【バートル】ハイバックに恋して♪image_maidoya3
〽ファン付きウェアはエアクラ~♪ ファン付きウェアはエアクラ~♪ 府中市(広島県)へ向かうローカル線の車中で、こんなメロディーが頭に浮かんだ。本誌読者ならご存じの通り、あのカテゴリの商品を業界では「ファン付きウェア」と呼ぶ。そのベストセラーがバートルの「エアークラフト」。しかし、これらの言葉は世間にあまり広まっていないのでは? こんなに大ヒットしている商品なのに。なんとかお茶の間に「エアクラ」の名を届けたい……。そんな深層心理がこの歌を生み出したのだろう。そうこうするうち列車は鵜飼駅に到着。バートル本社まで、この曲を口ずさみながら歩いていく。すごくキャッチー、かなりイケる。これでエアクラは“国民服”になる! と息巻きつつ門をくぐったとき、この曲が某スキー用品店のものであることに気づいた。スポーツするなら……いや、猛暑対策するならエアクラ~♪ と強引にオチをつけることにする。

バートル
image_maidoya4
新デバイスを語る森近さん
image_maidoya5
肩のすぐ下にファンを取り付け
●裏テーマは「静音」
 
  さっそく8年目となる「エアークラフト」2024年モデルの話から。2023年モデルと比較して、バッテリーは19ボルトから22ボルト、風量は毎秒90リットルから100リットル、と順調にパワーアップした。ついに大台突破といった印象だが、営業チームの森近さんは意外に淡々としている。
 
  「じつはパワーは出そうと思えばもっと出せるんですよ。でも風量が増大したらそれだけ音が大きくなるし、ファンの回転数を上げたら、耳につく高音が発生してしまう。職人さんは仕事中ずっとこの音にさらされるわけで、試作しては、社内で『さすがにうるさいよねぇ』『このキーンって音はキツイんじゃない?』といった議論を重ねました。そんなわけで、2024年モデルの開発で一番がんばったのは『静音性』です。風量も回転数も大幅にアップしているのに、稼働音は前のモデルと同じくらいに留めています。音をセーブするのは地味に困難でしたね……」
 
  ユーザーの負担に気を配ったのは、ファンだけではないという。
 
  「バッテリーの重量もなんとか400グラムに抑えました。23年モデルと比べて40グラムの増加です。単にパワーアップさせるならバッテリー内蔵のセル(円筒形の電池)を追加すればいいんですけど、それだと一気に重くなってしまう。そこで、ひとつひとつのセルを太目にすることで、容量や電圧を上げることにしました。風量はアップしているのにバッテリーの重量や稼働時間といった使用感は、従来とほとんど変わりません。オススメしたいのは、デバイスバッグ(AC400)に入れて使っていただくことですね。ファンと違ってバッテリーは防水ではないので、バッグで汗を防いだほうがいい。それにベルトに取り付けたほうがバッテリーの重さも感じないかな、と」
 
  言うまでもなく、風量が増えたことで涼感はアップしている。エアクラの毎秒100リットルは業界最大級。しかし、この数字をことさら誇らないあたりに、トップメーカーの余裕がうかがえる。
 
  では、静音のファンや強力なバッテリーに次ぐセールスポイントは?
 
  「やはりファンのデザインでしょう。今回は初めて柄モノの『マーリン』をラインナップしました。この柄を入れるのはひじょうに苦労したので、ぜひオシャレに着こなしてほしいです。ほかにも従来から人気のラメを入れたカラーなど、カラーリングに柄が加わってより選ぶ楽しさが出てきたんじゃないか、と。あと、私のイチオシは『ジェットパープル』ですね。これは某人気アニメの『初号機』をイメージしています。カッコいいでしょ?」
 
  毎秒100リットルを誇る“猛暑対策の決戦兵器”が、ついにリフトオフ! というわけだ。
 
  ●“改造ユーザー”に学ぶ
 
  では、24年のエアクラ対応ウェアを見て行こう。最初に登場したのは新作「AC2031」シリーズ。……うん? これは……、これはぁーっ! と、プレゼンが始まる前に思わず声を上げてしまう。なんとファンの位置がだいぶ上、肩あたりにあるモデルだ。いきなりこんな型破りなウェアが飛び出すとは、考えもしなかった。
 
  「今回、新たに登場した『ハイバックFAN』です。背中の上方にファンを取り付けることで、新デバイスの大風量をより活かすことができます。腰の位置にファンが付いた従来モデルも涼しいですけど、ハイバックの使用感はぜんぜん違いますね。あちらが腰から背中、そして首と風が上ってくるのに対して、こちらは脇にダイレクトに当たった風が、そのスピードのまま首に吹き抜けていく。顔にもガンガン強い風が当たるので、涼感はスゴイです」
 
  実際に着用させてもらった。ああ、たしかにこれは従来とは別物だ。新型ファンで生み出された猛スピードの風が、そのまま顔にドッヒューーーン!! で、風圧まで感じる。扇風機というより、工場扇に顔を近づけたような感覚である。汗の気化熱がナントカ、といった理論はすっ飛ばして、とにかく「直感的な涼しさ」を求めるならハイバックはアリだ。でも、それにしても、なんでまたこんな極端なアイテムを?
 
