【アシックス】アシックスの真相を話してしまおうimage_maidoya3
もうそろそろ時効だから話してしまおうか。このことは墓場まで持っていくと当時は思っていたのだが、気が変わった。気が変わった理由は、気が変わったからで、それ以上でも以下でもない。こんなつまらないことにこだわり続けて、読者の皆さんの知る権利を侵害し続けることに確かな意味を見いだせなくなってきたのだ。だから今回、長年の自己規制を破ってこのレポートを書く。
  実は、この月刊まいど屋では、過去に一度だけ、意図的に偽りの記事を掲載したことがある。それは100パーセント嘘ではないが、真実ではなかった。黒ではないが、ジャーナリズムのありかたとしては限りなくグレーに近い。やむにやまれぬ事情があったにせよ、その行為が必然的にもたらしたトラウマは、ずっと編集部を苦しめてきた。それは倫理的・道義的な意味でも、そしてプラクティカルな意味でも、編集部を深く傷つけた。そう、プラクティカルな意味では月刊まいど屋の毎月のレポートを楽しみにしてくれている皆さんにも実害が及んでいるのだ。もうこんな状態には終止符を打たなければならない。
  読者の皆さんが知らないうちにどんな損害を被っているのか。それをこれから話そうと思う。タイトルを見てお察しの通り、それはまいど屋が取り扱う安全靴の中で、断トツの人気を誇るアシックスにまつわる話だ。皆さん、不思議に思われたことはないだろうか。これほどの人気ブランドが、月刊まいど屋では過去に一回だけしか紹介されたことがないことを。最初で最後の取材は今から3年以上前のことである。その取材で何かがあった。そしてそれ以来、編集部ではアシックスの取材をすることを避け続けてきた。皆さんからどんなに熱い要望が寄せられても、このメーカーを企画に加えることは頑なに断ってきた。
  バックナンバーにある2012年3月号の記事を改めて読み返すと、そのときまいど屋が味わった悔しさが今もありありと蘇ってくる。レポートの本文、茶色で始まる文章は、「諸事情により、インタビューの相手の名を明かすことができない」とわざわざ断り書きをして始まっている。その人物はアシックスのワークシューズにとても詳しいA氏だと書いている。今だから告白すると、A氏とはアシックスに詳しい業界の事情通などではなく、当のアシックスの商品開発担当者だ。開発担当の張本人だから、もちろんアシックスにとても詳しい人間だと書いても全くの嘘ではないのだが、常識的に解釈すれば読者をミスリードしていると非難されても仕方がない。せっかくアシックスに直接取材をしているのに、なぜそんなみっともない記事になったのか。
  読者の皆さんには改めてお詫びをしたい。当時のレポートは書き直されている。もちろん、商品説明や開発のエピソードなど、内容の大筋は初稿のままだが、アシックスの人間がインタビューを受けたことだけは注意深く伏せるように改稿されている。記事をアップする直前になって、どこからともなく大きな圧力がかかったのだ。今さら敢えて批判めいたグチは言うまい。今回の企画で正々堂々とアシックスを訪ね、アシックスの名前を掲げてレポートをしよう。あのときのことは水に流し、前だけを向いてこの屈指の人気ブランドをフォローしていこう。月刊まいど屋を信頼し、楽しみにしてくれている多くの読者の皆さんのためにも。
 

