その男は前触れもなくまいど屋を訪ねてきた。暖かな風が吹く、4月の夜のことだった。ゴールデンウィーク間近の編集部内には、いつもと違ってどことなく緩んだ、連休前のそわそわした雰囲気が漂っていた。すべての物ごとが予定通り順調に進んでおり、しばらくはこのまま何事もなく穏やかな日々が続くものだとその場にいた誰もが考えていた。その男がまいど屋に現れるまでは。
男と会うのは半年ぶりだった。その時の彼とのいきさつは、去年12月のレポートで読者の皆さんに報告した通りだ。ひょんな成り行きで一緒に危ない橋を渡ってしまったまいど屋とその男は、それから当然の帰結としてお互いの致命的な秘密を握りあう関係になっていた。そしてそうであるからこそ、両者は申し合わせたように、相手へのコンタクトを、まるでドラキュラが満月の夜を避けるみたいに注意深く絶っていたのだ。共犯者が連絡を取り合うくらい危険なことはないからだ。そんなものの道理をわかっているはずの彼が、どうして敢えてまいど屋に足を運ぶ気になったのか。
久しぶりに見た男の顔にはやつれたような色が浮かんでいたが、心配していたほど元気をなくしている様子はなかった。ただ、何か思いつめたような眼差しをときおりこちらに向かって投げかけ、そのたびにふうっと大きく息を吐きだした。彼が重大な決意を持ってここに来ていることは間違いなかった。事前に連絡をくれていれば、こっちだってそれなりの準備を整えておくこともできたのだが、そして彼の申し出に対して的確な返事をすることだってできたはずなのだが、そうした配慮は彼の興味の外であるらしかった。いいネタを持っていますと男は言った。
今こうして自重堂に関するレポートを書き始めながら、男のオファーを引き受けてしまったのはなぜなのだろうと何度も自問している。あの時まいど屋がもっと冷静だったなら、その場で丁寧に礼を言い、その上で何とか理由をつけてお断わりすることだってできたはずなのだ。断る理由は山ほどある。去年の特集では各方面から様々な圧力を受けて編集部全体が疲労困ぱいしたし、実際問題として、今月号の作業服特集はその時点で既に他メーカーの企画が細部まで固まっていたのだ。あとは連休明けにいつものようにそのメーカーを取材して原稿を仕上げればいいだけだ。今さら予定を変更するにはリスクと負担が大きすぎる。だが、我々は彼が危険を冒してまいど屋と再び組む気になった理由がどうしても知りたかった。そのとき編集部に湧き上がったそうした衝動的な渇望は、素人には推し量ることのできない職業的な登山家の心境に似ていたのかもしれない。あるいは危険を承知していながら相手に接近してしまう道ならぬ恋のようなものだったのかもしれない。
男はこちらの返事を待たずにまいど屋のオフィスを大股で横切り、奥の会議室のドアを開けて手招きした。男に逆らう意思はもう我々には残っていなかった。編集部のスタッフは全員うなだれたように椅子に腰かけ、彼がテーブルに広げた商品の説明を聞き始めた。
男と会うのは半年ぶりだった。その時の彼とのいきさつは、去年12月のレポートで読者の皆さんに報告した通りだ。ひょんな成り行きで一緒に危ない橋を渡ってしまったまいど屋とその男は、それから当然の帰結としてお互いの致命的な秘密を握りあう関係になっていた。そしてそうであるからこそ、両者は申し合わせたように、相手へのコンタクトを、まるでドラキュラが満月の夜を避けるみたいに注意深く絶っていたのだ。共犯者が連絡を取り合うくらい危険なことはないからだ。そんなものの道理をわかっているはずの彼が、どうして敢えてまいど屋に足を運ぶ気になったのか。
久しぶりに見た男の顔にはやつれたような色が浮かんでいたが、心配していたほど元気をなくしている様子はなかった。ただ、何か思いつめたような眼差しをときおりこちらに向かって投げかけ、そのたびにふうっと大きく息を吐きだした。彼が重大な決意を持ってここに来ていることは間違いなかった。事前に連絡をくれていれば、こっちだってそれなりの準備を整えておくこともできたのだが、そして彼の申し出に対して的確な返事をすることだってできたはずなのだが、そうした配慮は彼の興味の外であるらしかった。いいネタを持っていますと男は言った。
