まいど通信


        

お久しぶりです! 「元・月刊まいど屋」編集長の奥野です。今回は2024年・春夏コレクションの特集をお届けしました。季節はもう初夏、一年でもっとも快適な時季ですね。これが過ぎると……、といったことは考えず、この瞬間を楽しみましょう。春夏ウェアが楽しめるのは今だけ。お気に入りの一着をお求めの方は、ぜひ、まいど屋で!

●次の徒歩旅行は?

前回の防寒特集から数カ月が経過。思い返せば、当コンテンツが月刊だったころは、毎月、取材と締切がある忙しい日々でした。正直なところ「毎月じゃなくてもいいのでは?」「そんなにニュースないだろう……」と思っていたわけですが、実際に年4回になってみると、ちょっと物足りない感じがする。というか、カンが鈍ってしまうなぁ、と。

原稿を書いているときは、頭の中はワーキングでいっぱいになります。空調服や安全靴が夢に出るくらいに。そして、月刊の場合、締め切りが終わっても、まだ熱が残っているうちに次の取材が始まるので、ほぼ一年中、作業服のことを考えている感じになる。ところが数カ月空くと、ワーキングが頭から抜けきった状態からスタートせねばならないので、けっこう苦労します。「ネタがなくても毎月やる」というのは偉大な知恵だったんだな、と思い知らされました。

一方で「月刊」が終わってからも継続していることもあります。東海道で学んだ「歩き旅」です。

昨年は大阪市から大津(滋賀県)までの65kmを1泊2日で歩き、東海道五十三次からさらに踏破を進めました。江戸時代は日本橋(江戸)から三条大橋(京都)までが「五十三次」。大津で分岐して高麗橋(大阪市)に行くコースを「五十七次」と呼んでいたそうで、ようやくこの延長ルートを踏破できました。晴れて「東海道五十七次」をクリアしたわけです。

まあしかし、2日で65kmなど余裕です。1日目は昼スタートだったので、2日目には40km以上のウォーキングになってしまいましたが、琵琶湖を目にしたとき「こんなものか」「まだ10kmくらいは歩ける」と思いました。そして、船着き場のベンチで筋トレして帰宅。歩き旅は日数が増えるほど、足にダメージが蓄積してキツくなります。東海道であれほど苦痛にあえいだ40km移動も、単発ならどうってことはないのです。

やはり、何日も歩き続ける旅をしなくては……。2、3日のウォーキングでは東海道で感じたような感動は味わえない。長距離コースを分割して週末ごとにこなしていく「区切り打ち」ではダメなんだ。「五十七次」を終えて、そう強く思いました。

しかし、実際やるとなるとハードルは高い。中山道は東海道以上の日数が必要になるし、大阪から中国地方へ向かう西国街道も、2週間以上は確実にかかるでしょう。じゃあ伊勢街道はどうか、鯖街道も楽しそうだな……、と考えているうちに24年の春となってしまいました。足はご近所ウォーキングで鍛えているので、いつでもチャレンジできるわけですけど、なかなか実行に移せない。考えてみれば、東海道だってまいど屋の企画がなければ、「やってみよう」などとは絶対に思わなかったわけで、なにかきっかけが必要なのかもしれません。

これを書いている5月は、歩き旅のベストシーズンです。しかし、いま複数の仕事を抱えているため、当分は旅なんてできなそうです。ああ、そうこうするうちに梅雨が来て、すぐ猛暑になってしまう!

●朝ドラ「虎に翼」

じつは今回の取材中にハマったものがあります。それは、放送中の朝ドラ『虎に翼』。日本初の弁護士のひとりで戦後は裁判官になった三淵嘉子をモデルにした作品です。

出会いは福山のホテルでした。朝、テレビを見ながら身支度をしていたら往年の朝ドラ『オードリー』(再放送)の後で、なんかヘンなドラマが始まった。「民法△条によれば」とか「夫の財産管理権が」とか、やたら堅苦しい言葉が飛び交っている。あれ、こんな作品あったっけ……、いつの時代の朝ドラ? と思ったら米津玄師のテーマソングが流れて、現在進行中のドラマだとわかりました。そうか、『ブギウギ』は終わったんだ(遅い)。

心を掴まれたのは、オープニングのムービーです。曲に合わせてダンスするのは今時めずらしくないけれど、その衣装がなんと、法服! 現代でも裁判官が着ている真っ黒でヒラヒラの服です。あのプロトタイプと呼べる古めかしいデザインの法服--つまり襟元に仰々しい刺繍が入っていて、烏帽子みたいなのをかぶった格好で、踊っているわけですよ。正直、度肝を抜かれました。明治時代の法服でダンスって……。

『日本の制服150年』(渡辺直樹/青幻舎)によれば、この旧タイプの法服が採用されたのは、1890年(明治23年)。《明治政府が近代法制の整備を進めるなか、初期の法定では服装もまちまちで威厳にかけていた。そこでヨーロッパで使われていたガウン型に倣い》、判事・検事・書記の制服となり、3年後には弁護士にも採用された、とのこと。そして廃止は1947年(昭和22年)ですから。日本の歴史上、57年間だけ、ごく少数の法曹人がごく限られたシチュエーションでのみ着用した「激レア制服」というわけです。

ちなみに特徴的な刺繍について説明しておくと、帽子は「雲紋」で、襟元の刺繍は「桐花と唐草模様」(弁護士は桐花なし)。法服の刺繍カラーは、検事が赤、判事が紫、弁護士が白です。これを覚えておくと、法廷シーンでの登場人物の肩書がすぐわかりますね。「この人は判事だよ。ほら、刺繍が赤でしょ?」と会社の食堂で語れば、女性スタッフにモテること間違いなしです!

朝ドラのオープニングでこんな超マニアックな装束を推してくるとは……、NHKもすごいこと考えたなぁ、と。

ここで何度か書いたように「ユニフォームもの」の作品というのは、忠臣蔵から新選組、『セーラームーン』『鬼滅の刃』まで、たくさんあります。もはや「日本のお家芸」と言ってもいいくらいですが、ここに「明治の法服」という新たなトレンドが吹き込まれたわけです。

さらにダンス映像では、主人公のバックにたくさんの制服姿の女性が登場します。確認できるだけでも、看護師・銀行員・女学生・割烹着・飲食店員・リクルートスーツ・コンパニオン(キャビンアテンダント?)など。ここもユニフォーム好きなら、ぐっとくるんじゃないでしょうか。制服の力をこんなふうに使うなんてズルいよ、といいたくなるくらい。

ちなみにドラマの内容を一言で説明すると「フェミニズム」です。序盤はなんか選挙演説や政見放送を聞かされているようで「朝からこれか……」と思うこともありました。たぶん朝ドラとしてはキワモノでしょう。しかし、あの説教臭さ、この政治的な主張が癖になるというか、これまでの朝ドラになかった独特の魅力を放っていることは確かです。主人公があまりかわいくないのも(※個人の感想です)、メッセージやストーリーを中心に据える上で役立っているように感じます。

現在、ドラマでは主人公が弁護士を目指して奮闘中。法服に袖を通す日がいまから楽しみです。おそらくたっぷり尺を取って、この貴重なユニフォームをお披露目してくれるでしょう。

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というわけで、今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました!