【寅壱】digる、新機軸!image_maidoya3
この会社を訪れるときは独特の緊張感がある。いや、別に対応が悪いとか担当者が怖いとかじゃなく、なんとなく「わかってないヤツ」と思われやしないかと心配なのだ。カッコいいと思ったら、そのまま口にすればいいけれど、よくわからないアイテムが出てきたとき、「ファッションに敏感な人やセンスのいい若者なら、即座に“わかる”のではないか?」といったことを考えてしまう。まるで「ダサい」と言われないかビクビクしているティーンエージャーのような気分。40代半ばにもなってこんな感覚を抱いてしまうのも、「カッコいい寅壱」というイメージづくりの成果であり、ブランディングが成功している証拠なのだろう。

寅壱
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企画チームの平井さん
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独自の面ファスナー仕様
●「寅壱らしさ」を大切に
 
  取材に応じてくれたのは、本誌でおなじみの企画チーム平井さん。まずは寅壱の2025年秋冬コレクションの全体像、そして防寒アイテムの展開について教えてもらおう。
 
  「さんざん言われていることですけど、徐々に冬は暖かくなってきています。私たちのように倉敷で暮らしていると、去年の冬はダウンを何回着たかな……とか思っちゃうんですが、やはり寅壱ユーザーの中には、北国の人もいれば、屋外作業のハードワーカーもいる。そういう人に向けてちゃんと保温力の高いアイテムを出していこう、というのが基本方針です。ただ、闇雲にやってもダメなので、昨年に反響のあったアイテムとかずっと売れてる商品とかを深堀りし、売れるものをしっかりそろえていこう、と。たとえば人気の高いトレーナーを拡充したり、量販店向きには万人向けのアイテムで着実に売っていく、といった感じですね」
 
  総合メーカーらしく、ショップ販売からユニフォーム納入までカバーする視野の広さを見せる。ただ、寅壱はワークウェア界のトップブランド。シーンを牽引して行こうといった野心もときおり見え隠れする。
 
  「もちろん、寅壱らしさも大事にしていかねばと思っています。数を売りたいアイテムはやや大人しくまとめても、目玉となるウェアはしっかりユーザーに響くものを出して、“寅壱ここにあり”をアピールしたい。お客さんからの『もっと寅壱らしいものを出して』という声にはちゃんと応えて、派手でインパクトのあるものを出していきます。同時に営業から出てくる『デニムの新作もほしい』と言った声に対しても、ただ応えるのではなく、デザインの旬や面白味、新奇性といった面を重視して、切り替えのデニム(8992シリーズ)にしたりと、コストを意識しながらも寅壱らしさを追究していきたいです」
 
  ●ワーキングの中に「鳶」
 
  そんな、「寅壱らしさ」の模索の中で新基軸と言えるそうなのが、鳶服の再評価であり、再定義だ。
 
  「社内では『ワーキング&鳶の構想』と呼んでいるんですが、今まで独自ジャンルだった鳶の装束を、ワーキングやユニフォームに落とし込もうという機運が上がってきています。たとえば懐かしの『ニッカズボン』や『細身超超ロング』を少しアレンジし、上下作業着(7030シリーズ)の選択肢として提案するといった具合です。すると、現場のレギュレーションの問題で『着たいけれど着れない』と言っているオールドファンは喜んでくれる。また、若い人はワイドパンツの一種として捉えるので、『なんだこれ?』『面白いな』といった声が返ってきたりする。つまり、懐かしのアイテムじゃなくて目新しいファッションとして捉えてくれるんです。これは鳶装束の復興につながるかもしれない、と企画チーム内でもけっこう盛り上がっています。『こんなパンツもあるんだよ』と、若者向けに発信していきたいですね」
 
  鳶装束はもともと「もっと目立ちたい」「自分は他とは違う」といった職人らしい自意識から成長してきたジャンルだ。それが令和になって「普通の格好はつまらない」と感じる若者にウケるなんて、愉快な話ではないか。時代は変わっても、職人の「粋」は変わらないのだ。
 
