まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。今回は、毎年恒例の鉄板ネタ「空調ウェア特集」をお届けしました。季節はもう夏直前! なんとか空調服シーズンに滑り込みセーフできて、ほっと胸をなでおろしているところです。さあ、今年もファンをフルパワーでぶん回して、猛暑を乗り切っていきましょう! 「今年は流行のカッコいい服がいいなあ」「もっともっと大風量が欲しいんだけど」「バッテリーの持ち時間が……」といったことでお悩みの方は、ぜひ「まいど屋」で新商品をチェックしてみてください!

●「空調パンツ」という革命

先月号の特集「こっそり教える空調服の裏事情」のなかでも、少し触れましたが、編集長は昨年の夏から空調服を愛用しています。そして今シーズンとくに気になっているのは、ブルゾンやベストでもデバイスでもなく、じつはパンツなのです。そう、カーゴポケットのあたりにファンを取り付けたアレ。まだ展開しているメーカーの少ない新ジャンルの空調ウェアです。

取材でファン付きウェアを試着させてもらうことはあるものの、さすがにパンツは未経験。去年からずっと、あれってどうなんだろ? どのくらい効果あるんだ? 邪魔にならないのかな? と思っていたのです。これらを明らかにするには、やはり使ってみるしかないだろう、ということで先月、某メーカーのファン付きハーフパンツを買ってみました。

うちにあるケーブルは上着用なので、長さが足りないかも……と心配していたのですが、配線してみるとギリギリOK! さっそくバッテリーとつないで稼働させてみることにしました。と、まだ汗をかくような気温ではないのに、けっこう涼しい。また下着の中まで風が入り込んでくる--いや股間に風が当たるのは、なんだか変な感じです。考えてみれば、風呂は屋内だし海水浴でも海パンは穿いているわけで、下半身にガンガン風を浴びるってあんまりないですからね。

そんなわけで最初は落ち着かなかったのですが、しだいに「これは空調服の上着とは別物なのではないか?」といったことを考えるようになりました。一体どういうことか。まず空調服が体を冷やすメカニズムはインナーから汗を気化させることにあります。汗をかかない状況で、ウェア内に風を送り込んでもべつに涼しくならない。つまり、それほど暑くないシチュエーションでの空調服は「なし」なのです。

これに対して、空調パンツは汗をかかない状況でも「あり」ではないかと思ったのです。つまり、普通の服で耐えられるような日でも、股間の蒸れ感をゼロにする快適ボトムスとして活用できるのでは、と。湿度の高い日のお出かけや通気性の悪いイスに長く座っているようなケースでも、空調パンツなら、お尻の表面はもちろんのこと、汗ばむ△△と□□の間、××の襞や裏側までずっとサラサラです。

改めて考えてみれば、股間とは形状的に蒸れやすいにもかかわらず季節を問わず覆っておく必要があり、風通しを良くしようとすると警察のご厄介になってしまうという難しいパーツです。この問題は根深くて、古代に人間が股間を布で隠すようになってからずっと続いていると思われます。楽園で暮らすアダムとイヴが禁断の果実を食べた結果、羞恥に目覚め、イチジクの葉で股間を隠すようになって以来、延々とです。そう「股間の蒸れ」は、神が人間の原罪に対して与えた罰と言っていいでしょう。

しかし、どうでしょう。空調パンツを穿けば、常に股間に風が通り続けるのです。人間が何万年も苦しめられてきた陰部の蒸れは、ついに完全解決を見ました。古代の農業革命、近代の産業革命、現代の情報革命に続く「股間革命」の瞬間です!

●ファン付き登山!?

空調パンツはめちゃくちゃ快適だからずっと使いたい--。こうなると新たな問題が出てきます。デバイスが足りないのです。空調パンツを使えば空調服が使えず、その逆もまたしかり。さらにパンツは上着より配線が複雑なので、ファンの付替えもひじょうに面倒。できれば洗濯するとき以外、ケーブルはつけっぱなしにしておきたい。

どうしよう、もうひとつデバイスを買うか? それもちょっと……。考えに考えて、編集長は“禁じ手”を使うことにしました。amazonで売っている「モバイルバッテリーで稼働する作業服ファン」をパンツに付けるのです。作業服メーカーのデバイスと比べてどうなのか、以前から興味がありました。この商品は通常デバイスに比べて格安で、しかも左右のファンとケーブルだけを買うことができます。ファンの直径が合うことを確かめて注文しました。

商品は数日で届いたので、さっそくテストしてみます。ケーブルを通してモバイルバッテリーとつないで、スイッチをいれると、ブゥン、という心地よい音とともに風が吹き込--よ、弱っ!! 作業服メーカーのデバイスより相当パワーは劣ると聞いていたものの、ここまでとは! 「強」にしても、空調服デバイスの「弱」以下の風しか出てこない。試しに上着にも取り付けてみましたが、かろうじて風は流れるものの、じゅうぶんにウェアをふくらませることはできませんでした。やはり、モバイルバッテリー稼働のファンは、空調服デバイスの代替にはならないことがハッキリしました。

しかし、そんなことは織り込み済みです。このファンはパンツ専用と割り切ればいい。空調服のように汗を気化させて冷やすのではなく、パンツの中の熱気や蒸れを逃がすだけなら、この風量でもギリギリ許容範囲なのです。

というわけで、空調パンツを使って活動してみることにしました。“初陣”に選んだのは近所の低山。12kmほどのハイキングコースです。パンツなのでバックパックと干渉する心配もなく、簡単に導入できました。ファンやバッテリーが足運びの邪魔になることもありません。林道をのんびり歩いて登山口に取り付くと、急な登りが始まりました。冬でも汗ダラダラになるキツイ区間です。

汗止めの手ぬぐいを額に巻き、トレッキングポールにすがって必死で登る。くそ暑い、めちゃきつい……、と口に出そうになったとき、きょうは空調パンツを装備していることを思い出しました。使うなら今しかない、スイッチON!

山の清風が股間を吹き抜けます。じっとり汗ばんだ尻に貼り付いていた下着が、歩く振動もあってパラリと剥がれていく。裾から出る風には意味を感じなかったのでドローコードで軽く絞るとパンツがやや膨らみ、風回りがよくなりました。これはすごい、気持ちいい!

登っているときは蒸れを逃がす効果しか感じないものの、休憩時には多少、体を冷やしてくれることもわかりました。切り株などに浅く腰掛けて、ベルトを緩めてファンを回すと、汗ばんだ腰まわりや背中をクールダウンさせることができます。水を飲んだりお菓子を食べたりするくらいしかやることがなかった休憩時間に「涼をとる」という新たな選択肢が登場しました。

問題点も少しはあります。まず稼働音ですが、これは人とすれ違うときなどはOFFにすれば問題ありません。もうひとつはヤブです。草や葉がファンに入り込むと異音がしてビビります。この日はヤブをかき分けているとき、突然すさまじい音がして、未知の生物が襲いかかってきたのかと思いました。山に行くときは異物が入らないようにする不織布のカバーをつけたほうがいいのかもしれません。

下山後、バスを待っていたら、同じような単独のハイカーから「それどうですか?」と聞かれました。いきなり股間の蒸れについて語り始めるわけにもいかないので「ああ、けっこう涼しいですよ」と答えるわけですが、本当のことが伝えられないのがもどかしい。今後ユーザーが増えて、空調服とはまた違った空調パンツの功徳について、おおっぴらに語れる日が来ることを待ち望んでいます。

   ☆

というわけで、今月も最後までお付き合いいただきありがとうございました。次回も『月刊まいど屋』でお会いしましょう!