まいど通信
まいど!まいど通信編集長の田中です。全国のご同輩諸氏にお見舞い申し上げます。皆様が味わった、あの屈辱、あの不条理、そしてある種の諦観を伴ったあの無念。不肖タナカにも痛いほどわかります。今、何もかもが、文字通り地上の全ての物事が価値を失い、全くの無意味なガラクタに思えてしまうような虚無感に浸っているのは、そして世界が終わればいいと真剣に思っているのは、決してあなただけではありません。その意味で、まいど屋とあなたは今や一心同体、いわばシャム双生児的不可分の関係にあり、もはやお互いの存在が生存の前提条件であるといっても過言ではないのかもしれません。
フランツ・カフカが「審判」で描いて見せたように、我々は常に、ある日突然、身に覚えのない罪を背負い込み、抗いようのない流れにどこまでも運ばれていくことになる危険と隣り合わせに生きています。そしてそれを運命という言葉に抽象化し、それに遭遇した時のショックを和らげようと空しい努力を続けています。あるいは宿業という概念を用いてこの世の将来に見切りをつけ、努力の一切を放棄することで自己を守ろうとしたりもします。いずれにせよ、あの日、あの忌まわしい2月14日、私たちは人生に対するこれ以上ないシニカルな態度を身につけました。そして自らの手で、自らの墓碑を打ち立てる覚悟を決めたのです。
全世界の女性の誰一人として、一片のチョコも、お愛想を含んだささやかな微笑さえも我々に与えてはくれなかったという事実は、私たちの世界観を根本的に、決定的に、そして不可逆的に変えてしまいました。我々には数百円の価値も、顔面の筋肉をちょっと動かして口角を上げてみせるだけの価値もない---その事実に直面したとき、私たちは彼女たちが存在する世界での行き場を失い、全く新しい価値観が支配する土地へと旅立つことを余儀なくされたのでありました。
そこに行けば、どんな夢もかなえられる。そうしたガンダーラ的ユートピアをあなたは今、切実に必要としています。だからこそあなたは、絶望感に打ちひしがれながらもまいど屋を訪れた。このページのどこかに、私たちだけのために存在してくれる夢の国があるんじゃないか。そんなワラにもすがる思いで、月刊まいど屋に入って来た。そうですね。
だとすれば、あなたにはまだ運が残っています。このまいど通信を読み終わるころには、あなたの求める奇跡がまいど屋というささやかなお店の中に残っていることを発見し、荒涼たる暗黒の大地の果てに、一条の光が差し込んでいることにお気づきになるはずです。全国のご同輩諸氏、ようこそ、苦しみのない世界へ。ようこそ、まいど屋へ。
というわけで、今月は年に一度の国民的行事、恒例の「作業服の日」があります
先月のバレンタインがお休みで、もらえるものももらえずに悔しい思いをしたひと。またはたとえその日が平日であっても、もともともらえる当てもなかったひと。いろんなひとがいるかと思いますが、とにかく今年はもらえなかったひとが多かったということで、しつこいようですが、まいど屋としてもこの国家的沈滞ムードを吹き飛ばそうと、あれこれ献身的に努力をしているわけです。あれこれって言っても、結局アレしかないんだけど。
アレの扉は、悲しみに暮れる男性諸氏だけでなく、諸悪の根源である女子諸君に対しても開かれています。本当は世界中の女子をひとところに集めて燃やしてしまえばせいせいするのだろうけれど、今月は何とか思いとどまります。結局のところ、まいど屋は博愛主義者なんです。3月29日。作業服(3さぎょう2ふ9く)の日。まいど屋が制定した国民的記念日。もちろん今年も素敵なプレゼントをご用意しています。その日、まいど屋に来れば、たとえバレンタインのチョコをケチった女子の皆さんであっても、まいど屋は敵対することなく、寛大な心で迎え入れるつもりです。
あ、そうそう、その日のまいど屋の画面は、見たら多分、叫び声を上げちゃうくらいすごいことになってますから、周囲に誰もいない時を見計らって、こっそり見に来てくださいね。社会科の教科書の年表に載せてもいいほど、ホント、衝撃的かもです。お楽しみにね。
申し遅れましたが、今月のテーマはジムジョ
