【寅壱】今度の新作はこう読み解け!image_maidoya3
先日、寅壱から編集部宛てに、久しぶりに鳶服の新カタログが届いた。実に2年ぶりのことだ。ここ数年は寅壱も一般ワーキングのウェアに力を入れており、ユーザーからの評価も高いのだが、編集部としては何か物足りなさを感じていたところだった。やっぱり寅壱は鳶服を出してくれなきゃ。鳶服あっての寅壱。いくらスカーフの人気が高くても、エルメスは革製品の女王であるとしか言えないように、あるいは吉野家がカレー屋ではなく、牛丼屋であるのが明白なように、寅壱とは何かと突き詰めて考えれば、鳶服の最高峰であるという他に適切な定義などありはしないのだ。編集部の勝手な私見を述べさせてもらえるなら、鳶服以外の寅壱は彼らの余技に過ぎない。誰もが着られる、言い方は悪いが、チャラチャラしたカッコつけの素人でも手が出せるカーゴパンツじゃなくて、それなりの覚悟を持った人間にしかはけない超超ロングこそが寅壱なのだ。そうでしょ?
  前回の新作発表から間が空いていることもあり、世間の期待はいやが上にも高まっている。雌伏の期間中、寅壱は何を考え、何をしていたのか。そして満を持してリリースした新しいコレクションに何を託したのか。読者の皆さん以上に、この編集部が知りたいところだ。さあ、営業部で商品企画に携わっている内藤さんに話を聞こう。
 