今こうして自重堂に関するレポートを書き始めながら、男のオファーを引き受けてしまったのはなぜなのだろうと何度も自問している。あの時まいど屋がもっと冷静だったなら、その場で丁寧に礼を言い、その上で何とか理由をつけてお断わりすることだってできたはずなのだ。断る理由は山ほどある。去年の特集では各方面から様々な圧力を受けて編集部全体が疲労困ぱいしたし、実際問題として、今月号の作業服特集はその時点で既に他メーカーの企画が細部まで固まっていたのだ。あとは連休明けにいつものようにそのメーカーを取材して原稿を仕上げればいいだけだ。今さら予定を変更するにはリスクと負担が大きすぎる。だが、我々は彼が危険を冒してまいど屋と再び組む気になった理由がどうしても知りたかった。そのとき編集部に湧き上がったそうした衝動的な渇望は、素人には推し量ることのできない職業的な登山家の心境に似ていたのかもしれない。あるいは危険を承知していながら相手に接近してしまう道ならぬ恋のようなものだったのかもしれない。
男はこちらの返事を待たずにまいど屋のオフィスを大股で横切り、奥の会議室のドアを開けて手招きした。男に逆らう意思はもう我々には残っていなかった。編集部のスタッフは全員うなだれたように椅子に腰かけ、彼がテーブルに広げた商品の説明を聞き始めた。
自重堂
Gジャンライクな『Jawin』 の新作『56400』(ワイン)。
『Jawin』 の新作長袖シャツ『56404』(ブラック)。
男の話は大体小一時間ほどは続いたはずだ。はずだ、と書いたのは、その場では男の話が全くと言っていいほど頭の中に入ってこず、ただ夕暮れの海辺でさざ波の音を聞いているような感覚に陥っていたからだ。だから、今こうしてここに記すレポートは、彼がまいど屋を出た後、万一の用心のために隠し録りをしていた録音テープから書き起こしたものだ。この男に対処する場合は、それくらいの注意が必要なのだ。特に今回のように男が腹をくくって開き直り、まいど屋が握っていたはずの男の弱みがあまり意味をなさなくなっているようなときには。
テープを聞き直すと、男はいきなり「新庄がね」と話を始めている。「今度のJawinはかなりヤバいことになっている」と男は言っていた。雑音で聞き取りにくいが、何とか意味を解釈すると、新庄の好みのカラーを使って新庄のために作った特別なモデルであることを自ら告白しているようだった。途中に「正真正銘の新庄モデルだ」という言葉が挟まっている。一瞬の静寂。今、改めてその場面を再生すると、そこにいた我々メンバーが生唾を飲みこむ音まで聞こえてきそうなほどの緊迫感がその場に漂っている。「悪いが今度のJawinは、ユーザーのために作られたものじゃない。そんなものはハナから眼中にないんだ。全て新庄のためなんだよ。まいど屋さんもよく覚えておいてくれ。まったくウチのxxときたら・・・」。情報源を特定されないよう、ここでは伏字を使わせてもらうが、そうした彼の告発がしばらく続く。「まいど屋さんのような発信力のあるところにこのネタを持ち込みたかったんだ。そうすりゃ、少しは世の中もよくなるかもしれない。俺のことはもうどうでもいいんだ」。
それから、まるで男は憑かれたようにしゃべり続け、我々編集部のメンバーが口をはさむことは最後まであまりなかった。思いのたけをぶちまけたことで多少はすっきりしたのか、それからは我々が知りたがっている個別のアイテムの商品説明に移っていく。「ギブアンドテイクですからね。わかっていますって。なんせ、俺たちは呉越同舟、おんなじ危ない橋を渡っているんだ。あんたたちの欲しいブツはちゃんと渡す」。
男はまるで独演会のような調子でしゃべり続ける。話があちこちに飛び、そのままここに書き写すと読者の皆さんが読みにくいと思うので、この後の場面は意味が通りやすくなるようにしゃべった内容の前後を入れ替えたり、多少の修正や補足を加えたり、また音声が不鮮明だったところはある程度の想像を働かせたりして書いていく。ただし、話の筋と要点はほぼそのまま忠実に再現しているので、男が伝えたかったことの意味自体は変わらないはずだ。「それじゃ、さっきの新庄モデルからいこうか。昨今、ワークの分野でもデニムがトレンドだよね。この『56400』シリーズは、そんなデニムを夏物で出そうと企画した『Jawin』(ジャウィン)の新作だ」。男はそう言うと、くすんだピンク系のGジャン風ジャンパーとインディゴのカーゴパンツを手に取り、我々の方に突き出した。「実はこの生地、デニムのようでデニムじゃない。ポリエステル60%、綿40%のダブルフェイスクロスという二重構造の生地で、綿だけ染色しているからデニムっぽく見える」。