アシックス
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アシックスジャパン(株)の社屋(東京都江東区)
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耐滑性に優れた新ソール
空は曇っていた。今はまだ大丈夫だが、運が悪ければ、何かの拍子に本降りになるかもしれないな。5月下旬のとある日。場所はアシックスの東京本社前。灰色のグラデーションがかかった上空を見上げながらぼんやりとそう思った。まるで今回の取材が引き起こすであろうトラブルを暗示するみたいに日差しは遮られ、辺りは薄暗かった。でもまあ、大丈夫だろう。本格的に困ったことになることはおそらくあるまい。取材後にあちこちからうるさいことを言われないように、取材相手の名前さえ伏せておけばいいのだ。読者の皆さんにはまた叱られてしまうかもしれないが、そうしておけば、深刻な事態だけは避けられるだろう。だが、前回のように素性不明の人物の話としてレポートを進めることは絶対にしない。そこだけは譲れない。編集部なりに決めたルールを反芻し、深呼吸してビルの中に入る。
  迎えてくれたのはアシックスの作業用シューズを管轄するワーキングプロダクト部門の営業さんだった。部門の立ち上げ時からかかわってきたというベテランの営業マンだ。このレポートでは便宜的にBさんと呼ぶことにする。「これが、この春、発売した新商品。全部で7モデルあります。今年は、ここ5年のうちでも最も多く新商品を出したんです。数が多いのでまいど屋さんは在庫が大変だと思いますけど」。新商品が机の上に並んだ会議室で、Bさんはいたずらっぽい笑顔を浮かべて話し始めた。そう、ここにある新商品はインタビューが終わるとすぐにまいど屋に入荷してくることになっている。全7モデルの全色、全サイズ。Bさんが言うように、かなりのボリュームになりそうだが、それでもアシックスに限っては安心できない。お客さまの反応が他ブランドに比べて圧倒的で、すぐに欠品してしまうからだ。そして一度切れると、次はなかなか入荷してこない。モノによっては、数か月も待たされることもある。今回のインタビューで各商品の詳しい説明を聞き、内容によっては在庫の積み増しも考えなければならない。
  さて、各新商品の話を始める前に、アシックスにそれほど馴染みがない読者のために、まずは同社の作業靴のこれまでの歴史を簡単に振り返ってみよう。レポートをわかりやすくするため、Bさんの言葉を借りながら、今日本で最も勢いのあるこの人気ブランドの現状と、過去から現在に至る大まかな流れをまとめてみる。「ウチの作業用シューズは、現在、業界トップクラスの伸びを示しています。急激に成長したのは2年ほど前から。おかげさまでユーザー認知度も格段に高まりました」。スポーツシューズでは知らぬ者のないほどの存在であるアシックス。だが、そのブランド力をもってしても、ワーキング関連シューズの立ち上げ時はかなり苦戦を強いられたという。「もう10年以上も前のことかな。作業靴が1,980円とか、2,980円で売られるのが当たり前だった中、アシックスは税別で7,000円の商品を出した。値段が値段なので、こんなに高いもの、売れるわけがないと、店に置いてもらうことすらできなくて・・・」。
  だが、やがて、アシックスならではの使用感が徐々にユーザーに認められ、現場にジワジワと広まっていったのは、皆さんご存じの通りだ。「どうせ買うなら疲れにくいものをと試しに買って、一度履いたら、もう今までの靴には戻れないと感じる。ユーザーはアシックスを使ってみて初めて、アシックスの価値を発見するんです。店頭では奮発したつもりだったけど、後になってものすごくいい買い物だったことを実感する。それでアシックスなら、それだけの金額を払ってもいいと思う人がどんどん増えていったんです」。
  価格に対する心理的な抵抗感が薄らいでしまえば、当然ながら、もう一段スペックを上げて、さらに高価格帯のコレクションを充実させようと思うのは自然な流れだ。この春の新商品発表は、その文脈においてマーケティング的な必然性を持つものと言える。店頭価格が1万円程度になったとしても、決してムリな価格設定ではない。アシックスがユーザーの啓蒙活動に苦労していた立ち上げの頃とは状況が違うのだ。NEWラインナップは、アシックス初となるJIS規格安全靴が2モデル、耐滑性に優れた新ソールを搭載したJSAA規格A種が5モデル。「従来品に比べて、すべての面でグレードアップしていますよ。価格もそれなりにアップしていますけど(笑)」。
  それでは、新商品はどんな面々なのか。ここから各論に入っていきたい。まずはアシックス初のJIS規格安全靴、黒くてシブくてカッコいい『70S』(ローカット)、『71S』(ハイカット)から。「今年1月に先行発売して、つい最近全国一斉発売しました。ローカットもハイカットもJIS T 8101 革製S種 E・F合格で、動きやすさ、履きやすさ、疲れにくさなど、シューズ一般に求められる本質的な機能にもこだわっています」。
  アッパーのベースは天然皮革、ソフトな当たりの履き口はメッシュ素材。先芯はガラス繊維強化樹脂製。つま先には補強ラバー、カカトにはスポーツシューズでお馴染みの衝撃緩衝材『αGEL』が鎮座して足腰にかかる負荷を軽減する。さらに、ミッドソールには足の自然な動きをサポートする屈曲溝、中敷きにはシリコンプリントの滑り止めと、こだわり仕様がこれでもかと盛り込まれている。よく見ると、側面のアシックスラインには再帰反射材も付いている。「ユーザーさんからは仕事がしやすい、疲れにくい、動きやすいなどの声をいただいています。価格的なこともあり、現在のところは『70S』(ローカット)の方がよく出ていますが」。
  一方、3月に先行販売、5月に一斉発売された新ソール搭載モデルは、タイプいろいろ。5モデルともJSAA規格A種認定合格品だ。「労働事故調査のデータを見ると、事故の原因では“転倒”が占める割合が高く、転ぶ原因では、“つまずく”“滑る”のウエイトが高い。そこで、より安全に履いていただけるよう、素材と意匠の両面からこれまで以上に滑りにくく、また、つま先を上げたフォルムによって、よりつまずきにくくしたソールを開発しました」。
  この春の展示会では、来場者にこの新ソールの耐滑性を広く知ってもらおうと、油を塗って滑りやすくした鉄板の上で試し履きする体験会を行ったという。「アシックスの従来品や、耐滑性を謳った他社製品と履き比べていただきました。すると口々に“全然違う”と言ってくれて・・・。新ソールの耐滑性を身をもって体感すると、皆さん目の色が変わりますよ」。そんな圧倒的な耐滑性能の他にも、この新ソールには特筆すべき特徴がたくさんある。素材は耐油性、耐摩耗性に優れたものを使っているし、クリート(滑り止めとなる出っ張り)には、買い替えの目安となるスリップサインまで入っている。もちろん、カカトには衝撃緩衝材『αGEL』が採用され、すべてにおいてグレードの高い仕上げとなっているのだ。
  では、ここから、その新ソール搭載モデルを順に紹介していく。フルフラップの『CP101』は、ホコリや砂のかかる現場、薬品や溶剤などを使う現場にオススメの逸品。「1枚の幅広フラップで甲をすっぽりカバーして足をプロテクトします。ソール内に、ねじれを抑えるシャンクを入れているので歩行に安定感があり、疲労軽減にもつながります」。
  ムレが気になる向きは、アッパーの一部にメッシュを使った『CP102』(マジックタイプ)または『CP103』(紐タイプ)がいいだろう。「メッシュは軽くて通気性に優れていますが、擦れて破れやすいという弱点もあります。これを補強材によってカバーし、デザインもカッコよくスポーティーに仕上げています」。
  そして最後は、シンプルな黒のハイカット『CP501』と、ビジネスシューズとしても通用する『CP502』。「製造業ではデザイン性を嫌うところもありますから、アシックスのトレードマークであるラインデザインを外してすっきりと仕上げました。短靴のほうは、スーツと合わせても違和感のないデザインで、現場にも行くけど、営業にも行くという方にオススメです」。
  以上が今回リリースされたニューコレクションの概要である。編集の都合上、かなり端折っての紹介になってしまったが、各商品とも非常に野心的で、最先端のモデルであることが読者の皆さんにうまく伝わっただろうか。専門的過ぎてよくわからなかったという読者のために、もう一度簡潔に言っておくと、今回の新商品は、全てが「買い」だ。これは長年、様々な安全靴を追いかけてきた編集部がプライドをかけて断言できる。これほどの出来栄えのシューズはめったにない。まいど屋でもさっそく在庫を積み増すつもりだ。
  取材が終わってアシックス本社のビルを出ると、空にはすこし薄日が差しているようだった。心配した雨は降らなかったようだ。願わくは、このレポートが発表されても、前回のようにどこからか横ヤリが入り、再びトラブルが起きたりしないように。そして編集部にかかってくる大きな力が、今朝の曇り空のように知らぬ間に姿を消してしまうように。最後になるが、取材に協力してくれたBさんには心から感謝の意を表したい。そして「Bさん」としか表記できないレポートに最後まで付き合ってくれた読者の皆さんにも。
 
