猛暑対策にビッグボーン、と聞けば「え?」と思うだろう。いや、このメーカーはむしろ防寒のイメージが強い。豪雪地帯の職人や北国の水産業者が身につける「質実剛健な防水防寒ウェア」といった印象だ。それにほら、ビッグでボーンで……ほら、こうして文字を見ているだけでも、なんだか暖かくなってくるではないか。だが、それも今日でおしまいだ。同社がいかに夏のアイテムに力を入れているか、編集部も今回の話を聞くまでまったくわかっていなかった。防寒にガチなメーカーは猛暑対策もガチ--。このシンプルかつ厳粛な事実に今や震えるばかりである。今回のレポートを読んだあとは、「ビッグボーン」の言葉を聞くだけで体の火照りが吹き飛び、ロゴを見るだけで背中はヒンヤリ。目を瞑れば花火大会に盆踊り、スイカ、かき氷、プールの授業……と美しき夏の思い出が走馬灯の如く駆け巡るようになる。こう断言しておこう。
ビッグボーン商事
福山城をバックに語る宮原さん
注水するだけでOK
●ファンは逆効果?
「今シーズンのテーマは、『35℃以上の猛暑にどう対応するか』ですね。もう、そればっかり考えて、昨年から企画を進めてきました。このまま夏の暑さがエスカレートしていくと、既存の商品では太刀打ちできないようになる。新しい技術でこれまでにない猛暑対策アイテムを開発しなくちゃ! その一心でした」
目の前に福山城がそびえるビッグボーン商事・新社屋の展示ルーム。企画の宮原さんは、24年夏モデルの新商品について、感慨深げに語り始める。たしかに、近年の猛暑は命に関わるし、今年も記録的な暑さが予想されている。だが、「35℃」という具体的な数値は何を意味するのだろう。
「ファン付きウェアが役に立たなくなるとされる温度が、35℃なんです。これより暑くなるとドライヤーの熱風を浴びているようなもので、逆効果になってしまう。そんな状態でファンを回すと体温が上がって熱中症を助長してしまうんですね。このことは当社の扱う『空調風神服』でもカタログで注意喚起していて、他社さんもファン付きウェアに限界があることを認めています。これまでは35℃を超える猛暑日なんてあまりなかったので、なんとかなっていたけれど、今後はどうなんだろう? と。夏場の気温が上がることはあっても、下がることはなさそうですよね。『35℃以上への対策』は、ワークウェアメーカーとして真摯に取り組むべき課題だと思ったわけです」
35℃を超えると、どんな大風量も意味がない。逆に「ファン付きウェアがあるから大丈夫」と思い込むことで、思わぬ危険を招くという。では、どんな対策が有効になるのか。
宮原さんは、新作のベストとブルゾンを慎重に箱から取り出した。
「35℃以上の猛暑にどう対応するか? これがビッグボーンの回答です」
●「深部体温」の重要性
まずはベストから語ってもらおう。新商品「AT101 アクアウォーターベスト」はバッテリー不要で、ウェアに貯めた水だけで体を冷却。バッテリーやケーブルだらけの涼感ウェアの中で、ひときわ簡単で手軽なアイテムと言える。ベスト上部から400mlほど注水し、手で全体になじませれば準備完了だ。
「この商品の特徴は、じんわり放熱することです。風も起きないし、氷水で冷却するわけでもない。常温の水を身にまとうわけですから、それほど冷える感じはしません。水道水は体温より低いので、着用したときはヒンヤリするけれど、10分もすれば体温が移って水はぬるくなります。しかし、それでいいんです」
あれ、なんだかイメージと違うぞ。35℃以上に太刀打ちするにはすごい冷却力が必要なのでは……。
「その問題は、ベストの表面の透湿素材が解決してくれます。ただの水枕のように見えますが、じつは水は漏れないけれど水分は蒸発しているわけで、そのさいに気化熱の冷却作用が起きる。つまり、外が暑かったり体が火照っていたりすると、蒸発が促されて冷却効果がアップするわけです。この作用によって、内部の水温は常に体温より2、3℃下をキープする。外気温が何度であっても、背中や脇の下から水がじんわり熱を奪い続けるわけです。それほど冷たさは感じないけれど、深部体温の上昇はしっかりと抑えてくれます」
深部体温とは、体の中心部の温度のこと。脳や臓器といった体の機能を守るために、常に体温より高めに保たれている。熱中症とは、外部の熱が皮膚から体内へと移ったり、運動によって生み出された熱が体内にこもったりした結果、深部体温が上がってしまうトラブルだ。