  「じつは、開発にあたって注目したのは“改造ユーザー”の声なんです。ほら、自らワッペンでウェアに穴を追加して、ファンを4つとか6つにしている人がいるじゃないですか。そんなお客さんに『どこにファンを増設するのがオススメですか?』と聞いてみたら『上の方に付けると涼しいよ!』という声が多かった。じゃあ肩の後ろに付けてみよう、と思って企画がスタートしたわけですが、ただ穴の位置を上に持っていけばいいわけじゃない。ちゃんと服の中に風が通るようにデザインするのは難しかったです」
 
  着たまま動いてみると、「難しさ」の意味がよくわかる。上半身の骨格は逆三角形なので、ふつう肩の位置に取り付けるとウェアでファンを押し付けるような形になって、着れたものではないのだ。ところが、このモデルはちゃんと風が分散して流れるよう、ウェア内に余裕を持たせた上でファンが取り付けられている。必然的に、肩から下の空間はかなり大きい。これまでのファン付きウェアとは違った不思議な着心地だ。
 
  「ファンを取り付ける部分をダーツにして、体に密着しないようにしました。さらにストレッチ素材なので、生地にテンションがかかっても押し付けられるような感じはありません。そして、これまでファンが付いていた腰の部分が空いたぶん、フルハーネスや安全ベルトなども対応しやすくなっています。なかでもオススメは夏の草刈りですね。斜めがけのベルトでチップソー(除草用の回転ノコギリ)を下げて、前掛けを着けて作業するわけですが、肩位置ならショルダーベルトや腰の装備に干渉しません。おまけにファンの位置が高いので、飛び散った草の吸い込みも起きにくい。ハイバックは涼しいだけじゃなく、作業上のメリットも大きいんです」
 
  ●広がる「エアクラ」の裾野
 
  続いて紹介してもらうのは、新作の「AC2021」シリーズ。2023年に登場したファン位置を背中から横に変更した「サイドファン形式」の最新アイテムだ。
 
  「サイドファン第1弾の『AC2001』が好評だったので、素材を変えた第2弾として企画しました。昨年がタフでしっかりしたナイロン生地だったので、今回はライトでシャカシャカ感のあるポリエステル生地を採用しています。だいぶスポーティーな見た目になったことで、幅広いユーザーに気に入ってもらえると思います」
 
  サイドファンはそもそも、車の運転やフォークリフトの操作時などの「ゴツゴツ感」を解決する商品。通常のファン位置だと、ファンが背もたれに当たって背中が圧迫されてしまうけれど、サイドなら干渉しない。というわけで、建設や土木より、運送や物流倉庫といった現場での活用を提案してきた。今回、見た目も素材も軽量になったことで、さらに軽作業の現場向けとしてアピールできそうだ。
 
  カラーリングや柄もシンプル。とくにベスト型は一段とカジュアルな雰囲気で、女性ユーザーでも抵抗がないだろう。これも、やはり「一般受け」を狙った戦略なのだろうか。
 
  「いろんな選択肢を用意したいですね。たとえばハイバックなら、建築系の職人さんの中に『腰袋の邪魔にならないから』と気に入る人もいるだろうし、ひょっとしたらスポーツ観戦でハンディ扇風機の代わりに使ってもらえるかもしれません。また、サイドファンもクルマの運転や建設機械の操作時だけでなく、行楽やレジャーの場面で活用する人も増えてくるでしょう。ワーキングに限らず、今後もさまざまなシーンに向けて提案していきたいですね」
 
  今年の夏は、思いもしない場所でエアクラを目にすることになりそうだ。
 
image_maidoya6
デザイン性も高い「サイドファン」
image_maidoya7
「この夏はハイバックで決まり!」

    

これで「背もたれ」の心配なし! サイドファン型ウェア「AC2021」シリーズ

スポーティーな見た目がウリの「エアークラフト」対応ウェア。通常よりファンの取付位置が前にある「サイドFAN」モデルのため、ファンが体に当たりにくいほか、風も前面に流れ込みやすくなっている。ヘルメット対応の大型フードは取り外し可。独自の「ランヤード取付口」で、フルハーネスにも対応。


脇・首・顔に! 涼風警報!! 新開発ハイバックファン「AC2031」シリーズ

新形態「ハイバックFAN」がインパクト大な「エアークラフト」対応ウェア。肩の下に取り付けたファンの猛烈な風が、脇から首、そして顔に吹き抜けることで、圧倒的な涼感を味わえる。ヘルメット対応の大型フードは取り外し可。独自の「ランヤード取付口」で、フルハーネスにも対応。