「シャレとんなぁー」という感嘆を漏らしながら、TS DESIGN本社の展示フロアに入る。福山駅から海側に向かって5km。工業団地が立ち並ぶ街外れに、こんなハイ・コンセプトな会社があるという事実は、いつも不思議な印象を受ける。しかも、このメーカーが特別なのはウェアだけではない。「デザイン別」ではなく「素材別」に展開される商品構成に、海外ファッション誌と見紛うようなカタログ……。どこを切り取っても「独特」のひとこと。しかし、そのぶんコレクションの全貌をつかみ、個々のアイテムの魅力を理解した上で語るのは並大抵のことではない。こちらが商品を見るのではなく、商品がこちらを試しているようだ。でも、読者のみなさんは大丈夫。ここで予習しておけば、必ずピッタリのアイテムが見つかります!
TS DESIGN
ブランド戦略部の瀬尾さん
デザインも火を使う現場用に
●「セグメント分け」に活路
「おっしゃる通り、TS DESIGNってカテゴライズしにくいんですよ。たくさんある作業着メーカーを、低価格と高価格、ショップ向け(個人で買うアイテム)と納入向け(会社支給のユニフォーム)といった属性で分類してみると、TSは一応『高価格・納入向け』ということになります。しかし、すごく高価格なわけでもないし、納入ばかりというわけでもない。じゃあ、“ザ・ユニフォーム”な老舗メーカーや若い職人さん向けの新興メーカーと同じようなことをしているかといえば、明らかに違いますよね。デザインの流行り廃りを意識せず、しかも素材や機能にこだわる当社のスタンスは、やはりTSというブランドがインナーから始まったからなのかもしれません」
そう、TS DESIGNは2008年、機能性インナーのブランドとしてスタートしている。その後、ワーカーの間で、コンプレッション系のウェアをトップスにする夏の着こなしが定着。その流れを受けて、TSは、インナーやアームカバーから軽作業や鳶のスタイルへと、版図を広げていったわけである。つまり、TSはそもそも「低価格でオシャレなものを」「高価格に見合う機能性を」といった、ほかのブランドなら当然の大まかな方針を持っていないのだ。
「その結果、素材別のシリーズ構成、職種別のアイテム、といった独特の提案になるわけです。さらに今回のコレクションでは、後者に力を入れることにしました。以前から、建設や土木はコレ、工場や軽作業にはコレ、といった売り方をしていましたが、今後はさらに『セグメント分け』のアピールを強化していきます。どんな環境で、どんな作業をするためのウェアなのか。もっと言えば『どこのだれに役に立つのか』がハッキリ言える服づくりをしていこう、と」
「作業着のセグメント分けを進める」というのは、かなり理解しづらい発想だ。ただ、飲食ユニフォームが、カフェやラーメン店、寿司屋で(どれも同じ料理屋なのに)まるで違うことを思えば、わからなくもない。とはいえ、用途を限定してしまったら、ぴったり当てはまるユーザー以外には売れないのでは?
「だんだんわかってきたんです。限定した方が購買につながるってことが。というか『これは、こういう作業をする人のための服です』としっかり伝えられる方が、お客さんも『じゃあ、うちの工場の業務に近いね』『それは(工業高校の)実習にちょうどいい』といった感じで、具体的にイメージしてもらえる。それに機能やデザインでも、自然と他のアイテムと差別化ができます。あと個人的には、日本特有の制服文化を守る意味でもいいんじゃないかな、と」
●「なぜ綿か」を語るには?
