相変わらずのぶっ飛ばしぶりじゃないか!このメーカーの商品企画の野郎どもは、一体何考えてんだ?ノーマルな業界関係者だとはとても思えない。少なくとも、正統的な作業着メーカーでないことだけは確かだね。この業界で作業着メーカーだと名乗るなら、それなりの作法ってものがあるんだよ。明文化されてはいないけど、誰もが暗黙の内に守らなきゃいけない鉄の掟ってものがさ。で、席に着いたら行儀よくしてなきゃ、殴り殺されても文句は言えないわけだ。アンタッチャブル観た?怖かったよねえ、デ・ニーロの演技。食事のテーブルで、調子に乗ったヤツをバットで殴り殺したじゃない。無表情でさ。仮に今が1920年代で、場所がシカゴなら、アタックベースはまず間違いなく殺られてるね。それで、死体の脇でバット片手に立っているのは、もしかしたらこのまいど屋かもしれない。デ・ニーロがやったように、頭から血を流してテーブルに伏せているアタックベースをそのままにして、何事もなかったかのように晩餐会を続けるんだ。同席している他メーカーは怖くてものも言えないよ、きっと。引きつった笑みを浮かべながら、まいど屋と一緒にメシを食うしかないね。彼らはそこで、身の程をわきまえる大切さを改めてかみしめるわけだよ。はみ出したりしたら、同じ目に遭うかもしれない。今のやり方を続けていこうってさ。いい心掛けじゃないか!まいど屋は、そうした普通のメーカーに対しては、柔和な笑みを浮かべた紳士として振舞うよ。なあ、兄弟、わかるだろ?
何でそんなにアタックベースに腹を立てているのかって?だってさ、ヤツらは村の秩序を乱すんだよ。自分勝手に好き放題、商品企画しちゃってさ。それにお約束を守らない。いいかい?作業着は作業着であるべきなんだよ。現場で仕事するんだからさ。作業着はゴツくてちょっとばかりダサいコテコテのスタイルが通り相場だ。そして伝統には敬意を払わなきゃならない。ヒネリの効いたコンセプト、OFFでも着たくなるほどしゃれたデザイン、見かけによらずごっつい保温性、そんなものはどうでもいいんだよ。らしくない雰囲気と機能性の小癪なダブルアピールで、まいど屋に買い物しに来る人たちを幻惑するのは、はっきり言って出過ぎたマネだ。それに、何で値段がこんなに安い?これじゃあ、ファミリーのメンバーである他メーカーが不満を募らすのも無理はないね。
俺たちファミリーに散々迷惑かけた挙句にやっと獲得した肝心のユーザーは何と言ってるかって?いや、そりゃ直接聞いたことがないからわからないけど、恐らくいい感情は持っていないはずだね。だって、新商品を次々出してはちょっと前に出たばかりの商品を廃番にするってのは、俺たちに期待されてるやり方じゃないんだよ。社員のユニフォームとして採用した会社はどうなる?また一から新しいウェアを揃えなきゃいけないのか?
これから広島のアタックベース本社に行ってくる。野郎どもが何と言うか、自分で確かめるよ。バットを片手に、柔和な笑みを浮かべながらさ。話の成り行きによっては、きっと素敵な晩餐会になるはずだぜ、なあ、兄弟。
何でそんなにアタックベースに腹を立てているのかって?だってさ、ヤツらは村の秩序を乱すんだよ。自分勝手に好き放題、商品企画しちゃってさ。それにお約束を守らない。いいかい?作業着は作業着であるべきなんだよ。現場で仕事するんだからさ。作業着はゴツくてちょっとばかりダサいコテコテのスタイルが通り相場だ。そして伝統には敬意を払わなきゃならない。ヒネリの効いたコンセプト、OFFでも着たくなるほどしゃれたデザイン、見かけによらずごっつい保温性、そんなものはどうでもいいんだよ。らしくない雰囲気と機能性の小癪なダブルアピールで、まいど屋に買い物しに来る人たちを幻惑するのは、はっきり言って出過ぎたマネだ。それに、何で値段がこんなに安い?これじゃあ、ファミリーのメンバーである他メーカーが不満を募らすのも無理はないね。
俺たちファミリーに散々迷惑かけた挙句にやっと獲得した肝心のユーザーは何と言ってるかって?いや、そりゃ直接聞いたことがないからわからないけど、恐らくいい感情は持っていないはずだね。だって、新商品を次々出してはちょっと前に出たばかりの商品を廃番にするってのは、俺たちに期待されてるやり方じゃないんだよ。社員のユニフォームとして採用した会社はどうなる?また一から新しいウェアを揃えなきゃいけないのか?
