【谷沢製作所】世紀の大発明をスクープするimage_maidoya3
初めてそれを目にしたとき、最初は目を疑った。そして話を聞いて、今度は耳を疑った。あるべきものがそこにない。それが何を意味するのか。業界関係者の端くれとしてある程度の知識を持ち合わせているから、余計に頭を抱えてしまうことになる。常識で考えれば、それはそれではない。外からは美しく見える男女の友情にも例外なく下心が隠されているように、または仲がいいと評判の夫婦の結婚生活にだって家庭内では必ず多少のいざこざがあるように、これまでそれは必ず不細工で不機嫌な、ある種避けがたい宿命的な付随物を伴って世の中に存在していたはずだった。初めてそれが我々の目の前に現れるまでは。
  ヘルメットの内側に装着されているライナーの話である。ヘルメット業界のリーディングカンパニーであるタニザワが今回突然我々に突きつけてきたのが、発泡スチロール製ライナーのないヘルメットだ。ここでヘルメットをあまり使い慣れていないひとのために解説をしておくと、ヘルメットには大きく分けてライナー付きとライナーなしの2種類がある。ライナーというのはヘルメットの内側に挟み込む衝撃吸収体のことで、これが装着されているものは、万一墜落した場合でも、なんとか頭部を守れる仕様になっている。ライナーなしのヘルメットは飛来物や落下物が当たったときの衝撃を吸収するだけの性能までしかなく、軽作業ならともかく、本格的な仕事に使っていると労基署から指導を受けることになる。だからいくらスチロールの感触がうっとうしくても、夏場はムレて暑くても、ワーカーたちはライナー付きのヘルメットを我慢して使ってきた。ヘルメットなんて所詮そんなものなのだろうという、男女の友情や結婚生活に対する諦観にも似た気持ちを抱きながら。
  ところが、である。今度のタニザワのヘルメットはあの宿痾のような発泡スチロールをすっきりと取り払ってしまった上に、墜落時の衝撃吸収基準も満たすという離れ業をやってのけた。詳しいメカニズムは以下の本文に譲るとして、とにかく、ワーカーはフィット感のよさと涼しさと、そして安全性を同時に手に入れたことになる。これなら労基署にうるさく文句を言われることもない。監督官にスチロールがないじゃないかと怒られたら、彼にこの月刊まいど屋のコピーを突き付けてやればいい。初めはきっと不審な顔をするだろうが、レポートを読み進めるにしたがって何度も首を振り、最後はしぶしぶあなたの新しいヘルメットに祝福を与えてくれるだろう。
  このヘルメットは今まで長らく信じられてきた現場の常識に革命を起こす。一体どうしてそんなことが可能になったのか。さっそくタニザワの営業・樫本さんの話を聞いてみよう。
 

