まいど通信


        

先月に続いて登場しました。「元・月刊まいど屋」編集長の奥野です。毎年恒例、猛暑対策特集をお楽しみいただけたでしょうか? 例年はファン付きウェアの話ばかりでしたが、今年は水冷にペルチェ、注水、P.C.M.と新たな技術が盛り沢山。人知を超えた難敵にテクノロジーを総動員して挑む、という往年の特撮映画のような展開になってきた日本の夏です。読者の皆さま、くれぐれも熱中症や夏バテにはお気をつけください。そして、夏の仕事を猛暑対策アイテムで快適にしたい方は、ぜひ、まいど屋で!

●いまラジオが熱い!

突然ですが、メディアの話です。

新聞・雑誌・テレビから、ネットニュース・SNS・動画配信へ--。ここ20年ほどで私たちを取り巻く情報環境は激変しました。早い話、「紙と電波」が「スマホとモバイル通信」に代替されてしまったわけです。長年、自宅で新聞を購読し、書店で雑誌を買っていた私の生活も、じわじわデジタル化が進んでいます。

オールドメディアが駆逐されていくなか、「意外と強い」「逆に面白くなった」と感じているのがラジオです。私は散歩中に、スマホのアプリで各ラジオ局の配信を聴いたり、家で海外ラジオのインターネット放送をつけっぱなしにしていることが多いのですが、ラジオはけっこう頑張っています。

近ごろは、電波と受信機ではなく「モバイル通信とスマホ」という手軽さ、そしてコンテンツの豊かさにすっかり魅了されています。というわけで、ここでラジオの現在について少し語らせてください。

まず、NHKラジオを例に挙げましょう。公式アプリやウェブサイトで、定時のニュースや深夜番組の「聞き逃し配信」が聞けるのはよく知られています。これで、放送時間をチェックしたり録音したりといった手間はなくなりました。しかし、何より革命的だったのは、気軽に「未知の番組」と出会えるようになったことです。

公式アプリは、ニュースでおなじみの「NHKラジオ第1」に語学番組などを放送する「NHKラジオ第2」、それにクラシック音楽などを流している「NHK FM」の番組を、すべて「聞き逃し」で配信しています。これによって、普通に生活していたら絶対に出会わなかったような、深夜・早朝に流れている地味な講座や5分だけの超マイナー番組などが、簡単に聞けるようになったのです。

それの何がすごいの? と思った人は、こう考えてみてください。

過去にどれだけ「NHK FM」に周波数を合わせたことがあったでしょう?
今まで深夜の「NHKラジオ第2」を聞いてみる機会がありましたか?
ラジオの「好きな番組」をちゃんと毎回チェックできていました?

そう、以前のラジオは、まず周波数を合わせるのがひじょうに面倒でした(アナログ式は特に)。しかも、携帯ラジオは今でも高価で(SONY製は4000円以上する)、電車やトンネルの中など、電波が届きにくくなるとしょっちゅう雑音が入る。そんなわけで、ラジオというのは音楽マニアやトーク番組のファン、それにトラックやタクシーの運転手でもない限り、「ひとつの周波数に合わせっぱなし」「聞くのは家かクルマの中だけ」というのが普通だった。私も同じです。昔から「NHK第2の歴史講座はけっこうためになるな~」とは思っていたものの、わざわざ放送スケジュールに合わせたり、録音したりといったことはしない。そこまでの熱意はなかったわけです。

ところが、スマホの公式アプリなら、ジャンル別に並んだ番組の中に気になるものがあれば、気軽にチェックできる。モバイル通信なので、建物の中や地下鉄でもまったく音の乱れはありません。

最近の掘り出し物は、『音の風景』です。NHKラジオ第1・第2・FMで毎日5分だけ放送されている(と、いま検索して知った)マイナー番組。キャッチフレーズは「5分間のサウンドトリップへようこそ! リスナーのみなさんを音だけの世界にお連れします」。日本と世界で収録した雑踏や祭りのざわめきや動物の鳴き声、川の流れや風で揺れる木々といった環境音を、最小限のナレーションでただ流すだけ、という超硬派なプログラムです。こんなの「聞き逃し配信」以外で聞くのは、ほとんど不可能でしょう。

番組内容は「すばらしい」のひとこと。音響デザイナーの技術のおかげで、聞き入っていると本当にその場所に居るような気分になります。「5分間のサウンドトリップ」は伊達じゃない。では、どんな場所に連れて行ってくれるのか、下記に最近のタイトルを挙げておきましょう。

・音の風景「水の都 郡上八幡~岐阜~」
・音の風景「薪窯のパン屋さん~東京~」
・音の風景「アマゾンの祈り唄~ペルー~」
・音の風景「吉野川のラフティング~徳島~」
・音の風景「蓮華八葉 恐山の初夏~青森~」