これから広島のアタックベース本社に行ってくる。野郎どもが何と言うか、自分で確かめるよ。バットを片手に、柔和な笑みを浮かべながらさ。話の成り行きによっては、きっと素敵な晩餐会になるはずだぜ、なあ、兄弟。
アタックベース
ジャガード織りの厚地ミドルコンプレッション『855-15』
見るからに暖かそうな裏ブロックフリースの『475-15』
「まずは、私どもの商品づくりをご評価いただき、ありがとうございます」。まいど屋の啖呵に対して返ってきたのは、そんな肝の座った静かな声だった。穏やかな笑みさえたたえた両目は、真っ直ぐにこちらに向けられていた。どうやら売られた喧嘩は買うタチのようだ。野郎どもを代表する松田氏は、ユニフォーム営業部兼企画開発部の部長。アタックベース商品開発の中心人物である。「ひとつ言わせていただきますと、我々だって何も好き好んで廃番にしているわけではありません。柄物は好き嫌いがありますし、ひとと違うものを着たい方は、同じものを続けて買わない。そこは、ぜひともご理解いただきたい」。
筋の通った話ぶりだ。これは思ったより、慎重にならなきゃいけない相手かもしれない。こうしたタイプの人物を相手にするときは、ある程度の手間と時間が必要だ。いきなり襲いかかるより、まずはじっくりと話を聞いてやることだ。そして話の内容に矛盾点を見つけたら、それを逃さずに追い詰めていく。そして頃合を見計らって一瞬でとどめを刺す。熟練の漁師が魚を泳がせ、弱ってきたところを仕留めるみたいに。
「廃番に関しては、まいど屋だって商品の削除、更新で手を煩わせている。業界の一員として文句のひとつも言ってみたかったのだ」と、私は言った。どことなくおもねるような言い方になったのは、手強い相手に対する敬意を示したのだと思っていただきたい。ボクサーがファイトの前にグローブを合わせるのと同じことだ。挨拶を交わした同じ拳が、ものの数分後には相手に立ち上がれなくなるほどのダメージを与えるのだ。「それよりも今冬の防寒で、またしても業界の常識を破る、ぶっ飛んだ新商品を出しているそうだが」、と私は軽くジャブを出す。
「これのことですか?」松田部長が手にしたのはピンクのコンプレッションだ。なるほど、その色は噂に違わず、我々業界人の神経を逆なでするほどぶっ飛んでいる。
「HUMMER(ハマー)の新商品『855-15』ミドルコンプレッション厚地です。派手な柄というとプリントが多いですが、これはジャガード織り。ほら、この厚み。同じ裏起毛でも今までのものとはボリューム感が全然違う」。
触ってみると確かにしっかりと肉厚で、指先には押し戻されるようなキックバックの感触すらある。着用したらかなり温かそうだ。「コンプレッション一枚では寒いからと下に薄手のアンダーを着る方もいらっしゃいますが、これなら1枚で大丈夫。エンドユーザーさんは、とりあえず試しに一枚買って、仕事で1日着てみる。そして、気に入ったらその日の夜に2~3枚買い足す。そんな感じでお求めいただいているようです」。
カラーは、ピンクのほか、グリーン、グレー、ブラックを揃えている、と松田部長はこちらが攻撃に転じようとする機先を制するように付け加える。「実用的なアイテムですから、ちゃんと落ち着いたカラーも用意しているんです。手当たり次第にぶっ飛んで調子に乗っているわけではない」。
私は最初のチャンスを逃したことを知った。仕方ない。次を待とう。身頃の背裏にブロックフリースを使った『475-15』(クルーネック)と『476-15』(ハイネック)なら、付け入る余地があるかもしれない。刷毛にペンキをつけて無造作に塗りたくったような柄で、内側の真っ赤なブロックフリースが顔をのぞかせている。