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カラフルなNEWモデル(左からCP101、102、103)
 

    

真のプロフェッショナルに捧ぐ!どれをとっても最高峰の出来栄えに惚れ惚れするワーカー待望のザ・安全靴、FFRシリーズ

安全性だけでなく履きやすさにも徹底的にこだわったJIS T8101 革製S種 E・F合格品。カカトには衝撃吸収材『αGEL』。ミッドソールには足の自然な動きをサポートする屈曲溝、中敷きにはサッカーシューズなどでお馴染みのシリコンプリントの滑り止めも。アッパーサイドのライン端に再帰反射材付き。サイズ22.5~30.0cm、3E相当。JSAA規格A種・日本保安用品協会・プロテクティブスニーカー規格認定合格品。


コイツを知ったら、もうほかのシューズには戻れない!知りうる限り、最高レベルの履き心地を実現したFCP101

幅広フラップで甲をすっぽりプロテクト!水や砂がガンガンかかる現場や、薬品・溶剤などを使う現場にオススメのフルフラップタイプ。耐滑性に優れた新ソールは、ねじれを抑えるシャンクを入れて安定した歩行と疲労軽減に一役。カカトには衝撃吸収材『αGEL』搭載。サイズ24.0~30.0cm、3E相当。JSAA規格A種・日本保安用品協会・プロテクティブスニーカー規格認定合格品。