そんな「セグメント別アイテム」の代表が、新作の「TSハイブリッドコットンL」シリーズ。綿100%のようなナチュラル感と肌触りのよさと、化繊素材の機能性を両立させた“いいとこ取り”のアイテムだ。コットンの作業着が好まれる現場と言えば、やはり火の……。
「そうそう。たとえば、鉄工所や建設現場での溶接作業ですね。火花が飛んで服に付いても、綿なら焦げて穴が空くだけですから、燃え広がってしまう化繊ウェアより安全です。さらに、このシリーズでは素材だけでなく、デザインも火や高熱を扱う現場に合わせています」
溶接作業に適したデザインとは。頭の中が「?」でいっぱいになる。
「まずパンツは裾を絞ったりせず、オーソドックスなスラックスとカーゴにしました。パンツと靴のあいだに隙間があったり、足首が露出したりしていると危険だからです。そして、太ももあたりのわたり幅も比較的にゆったりしています。こちらも火花や高温のものが足に触れたとき、肌に熱が伝わりにくくするため。同じ理由で襟も高め。またジャケット以外にシャツが選べるのも、裾がめくり上がると危ないからです。あと、上着のポケットがフラップになっていて、ジッパーが隠れる『前立て仕様』なのは、なぜかわかりますか?」
それも「カッコいいから」じゃなくて、やはり火に関係が?
「じつは、火の粉が乗っからないようにしてあるんです。作業服にたくさん火の粉が飛んできても、すぐにパラパラと落ちていけば、焦げることはありません。しかし、小さな燃えカスがポケットに入ったり、ボタンの出っ張りに引っかかったりすると、穴が空くし火傷の危険もある。つまり、火を使う現場の作業着はツルンとした形状がいいわけです。こんなふうにセグメント分けを進めることで、『どの素材をどんなデザインにするか』といった“料理”が考えやすくなるんです」
先ほどの「限定したほうが購買につながる」といった言葉の意味がわかってきた。こんな“背景”を含めた商品説明は、溶接やグラインダー作業をする人だけでなく、綿の風合いや着心地がなんとなく好きな人にも響くだろう。「ただの綿の作業着じゃないんだぜ」というふうに、所有欲が満たされるからだ。
●「高耐久」に込めた意味
続いて紹介してもらうのは、新作の「TSストレッチナイロンドッツ」シリーズ。パッと見たところ、よくある涼感素材の軽量ユニフォームといった印象だけれど、こちらも「◯◯向け」というセグメントがあるのだろうか。
「この商品は、軽工業や製造業の工場ユニフォームとして提案しています。機械操作で手を動かす作業が多い職種ですね。そんな製造現場での作業服を考える上で、大事なことは通気性や動きやすさに加えて、薄くて軽いこと。それから制服としての耐久性です」
耐久性といえば、多くの人は建設や土木といったハードワーク向けの作業着を思い浮べるだろう。膝や肘の当て布や刺し子などが代表だ。さらに、近年ユニフォームにおいて耐久性を語るとき、よく出てくるのは「ポリウレタン不使用」の言葉。このアイテムもバネ状にしたナイロン糸を使うことで、生地にストレッチ性を持たせている。
ところが、このアイテムの「耐久性」とは、そういった路線とはやや違うという。
「ここでいう耐久性とは、長寿命です。長期間にわたって使用していてもヘタらず、汚れもつきにくい。ずっとパリッと制服らしいルックスを保てる。そんな機能ですね。まず、素材がナイロンだから丈夫なのは当然として、そこに超耐久撥水加工をかけているのがポイントです。アウトドアウェアでもないのに撥水なんて、と思うかもしれませんけど、撥水は汚れも防げるわけです。油やインクが飛び散っても、表面に浮いているうちに拭き取ればシミにならない。しかも、この加工は洗濯を100回繰り返しても性能をキープできる。毎日洗濯しても、5カ月くらいはちゃんと水を弾きますよ」
驚いた。この「洗濯を△回しても劣化しない」というのは、まるでナース服や事務服の売り文句ではないか。工場ユニフォームで、こんな売り文句が出てくるとは……。
「これもセグメント分けの恩恵です。ほら、ターゲットを製造業に絞ったおかげで、デザインも昔のスモックやナッパ服のような懐かしいニュアンスが出て、いい感じでしょう。ほかのユニフォームとは違うデザインは、仕事への愛着を深めてくれます。つまり、〇〇業向け・□□専用・△△御用達、といった縛りは、逆にワークウェアの可能性を広げるんです」
