【おたふく手袋】リーサルウエポン2image_maidoya3
再びこの男が帰ってきた。もう二度と会うことはないと思っていたのに、性懲りもなくまたやってきた。性懲りもなく?いや、そういう言い方はこの男に対してさえフェアではないかもしれない。性懲りもなく会いに来てしまったのはこっちの方だったからだ。だが、ついついそんな言葉を使ってしまうのにはそれなりの理由がある。この男と面談するときにはどうしても被害者意識が先に立ち、前後の事情などは意味をなさなくなってしまうのだ。例えば向こうから押しかけてきたとか、こっちから会いに行ったとか、そんな事情を超越した悪性の空気が、この男の周りには確かにある。
  通常ならば、こういう男とかかわりを持つことは、まいど屋の一員として、いやそれ以前に社会人として極力避けるのが賢明なのだろう。そんなことは分かっている。会ったところで強引に値上げを飲まされるか、無理やり人生観を変えられてしまうかしてしまうのが関の山なのだ。一年前の特集で詳しくレポートした通り、この男はまるで国道沿いに隠れている年末年始の白バイのように何の脈絡もなく気まぐれに、目につくものを手当たり次第に捕えては値上げしていく。そしてそれ以上に厄介なことに、この男はビジネスを離れた個人の領域にまで侵入してきて、こちらが健全な社会生活を営む上で大切にしているものまで奪い去っていく。具体的にどういうことなのかは、前回レポートした通りだからここには書かない。編集部がとりあえずここで強調しておきたいのは、この男に会っていいことなど一つもないということだ。
  だが、今回、我々は会った。本来会う必要がないのに---詳しいいきさつはこの後の本文で述べるが、この男は前回の特集が本欄で公開された後、突然、まいど屋の担当を外れている---夏の羽虫が炎の中に飛び込んでいくように自らアポを取り、この男の面前に再び立つことになった。なぜそんなことをしたのだろう。おそらくこっちも切羽詰まっていたのだと思う。時期的にネタを見つけにくい1月号の特集を企画するにあたり、どうしてもキックのあるトピックが必要だったのだ。月刊まいど屋を預かる身として、社会的に後ろ指をさされるような行動は厳に慎まねばならないと知りながら、目の前に迫った締切に背中を蹴り飛ばされるようにしてこの男と手を結ぶことを決めたのだ。ちょうど麻薬中毒患者が、もうこれで最後だと自分に言い訳をしながらヤクの売人に連絡を取るみたいに。
  今回、これが本当に最後だ。神に誓って、これっきりにする。え?これが最後というのは、結局また同じことを繰り返してしまう中毒患者の常とう句だって?そりゃ、一般的には確かにそうかもしれないけれど、今回ばかりは読者の皆さんだって、編集部に対してある程度同情を寄せてくれると思う。今度のケースは決して普通じゃない。だって、この男は一年前からさらにパワーアップしているって噂に聞いたんだ。同じ立場に置かれたら、誰だって編集部と同じ行動をとるだろう。男のヘアスタイルは、今、モップ頭だ。
 