「だから熱中症の予防段階では、そこまでの冷却力は要らないんです。ただ運動中でも継続的に体温を奪い続けるような仕組みがあればいい。たとえば、ある作業をすると100m競走くらい体が温まるとして、アクアウォーターベストを着用していると100mをゆっくりジョギングした程度の体温上昇に抑えられる感じです。サウナから水風呂に入るときのような劇的な冷たさはありませんが、ベストはじわじわと放熱を促進している。夏場に長く着ていれば疲労のたまり方がぜんぜん違うことに気づいてもらえます。さらに、ファン付きウェアのインナーにすれば熱中症対策はバッチリです」
水は追加しなくても3日程度はキープ。バッテリー不要で稼働音もゼロ。デザイン的にもいかめしい雰囲気がしないので、サービス業や接客の場面でも活躍しそうだ。
●コラボ開発の「冷蔵服3」
続いて2つ目の『35℃対策』のアイテムが「冷蔵服3」。先ほどとは打って変わって、バッテリーの力で直接的に体を冷やすウェアである。ネーミング通り、背部に小型冷蔵庫と同じ原理の「ペルチェ式」冷却プレートを設置。腰のファンが汗を気化させると同時にペルチェから発生した熱を逃がす。「レアモノショップ」でおなじみのサンコー株式会社と共同開発した商品だ。
「サンコーさんは昨年『冷蔵服2』を発売したのですが、ペルチェ素子の排熱という課題がありました。それで、ファン付き作業着に強い当社とコラボすることになったわけです。今回の『冷蔵服3』では、サンコーさんがペルチェとファン、当社がウェアを担当しています」
では、35℃以上での熱中症対策というのは、言うまでもなく……。
「冷却プレートで直接、背中を冷やします。ペルチェは環境温度から−19℃くらいまで冷やせるので、35℃以上でも16℃くらいですね。ただし、体に密着しないと意味がないので、内部でずれないように固定する仕組みなどに苦心しました。先ほどのアクアウォーターベストは、少々わかりにくいアイテムでしたが、こちらならプレートを触ってもらえば冷却効果がわかります。とにかくヒンヤリするのが欲しい、という人にはこちらを勧めます」
水でじんわり冷やすアクアウォーターベストに、電気でしっかり冷やせるペルチェ--。「35℃の壁」に向けて、ビッグボーンの布陣が整いつつある。
「今シーズンのテーマは、『35℃以上の猛暑にどう対応するか』ですね。もう、そればっかり考えて、昨年から企画を進めてきました。このまま夏の暑さがエスカレートしていくと、既存の商品では太刀打ちできないようになる。新しい技術でこれまでにない猛暑対策アイテムを開発しなくちゃ! その一心でした」
目の前に福山城がそびえるビッグボーン商事・新社屋の展示ルーム。企画の宮原さんは、24年夏モデルの新商品について、感慨深げに語り始める。たしかに、近年の猛暑は命に関わるし、今年も記録的な暑さが予想されている。だが、「35℃」という具体的な数値は何を意味するのだろう。
「ファン付きウェアが役に立たなくなるとされる温度が、35℃なんです。これより暑くなるとドライヤーの熱風を浴びているようなもので、逆効果になってしまう。そんな状態でファンを回すと体温が上がって熱中症を助長してしまうんですね。このことは当社の扱う『空調風神服』でもカタログで注意喚起していて、他社さんもファン付きウェアに限界があることを認めています。これまでは35℃を超える猛暑日なんてあまりなかったので、なんとかなっていたけれど、今後はどうなんだろう? と。夏場の気温が上がることはあっても、下がることはなさそうですよね。『35℃以上への対策』は、ワークウェアメーカーとして真摯に取り組むべき課題だと思ったわけです」
35℃を超えると、どんな大風量も意味がない。逆に「ファン付きウェアがあるから大丈夫」と思い込むことで、思わぬ危険を招くという。では、どんな対策が有効になるのか。
宮原さんは、新作のベストとブルゾンを慎重に箱から取り出した。
「35℃以上の猛暑にどう対応するか? これがビッグボーンの回答です」
●「深部体温」の重要性
まずはベストから語ってもらおう。新商品「AT101 アクアウォーターベスト」はバッテリー不要で、ウェアに貯めた水だけで体を冷却。バッテリーやケーブルだらけの涼感ウェアの中で、ひときわ簡単で手軽なアイテムと言える。ベスト上部から400mlほど注水し、手で全体になじませれば準備完了だ。
「この商品の特徴は、じんわり放熱することです。風も起きないし、氷水で冷却するわけでもない。常温の水を身にまとうわけですから、それほど冷える感じはしません。水道水は体温より低いので、着用したときはヒンヤリするけれど、10分もすれば体温が移って水はぬるくなります。しかし、それでいいんです」
