【中国産業】犬男が切り裂く既成概念image_maidoya3
犬男。そう聞いて、初めはまったく興味が起きなかった。いや、正直なところを言うと、興味はあった。ただし、ネガティブなマイナスイメージとしての。奇抜なネーミングのインパクトが強すぎて、反射的に拒否反応が出たのかもしれない。そんなワケのわからないブランドは、取り扱ったって、いいことなんか一つもない。中身もロクに調べず、頭から否定して忘れ去ろうとした。だが、メモリーから消去したはずの犬男のイメージが、日を追って頭の中で膨らんでいく。まるで、初めは奇想天外に思えた村上春樹の羊男の残像が、いつの間にか心の中を占領してしまったように。
  結局のところ、まいど屋は一年余りの回り道をした挙句、このメーカーの旗艦ブランド、DOGMANの取り扱いを開始した。恥を承知で「回り道」と言ったのは、DOGMANはこの間に、トレンドに敏感な全国のワーカーたちから、最大級の注目を集め始めていたからだ。前衛的ともいえるデザインとニュアンスのある素材感。ワークウェアの既成概念にとらわれない自由奔放な精神が生み出すエッジの立ったシルエット。巷の評価は心からの賛辞と容赦ない批判が交錯する。正か邪か。解釈する側にも力量が問われる、難易度の高いブランドだ。
  業界の最先端にいるべきまいど屋として、致命的とも思える一年の空費。それを取り戻そうと、必死の思いで出掛けた今回のインタビュー。DOGMANが表現しようとしている独特の世界観が、読者の皆さんにうまく伝わればと思う。
 
 