おたふく手袋
image_maidoya4
「写真は困る!」と言いながらポーズをとるモップ頭
image_maidoya5
相変わらずの剛毛・多毛ぶり
約束の時間に30分も遅れて、男は部屋に入って来た。待ちくたびれて、もう帰ろうとしていたところだった。テーブルの上に置かれたコーヒーは、口をつけられることもなく、すでに冷え切っていた。今回の取材依頼を取り持ってくれた新任営業担当の佐野君は、落ち着かない様子で何度もテーブルとドアの間を行ったり来たりしながら、もうすぐ来るはずなんですがと言って頭を下げ続けていた。
  「担当を外れたんだから、適当にあしらっておけばいいと思っているのかもしれないね」。困った顔をした佐野君に対し、私はいつになくきつい調子でそんな皮肉を口にした。自分でも気付かぬうちにまた神経をやられ始めていたのだ。佐野君はそんなこちらの雰囲気にますます恐縮し、さらに深く頭を下げた。いつも佐野君が見せている快活さは、すっかり影をひそめていた。何かが狂い始めている。あの男はたとえ不在でも、場の空気を悪意で満たすことができる。最近ではせっかく佐野君といい関係を築いてうまく仕事を進めていたのに。男の気配が入り込むと、関係性はあっという間に変質し、そこに修復不能な傷跡を残す。水溶液にたった一滴の塩酸を加えただけで、リトマス紙を赤色に変えてしまうみたいに。やっぱりあの男に頼るべきではなかったのだ。
  男は何事もなかったかのように我々のいるテーブルに来て席に座った。お久しぶりですとも言わなかった。私は黙って彼の顔を見た。彼はそこで初めてにっこりとほほ笑んだ。ヘアスタイルは予想に反し、以前と違って多少は人間らしく、まともになったようだった。私はまじまじと彼の髪の毛を眺め、それから彼の後ろに回って子細に点検した。
  「モップ頭ってこれか?」私は少しがっかりして彼に言った。「聞いたところではすごいことになっているということだったが。こんな頭を撮影する価値はあるんだろうか?」
  「何を期待してるんですか?一体誰が?」。男はそう言って佐野君を睨みつけた。
  「いや、岡方さんの髪型はモップですよね。社内でもみんな言ってますよ。岡方さんを見ると大掃除を思い出すって。あれ、デッキブラシだったかな」
  「お前は黙ってろ」。男は佐野君に対して上司としての威厳を示し、それからこちらに向き直った。「相変わらず口が悪いですね。でも、なんだかんだって会いたかったんでしょ。感動の再会なんだから、ハグしてくれてもいいくらいなんですけど」。
  その男、岡方氏はそう軽口を叩くと、おもむろに名刺を差し出してきた。「昨年4月に課長になったのでお渡ししておきます。係長から課長へと文字が1つ変わっただけで、職場の席も変わっていないし、やっている仕事も変わらない。ただろくでもない責任ばかりが増えただけです」。
  変わっていないのは君の不遜な態度だと口まで出かかったが思い直してぐっとこらえた。今、彼と要らぬ悶着を起こしているヒマはない。すでに小一時間も時間を無駄にしている。そして、目下のところ、目の前に座っているこの男のこのヘアスタイルしか、締め切りが迫っている編集部には頼れるあてがないのだ。本音では1キロ以内にさえ近づきたくない闇金業者からカネを借りるときのように、とりあえず頭を下げて必要な情報を収集し、記事を書かなければならない。
  「仕事は変わらない?文字が変わっただけ?なら、なぜ、まいど屋の担当から外れたんだろう。それも逃げるように忽然と。本当は面倒くさくなって佐野君に押し付けたんじゃないのか?」
  「若手育成のためにあえて譲ったんです。入社以来、ずっとまいど屋さんを担当してきて、ここにきてようやく担当する会社を選べる立場になりました。まいど屋さんは当社のお客さまの中でもユニークな存在です。若い社員には非常に勉強になります」。
  ほう、やっぱり上からの辞令ではなく、自ら進んで担当替えになったのか。引継ぎの時は「急に決まりまして」などとしれしれと挨拶をしていたが、睨んだ通りの逃亡劇だったのだ。だが、男の動機がどうであれ、それはまいど屋と、この男が所属するおたふく手袋の双方にとって良きことだ。現に後任の佐野君になってから、両社の関係はかつてなく緊密になっている。担当者が言うことを100パーセント信頼して聞けるのだから当然のことだ。言葉の裏の意味を推測したり、腹の探り合いをしたりする必要がないのだから。ちなみに、佐野君はおたふく手袋東京支店の営業の中で唯一の20代。こざっぱりして弁も立つナイスガイだ。
  それから男は芝居がかった動作で膝を打ち、今思いついたようにこう続けた。「そういえば、佐野からの値上げの話、すんなり受け入れましたよね。為替の影響によるほぼ全商品の値上げにもかかわらず。私のときは、革製品のみの限定的な値上げだったのに、さんざんゴネた挙句、記事まで書いて悪党呼ばわりの犯罪者扱い。まいど屋さんの論理でいけば、より影響の大きい値上げを要請した佐野のほうがよっぽど悪党じゃないですか」。
  「いや、佐野君はよくやってくれている。何より髪型がマトモだ。だから、佐野君にはバリカン持ってこいとは言わないし、そもそもいつも小奇麗にしているので言う必要もないんだ」。私はそう言って立ち上がり、再び彼の背後に回って男の髪の毛をつかんだ。「一つ言わせてもらうと、これはモップ頭にしては少し半端な気がする。確かに後ろは伸び放題で多少それっぽくなってはいるけどね。なあ、お願いだから今すぐバリカンを持ってきてくれ。これじゃ、記事になりっこないんだ。もっと絵的なインパクトがなきゃいけないんだ。こんなところまで訪ねてきて、まいど屋の身にもなってくれ。バリカンをくれたら、オフィスの床がきれいに磨けるくらい、もっとモップらしくしてあげるから」
  「何をおっしゃいます。今のスタイルで完璧ですよ」。男は驚いたようこちらに振り向き、やはり芝居がかった高い声を出してそう言った。「こう見えても、私のヘアスタイルは毎回テーマがあるんです。前回は森山直太朗で、前々回はネイマール。後ろを刈り上げにしてトップを前に流すネイマールヘアは、社内でも好評だったんですよ」。
 
