まいど通信
まいど! 編集長の奥野です。今回は1年ぶりとなる白衣特集をお届けしました。季節の変わり目ということで、ちょっと体調が……なんて読者も多いかもしれません。そんなときはぜひ今回の特集を読んでから病院へどうぞ。ナースやドクターをはじめ、病院スタッフの恰好もチェックして、「この医師は小児科かも」「きっとリハビリ担当だな」という具合に推察してみるとおもしろいですよ!
●フェリーで韓国へ
さて、今この原稿を書いているのが9月25日。いつもより3日ほど遅いペースです。27日の朝には入稿しないといけないのに、ああキツイ、苦しい――。と、こんなことになってしまった原因はハッキリしています。9月の半ばごろまで韓国に行っていたからです。
大阪と釜山を結ぶ国際フェリーの乗船ルポを書いてほしい、との依頼があり、船旅で韓国に行くことになったのです。乗船中はいちおう取材ですが、向こうでは何をしてもOK(ただし自腹)。というわけで、船1泊(往路)・韓国2泊・船1泊(帰路)という4泊5日のプランを組みました。要は半分仕事、半分遊びです。
韓国でどこに行くか? これはけっこう悩みました。最終的には釜山の国際フェリーターミナルに戻ってこないといけないので、あまりややこしいところには行けません。ちなみに釜山の街は2年前にも遊び歩いたので、今回はいいかなという感じ。いっそ韓国から対馬に行こうか、でもそれだとなんか消極的すぎるな……と考えた結果、「扶餘(プヨ)行き」が浮上しました。
扶餘とは、朝鮮半島が三国に分裂して覇を争っていた7世紀ごろ、百済(くだら)最後の都だった土地です。ここを唐と新羅の連合軍に攻められ、660年、百済は滅亡しました。このあと百済復興のために倭(日本)が半島情勢への介入を深め、663年、扶餘近郊の白村江(現地名・錦江)で唐の水軍と激突したのは有名な話です。
つまり、扶餘は日本が初めて対外戦争をした土地であり、同時に日本と歴史上いちばん仲が良かった国、百済があった場所――。これは行っておかないと、有名な古墳もあるし! というわけです。
ちなみに同時期の新羅の都「慶州(コンジュ)」には、2年前の釜山旅行のついでに足を運んでいるので、朝鮮半島の古代三国のうち、新羅と百済は「訪問済み」になります。最後に残った高句麗の都は平壌なので、三国コンプリートとなると難しそうですが……。
●いざ、白村江!
10時過ぎに釜山港に到着し、さっそく高速鉄道KTXに乗り込んで韓国旅行がスタート。韓国語はできないものの、『地球の歩き方』からハングルを書き写したメモを出せばなんとかなります。
韓国はもともと漢字文化圏ですが、今や表記はすべてハングルです。一例を挙げれば、韓国語でビールは「メクチュ」で、せっかく発音が「麦酒(ムギシュ)」に近くてわかりやすいのに、表記は「맥주」。ハングルは意外と簡単に身につくらしいんですけどね……。
鉄道から高速バスを乗り継ぎ、扶餘についたのは午後三時。新羅に破壊されたという寺院跡と国立博物館をささっと巡って、郊外のリゾートホテルにチェックイン。どうやら歴史と自然が楽しめる場所として売り出し中のようで、ホテルのまわりには百済の街並みを再現したテーマパークやゴルフ場もありました。アウトレットモールで簡単な食事をとって明日に備えます。
翌朝、ホテルを出て向かったのは「扶蘇山城」。タクシーの運ちゃんに「このへんでいい?」と降ろされ、やや迷ったもののなんとか入口に到着。30分ほどハイキングコースを登って、ようやくお目当ての「落花岩」に着きました。白村江を望める高台です。
前述の百済滅亡の際、ここから百済の宮女三千人が身投げしたと言われおり、今は白村江の展望台として整備されています。たしかに崖ではあるものの「断崖」というほど切り立ってはいないところが妙に生々しい。追い詰められて「もう命を絶つにはここくらいしか……」という状況だったのではないでしょうか。今も昔も、国が亡ぶときには必ず起こる悲劇です。
ここから見る白村江は絶品でした。1300年以上前、日本人はここで新羅の要請で出兵していた唐の水軍に大敗し、この敗戦をきっかけに律令国家としての体制を大急ぎで整備し始めることになりました。敗戦の地であると同時に日本の始まりの地でもある……と、さまざまなことに思いを巡らすわけですが、波ひとつ立たない白村江の流れを眺めていると、なぜかそんな歴史もどうでもよくなってきます。
国が滅びようが戦に負けようが、川は流れる。確かなことはそれだけではないか――。半島の覇権を賭けた国々のエピソードも、悠久の流れの前では、魚が跳ねた程度のことなのでしょう。
このように思い付きで決めた扶餘行きですが、結果的に歴史ファンとして一皮むける体験となりました。さらに東アジア史の感覚を養うために、私はまた古代史の現場に足を運ぶでしょう……。たとえ〆切がヤバくなるとしても!
☆
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回の特集は、いよいよ皆さんお待ちかねの「秋冬作業服」です。お楽しみに!