男に促され、手に取って見ると、生地にはデニム独特の綾目がなく、ザラ感ある平織りといった感じ。見た目はしっかりとした厚手生地のようだが、実際は思った以上に薄地で軽い。そしてジャンパーにしろ、長袖シャツにしろ、カーゴにしろ、ステッチをかなり効かせてJawin史上かつてないほどカジュアル感を前面に押し出している。そのまま街着として着ても十分イケそうだ。「カラーは4色。シリーズの中で、新庄モデルはインディゴだけだ。ほら、インディゴだけが赤いステッチを使っているだろう?新庄は赤が好きなんだ。それで特に必然性を考えずに赤を使っているんだ。まあ、それにしてもあまりに新庄っぽい。おそらくユーザーにしてみれば好みが分かれるだろうな。嫌いな人はとことん嫌うだろう。そういうことを考えないんだよ、全く、ウチのxxときたら」。ちなみに新庄モデルではないワインとキャメルは黒ステッチ、ブラックは白ステッチ。色は違うが、やはり同じようにステッチを際立たせたデザインだ。
ジャンパーは、脇ポケットとペン差しに合成皮革のアクセントをあしらい、ワイルド感をプラス。パンツのヒップ部にはラベル(合成皮革)を付け、よりジーンズっぽく。さらに十字型のスライダーやボタンなど、付属品もオリジナル仕様で抜かりがない。「認めたくはないが、一番人気はやはりインディゴだね。次いでワインとブラックかな。特にワインはプリティな感じで、パンツだけ購入するひとも少なくない。ま、このシリーズはグダグダいわなくても、好きな人間は一も二もなく買うみたいだが」。
男はそう言い放つと、広げていたウェアを手際よくたたみ、「さて皆さん、こちらが新ブランド『Z-DRAGON』 (ジィードラゴン)の春夏物『75000』シリーズだ」と、さっさと次の商品説明へ。「『Jawin』はすべてにこだわったブランドなので、カッコいいけど価格が高い。そこで、ハードルを少し下げて、中間のボリュームゾーンに向けたブランド『Z-DRAGON』を昨年秋に立ち上げた。ツボを突いた商品だけあって、秋冬物はものすごい勢いで出ていったね。今回のは、そんな秋冬物と同デザインで春夏向けに生地替えしたものなんだ」。
薄手ながらもしっかりとした生地は、ポリエステル65%、綿35%のサマーツイルで帯電防止仕様。野帳が入る胸ポケット、ファスナーポケットが付いて使い勝手もいいし、フルジップなので衿を立てて着てもカッコいい。「ジャンパーで定価5800円はなかなかないだろう?それに、価格が安いからデザインや作りが多少悪くても仕方ないだろうなんて安易な気持ちで作っちゃいない。ボリュームゾーンでも、精一杯背伸びするのが自重堂だ。この値段なんだから、そこまでやらなくてもいいのに、結局はこだわってしまうんだ、まったく、ウチのxxときたら」。
男の話によると、このブランドは、2タックパンツや脇ゴムブルゾンを嫌う、若い感性を持った世代のワーカーたちに向けたものらしい。特に脇ゴムブルゾンは女性に不評で、「腕を上げると裾が上がったままで恥ずかしい」「いちいち裾を下げなければならないのでイライラする」との声が多いのだとか。そんな声に応えるために、シャレ感のあるスマートなデザインを採用しているのが最大のポイントだ。トップスは男女兼用でSとSSサイズは女性シルエット。ボトムはレディースパンツも取り揃え、運送業や製造業などで働く女性たちにアピールしている。「『Z-DRAGON』のイメージキャラクターは、キックボクサーの卜部(うらべ)兄弟と、女性格闘家の平岡琴さんにお願いした。『Z-DRAGON』はみんなが求めているゾーンだから、本当は何もしなくても支持を得られる商品なんだけどね。フットウェアも出しているし、まあ、まいど屋さんにとっても、きっとこれからが楽しみなブランドなんじゃなかな」。