「なぜ、ペイントブラックなんてカラーが必要なんだろう?」私は自分の言葉ができるだけ非難めいた調子を帯びないように気を付けながら質問した。そう、最初は穏やかに、相手の様子をうかがうのだ。真の凄味や迫力というのは、いつも紳士的な態度の裏に潜んでいるものなのだ。「これじゃ、まるで作業着を汚しまくって働いている塗装屋みたいですね。まさかとは思いますが、目先を変えただけの小手先の素人芸で、ウチの大事な客を混乱させようと思っているのなら、まいど屋は今度こそ黙っちゃいられません。わかるでしょう?いや、アタックベースさんがそんなつもりであるとは私も思ってませんよ。あなたもれっきとした業界のメンバーだ。やっていいことと悪いことくらい当たり前にわきまえているはずです。それで、釈迦に説法とは重々承知の上で、念のため、一言付け加えさせていただきますが、実用カラーも用意しているなんて説明はこの商品に限っては通用しませんよ。まいど屋が見る限り、ブラックだってちっとも無難じゃない。脇がまた例のペイント柄ですからね。これはどう見たってまともじゃない」。
しばしの沈黙があった。松田部長は何かを考えているようにペイント柄のウェアをじっと見続けた後、おもむろに顔を上げてこう言った。「まいど屋さんはペンキ屋職人さんの汚れた作業着を、汚らわしいものだとお考えなのですか?私たちが目にするべきでない不浄なものだと?」
「いや、私は何もそんなことを言っているわけでは・・・」
「私にはそう聞こえます。アタックベースは、ペンキで汚れたウェアこそが、職人さんの晴れの正装だと思っているんです。現場仕事に対する、そうした我々の敬意を表現したのがペイント柄だ。職人さんに寄り添っているなどと公言しているまいど屋さんなら、ご理解いただけると思ったのですがね」
「だが、こうしたデザインは前例が・・・」
「前例がどうしたというのです?私たちが私たちなりのやり方で職人さんを祝福するのが、どうしていけないというんです?裏地をご覧ください。ペイントブラックは赤。ブラックの方はイエローのブロックフリースを使っています。どうしてこのカラーにしたかわかりますか?赤は仕事に対する情熱を、イエローは仲間との連帯感を示しているんです。どちらも現場ではとても大切なものです。見えないところにそうしたカラーを配して、私たちは職人さんに最大限のエールを送ったつもりなんです」
「それなら、どうしてブロックフリースなどという凝った素材を・・・。コンプレッションならコンプレッションらしく、他メーカーに倣って裏起毛程度でいいじゃないですか」
「吸汗速乾性に優れているからですよ。暖かいのに汗を素早く逃してムレにくい。寒い冬場の屋外で、少しでも快適に過ごせるようにと思ったんです。それともまいど屋さんは、凍えるような冬場の仕事のつらさを和らげることにはあまりご関心がないと?」
私は両掌を上に向け、眉を上げてから肩をすくめる仕草をして見せた。窮地に陥ったときのデ・ニーロがよくやるみたいに。形勢不利な状況でも、余裕だけは見せておかなきゃならない。まだまだこちらが優位であることをそれとなく相手に示しておくことは、その後の両者の関係を決定づける上でとても大切なことなのだ。そしてもっと大切なのは、相手が調子に乗ってナメた態度を取り始める前に、反論の気力が萎えるような迫力を見せつけてやることなのだ。どこかに突破口はないか?そうだ、去年から問題になっている『マグマウォーム』がある。アイテムはタートルネック『251-15』と長袖ポロシャツ『451-15』。これはとんでもなくけしからん商品だぞ!