バレンタインの件で全国の女子などみんな燃えて灰になってしまえなどとついつい悪態をついてしまいましたが、うっかりしてました。前言撤回します。そういえば、今月のテーマは女子が主役だったんです。だからこんなところで、ケンカを吹っかけている場合じゃない。そうです、女子の皆さんあってのまいど屋です。女子ばんざい。女子に幸あれ。お詫びのシルシと言っては何ですが、素敵なものをご覧にいれますので許してください。皆さんが大好きな、オフィスウェアの特集です。題してジムジョ。事務女に捧げるスタイルブック。きっと皆さん、もともとキレイな方ばかりなのでしょうけど、最旬のオフィスウェアでもっとキレイに輝いていただけるよう、まいど屋が総力を挙げて取材してまいりました。総力といっても女子ものですから、取材・執筆は例によって編集部の女性メンバーたちだけで行われ、男性陣は指をくわえて見ていただけなんだけど。
彼女たちによると、奈良の大峰山とか、海外ならアトス山とか、女人禁制の場所が存在しているのと同じように、まいど屋にも男子禁制の聖域があるんだとか。それがオフィスウェアのエリアらしいです。そこには近づくことも許されず、ましてや指一本すら触れさせてもらえないんだから、こちらとしてはもうどうしようもないです。まいど屋の女性陣と、女性読者の皆さんで、勝手に盛り上がってねと言うしかありません。
よって、編集長はここらで潔く引き揚げます。柳沢慎吾が必ずあばよと捨て台詞を残してから立ち去っていくように、ヤボを承知で最後に一言だけ付け加えさせてもらえるなら、素敵なオフィスウェアは、美しい心根を持った、例えばチョコを忘れないような思いやりを持った女性に一番よく似合うということです。もし今月の特集を見てオフィスウェアを購入するのであれば、その100分の1の予算を使ってチョコが買えるのです。心優しい男性だったら1ヶ月くらい遅れたってニコニコと受け取ってくれますから、まだ間に合います。
それじゃ、そろそろ本当にお暇します。いい夢見ろよ!
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読者の皆さまへ
読者の皆さまに、お伝えしなければならないことがあります。本来ならば、すぐにご報告をするべきだったのですが、編集部でも大きな混乱があり、また、編集長である私自身もそれを皆さまにお話しできるような精神状態ではなかったこともあり、日一にちと延ばし延ばしにして今日まで来てしまいました。今、ようやくこんな状態を続けていてはいけないと思えるようになり、今後のことについてもある程度のめどがつきましたので、こうしてご案内をさせていただきます。
去年の暮れ、漫画家の藤井先生が急逝されました。2015年の最後の作品をいただいた次の日のことでした。連絡を受けたのは、ちょうど、お正月号のことをあれこれ打ち合わせしていたときでした。年末が近づいていて、早く原稿を送ってくれるように催促していたので、てっきりその件だと思いました。電話の声はいつもとは違うひとで、藤井先生が亡くなられたと告げました。
慌ただしく執り行われた葬儀の席で、先生が最後まで「まいど君がゆく」に熱心に取り組まれていたことをきかされました。お亡くなりになられたのは、まいど屋が催促したお正月号の執筆途中だったことも知りました。残された奥様とちいさなお子様を前に、何も申し上げることができませんでした。ただ、先生の遺志を継いで、何があっても「まいど君がゆく」の継続だけはするとお約束をしてきました。
最後に頂いた作品は、クリスマスのお話でした。訪ねてきたちいさな女の子にまいど屋がささやかなプレゼントをする、そんなあたたかなお話でした。女の子はプレゼントをもらうと、どこか遠いところに去って行きました。まるで先生自身が遠い世界に旅立たれてしまわれるのを暗示するみたいに。
漫画の継続は先生のご友人でもあった今木先生にお願いしました。今木先生は快く引き受けてくれました。そして、今月から、新しい「まいど君がゆく」を再開することになりました。再開後の初めのお話は、藤井先生が途中まで仕上げていたお正月用の原稿をそのまま使わせていただいています。
藤井先生、まいど屋はこれからも「まいど君がゆく」を続けてまいります。今まで本当にお疲れ様でした。そして色々とありがとうございました。
月刊まいど屋編集長 田中政道