この男の通販番組さながらの商品説明は、彼の態度とは裏腹に、自重堂製品への自信と愛に満ちているように思える。それが証拠に、彼自身も気に入った商品があれば、自分用に買ってワードローブに取り入れるほどだという。次に紹介する半袖ポロは、そんな彼が今季目を付けたアイテムのひとつだ。「展示会で最も評価が高かったアイテムがこの『Z-DRAGON』の半袖ポロ『75114』だよ。特徴は、タイトなシルエットで、ドン引きするくらい良く伸びるストレッチ性があること。とにかくどんなに動いてもストレスなく身体にフィットする。でも、身体のラインがわかってしまうから、お腹が出ている方はちょっと痩せて着てもらえるとね」。
素材は綿96%、ポリウレタン4%。ほとんど綿なので肌当たりも良く、見た目にも高級感がある。「展示会では“手に取ってみてください”と言えば済む商品だったね。衿を立てて着れば、衿裏に『Z-DRAGON』のロゴプリントが見える。そのほかの特徴としては、腕の動きを良くするウイングアームⅡと消臭抗菌テープが付いていることかな。サイズはSS~5Lで幅広い」。
夏はアイテムが少ないので紹介できる商品が限られてしまうが、どの新作も展示会での手応えは上々だったと男は話す。「特に『Jawin』は評判がよかったよ。まあ、もともと期待されているからその分を差っ引かなきゃいけないにしても、バイヤーからかなり高い評価を受けたことは事実だ。だけど、よく考えりゃ、自重堂も大変だぜ。高い評価ってのは、次にはそれがみんなが自重堂に求める平均点ってことになるんだ。自重堂は毎回それを超えていかなきゃならないんだ。ブランド負けしない機能やら、デザインやら。どこまでハードルが高くなるのか。恐ろしいよ」。
男の饒舌はこの後もまだまだ、テープの録音限度いっぱいまで続くのだが、一番肝心な新商品については一通り書き起こしたようなので、本レポートはこのあたりでやめておこう。続きは、以下の商品紹介コーナーでじっくりご覧いただきたい。
<編集部注:このレポートは前回の自重堂特集同様、フィクションということにさせていただきます。よって、本文に登場するのは、編集部がでっち上げた架空の人物であり、ここで交わされた会話は全くのおとぎ話であるという建前は編集部として何としても譲れない一線であることをここに宣言いたします。一般の読者の皆さんは、どうか理由を詮索しないでください。オトナの世界にはいろいろと複雑な事情があるんです。それでも、どうしてもそれが知りたいというのなら、前回の12月号で公開した自重堂についての記事を再読してみてください。ちょっとしたヒントみたいものならあるかもしれないから。>
テープを聞き直すと、男はいきなり「新庄がね」と話を始めている。「今度のJawinはかなりヤバいことになっている」と男は言っていた。雑音で聞き取りにくいが、何とか意味を解釈すると、新庄の好みのカラーを使って新庄のために作った特別なモデルであることを自ら告白しているようだった。途中に「正真正銘の新庄モデルだ」という言葉が挟まっている。一瞬の静寂。今、改めてその場面を再生すると、そこにいた我々メンバーが生唾を飲みこむ音まで聞こえてきそうなほどの緊迫感がその場に漂っている。「悪いが今度のJawinは、ユーザーのために作られたものじゃない。そんなものはハナから眼中にないんだ。全て新庄のためなんだよ。まいど屋さんもよく覚えておいてくれ。まったくウチのxxときたら・・・」。情報源を特定されないよう、ここでは伏字を使わせてもらうが、そうした彼の告発がしばらく続く。「まいど屋さんのような発信力のあるところにこのネタを持ち込みたかったんだ。そうすりゃ、少しは世の中もよくなるかもしれない。俺のことはもうどうでもいいんだ」。
それから、まるで男は憑かれたようにしゃべり続け、我々編集部のメンバーが口をはさむことは最後まであまりなかった。思いのたけをぶちまけたことで多少はすっきりしたのか、それからは我々が知りたがっている個別のアイテムの商品説明に移っていく。「ギブアンドテイクですからね。わかっていますって。なんせ、俺たちは呉越同舟、おんなじ危ない橋を渡っているんだ。あんたたちの欲しいブツはちゃんと渡す」。
