まいど通信


        

まいど!まいど通信編集長の田中です。7月です。待ちわびた季節が遂にやって参りました。読者の皆さんが大好きな、暑く長い夏の始まりです。太陽ギラギラ、汗が滝のように流れ、顔面は脂でテカテカ、背中はベットリ、そして室内には皆さんの脇から放たれる蕩けるような甘酸っぱい匂いが、まるで第三者の特殊な性癖の有無を調べる試薬のごとく充満しています。もしも同室者がうっとりと目を潤ませ、その香りの元へさらに顔を近づけようとする素振りすら見せるのなら、そして皆さんが今やいっそう親密になりつつある皆さんとその同室者との関係性の行方に期待を膨らませているのなら、今月号の特集はあまり役立たないかもしれません。いや、それどころか、かえって有害かもしれない。そうした状況にある皆さんは今すぐこの画面を閉じて、ギトギトの脂を互いに絡めあう、あの夢のような世界へとお戻りいただきますようお願いいたします。どうか、末永くお幸せに。
さて、運悪くそうしたパートナーが見つからなかった一部の読者の皆さんに向け、まいど屋はここにささやかながら慰めの贈り物を用意しています。最早そうしたエネルギッシュな顔のテカリも、絞れるほど汗が滴る情熱的なシャツも、官能的に香るフェロモンも必要なくなってしまったのならば、いっそのことそれらを根本から断ち切る処置を施し、自らの未練を葬り去ってしまうほうがいい。まいど屋はそう考え、そのためのお手伝いをする準備をしておきました。皆さんが既に各種報道などを通じてご承知の通り、この夏、日本列島には空前の猛暑が襲ってきます。しかしながら今月号の特集を読めば、皆さんはそんなめったにないチャンスにご自身の手で短剣を突き差し、暑さとは無縁の寒々しさの中にひっそりと去っていくことができるのです。皆さんの無念は痛いほどわかりますが、人生は時に思い通りにはいかないものです。さらば、燃える夏。ようこそ、空調服の世界へ。

第一次空調戦争勃発
先月号でちらっとお話ししましたが、現在、作業着業界では大変な騒動が持ち上がっています。長い間サンエスの1社だけが独占的に販売していたあの空調服の市場に名のあるメーカーが続々と参入し、目まぐるしく変わるその勢力図は、まるで1914年におけるバルカン半島のような様相を呈してきたのです。Aに対抗し、BがC、Dと同盟を結んで支援する。EとFとGは有力な外部勢力の助けを借りながら独自の主張をし始め、一方、HとIとJは様子見を決め込むと見せかけて、隙あらば領土拡大を虎視眈々と狙っている。さらには完全な中立だと思われていたKが窮地に陥ったAを救済する名目で突如この大戦に参戦してくる。これまでの秩序が完全に失われ、無法状態に陥ったマーケットをめぐり、全国の販売店はどのメーカーと組めばいいのか、情報収集に追われています。そして恐らく、必然的にその混乱の渦に巻き込まれてしまうユーザーの皆さんも、判断基準となる情報を求めて右往左往しなければならなくなりました。で、緊急企画したのが今回の特集というわけなのです。

繰り返しますが、今月のテーマは空調服
念のために申し上げておきますが、炭酸が抜けたコーラのようなこのまいど通信と違い、本体のレポートの方は今回、割としっかり作っています。何と言ってもメインディッシュですから。最高の素材を使って、腕によりをかけて、感動の一皿をお出ししなけりゃなりません。そういうつもりで味見よろしく改めて本文を読み返してみると、その目論見はある程度成功を収めているように思えるんだけど、どうだろう?
おっと、私としたことが、急に不安になって読者の皆さんに同意など求めてしまいました。編集長たるもの、皆さんがどう思おうと、カスだのクズだのと判断しようと、またはこのような自己満足的電子ゴミは速やかに削除されるべきだと批判の声を上げようと、自分が納得しさえすればいいと堂々と胸を張っていなきゃいけないのに。読者の皆さんが月刊まいど屋をどうこう言うのではなく、月刊まいど屋が皆さんを試していると考えなきゃね。そうでも思ってないと、編集長職なんて続けてられない。
じゃ、気を取り直してもう一回。全ての選択肢は月刊まいど屋の中にある---例の大統領がしきりに豪語するみたいに、編集部は至高の空調服を探している皆さんに対して高らかにそう宣言します。うん、自信に満ちて力強い言葉。これでこそ、編集長。きっと読者の皆さんもその語気に気圧されるようにして何か一着買っちゃうんじゃない?で、押し売りまがいに届けられた空調服をしぶしぶ着て、明日から毎日仕事に出掛けることになるんだよね。めでたしめでたしです。商品購入のいきさつについて多少の不満は残るだろうけど、猛暑でどの道必要だったのだろうから、恐らく問題ないはず。編集長としては取りあえずそう思うんだけど、どうだろう?