作業服カルチャーのその先へ--。TS DESIGNは、すでに次の世界を見ている。
「おっしゃる通り、TS DESIGNってカテゴライズしにくいんですよ。たくさんある作業着メーカーを、低価格と高価格、ショップ向け(個人で買うアイテム)と納入向け(会社支給のユニフォーム)といった属性で分類してみると、TSは一応『高価格・納入向け』ということになります。しかし、すごく高価格なわけでもないし、納入ばかりというわけでもない。じゃあ、“ザ・ユニフォーム”な老舗メーカーや若い職人さん向けの新興メーカーと同じようなことをしているかといえば、明らかに違いますよね。デザインの流行り廃りを意識せず、しかも素材や機能にこだわる当社のスタンスは、やはりTSというブランドがインナーから始まったからなのかもしれません」
そう、TS DESIGNは2008年、機能性インナーのブランドとしてスタートしている。その後、ワーカーの間で、コンプレッション系のウェアをトップスにする夏の着こなしが定着。その流れを受けて、TSは、インナーやアームカバーから軽作業や鳶のスタイルへと、版図を広げていったわけである。つまり、TSはそもそも「低価格でオシャレなものを」「高価格に見合う機能性を」といった、ほかのブランドなら当然の大まかな方針を持っていないのだ。
「その結果、素材別のシリーズ構成、職種別のアイテム、といった独特の提案になるわけです。さらに今回のコレクションでは、後者に力を入れることにしました。以前から、建設や土木はコレ、工場や軽作業にはコレ、といった売り方をしていましたが、今後はさらに『セグメント分け』のアピールを強化していきます。どんな環境で、どんな作業をするためのウェアなのか。もっと言えば『どこのだれに役に立つのか』がハッキリ言える服づくりをしていこう、と」
「作業着のセグメント分けを進める」というのは、かなり理解しづらい発想だ。ただ、飲食ユニフォームが、カフェやラーメン店、寿司屋で(どれも同じ料理屋なのに)まるで違うことを思えば、わからなくもない。とはいえ、用途を限定してしまったら、ぴったり当てはまるユーザー以外には売れないのでは?
「だんだんわかってきたんです。限定した方が購買につながるってことが。というか『これは、こういう作業をする人のための服です』としっかり伝えられる方が、お客さんも『じゃあ、うちの工場の業務に近いね』『それは(工業高校の)実習にちょうどいい』といった感じで、具体的にイメージしてもらえる。それに機能やデザインでも、自然と他のアイテムと差別化ができます。あと個人的には、日本特有の制服文化を守る意味でもいいんじゃないかな、と」
●「なぜ綿か」を語るには?
そんな「セグメント別アイテム」の代表が、新作の「TSハイブリッドコットンL」シリーズ。綿100%のようなナチュラル感と肌触りのよさと、化繊素材の機能性を両立させた“いいとこ取り”のアイテムだ。コットンの作業着が好まれる現場と言えば、やはり火の……。
「そうそう。たとえば、鉄工所や建設現場での溶接作業ですね。火花が飛んで服に付いても、綿なら焦げて穴が空くだけですから、燃え広がってしまう化繊ウェアより安全です。さらに、このシリーズでは素材だけでなく、デザインも火や高熱を扱う現場に合わせています」
溶接作業に適したデザインとは。頭の中が「?」でいっぱいになる。
「まずパンツは裾を絞ったりせず、オーソドックスなスラックスとカーゴにしました。パンツと靴のあいだに隙間があったり、足首が露出したりしていると危険だからです。そして、太ももあたりのわたり幅も比較的にゆったりしています。こちらも火花や高温のものが足に触れたとき、肌に熱が伝わりにくくするため。同じ理由で襟も高め。またジャケット以外にシャツが選べるのも、裾がめくり上がると危ないからです。あと、上着のポケットがフラップになっていて、ジッパーが隠れる『前立て仕様』なのは、なぜかわかりますか?」
それも「カッコいいから」じゃなくて、やはり火に関係が?