「マグマなんてネーミングで暖かさを連想させようとするなんて、これは明らかな印象操作じゃないですか?ウェアとマグマと、何の関係があるんです?」
「根拠はあるんです」と、松田部長はこちらのエキサイトぶりを楽しむようににこやかに言った。「火山岩を砕いて繊維に定着させた特殊生地を使っています。実際に着用してもらえば、その効果がわかりますよ。火山岩の発熱機能と裏起毛の保温性のダブル効果で暖かい。それに火山岩の部分は染まりにくいので表情に濃淡ができ、いい味が出てるでしょう?」
私は促されるままにそのウェアを手に取った。確かにムラ毛のある表面がある種の上品な雰囲気を醸し、ネーミングとは裏腹の落ち着きのある仕上がりになっている。松田部長が大好評だと豪語したポロシャツは、ポケットレスのすっきりデザイン。衿の前部に形状安定ワイヤーが入っているので衿先がヨレにくく、いつもきちんと着こなせるという。「ポロのポケットを外したのは、無い方がカッコよく見えるから。そもそも入れる物がないという人は多いし、上にベストを着るので使わない。無くしたことでポケットが付くあたりへのネーム入れのオーダーが増えました(笑)」。
********** ********** ********** **********
松田部長とのここまでのやり取りを、俺は率直に反省せねばなるまい。勢い込んでアタックベースに乗り込んで来たはいいものの、まいど屋の決意を毅然として示せるような場面はついぞなかった。だが、読者の皆さんにはもう少し辛抱していてほしい。俺は元来、スロースターターなのだ。序盤は調子が悪いように見えても、尻上がりに調子を上げていく、大谷翔平タイプのファイターなのだ。そのうち、160キロ超えの剛速球を投げ込んでやる。そうなりゃ、相手はピクリとも反応できない。
防寒インナーで失点を重ねたのなら、アウターがある。こちらも突っ込みどころ満載の新作が揃っていると聞く。まずは松田部長にその概要を説明させておこう。
「ミドルインナー的な発想で作ったHUMMERの超撥水軽防寒ジャケット『844-1』です。身頃はタイヤ痕のようなエンボス柄で中綿入り。ジャージみたいな袖を付けて動きやすくしています。デニムのパンツを合わせてカッコよく着こなして欲しいですね」。
V字に配した左右の胸ポケット、背中にはHUMMERのロゴ反射プリント、袖のロゴ入り反射タグなど、必要な機能をセンス良く取り入れている、と松田部長は自賛する。
「作業服で人気の綿100%シリーズを受けて作った」という防寒ストレッチのブルゾン『041-1』とカーゴパンツ『042-2』は、少し毛色が変わっている。「綿ストレッチ(ポリエステル、ポリウレタン混)の作業服スタイルの中綿入り防寒を作りました。裏はトリコットで、表も裏もよく伸び、着ていてストレスが少ない」。
綿の風合いを生かした、シンプルながらもカジュアルなデザイン。高めに設計した衿はフリースボア付きで、衿を立てるとネックウォーマーのようになる。補足だが、同素材、同デザインの作業服『5003』シリーズが今秋デビューしている。
そして最後は、手頃な価格とデザイン性で早くも人気だというセミフルジップジャケット『5810-1』とセミハーフジップジャケット『5860-1』。新商品ながら軽防寒で一番よく出ているそうだ。「セミキルトのヤッケを今風にカッコよくアレンジして、店頭価格で2,000円を切るぐらいでお届けしています。セミとはいえ、身頃は中綿入り、袖は2枚重ね。撥水加工で少々の雨雪もしのげます。カラーも5色揃っていますし。こういうものだからダサくてもいい!じゃない。普段着で着られるようなものを現場で着ていただきたいんです」。
松田部長は、ひととおり説明を終えると、一息ついて次のように話した。「アタックベースでは、提案して世に問うものと、要望に合わせて作るもの、その両方で商品づくりを行っています。チャレンジアイテムはHUMMERに必ず入れていますし。まいど屋さんのおっしゃる通りで、ヒネリの効いたコンセプト、OFFでも着たくなるほどしゃれたデザインってのは、まさに我々が目指しているところ。パクリはやりたくないし、どうせなら、ちょっとした違いのあるもの。そこをどう出していくかが課題です」。
我々が目指しているところ?いけしゃあしゃあと言われちまったじゃないか!それが正に、ファミリーの逆鱗に触れる核心部分だというのに。ところが、何てザマだ、この俺は。松田部長の説明に、未だに愛想笑いを浮かべてヘラヘラしているだけじゃないか!俺は何のために左手にバットを握ってる?さあ、とっととフルスイングしちまえよ。デ・ニーロならわけなくやってのけたぜ。まいど屋は業界を束ねるドンだろう?行儀の悪い野郎どもを躾けておくのは、お前の義務じゃないか!さあ、ヤツが背中を向けたぜ。何故だかわかるか?これだけの掟破りをしてもまだ飽き足らず、さらにルール違反の商品を読者の皆さんにひけらかそうとしていやがるんだ。このレポートの後に続く商品紹介欄にさ。どこまでナメてやがるんだ。今だよ。大きく振りかぶって、そのバットを振り下ろせよ!