あれ、なんだかイメージと違うぞ。35℃以上に太刀打ちするにはすごい冷却力が必要なのでは……。
「その問題は、ベストの表面の透湿素材が解決してくれます。ただの水枕のように見えますが、じつは水は漏れないけれど水分は蒸発しているわけで、そのさいに気化熱の冷却作用が起きる。つまり、外が暑かったり体が火照っていたりすると、蒸発が促されて冷却効果がアップするわけです。この作用によって、内部の水温は常に体温より2、3℃下をキープする。外気温が何度であっても、背中や脇の下から水がじんわり熱を奪い続けるわけです。それほど冷たさは感じないけれど、深部体温の上昇はしっかりと抑えてくれます」
深部体温とは、体の中心部の温度のこと。脳や臓器といった体の機能を守るために、常に体温より高めに保たれている。熱中症とは、外部の熱が皮膚から体内へと移ったり、運動によって生み出された熱が体内にこもったりした結果、深部体温が上がってしまうトラブルだ。
「だから熱中症の予防段階では、そこまでの冷却力は要らないんです。ただ運動中でも継続的に体温を奪い続けるような仕組みがあればいい。たとえば、ある作業をすると100m競走くらい体が温まるとして、アクアウォーターベストを着用していると100mをゆっくりジョギングした程度の体温上昇に抑えられる感じです。サウナから水風呂に入るときのような劇的な冷たさはありませんが、ベストはじわじわと放熱を促進している。夏場に長く着ていれば疲労のたまり方がぜんぜん違うことに気づいてもらえます。さらに、ファン付きウェアのインナーにすれば熱中症対策はバッチリです」
水は追加しなくても3日程度はキープ。バッテリー不要で稼働音もゼロ。デザイン的にもいかめしい雰囲気がしないので、サービス業や接客の場面でも活躍しそうだ。
●コラボ開発の「冷蔵服3」
続いて2つ目の『35℃対策』のアイテムが「冷蔵服3」。先ほどとは打って変わって、バッテリーの力で直接的に体を冷やすウェアである。ネーミング通り、背部に小型冷蔵庫と同じ原理の「ペルチェ式」冷却プレートを設置。腰のファンが汗を気化させると同時にペルチェから発生した熱を逃がす。「レアモノショップ」でおなじみのサンコー株式会社と共同開発した商品だ。
「サンコーさんは昨年『冷蔵服2』を発売したのですが、ペルチェ素子の排熱という課題がありました。それで、ファン付き作業着に強い当社とコラボすることになったわけです。今回の『冷蔵服3』では、サンコーさんがペルチェとファン、当社がウェアを担当しています」
では、35℃以上での熱中症対策というのは、言うまでもなく……。
「冷却プレートで直接、背中を冷やします。ペルチェは環境温度から−19℃くらいまで冷やせるので、35℃以上でも16℃くらいですね。ただし、体に密着しないと意味がないので、内部でずれないように固定する仕組みなどに苦心しました。先ほどのアクアウォーターベストは、少々わかりにくいアイテムでしたが、こちらならプレートを触ってもらえば冷却効果がわかります。とにかくヒンヤリするのが欲しい、という人にはこちらを勧めます」
水でじんわり冷やすアクアウォーターベストに、電気でしっかり冷やせるペルチェ--。「35℃の壁」に向けて、ビッグボーンの布陣が整いつつある。
アクアと冷蔵服を語る
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「夏の疲労軽減にアクアを!」
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「ペルチェ&ファン」で夏を駆けろ! 猛暑克服のリーサルウエポン「冷蔵服3」 冷却機材とファンの力で体を冷やす“合わせ技”の涼感ウェア。背中には冷蔵庫と同じ原理の「ペルチェ式」冷却プレート。腰には汗を気化させると共にペルチェの排熱を補助するファン。両者の同時稼働によって猛暑での快適な作業をサポートする。モバイルバッテリーは別売り。 |
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夏バテ予防に“水”をまとう! 疲労軽減「アクアウォーターベスト」シリーズ 水の力で効率的に体を冷やすバッテリー不要の涼感ベスト。ウェア内に400mlほど注水し、手で内部に行き渡らせてから着用する。水がウェアの表面からゆっくり気化することで、じんわりと熱を奪っていく。ファン付きウェアのインナーにすれば水の気化が促進され、さらに冷却効果アップ。 |
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