「じつは、火の粉が乗っからないようにしてあるんです。作業服にたくさん火の粉が飛んできても、すぐにパラパラと落ちていけば、焦げることはありません。しかし、小さな燃えカスがポケットに入ったり、ボタンの出っ張りに引っかかったりすると、穴が空くし火傷の危険もある。つまり、火を使う現場の作業着はツルンとした形状がいいわけです。こんなふうにセグメント分けを進めることで、『どの素材をどんなデザインにするか』といった“料理”が考えやすくなるんです」
先ほどの「限定したほうが購買につながる」といった言葉の意味がわかってきた。こんな“背景”を含めた商品説明は、溶接やグラインダー作業をする人だけでなく、綿の風合いや着心地がなんとなく好きな人にも響くだろう。「ただの綿の作業着じゃないんだぜ」というふうに、所有欲が満たされるからだ。
●「高耐久」に込めた意味
続いて紹介してもらうのは、新作の「TSストレッチナイロンドッツ」シリーズ。パッと見たところ、よくある涼感素材の軽量ユニフォームといった印象だけれど、こちらも「◯◯向け」というセグメントがあるのだろうか。
「この商品は、軽工業や製造業の工場ユニフォームとして提案しています。機械操作で手を動かす作業が多い職種ですね。そんな製造現場での作業服を考える上で、大事なことは通気性や動きやすさに加えて、薄くて軽いこと。それから制服としての耐久性です」
耐久性といえば、多くの人は建設や土木といったハードワーク向けの作業着を思い浮べるだろう。膝や肘の当て布や刺し子などが代表だ。さらに、近年ユニフォームにおいて耐久性を語るとき、よく出てくるのは「ポリウレタン不使用」の言葉。このアイテムもバネ状にしたナイロン糸を使うことで、生地にストレッチ性を持たせている。
ところが、このアイテムの「耐久性」とは、そういった路線とはやや違うという。
「ここでいう耐久性とは、長寿命です。長期間にわたって使用していてもヘタらず、汚れもつきにくい。ずっとパリッと制服らしいルックスを保てる。そんな機能ですね。まず、素材がナイロンだから丈夫なのは当然として、そこに超耐久撥水加工をかけているのがポイントです。アウトドアウェアでもないのに撥水なんて、と思うかもしれませんけど、撥水は汚れも防げるわけです。油やインクが飛び散っても、表面に浮いているうちに拭き取ればシミにならない。しかも、この加工は洗濯を100回繰り返しても性能をキープできる。毎日洗濯しても、5カ月くらいはちゃんと水を弾きますよ」
驚いた。この「洗濯を△回しても劣化しない」というのは、まるでナース服や事務服の売り文句ではないか。工場ユニフォームで、こんな売り文句が出てくるとは……。
「これもセグメント分けの恩恵です。ほら、ターゲットを製造業に絞ったおかげで、デザインも昔のスモックやナッパ服のような懐かしいニュアンスが出て、いい感じでしょう。ほかのユニフォームとは違うデザインは、仕事への愛着を深めてくれます。つまり、〇〇業向け・□□専用・△△御用達、といった縛りは、逆にワークウェアの可能性を広げるんです」
作業服カルチャーのその先へ--。TS DESIGNは、すでに次の世界を見ている。
収納力の高いコーチジャケット
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「ニッカーズ」も好調
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綿のナチュラル感に高機能をプラス! 「TSハイブリッドコットンL」シリーズ 綿100%のような風合いやルックスが特徴の涼感ワークウェア。ポリエステル糸を綿糸で覆った「TSハイブリッドコットンL」は、天然素材のナチュラル感がありながら、綿よりずっと軽量でストレッチ性にも優れている。着心地や動きやすさの面もコットンを上回るため、長時間の着用でも疲れにくい。 |
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