谷沢製作所
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営業部の樫本課長
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風通しのよさがスケルトンで一目瞭然!発泡スチロール製ライナー(左)とエアライト(右)
「私自身、ヘルメットに携わって20年。その中で、『エアライト』は最も大きな革新です」。営業部の樫本課長がにこやかにそう切り出し、インタビューが始まった。誇張された営業トークによくあるような、大げさな胡散臭さは全く感じられない。事実を淡々と語っているような、静かな自信に満ち溢れた物言いだ。話を聞く前から相手のペースに乗せられてしまうのは、ジャーナリズムとしてあまり好ましいことではないのだが、今回に限って編集部も彼の言葉に100パーセント同意する。だからこそ、わざわざこうして時間を割いて取材にやってきたのだ。
  レポートを始める前に、予備知識として読者の皆さんにお伝えしておくと、エアライトシリーズは日本で初めて、発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーがないヘルメットで墜落時保護用の検定を取得している。そして2014年7月に発売して以来、右肩上がりで実績を伸ばしている。では、具体的にその革新がもたらしたメリットは何か。樫本課長に解説してもらおう。「『エアライト』は涼しさと安全性を両立させた内装です。従来の発泡スチロールを無くす代わりに、ハンモック部分に六角柱の衝撃吸収体『ブロックライナー』を一体成形しました。これによりヘルメット内の空間が約1.5倍に広がり、歩いたり風が吹いたりすると、顔に当たった風が中に流れ込んで換気し、ヘルメット内の温度や湿度が上がりにくくなります」。
  では、いったいどのくらい涼しいのか?ここにタニザワの従来品と比較した試験データがあるので紹介しておく。調べたのは、ヘルメットを着用して15分間運動した後の頭頂部の温度と湿度。試験環境は室温23度、湿度54%の室内である。
  で、結果は・・・というと、従来品は温度32.5度、湿度77.1%。エアライト搭載品は温度24.2度、湿度54.8%。なんと8.3度も温度差がある。さらに湿度に至ってはほとんど外気(室内)と変わらない。「“暑い”“ムレる”は、ヘルメットをかぶる方の一番の悩みです。通気孔付きヘルメットも出ていますが、それでも発泡スチロールがあるのでそれなりに暑い。営業をしていて“俺の頭がハゲたのは、おまえんとこのヘルメットのせいだ!”と言われたこともありました。それが、定価で300円アップするだけで解決するんです」。
  なるほど。メーカーさんにはいろんな苦労があるみたいだ。じゃ、苦労話ついでに開発の経緯にまつわる苦心談も語ってもらおう。「エアライトは2011年に開発に着手し、3年の歳月をかけて商品化したんです。それくらい時間がかかりました。ご存じの通り、発泡スチロールは軽くて衝撃吸収性に優れ、非常に安価。ウチだけでなく他のメーカーの中にも研究してきたところはあると思いますが、これに代わる素材となるとコストが合わない。そこで通気性のある代替品を探すのではなく、内装そのものに衝撃吸収性を持たせようと考えたわけです」。
  発泡スチロールをなくせば涼しくなるのは当然のこと。問題は、どうやって内装に十分な衝撃吸収性を持たせるか、である。「前後左右に六角柱のブロックライナーを配置し、万一の場合はこの六角柱が潰れて衝撃を吸収するようにしました。実を言うと、ウチの開発は2度ダメ出しを食らっています。もっと良くしろと本社から突き返され、3度目でようやく満足のいくものができた。完成までに3000個ものヘルメットを壊したんですよ。試験、試験の繰り返しで(笑)」。墜落時保護用の検定は、前頭、頭頂、後頭の上部3ヶ所をクリアすればOKだが、タニザワでは横からや下部からの衝撃も考え、独自の基準で計10ヶ所を加えて安全性をより確かなものにしている。そしてエアライトはそのほとんどの箇所で従来品と同等もしくはそれ以上の性能を発揮するという。
  「お客さまの反応は予想以上で、発売当初3ヶ月は注文が殺到して商品が順調に出せない状況でした。特に反響が大きかったのは電気工事関係。ヘルメットに孔を開けると通電してしまうので、電気用ヘルメットには通風孔付きタイプがなく、電柱に登っての作業などずいぶん暑い思いをされていたのでしょう。とにかく、それまで取引のなかった企業様からの引き合いが多くて驚きました」。タニザワが実施しているユーザー聞き取り調査によると、ユーザーの約96%がエアライトを「良い」と評価している(2015年6月現在)。同社に寄せられたユーザーのコメントの一部をここで拝借させてもらおう。「予想以上に風通しが良い」、「ムレ防止に効果がある」、「発泡スチロールの圧迫感がなくなった」、「軽く感じる」、「画期的な快適さ」、「金額以上の効果が見込める」、「沖縄の夏の日差しの中でも非常に涼しく感じる」、「体への負担が減った」、「作業効率が上がった」等々。。。
  「それに、着用感が劇的に向上する以外のメリットもあるんですよ」と樫本課長は補足する。「安全性の徹底という面でも高評価をいただいています。発泡スチロールのライナーは安全確保のための重要な部品ですが、いくら安全担当さんが“外すな!”と口を酸っぱくして言っても、現場では暑いから外してしまう方がけっこういらっしゃる。でも、この『エアライト』なら心配無用。そもそもそういった問題が起きません」。
  また、『エアライト』は簡単に帽体から外せるので、洗ったり、交換したりも容易。ユーザーさんの中には、いちいち外さず、帽体ごとジャブジャブ丸洗いする方もいるのだとか。仕事終わりに水洗いし、そのまま一晩乾かして翌朝かぶるのだそうだ。なお、ついでに言っておくと、ヘルメットの寿命は3~5年だが、『エアライト』は従来の内装と同じく1年での交換がオススメ。というのも、材質が劣化して硬くなると、衝撃吸収力が弱まってしまうからだ。
  「『エアライト』は人気のある商品から順次導入しています。100種類超える当社のヘルメットのうち、2015年9月現在で18種類に搭載しています。容積が小さいタイプなど、型によっては現状の『エアライト』ではかぶり心地が良くないものもあるので、当面は発泡スチロールと並行して出していきますが、いずれは全アイテムを切り替えて発泡スチロールを無くしていくつもりです」。樫本課長はそう言ってインタビューを締めくくった。とりあえず今年の夏は乗り切ったけど、秋もまだまだヘルメット内は暑い!という皆さん。以下にエアライト搭載品の一部を紹介しておくので、チェックしてみてくださいね。あの暑ムレ地獄から皆さんが解放されるお手伝いが出来たなら、編集部としてもとてもうれしく思います。
 
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内部はすっきり広々!六角柱のブロックライナーに注目!!
 

    

通気孔とエアライトでさらに涼しく!しかも溝付きで雨の日の作業も軽快!広い視界で視認性もバッチリの透明ひさし付きヘルメットST#1610-JZV 

開放感ある透明ひさしは、広い視界で障害物や落下物の視認性を向上。雨天時の不快な雨垂れを防ぐ溝付き構造は、側面からの圧力にも強くて安心。素材は耐熱、耐候性に優れたポリカーボネート。ヘッドバンドは、ヘルメットを装着したまま片手でカンタンに調節できるEPA付き。重量445g、内装J型。カラーは帽体4色×ひさし3色を組み合わせた6バリエーション。


スタイリッシュなデザインで人気!耐電性に優れたPC素材で電気工事に対応!視界が広がる透明ひさしと雨垂れを防ぐ溝付き構造のST#161-JZV

耐燃・耐熱、耐候、耐電性に優れたポリカーボネート製ヘルメット。クリアでワイドな視界を確保する透明ひさしは、上向きの作業や天井高の低い作業などに力を発揮。しかも、雨垂れを防ぐ溝付き構造で雨天時の屋外作業をサポート。ヘッドバンドは、ヘルメットを装着したまま片手でカンタンに調節できるEPA付き。重量445g。内装J型。カラーは帽体4色×ひさし4色から成る7バリエ。