筋の通った話ぶりだ。これは思ったより、慎重にならなきゃいけない相手かもしれない。こうしたタイプの人物を相手にするときは、ある程度の手間と時間が必要だ。いきなり襲いかかるより、まずはじっくりと話を聞いてやることだ。そして話の内容に矛盾点を見つけたら、それを逃さずに追い詰めていく。そして頃合を見計らって一瞬でとどめを刺す。熟練の漁師が魚を泳がせ、弱ってきたところを仕留めるみたいに。
「廃番に関しては、まいど屋だって商品の削除、更新で手を煩わせている。業界の一員として文句のひとつも言ってみたかったのだ」と、私は言った。どことなくおもねるような言い方になったのは、手強い相手に対する敬意を示したのだと思っていただきたい。ボクサーがファイトの前にグローブを合わせるのと同じことだ。挨拶を交わした同じ拳が、ものの数分後には相手に立ち上がれなくなるほどのダメージを与えるのだ。「それよりも今冬の防寒で、またしても業界の常識を破る、ぶっ飛んだ新商品を出しているそうだが」、と私は軽くジャブを出す。
「これのことですか?」松田部長が手にしたのはピンクのコンプレッションだ。なるほど、その色は噂に違わず、我々業界人の神経を逆なでするほどぶっ飛んでいる。
「HUMMER(ハマー)の新商品『855-15』ミドルコンプレッション厚地です。派手な柄というとプリントが多いですが、これはジャガード織り。ほら、この厚み。同じ裏起毛でも今までのものとはボリューム感が全然違う」。
触ってみると確かにしっかりと肉厚で、指先には押し戻されるようなキックバックの感触すらある。着用したらかなり温かそうだ。「コンプレッション一枚では寒いからと下に薄手のアンダーを着る方もいらっしゃいますが、これなら1枚で大丈夫。エンドユーザーさんは、とりあえず試しに一枚買って、仕事で1日着てみる。そして、気に入ったらその日の夜に2~3枚買い足す。そんな感じでお求めいただいているようです」。
カラーは、ピンクのほか、グリーン、グレー、ブラックを揃えている、と松田部長はこちらが攻撃に転じようとする機先を制するように付け加える。「実用的なアイテムですから、ちゃんと落ち着いたカラーも用意しているんです。手当たり次第にぶっ飛んで調子に乗っているわけではない」。
私は最初のチャンスを逃したことを知った。仕方ない。次を待とう。身頃の背裏にブロックフリースを使った『475-15』(クルーネック)と『476-15』(ハイネック)なら、付け入る余地があるかもしれない。刷毛にペンキをつけて無造作に塗りたくったような柄で、内側の真っ赤なブロックフリースが顔をのぞかせている。
「なぜ、ペイントブラックなんてカラーが必要なんだろう?」私は自分の言葉ができるだけ非難めいた調子を帯びないように気を付けながら質問した。そう、最初は穏やかに、相手の様子をうかがうのだ。真の凄味や迫力というのは、いつも紳士的な態度の裏に潜んでいるものなのだ。「これじゃ、まるで作業着を汚しまくって働いている塗装屋みたいですね。まさかとは思いますが、目先を変えただけの小手先の素人芸で、ウチの大事な客を混乱させようと思っているのなら、まいど屋は今度こそ黙っちゃいられません。わかるでしょう?いや、アタックベースさんがそんなつもりであるとは私も思ってませんよ。あなたもれっきとした業界のメンバーだ。やっていいことと悪いことくらい当たり前にわきまえているはずです。それで、釈迦に説法とは重々承知の上で、念のため、一言付け加えさせていただきますが、実用カラーも用意しているなんて説明はこの商品に限っては通用しませんよ。まいど屋が見る限り、ブラックだってちっとも無難じゃない。脇がまた例のペイント柄ですからね。これはどう見たってまともじゃない」。
しばしの沈黙があった。松田部長は何かを考えているようにペイント柄のウェアをじっと見続けた後、おもむろに顔を上げてこう言った。「まいど屋さんはペンキ屋職人さんの汚れた作業着を、汚らわしいものだとお考えなのですか?私たちが目にするべきでない不浄なものだと?」
「いや、私は何もそんなことを言っているわけでは・・・」
