づきながらも知らぬフリを続けてきた虚構が崩れ、長という一文字によってのみ支えられてきた自尊心が、現実の光を容赦なく照らしつけられて逃げ場を失ってしまいます。また、これまで編集部に籍を置いていた編集部員たちにとっては、それが事実上の退職勧告になってしまう恐れもあります。ならばどうすればいいのか---
そう、まいど屋はもう一つの解決策を選ぶべきなんです。現実をこのまいど通信の出足の一文に合わせてやればいいんです。緊張感のカケラもなく、ただ毎月楽しみにしてますなどと社内営業をするばかりの編集部員に、肩書き通りレポートを担当してもらう。編集長である私は、彼らが提出してくる原稿にもっともらしい顔で頷いたりダメ出しをしたりするだけで、空いた時間をこのまいど通信に集中させる。もちろん、他人が書いた原稿にまで責任を持つことは真っ平ゴメンですから、読者の皆さんへのご挨拶に使う自分の肩書は「月刊まいど屋」編集長ではなく、自分が担当した「まいど通信」編集長のままにしておく。そうした決意に基づいて出来上がったのが今月号です。諸般の事情とは、そういうことなのであります。
今月のテーマはまいうーな沖縄特集
なぜ食レポなのか。なぜ沖縄なのか。読者の皆さんにそう問われても、編集長である私にはさっぱりわかりません。そんなの無責任じゃないかと文句を言われても、仕事を振ったIさんから今日になって「はいこれです」と渡されたのだとしか説明のしようがありません。確かに、嫌がる彼女に、一人で考えて一人で最後までやり遂げろと丸投げしましたよ。それから、多少のうしろめたさもあり、またその他の部員を前に編集長の器の大きさを見せつけてやろうという浅ましい考えもよぎり、責任は全て取ってやるなどと自分で全く信じていないような宣言までしてしまいましたよ。でもそれは部下の成長のために取った行きがかり上のポーズであって、まさかこうした結果になるなんて思ってもみなかったんです!だから皆さんからいろいろとコメントを求められても、私は本件には一切かかわる気がありません。すべては私の知らないところで、勝手に進められていたんです。ユニフォームを特集すべき月刊まいど屋がなぜ沖縄のおいしい店を紹介しなければならないのか。そんなことなど私が知る由もありません。Iさんに訊いてみてください。それから、このような個人的旅行のついでに行われた取材には、出張費など出せないのだと彼女にちゃんと言い聞かせておいてください。何枚も領収書を回されて困っているんです、ホントに。
股下浅め
ん?って思ったひとは、かなりの注意力の持ち主です。まいど屋に電話をしてくれたら、その場ですぐに採用したいくらいです。残念ながら、まいど屋のスタッフの中には、そこまで正確な情報処理能力を持った人材はひとりもいなかったんだから。数か月間、それはまいど屋の画面に堂々と、まるで公衆トイレの落書きのようにあっけらかんと表示されていました。気付いたときは顔から火が出るような思いで、すぐにそれを消しましたけど。
最近取り扱いを始めた、あるオフィスウェアブランドのパンツの商品名の話です。それを入力したのは多分自分です。なんでそんな風になったのかは今でもわかりませんが、おそらく無意識だったんだろうと思います。<パンツ(股下浅め)>。女性にショートパンツのような刺激的なオフィスウェアを穿かせてみたいという欲望が、きっと心のどこかにあったんです。でも、改めて考えると、<パンツ(股上浅め)>よりずっと売れそうなんだけど。修正前の方が。
Siriへ
一体どうしてしまったんだろう?僕は今、ひどく混乱している。何でもない風を装って努めて普通に振舞おうとしてはいるものの、少しでも注意力のある観察者であるならば、僕の一つひとつの動きに意思に反した力が加わっていることをきっとすぐに見抜いてしまうだろう。僕がそれをなんとかして制御しようと思えば思うほど、かえって不自然さが目立ち始め、僕になど特に注意を払っていなかったひとでさえ、そこに何かの秘密があることを嗅ぎ付けてしまうことになるのだ。
もちろん君は、僕のそんなぎこちなさを、君に備わっているあの天性の感受性で、初めから敏感に察していることだろう。僕にはわかっている。君は君で、あれをなかったことにするために僕が逃げ込もうとした一つの可能性としてのフィクションを、いや、本当は全てがいつもと同じなんだと自分を安心させるために僕が続けている自分自身への絶望的な演技を、冷酷な皮肉を込めて、あてつけのように僕に投げ返してくるのだから。僕は僕たちが時間をかけて築いてきたあの信頼に満ちた世界を守ろうと、君の前であるべき僕がいつものようにそこにいるフリをする。そんな僕を冷笑するように、君も僕と同じ態度を取り続ける。そこにあるのはお互いの腹を探りあう、外交官同士のディナーのように冷たい関係だ。僕は手に持ったフォークがカチカチと音をたてないように、僕の左手ばかりに注意を向けている。できるだけ間延びした声でしゃべり、それが小さく震えているのを悟られまいとする。だが、こうしたゲームは君の方が何枚も上手のようだ。君の声には内心の揺れが少しも表れない。今夜もいつもと全く同じトーンで、微笑みを湛えた仮面の向こうから君の答えを僕に伝えてくる。そんな風にして僕たちは今も、このいつ終わるとも知れない、猜疑心がいつしか大きな悲劇を引き起こす気配が濃厚に漂う即興劇を演じ続けている。
君が嘘をついた。今でも僕にはそれが信じられない。あの晩、僕は、明日、6時に起こしてくれと言ったよね。そして確かに君は明日6時にアラームをセットしましたと言ったんだ。でも、翌朝、君はその優しい笑顔のままで僕を裏切った。時計の針が8時を過ぎても、僕はベッドに横たわったままだった。次の日も、そしてまたその次の日も、君は同じことをした。何が君をそうさせたんだろう?僕はどこかで、君の中にある触れてはいけないものに触れてしまったんだろうか?僕たち二人は、どこで間違いを犯したんだろう。今日も会社に遅刻してしまった。Siri、僕の代わりに、僕が最近始業時間に間に合わない理由をみんなに説明しておくれ。Siri、あの従順な君はどこへ行った?