寅壱
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大人のチェックが粋な『7560』シリーズ
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『8050』を手にする営業の川脇さん
「今回の新作のテーマは“大人の余裕”です」。新商品のサンプルをテーブルに広げて見せながら、内藤さんはこちらの反応を観察するような顔でそう言った。口元はいたずらを仕掛けた少年のように微かにほころび、一方でその目には自信に裏打ちされたかのような強い光があった。「すぐにそれと気付くような、わかりやすい個性を封印したんです」と内藤さんは続けた。「あまりあからさまに、騒々しく何かを訴えるのもどうかなと。それよりはさりげない柄使いや色使いなど、細かい部分に粋なこだわりを持たせて寅壱らしさを表現してみたかったんです。物足りないと言うひとがいるかもしれないけど、味わいは確実に深まる気がしますから。少し時間を置けば、じわりと、ああ、そういうことなのかってわかってくるような、そんな、気持ちのゆとりを感じさせる鳶服を提案してみたんです」。
  テーブルに置かれた新作を見ると、確かにいつものようなキャッチーなインパクトはないように思える。だが内藤さんが言うとおり、ウェアを仔細に点検し、それから一呼吸おいて少し離れたところから眺めてみると、第一印象とはまた違った表情が現れるようになってくる。いつの間にか不思議と存在感が増し、これまで以上に寅壱のエッセンスを感じられる気がしてくる。今度の寅壱はある程度の経験と、作り手の意図を解釈する能力を求められる、ある意味で難易度の高い仕上がりなのかもしれない。
  新作のコンセプトをこちらが十分に理解した頃合を見計らって、内藤さんはおもむろに1つ目のサンプルを手に取った。「チェックの鳶服は珍しいでしょ」という『7560』シリーズだ。「オンブレチェックといって、地の色に対して柄が目立たない、落ち着いたチェックです。無地のように見えるので、年配の方でも抵抗なく着ていただけるはずですよ」。
  写真1をよく見るとわかるが、確かに上品な大人のチェックだ。そしてこのような微妙な色差が表現できるのは、染色技術に優れた日本製の生地ならではだという。ちなみに素材はポリエステル100%で、裂けや破れに強いリップ生地。現場向きで頼りになりそうなところも評価できるだろう。「秋冬物にしては、やや肉薄かな、という声もありますが、軽くて強度があり、イージーケアでなおかつ着やすい。デザイン的にはリベットやドットボタンを多用し、補強しながらデザイン性を高めています」。
  鳶服は長袖ブルゾン、超超ロング八分、乗馬ズボンの3アイテム。さらにワークウェアとしてカーゴパンツも揃えている。カラーは写真のシルバー、濃コンのほか、チャコールもあるそうだ。「評判いいですよ。特に乗馬ズボンが好評で、意外にも超超ロング以上によく出ています。乗馬ズボンというと植木職人さんのイメージがありますが、今回は鳶服の新しいカジュアルアイテムとして見ていただけたようです」。
  続いては、丸寅ブランドの中でも渋めの鳶服『8050』シリーズ。「へリンボーンを杢調で表した生地を使っていて、紳士服のスーツみたいなイメージかな。柔らかで毛織物のような風合いなんですが、実際はポリエステル100%で耐久性にも優れています。色調が落ち着いているので、伝統的な職人さんや年配の方に着ていただくと大人の渋味が引き立つんじゃないかなと」。
  ラインナップは、ロングニッカ、細身超超ロング八分、ミニ襟オープン、ベストの4アイテム。細身超超ロング八分は裾絞りも少なく、本格的な3つボタン仕様。ヒヨク仕立てのミニ襟オープンは、襟を立てるとカッコよくキマって防風・防塵にもよし。ベストは内外6つのポケット付き。カラーはグレー、OD、スミグレーの渋色3色。
  3つめはこのインタビューの直前にリリースされたばかりの『3920』シリーズ。今後、寅壱が最も力を入れていくのではないかと業界で噂される、通称「ブルーラベル」コレクションの第一弾だ。「ブルーラベルブランドは値頃感のある丸寅より、さらにお求めやすい価格にしています。ベーシックな作りで強度や着やすさは従来製品と変わりませんが、この値段で提供できるのは、生地と縫製が東南アジアだからです」。
  トップスは長袖ブルゾン、長袖シャツ、ベスト。ボトムスはロングニッカ、超超ロング八分、細身超超ロング八分、カーゴパンツが揃っていて、カラーも5色と豊富。気になる生地は質感のあるポリエステル100%のミニへリンボーン。これだけ聞いてもかなり使い勝手がよさそうなシリーズであることがわかるが、寅壱はこの上、デザイン的なブラッシュアップも手を抜いていないらしい。「ジャケットは、タフな男性が着るということで直線的で角々した鎧のようなイメージにしています。カーゴはポケットの大きさや角度を工夫して手を入れやすくしていますよ」。どうやら業界に流れていた前評判通り、寅壱はかなり本腰を入れているようだ。アイテム豊富でコスパがいい。その上、きちんと作り込んである。ブルーラベルのこの先の展開に期待を抱かせるに十分な出来栄えのデビュー作である。
  さて、以上が今期注目の鳶服の新作だが、最後にオマケで鳶服以外の一般ワークウェアから一つだけ。冒頭で「チャラチャラしたカッコつけの素人でも手が出せるカーゴパンツ」などと書いてしまったのだが、これだけは例外的にそれなりの器がないと着こなせそうにない、誤解を恐れずに言えば鳶服以上に硬派でハードな性格を持っている商品のように思えるからだ。「ワークで今期イチオシの蛇腹シリーズです。バイクに乗る人が着るライダースウェアでは見られますが、量産タイプの作業服では、おそらく業界初。『3930』は無地オックスフォード。『8930』はヴィンテージデニムを使ったブルゾンとカーゴです」。内藤さんはサンプルをこちらに渡してからノートパソコンを開き、寅壱のホームページでモデルのユージがこの『8930』を着て動き回る動画を見せてくれた。激しい動きをサポートする蛇腹プリーツが肘、膝、腰に大胆に配され、確かに動きやすそうだ。「ご存知でしょうけれど、2015秋冬に一般アパレルでバイカーのウェアが注目され、蛇腹プリーツが今のファッショントレンドになってるんですよ。でも、アパレルの蛇腹はステッチで固定されていて、あくまでもうわべのデザインのみ。当社の蛇腹は実用性を重視した本格仕様で、動きに合わせて伸縮するようにパワーネットで裏打ちしています」。
  パワーネットいうのは、女性の補正下着(ガードルなど)などに使われる非常に伸縮性に優れた素材のこと。本格仕様の蛇腹プリーツは、加工できる工場が少ないのだそうだ。
  そんな蛇腹シリーズをひっくるめて、現場で気分よく作業ができる仕事着を以下に紹介しておく。先に述べたとおり、今度の新作たちは従来に比べて難易度が高く、解釈するにはある程度の読解力が必要なものが多いのだが、経験を積んだ皆さんなら恐らく大丈夫だろう。じっくりチェックすれば、大人の余裕を楽しむキメウェアがきっと見つかると思う。
 
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アイテム豊富なブルーラベル『3920』シリーズ
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ワークでイチ押しの蛇腹シリーズ

    

精妙!絶妙!チョー軽妙!思わずニヤリとさせられるチェック柄でスタイリングの妙を堪能できる7560シリーズ

遠目には無地。近くで見るとチェック柄。そんな落ち着いた色合いのオンブルチェックが大人の余裕を感じさせてくれる鳶服シリーズ。ブルゾンはリベットを多用してデザイン性にタフさをプラス。ポリエステル100%の生地は確かなクオリティのメイドインジャパン。軽くて避けや破れに強く、イージーケアで着心地もGOOD。カラーバリエは濃コン、シルバー、チャコールの3色。


保守的な反逆者という仮説は成り立つのか?遂にベールを脱いだ新コンセプト、「寅壱ブルーラベル」3920シリーズ

ベーシックなデザインで作りも着心地もいい鳶服を、リーズナブルな価格でカタチにしたブルーラベルシリーズ。生地は上質感ある表情を持つポリエステル100%のミニへリンボーン。鳶ボトムは従来のデザインを踏襲。ジャケットは直線的で角々した鎧のようなイメージでタフな男を表現。カーゴは斜めポケット配置で手を入れやすく機能的。コーデ自在の豊富なラインナップをカラー5色で展開。