男はまるで独演会のような調子でしゃべり続ける。話があちこちに飛び、そのままここに書き写すと読者の皆さんが読みにくいと思うので、この後の場面は意味が通りやすくなるようにしゃべった内容の前後を入れ替えたり、多少の修正や補足を加えたり、また音声が不鮮明だったところはある程度の想像を働かせたりして書いていく。ただし、話の筋と要点はほぼそのまま忠実に再現しているので、男が伝えたかったことの意味自体は変わらないはずだ。「それじゃ、さっきの新庄モデルからいこうか。昨今、ワークの分野でもデニムがトレンドだよね。この『56400』シリーズは、そんなデニムを夏物で出そうと企画した『Jawin』(ジャウィン)の新作だ」。男はそう言うと、くすんだピンク系のGジャン風ジャンパーとインディゴのカーゴパンツを手に取り、我々の方に突き出した。「実はこの生地、デニムのようでデニムじゃない。ポリエステル60%、綿40%のダブルフェイスクロスという二重構造の生地で、綿だけ染色しているからデニムっぽく見える」。
男に促され、手に取って見ると、生地にはデニム独特の綾目がなく、ザラ感ある平織りといった感じ。見た目はしっかりとした厚手生地のようだが、実際は思った以上に薄地で軽い。そしてジャンパーにしろ、長袖シャツにしろ、カーゴにしろ、ステッチをかなり効かせてJawin史上かつてないほどカジュアル感を前面に押し出している。そのまま街着として着ても十分イケそうだ。「カラーは4色。シリーズの中で、新庄モデルはインディゴだけだ。ほら、インディゴだけが赤いステッチを使っているだろう?新庄は赤が好きなんだ。それで特に必然性を考えずに赤を使っているんだ。まあ、それにしてもあまりに新庄っぽい。おそらくユーザーにしてみれば好みが分かれるだろうな。嫌いな人はとことん嫌うだろう。そういうことを考えないんだよ、全く、ウチのxxときたら」。ちなみに新庄モデルではないワインとキャメルは黒ステッチ、ブラックは白ステッチ。色は違うが、やはり同じようにステッチを際立たせたデザインだ。
ジャンパーは、脇ポケットとペン差しに合成皮革のアクセントをあしらい、ワイルド感をプラス。パンツのヒップ部にはラベル(合成皮革)を付け、よりジーンズっぽく。さらに十字型のスライダーやボタンなど、付属品もオリジナル仕様で抜かりがない。「認めたくはないが、一番人気はやはりインディゴだね。次いでワインとブラックかな。特にワインはプリティな感じで、パンツだけ購入するひとも少なくない。ま、このシリーズはグダグダいわなくても、好きな人間は一も二もなく買うみたいだが」。
男はそう言い放つと、広げていたウェアを手際よくたたみ、「さて皆さん、こちらが新ブランド『Z-DRAGON』 (ジィードラゴン)の春夏物『75000』シリーズだ」と、さっさと次の商品説明へ。「『Jawin』はすべてにこだわったブランドなので、カッコいいけど価格が高い。そこで、ハードルを少し下げて、中間のボリュームゾーンに向けたブランド『Z-DRAGON』を昨年秋に立ち上げた。ツボを突いた商品だけあって、秋冬物はものすごい勢いで出ていったね。今回のは、そんな秋冬物と同デザインで春夏向けに生地替えしたものなんだ」。
薄手ながらもしっかりとした生地は、ポリエステル65%、綿35%のサマーツイルで帯電防止仕様。野帳が入る胸ポケット、ファスナーポケットが付いて使い勝手もいいし、フルジップなので衿を立てて着てもカッコいい。「ジャンパーで定価5800円はなかなかないだろう?それに、価格が安いからデザインや作りが多少悪くても仕方ないだろうなんて安易な気持ちで作っちゃいない。ボリュームゾーンでも、精一杯背伸びするのが自重堂だ。この値段なんだから、そこまでやらなくてもいいのに、結局はこだわってしまうんだ、まったく、ウチのxxときたら」。
男の話によると、このブランドは、2タックパンツや脇ゴムブルゾンを嫌う、若い感性を持った世代のワーカーたちに向けたものらしい。特に脇ゴムブルゾンは女性に不評で、「腕を上げると裾が上がったままで恥ずかしい」「いちいち裾を下げなければならないのでイライラする」との声が多いのだとか。そんな声に応えるために、シャレ感のあるスマートなデザインを採用しているのが最大のポイントだ。トップスは男女兼用でSとSSサイズは女性シルエット。ボトムはレディースパンツも取り揃え、運送業や製造業などで働く女性たちにアピールしている。「『Z-DRAGON』のイメージキャラクターは、キックボクサーの卜部(うらべ)兄弟と、女性格闘家の平岡琴さんにお願いした。『Z-DRAGON』はみんなが求めているゾーンだから、本当は何もしなくても支持を得られる商品なんだけどね。フットウェアも出しているし、まあ、まいど屋さんにとっても、きっとこれからが楽しみなブランドなんじゃなかな」。
