まいど通信
●初体験でした
まいど! 編集長の奥野です。今月も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今回のテーマは、ここ数年で一気にメジャーになったファン付きウェア(いわゆる「空調服」)。というわけで、興味を持ってくれた読者も多いでしょう。
個人的な思い出話をすると、始めて空調服なるものを見たのは3年ほど前だったと思います。
昼メシ時のラーメン屋。店に入ってきたオジサンが上着を脱いでテーブルに置いたとき「ゴトリ」と音がする。何気なくその上着に視線を向ける――ん? なんだアレは? うわっ、なんか扇風機みたいなの付いてるよ! マジで!? なんじゃこりゃ?
しばらくして雑誌か何かでそれが夏用の最新ワークウェアだと知ったのですが、「あれって本当に涼しいのかな?」という感覚をずっと抱えていました。あのボワンと膨らんだ見た目はダウンジャケットみたいで、いくら涼しいと言われても腑に落ちなかったのです。
しかし、今回の取材でようやく私も体験することができました。夏場には暑苦しそうな長袖に腕を通し、ジッパーを首まで上げる。で、スイッチを入れてファンが回りだすと、別世界! あまりのギャップに笑っちゃうくらいでした。
「なるほど、空調服ってこういうことだったのか。はぁー、なるほど、なるほど」
メーカーはその涼しさをよく「風呂上がりの扇風機」に例えますが、私が似てると感じたのは「自転車やバイクで服に風が入ったとき」です。
スピードの出る下り坂なんかで、袖や襟元から風が入り込んで、シャツや上着がボワンと膨らむことありますよね? アレです、あのときの涼しさ。汗でベットリした服が風で浮き上がり、一気に寒いくらいになるアレ。
「涼しすぎて風邪をひいた」といったユーザーの声も以前は誇張だと思っていましたけど、今なら納得です。
●小型バッテリーがナイス
最初に雨の日に傘をさした人は物笑いの種になったそうです。岡本太郎は母が洋服で街に出たらみんなに指さされて恥ずかしかったと語っている。自転車の変速機は「女子供が使うもの」でレースに使おうなんて狂気の沙汰でした。
要するに、新しいものが生まれるときって、こういう感じじゃないかと思うのです。
「何だこれは、ギャグかと」
「売れるわけがないと思った」
「ドラえもんみたい(笑)」
取材で会った関係者も、初めてファン付きウェアを見たとき、こんなふうに思ったと語っていました。
記事を書き終えた今でも私はこう思っています。
それにしても珍妙だ。こんなものが本当に当たり前になるのだろうか? しかし、このウェアが涼しいことは紛れもない事実。熱中症を本気で防ごうと思ったら、もうこれしかないじゃないか、なにを迷う必要がある? いや、でも……。
見た目や価格を別にすれば、普及の壁になっているのはバッテリーでしょう。リチウムイオンバッテリーは重く、充電も面倒くさい。
私なんて大のバッテリー嫌いです。子供を乗せる3人乗り自転車ですら電動アシストを避けたくらい。単純に用事が増えるだけじゃなくて「充電を忘れないようにする」ということ自体、心労に感じるんですよね。しかも「しまった、充電されてなかった」みたいなことになったら、すごくガッカリするし。
そんな中で、各メーカーが発表した小型バッテリーは、かなり革命的だと感じています。
もちろん「小型・軽量」はすごい利点ですが、2、3個の小型バッテリーをローテーション充電しながら使うことでバッテリー切れの心配をなくせるのが大きい。「うっかり充電忘れ」のリスクも最小化できます。予備用として、もう一つくらい小型バッテリーを買っておけば、もう盤石でしょう。
こう考えれば「特殊なウェア」という感覚はかなり払拭できるかもしれません。
●ややこしい業界
まあ、それにしても……、ファン付きウェアはややこしいですね。
「元祖か本家か」みたいな話だけではありません。メーカー担当者や私のように取材した人間は「空調服はこうで、風神服はこう。あのメーカーのバッテリーは××製で」みたいな話ができるわけですが、ユーザーが自力で商品のことを調べて購入しようとすると、どうでしょうか?
「どのメーカーもウチの特許って言ってるけど……」
「ウェアやファン、バッテリーの互換性はどうなってるの?」
「買ってから廃番になったら困るよなー」
という具合で、ネットで調べ回っているうちに「もういいや!」となってしまうでしょう。
ショップでもyoutubeに商品比較の動画をアップしたりしていますが、涼しさや着心地というのは結局、なかなか伝わらないんですよね。
しかも、価格が2万円近くする。けっこう大きな買い物です。
ネット掲示板でファン付きウェアについての口コミを見てたら、こういう書き込みを見つけました。
「amazonで激安のヤツがあったからダメもとで買ってみる」
買う→すぐ壊れる→二度と買わねぇよ!
と、こういう流れが目にうかびます。
メーカーとしては「うちはうちの商品を作るだけ」、ショップとしては「それぞれの製品を売るだけ」で、だれも好んで混乱を作り出そうとしているわけではありません。しかし、結果だけみれば、富士の樹海も真っ青なカオスの極致になっているという……。
ああ、怒られそうなのでこのへんでやめておきましょう。最後に一言だけ。
ユーザーが気の毒だ!
☆
あーすっきりした。というわけで来月も「月刊まいど屋」をよろしくお願いいたします。