  **********     **********     **********     **********
 
  というわけで、モップ頭をネタに記事を1本やっつけようという編集部のもくろみはもろくも崩れ去ってしまった。仕方がないから商品紹介でもしてもらおうかということになり、男に代わって、佐野君が注目商品をいくつか紹介してくれた。最初の商品は、スーパーアラミド手袋『805』シリーズ。10年以上前からの定番商品である。「ここ2年ほどよく出ている商品です。普通の軍手のように見えますが、アラミドという耐切創性に優れた繊維で編まれていて、刃物によるケガを防ぎます。需要が伸びたきっかけは、2013年に厚労省が出した労災防止計画。サービス業も労災対策を徹底すべきと、小売業や飲食店、介護福祉施設などでの対策が強く求められるようになったからです」。
  2015年11月にはこのシリーズの新商品として極薄タイプが登場した。「薄手なので細かい作業にも対応できます。食品加工などでは透明の使い捨て手袋と重ねて使っていただくと、万一刃物が当たっても手指を守ることができますよ」。
  もう1シリーズは、ネックウォーマーをはじめとする局所防寒アイテム。寒さが厳しくなるこの時期、首、耳、スネなど冷えが気になる部分にオススメだ。「発熱と防風のダブル保温で暖かさバツグンです。フルフェイスウォーマー『JW-126』は、寒い場所でホコリをかぶる建物の解体作業や、顔が痛くなるほどの寒風が吹く高層ビルのメンテナンスなどに。このほか、様々なタイプがあるので作業や環境に合わせてお選びいただけます」。
  佐野君の熱心な商品紹介のあと、男は「そういえば、お伝えしておかなければならないことがあります」と、しれっと新たな値上げの話をかぶせてきた。
  佐野君が慌てて男の話をさえぎった。「そういったお話は、また日を改めて。私が資料を揃えてまいど屋さんに伺いますから」。
  後任者はちゃんと場の空気が読める優秀な営業マンである。
 
image_maidoya6
前回の記事に倣って佐野君と戯れるモップ頭
 

    

素手感覚で仕事ができる!モノをガッチリつかんで離さない!おたふくが渾身の力で作ったプロ仕様のソフキャッチシリーズ

指先までピッタリフィットして手の動きを損なわない柔らかさ。本体はナイロン100%、掌部分は天然ゴム製で滑りにくく、グリップ力バツグン。しかも、低温下でも硬くなりにくく、しなやか。レギュラータイプ、ロングタイプ、防寒仕様までバリエーション豊富にラインナップ。


誰にも負けない指先感覚がウリ!細かい作業がどんどんこなせるピタハンドシリーズ

ピタハンドの名のとおり、薄くて柔らかでピタッとフィット。本体はナイロン100%。掌部分に薄くて柔軟性の高い発泡性ポリウレタン樹脂をコーティング。強度よりも指先を使う細かな作業性を重視する作業向け。指先ピタハンド『214』は、指先のみをウレタンコーティングしたタイプ。