この男の通販番組さながらの商品説明は、彼の態度とは裏腹に、自重堂製品への自信と愛に満ちているように思える。それが証拠に、彼自身も気に入った商品があれば、自分用に買ってワードローブに取り入れるほどだという。次に紹介する半袖ポロは、そんな彼が今季目を付けたアイテムのひとつだ。「展示会で最も評価が高かったアイテムがこの『Z-DRAGON』の半袖ポロ『75114』だよ。特徴は、タイトなシルエットで、ドン引きするくらい良く伸びるストレッチ性があること。とにかくどんなに動いてもストレスなく身体にフィットする。でも、身体のラインがわかってしまうから、お腹が出ている方はちょっと痩せて着てもらえるとね」。
素材は綿96%、ポリウレタン4%。ほとんど綿なので肌当たりも良く、見た目にも高級感がある。「展示会では“手に取ってみてください”と言えば済む商品だったね。衿を立てて着れば、衿裏に『Z-DRAGON』のロゴプリントが見える。そのほかの特徴としては、腕の動きを良くするウイングアームⅡと消臭抗菌テープが付いていることかな。サイズはSS~5Lで幅広い」。
夏はアイテムが少ないので紹介できる商品が限られてしまうが、どの新作も展示会での手応えは上々だったと男は話す。「特に『Jawin』は評判がよかったよ。まあ、もともと期待されているからその分を差っ引かなきゃいけないにしても、バイヤーからかなり高い評価を受けたことは事実だ。だけど、よく考えりゃ、自重堂も大変だぜ。高い評価ってのは、次にはそれがみんなが自重堂に求める平均点ってことになるんだ。自重堂は毎回それを超えていかなきゃならないんだ。ブランド負けしない機能やら、デザインやら。どこまでハードルが高くなるのか。恐ろしいよ」。
男の饒舌はこの後もまだまだ、テープの録音限度いっぱいまで続くのだが、一番肝心な新商品については一通り書き起こしたようなので、本レポートはこのあたりでやめておこう。続きは、以下の商品紹介コーナーでじっくりご覧いただきたい。
<編集部注:このレポートは前回の自重堂特集同様、フィクションということにさせていただきます。よって、本文に登場するのは、編集部がでっち上げた架空の人物であり、ここで交わされた会話は全くのおとぎ話であるという建前は編集部として何としても譲れない一線であることをここに宣言いたします。一般の読者の皆さんは、どうか理由を詮索しないでください。オトナの世界にはいろいろと複雑な事情があるんです。それでも、どうしてもそれが知りたいというのなら、前回の12月号で公開した自重堂についての記事を再読してみてください。ちょっとしたヒントみたいものならあるかもしれないから。>
『Z-DRAGON』の『75000』シリーズ。
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ワークシーンにジーニストの美意識を!とびっきりのセンスで、思いっきりスタイルよく、自分流を貫くワーカーに捧げる56400シリーズ デニム調の素材感とジーニングテイストがカッコいい『Jawin』新庄剛志モデルの新作。Gジャンライクなジャンパーは、イカしたステッチワークに人工皮革の裾ラベルやポケットのアクセント、ロゴ入りスライダーとこだわり満載。生地はポリエステル60%、綿40%、デニム調のダブルフェイスクロス。汗をかいても吸汗速乾で着心地さわやか。両脇、両肩、パンツの股部分に消臭抗菌テープ付き。 |
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このウェアは呼吸する!ベンチレーションシステムと高通気性素材のW効果で真夏もチョー爽やかな56300シリーズ 胸ポケットの赤いWファスナーがアクセント。どこから見てもスキのないカッコよさが男気をそそる『Jawin』の人気シリーズ。背中の腕の付け根の部分にベンチレーション機能を備えたアコーディオンニットを使用し、高い通気性と動きやすさを両立。生地はポリエステル65%、綿35%。吸汗速乾でサラリとドライな清涼素材3Dラスパー。消臭抗菌テープ、帯電防止機能付き。 |
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