「私にはそう聞こえます。アタックベースは、ペンキで汚れたウェアこそが、職人さんの晴れの正装だと思っているんです。現場仕事に対する、そうした我々の敬意を表現したのがペイント柄だ。職人さんに寄り添っているなどと公言しているまいど屋さんなら、ご理解いただけると思ったのですがね」
「だが、こうしたデザインは前例が・・・」
「前例がどうしたというのです?私たちが私たちなりのやり方で職人さんを祝福するのが、どうしていけないというんです?裏地をご覧ください。ペイントブラックは赤。ブラックの方はイエローのブロックフリースを使っています。どうしてこのカラーにしたかわかりますか?赤は仕事に対する情熱を、イエローは仲間との連帯感を示しているんです。どちらも現場ではとても大切なものです。見えないところにそうしたカラーを配して、私たちは職人さんに最大限のエールを送ったつもりなんです」
「それなら、どうしてブロックフリースなどという凝った素材を・・・。コンプレッションならコンプレッションらしく、他メーカーに倣って裏起毛程度でいいじゃないですか」
「吸汗速乾性に優れているからですよ。暖かいのに汗を素早く逃してムレにくい。寒い冬場の屋外で、少しでも快適に過ごせるようにと思ったんです。それともまいど屋さんは、凍えるような冬場の仕事のつらさを和らげることにはあまりご関心がないと?」
私は両掌を上に向け、眉を上げてから肩をすくめる仕草をして見せた。窮地に陥ったときのデ・ニーロがよくやるみたいに。形勢不利な状況でも、余裕だけは見せておかなきゃならない。まだまだこちらが優位であることをそれとなく相手に示しておくことは、その後の両者の関係を決定づける上でとても大切なことなのだ。そしてもっと大切なのは、相手が調子に乗ってナメた態度を取り始める前に、反論の気力が萎えるような迫力を見せつけてやることなのだ。どこかに突破口はないか?そうだ、去年から問題になっている『マグマウォーム』がある。アイテムはタートルネック『251-15』と長袖ポロシャツ『451-15』。これはとんでもなくけしからん商品だぞ!
「マグマなんてネーミングで暖かさを連想させようとするなんて、これは明らかな印象操作じゃないですか?ウェアとマグマと、何の関係があるんです?」
「根拠はあるんです」と、松田部長はこちらのエキサイトぶりを楽しむようににこやかに言った。「火山岩を砕いて繊維に定着させた特殊生地を使っています。実際に着用してもらえば、その効果がわかりますよ。火山岩の発熱機能と裏起毛の保温性のダブル効果で暖かい。それに火山岩の部分は染まりにくいので表情に濃淡ができ、いい味が出てるでしょう?」
私は促されるままにそのウェアを手に取った。確かにムラ毛のある表面がある種の上品な雰囲気を醸し、ネーミングとは裏腹の落ち着きのある仕上がりになっている。松田部長が大好評だと豪語したポロシャツは、ポケットレスのすっきりデザイン。衿の前部に形状安定ワイヤーが入っているので衿先がヨレにくく、いつもきちんと着こなせるという。「ポロのポケットを外したのは、無い方がカッコよく見えるから。そもそも入れる物がないという人は多いし、上にベストを着るので使わない。無くしたことでポケットが付くあたりへのネーム入れのオーダーが増えました(笑)」。
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松田部長とのここまでのやり取りを、俺は率直に反省せねばなるまい。勢い込んでアタックベースに乗り込んで来たはいいものの、まいど屋の決意を毅然として示せるような場面はついぞなかった。だが、読者の皆さんにはもう少し辛抱していてほしい。俺は元来、スロースターターなのだ。序盤は調子が悪いように見えても、尻上がりに調子を上げていく、大谷翔平タイプのファイターなのだ。そのうち、160キロ超えの剛速球を投げ込んでやる。そうなりゃ、相手はピクリとも反応できない。
防寒インナーで失点を重ねたのなら、アウターがある。こちらも突っ込みどころ満載の新作が揃っていると聞く。まずは松田部長にその概要を説明させておこう。