シブい……。ただの鳥のさえずりとか川が流れる音といった退屈なものではなく、都会のざわざわやエンジン音、厨房や客席の会話、農家や工房の機械音、各地の民謡や方言、観光ガイドの外国語なんかが絶妙に混ざっているところがまたいい。わずか5分間で、すごく豊かで奥深い世界が味わえるのです。しかも、何十年も前に収録したものの再放送もあるので、穏やかでスローな「古き良き日本」も味わえる。

もちろんブラウザ上でも聞けます。忙しい日々に5分間のサウンドトリップを取り入れてはいかがでしょうか。

●海外放送で英語を

さらに、ラジオとくれば語学です。コロナ禍をきっかけに、私も一昨年ごろから英語をやり直しています。

インターネットラジオでは、世界中の番組が聞けます。ただ、英語のプログラムはあまりにも多すぎて選びきれない。しかも、ネイティブの発音は早すぎて聞き取れなかったり話題についていけなかったりする。そんなわけで、私はニュースに絞って英語をリスニングしています。

もっともラクに聞き流せるのが、VOA(ボイス・オブ・アメリカ)という米国のラジオ局です。ここが流しているのは、アジア系の移民やスペイン語圏からの出稼ぎ労働者など「英語ができない人」向けのニュース。アナウンサーの話すスピードはゆっくりで発音も丁寧。さらに使われる単語も中学レベルなので、少しでも英語に親しんでいれば、何の話をしているかくらいは、おおまかに理解できる。

VOAのアプリでは、全世界のリスナー向けにエンドレスでニュースを流しています。合間に流れる音楽も、米国の若者向けなのか、ふだん耳にするものと違って新鮮です。要は、日本のCMやラジオ番組で流れている洋楽って「懐メロ」が多いんだなぁ、と。

ちなみに米CNNや英BBCもスマホで聞けます。ただ、完全にネイティブ向けのスピードで、めちゃくちゃ速い。とくにBBCはイギリス英語のせいか単語すら聞き取れないことがあって、私は歯が立ちません。少なくとも初心者や中級者のうちは避けたほうがよさそうです。

いっぽうVOAにも弱点があります。単調なストレートニュースばかりなので、だんだん飽きてくるのです。それにリスニング力がついてくると、例のゆっくりのアナウンスがちょっと物足りなくなってくる。ネイティブのレベルまで行かなくても、もう少し「本物の英語」が聞きたい、といった欲が出てくるのですね。

そんな人は、NHK国際放送の配信アプリ「NHK WORLD」をチェックしてみてください。日本のニュースを英語でアナウンスしたり、NHK総合やEテレ番組の「英語吹き替えバージョン」を流したりしています。海外のホテルなんかで、見たことがある人も多いと思いますが、要はアレのインターネット版です。ライブとタイムシフト視聴で、動画(テレビ)と音声(ラジオ)を配信しています。

NHK WORLDの英語は、VOAと違って自然なスピード。なのになぜか、聞き取りやすい! アナウンサーは日本人や日系アメリカ人が多いのですが、おそらくこれが語学界隈で言われる「アジア人英語」ってヤツなのでしょう。ちょっとカタカナ的というか、はっきり&くっきり発音してくれるので、CNNやBBCとは比べ物にならないくらいリスニングが簡単。内容も日本の話題なので、理解しやすいのもメリットです。

内容的に面白いと感じるのは「外国人が見たい日本」に特化している点ですね。番組でよくあるテーマをあげておくと、まず鉄板が、忍者と侍。そして富士山、マンガ、温泉、グルメ……。最近はやたらとラーメンの特番を流しています。先日もラーメンの歴史や老舗の物語、職人のインタビューなどを2時間ほどぶっ続けでやっていて(日本でもそんな番組はない)、外国人は本当にラーメンが大好きなんだなぁ、と。もはや海外の人にとって「日本食」といえば、寿司や蕎麦よりラーメンといっても過言ではありません。

あと個人的にぐっとくるのが、『Living in Japan』というラジオ番組。日本に住む(住みたい)外国人向けのプログラムで、毎回、男女のパーソナリティが日本在住歴のあるゲストを呼んで日本についてトークします。ゲスト登場時の合言葉は「トゥディーーズ、センパイ!」。テーマはラーメンから(ホントに多い)、お風呂、電車、地震、お茶、弁当、味噌に豆腐など。

「ヴィーガンだから肉も魚も食べないって言うと『カワイソー!』って言われる(笑)」
「築地や豊洲もいいけど、ぼくのオススメは田舎。いま地方の道の駅がアツい!」
「去年は日本で200件の店を訪問して800杯のラーメンを食べました」

といった具合に、日本愛あふれるメッセージが聞ける。日本人より日本を知る人たちなので、勉強になるし、ご当地グルメの話題などで、ちょっとした旅行気分も味わえます。ちなみに、米国人のラーメン大好き「センパイ」がいま注目しているのは「チャッチャ系」とのこと。なんだそれ?

みなさんも、リラックスタイムや趣味にインターネットラジオを活用してみてはいかがでしょうか。

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では、今回はこのへんで。次回もひょっこり登場するので、どうぞお見逃しなく!