  さて、そんな派手さ、奇抜さという点では、防寒アイテムも負けていない。新作の「2803シリーズ」は、「古き良きドカジャン」を意識した寅壱らしさ満点の一品だ。
 
  「こちらは、寅壱のキーワードとして『鳶』と並び立つ『ドカ』を現代流にしたウェアです。ボンディングで防風性をもたせ、内側フリースで保温性もあるといった機能面も優れているのですが、やはり最大の売りはルックスですね。肩から背中、腕にかけてのふんわりとした大きめのシルエット。ドカジャンらしく見えるためにはこのボリューム感が大事なんです。生地は厚みがあってやや硬め。これも防寒のためであると同時に、シルエットを守るためです。表面にハリがあるから、ポケットに財布やタバコを入れてもゆったりしたスタイルが崩れない。まさに、寅壱が着たい人に向けた“どストライク”なジャンパーです」
 
  ドカジャンのアイコンである襟のモコモコもフリースで表現。危険と隣り合わせの肉体派ワーカーの自己表現として、これ以上はないと思える決定版アウターである。
 
  ●普段着にしたいウェア
 
  昔ながらの寅壱らしさを強調したアイテムが並ぶ一方で、今回は積極的に現代テイストを取り込んだものも目立つ。「5954シリーズ」はルーズなアノラックとホッケーシャツ。さらに「5314シリーズ」はフード付きトレーナーに対応パンツを付けた上下セットアップ。どちらも、道の駅やドン・キホーテによくなじむ“チルな空気”を放っている。機能的にはワーキング仕様なのに、休日用に欲しくなってしまう不思議なアイテムだ。
 
  まずは「5954シリーズ」から、狙いを聞かせてもらおう。
 
  「これは2024年の秋冬コレクションでスマッシュヒットした無地オレンジのアノラックの深堀りバージョン。『こういうの大好き』『もっと出して』という声も多かったので、新カラーで目先を変えてもいいかもな、と考えていたんです。しかし、どうせやるなら寅壱らしく、といった気持ちがムクムク起こってきまして、『そうだ、ガラで攻めよう』と。インパクト大なモヤモヤ柄にTORAをあしらって、ちょっと派手すぎないかと心配してたんですけど、反響はすごく良かった。フード付きのタイプは普段着でしょ、と思うかもしれませんが、現場によってはOKだったりするんです。脇ポケットやペン差しもあるので、軽作業にも便利ですよ」
 
  一方の「5314シリーズ」は、厚みのあるスウェット生地が、いかにも冬のアイテムという佇まいだ。
 
  「こちらも人気を博したフーディートレーナーの深堀りです。無地に柄を追加しました。迷彩柄といってもいろいろあるんですけど、大きくて目立つ柄を探してきて、鉄板のダンボールニットと組み合わせることで、ガツンとくる見た目にしました。フード付きトレーナーはすでに売れているアイテムだから、ガラはかなり冒険できるんです。こちらも普段着にしてもいいけれど、上下ともペン差しやポケットが充実しているので、ワーキングにもぴったり。柄のスノーカモフラも冬らしくていいんじゃないかな、と。鳶やドカのテイストだけでなく、こういった遊び心も寅壱らしさの一部ですね」
 
  鳶を深堀り、ドカを深堀り、そしてもちろん、売れ筋アイテムはしっかり深堀り……。さあ、みなさんも寅壱と共にワークウェアカルチャーをdigっていこう!
 
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寅壱らしさ満点のモヤモヤ柄
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「これからも寅壱にご期待ください!」

    

背中で放つ男の色気! “ドカ系”シルエットで魅せる「2803」

往年のドカジャンを意識したデザインとゆったりシルエットが注目の防寒アウター。防風性のあるボンディングの生地は冷たい風をシャットアウト。さらに内側フリースでぬくぬくの着心地を保つ。ポケットにモノを入れてもふんわり感が崩れない硬めの生地もポイント。


カラーとガラで示す職人魂! カジュアル防寒「5954」シリーズ

ルーズなシルエットとスポーティーなルックスが魅力のワークシャツ。裾はドローコード仕様でフィット感を調節できる。渋みのあるカラーリングに加えて、モヤモヤした独特のカモフラ柄も印象的。ホッケーシャツは右腕ロゴプリントに加えてシリコンワッペン付き。