中国産業
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バックに刺し子が入った『8217』シリーズ
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DOGMANの名を広めた『8117』シリーズ
「“犬男”はないでしょう。【DOGMAN】には“くだらない男”という意味があるんです。これは訂正していただかないと・・・」。そう言って穏やかに異議申し立てをするのは、中国産業(株)常務取締役・商品部部長の斎 利明 (いつきとしあき)氏。
  「そうなんですか。いやはや、たいへん申し訳ありません。認識を改めさせていただきます(汗)」。確認のために後で辞書を引いてみると、確かにdogの意味の一つに“くだらない男”とある。また、別の辞書ではdogman で “クレーン作業の指揮者”とあった。なんだ、“犬男”じゃないんだ。けっこうインパクトあるのに・・・。
  話を戻そう。まずは斎常務からDOGMANについて。「15年ほど前に立ち上げた、アメリカンワークウェアのスピリッツを汲むブランドです。特徴は、商品の8割が綿100%で、生地にこだわっていること。ハードな洗いをかけたり、シンプルなものでもバイオウォッシュをかけて、他社にない独特の素材感を出しています」。
  ちなみに斎常務はDOGMAN商品企画の主力メンバーの一人。特に生地調達を担っていて、素材選びのセンスの良さは社内随一である。「余談ですが、現在、西日本の大きな現場では旧来の鳶服で現場に入ることができなくなって、その代替ウェアとしてカジュアル系に移る職人さんたちが増えてきています。そんなことからDOGMANは西日本では『鳶』というイメージが強い。これに対し、関東では一般的な『ワーク』として定着していて、西と東ではお客さまの捉え方が大きく異なるんです」。
  前振りが長くなったが、ここで商品を通じてDOGMANワールドを紹介していこうと思う。まずは『8217』シリーズから。「2013秋冬の新作です。特徴は刺し子柄。昔は荷物を運ぶときなどに擦れて破れないよう、肩や手甲に布を重ね、刺し子を入れて補強していました。また、刺し子をすることで保温性も高まります。そんな日本の伝統的な刺し子をワークウェアに取り入れ、現代風にアレンジしたシリーズです」。
  刺し子といっても、トップスでは背中の一部、パンツではヒップ上部に施されているのみ。部分的なので嫌味がなく、和風ぷんぷんといった感もない。なので、正面から見ると、ステッチを効かせたカッコいい作業服。背後から見ると、控えめな刺し子柄がさりげなく和を匂わせ、渋さを添えている。
  次は、これをハズしてはDOGMANを語れない、伝説の『8117』シリーズ。「10年ほど前にヒッコリーのつなぎを出したら、大変評判がよかったんです。ならば、上下別でもイケるのでは?そう思って作ってみたら、人気に火が点きまして・・・。5~6年前に生地替えでリニューアルしていますが、今も新しいお客さまが増え続けています」。
  『8117』シリーズは、DOGMANのブランドバリューを一躍全国区に押し上げたパワー商品。だが、最初はこれほどの反響が来るとは予想していなかったという。「当初、ターゲットは“服にこだわりを持つ、20代前半の独身男性”としていた。でも、フタを開けてみると、意外に鳶職人さんが多く、年齢層にも幅があった。どうやら、現場で着ている人を見て、口コミで広がったようなんですね。おかげさまで、今では幅広い職種や年代の方に愛用いただいています」。
  この『8117』シリーズ、カーゴパンツには、裾の縫い代部分にゴムが仕込まれている。「ある現場で、鳶職人が裾の縫い目をほどいて、自分でゴムを通してはいているのを見たんです。高所用ブーツの中に裾を入れるためにね。なら、メーカーとして初めからゴムを仕込んでおけばいい。ゴムが不要ならそのままでいいし、裾を絞りたかったらゴムを引っ張り出して調節すればいい。こんなふうにゴムを入れているのはウチだけ。他社は穴だけ開けて、あとはご自分でどうぞ!ですから」。
  続いて、今、DOGMANで今、一番ホットな話題作、ライダーズテイストの『8197』シリーズ。デビューは昨年秋だ。「ランダムピケといって、タテ糸に太い糸、細い糸を交えて織ると、タテにスジが入った表情のある生地になる。それにバイオウォッシュをかけて柔らかくこなしています。染色、洗いともに色ブレが起きやすいので、工場選びには細心の注意を払いました」。オールシーズンOKのしっかりとした生地。オープンとファスナー付きのWポケットで、機能性とデザイン性を巧みに両立させている。
  そして、この『8197』シリーズとよく似ているのが『8207』シリーズ。生地は『8197』同様、肉厚のランダムピケだが、大きく違うのは、白い生地のオモテに顔料をベッタリと塗ること。ほどよく色落ちした“ムーングレー”という色も、元をただせば生地一面に塗られた真っ黒の顔料。これをバイオウォッシュにかけると独特の色と風合いが出る。「顔料コーティングならではの味わいと変化を楽しんでいただきたいです。洗うたびに色落ちして、タテ縞が浮き立ってきますから。ただ、上下で洗濯回数が違うと、色落ちに差が出てくるので、取扱店には、『必ず上下一緒に洗って!』とお客さまに一声かけていただくようお願いしています」。斎常務はさらにこう続ける。「確かにウチの商品だけど、いったい何色だろう?現場の方を見ると、そんなふうに思うことがよくあります。洗いこんで色落ちが進むと、元の色が分からなくなるので、ボタンの色で判断したりする。そこまで着こんでもらえると、非常にウレシイですね」。
  今後はインナー、ニット、防寒など、アイテムを横に広げていくというDOGMAN。既に来年の冬物を企画していて、特に防寒に注力していくことが決まっているようだ。「生地のバリエにも限りがあり、年々生地選びが難しくなってきています。でも、エンドユーザーが待っているんです。“DOGMAN、まだお店に入っていない?”って。そんな声にお応えできるよう、今後も面白いものを出す予定ですので、ぜひぜひ期待していてください」。
 
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現在、一番人気の『8197』シリーズ
 

    

職人の美意識はさり気なく細部に顕れる!アメリカンなフェイスに日本の伝統的な刺し子を取り入れた8217シリーズ

フロントもカッコイイけど、バックスタイルは超カッコよし!伝統の刺し子を背とヒップに取り入れ、和と洋を見事にブレンドした新しいDOGMAN。綿100%。カラーはアイボリー、キャメル、ブラウン、パープルの4色。


POPで軽やか!だから仕事が楽しくなる!ヴィンテージワークの真髄を体現した8117シリーズ

DOGMANの名を世に知らしめたヒッコリーの決定版!左右異なる胸ポケット、プレススライダーのファスナー等、オーセンティックなワークテイストがふんだんに。カーゴパンツの裾にはゴムが仕込まれ、ブーツインにも配慮。綿100%。インディゴブルー、クロ、アイボリーの3色。