月刊まいど屋始まって以来かも
これはネタではなく、ガチで深刻な大ピンチです。もうどうにもならない。もちろん、そうした編集部の内部事情など、読者の皆さんはまったく興味がないことくらい重々承知をしていますが、こっちはほとんどパニック状態に陥っていますから、いつものように能天気な調子でくだらない話などできるような精神状態ではないのです。え?だから何が言いたいのかって?そうですか。随分と突き放した態度を取るんですね。月刊まいど屋が始まって以来、10年に渡って皆さんと親密な関係を築いてきたと思っていたのに。よく考えてみてください。私たちが既にそうした関係性の中にお互いを位置付けてしまっている以上、皆さんは不本意であってもこの話に最後まで付き合う義務があるとは思いませんか?もう一度言いますが、本来ならばこっちは悠長にこんなまいど通信など書いている場合じゃないんです!それでも取り敢えずは今月号のこのロクでもないページを埋めとかなきゃいけないから、自分でも何を書いているのかわからないまま、さっきからこうしてキーボードを叩きまくっているんです!絶望的な状況でも冷静さを保ち、何とか突破口を見つけて最後はハッピーエンドを迎えられるのはミッション・インポッシブルのトム・クルーズくらいなもので、生身の人間でしかも絵に描いたような凡人は、こうして誰彼かまわずつかまえて、ギャンギャン喚き散らすしかないじゃないですか!
ええ、そうですよ。モデルの女の子二人とフランス人に逃げられました。文字通りばっくれちゃったんです!今では音信不通で、どこにいるのかもわかりません。それで、半年も前から計画を進めていた来月8月号の特別企画が飛びました。今年は去年よりさらに大がかりな舞台装置にしようと、パリロケの準備までしてたっていうのに。その上、特集記事にするつもりの小説仕立ての台本だって書き進めていたのに。なのに直前になって、まるで申し合わせたみたいに、どっちのプロダクションからも月刊まいど屋には金輪際出演させませんと絶縁状を叩きつけられるなんて。ま、そりゃ、去年はムチャをしましたよ。それで今回のロケでも、例えばセーヌ河畔やモンマルトルで破廉恥な撮影を強要されるんじゃないかと警戒されたのかもしれませんよ。でも、それなら最初からそう言ってくれればいいじゃないですか!もしくは、今回の企画は純粋なラブストーリーであり、軽犯罪法に引っ掛かって連行されるような撮影を行うつもりはないという編集部の弁明を聞いてから判断してくれてもいいじゃないですか!そして乗り気だった本人たちと連絡を取らせてくれてもいいじゃないですか!
この期に及んでドタキャンされると、編集部としてはもうお手上げです。他の企画に差し替えようにも、作り置きのストックなどないんだから。よって来月号の月刊まいど屋は、甲子園の阪神-巨人が雨で中止になったときに流される、長嶋茂雄の天覧試合ホームランみたいなバックナンバーの名場面集になってしまうかもしれません。皆さんが目も当てられないほど悲劇的なそうした月刊まいど屋に腹を立てようが理解を示そうが、そんなことは知ったこっちゃありませんが、一応前もって報告しておきます。それともこれから新企画を立ち上げるか?いや、トムじゃあるまいし、そんなミッションは実行不可能だよね。本当に絶体絶命、創刊以来の大ピンチです。