「ミドルインナー的な発想で作ったHUMMERの超撥水軽防寒ジャケット『844-1』です。身頃はタイヤ痕のようなエンボス柄で中綿入り。ジャージみたいな袖を付けて動きやすくしています。デニムのパンツを合わせてカッコよく着こなして欲しいですね」。
V字に配した左右の胸ポケット、背中にはHUMMERのロゴ反射プリント、袖のロゴ入り反射タグなど、必要な機能をセンス良く取り入れている、と松田部長は自賛する。
「作業服で人気の綿100%シリーズを受けて作った」という防寒ストレッチのブルゾン『041-1』とカーゴパンツ『042-2』は、少し毛色が変わっている。「綿ストレッチ(ポリエステル、ポリウレタン混)の作業服スタイルの中綿入り防寒を作りました。裏はトリコットで、表も裏もよく伸び、着ていてストレスが少ない」。
綿の風合いを生かした、シンプルながらもカジュアルなデザイン。高めに設計した衿はフリースボア付きで、衿を立てるとネックウォーマーのようになる。補足だが、同素材、同デザインの作業服『5003』シリーズが今秋デビューしている。
そして最後は、手頃な価格とデザイン性で早くも人気だというセミフルジップジャケット『5810-1』とセミハーフジップジャケット『5860-1』。新商品ながら軽防寒で一番よく出ているそうだ。「セミキルトのヤッケを今風にカッコよくアレンジして、店頭価格で2,000円を切るぐらいでお届けしています。セミとはいえ、身頃は中綿入り、袖は2枚重ね。撥水加工で少々の雨雪もしのげます。カラーも5色揃っていますし。こういうものだからダサくてもいい!じゃない。普段着で着られるようなものを現場で着ていただきたいんです」。
松田部長は、ひととおり説明を終えると、一息ついて次のように話した。「アタックベースでは、提案して世に問うものと、要望に合わせて作るもの、その両方で商品づくりを行っています。チャレンジアイテムはHUMMERに必ず入れていますし。まいど屋さんのおっしゃる通りで、ヒネリの効いたコンセプト、OFFでも着たくなるほどしゃれたデザインってのは、まさに我々が目指しているところ。パクリはやりたくないし、どうせなら、ちょっとした違いのあるもの。そこをどう出していくかが課題です」。
我々が目指しているところ?いけしゃあしゃあと言われちまったじゃないか!それが正に、ファミリーの逆鱗に触れる核心部分だというのに。ところが、何てザマだ、この俺は。松田部長の説明に、未だに愛想笑いを浮かべてヘラヘラしているだけじゃないか!俺は何のために左手にバットを握ってる?さあ、とっととフルスイングしちまえよ。デ・ニーロならわけなくやってのけたぜ。まいど屋は業界を束ねるドンだろう?行儀の悪い野郎どもを躾けておくのは、お前の義務じゃないか!さあ、ヤツが背中を向けたぜ。何故だかわかるか?これだけの掟破りをしてもまだ飽き足らず、さらにルール違反の商品を読者の皆さんにひけらかそうとしていやがるんだ。このレポートの後に続く商品紹介欄にさ。どこまでナメてやがるんだ。今だよ。大きく振りかぶって、そのバットを振り下ろせよ!
エンボスプリントにテンションが上がる撥水防寒『844-1』
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綿でストレッチの防寒ブルゾン『041-1』
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いくら寒くても、動きにくいのは許せない!軽量で、なおかつボディーが身体の動きに合わせてストレッチする385-1シリーズ 軽量ストレッチで自在に動けて、防風、中綿入りであったかさもバッチリ。衿はソフトな肌当たりのブロックフリース。胸ポケット横には反射プリントをしっかり配して、安全対策とデザインポイントに。ブルゾンはネイビー、ターコイズ、レッド、ブラックの4色。パンツはレッドを除いた3色。 |
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この防寒ヤバすぎる!ハードワーカーに必須の綿素材をスタイルよく仕上げた0133-1シリーズ 真冬だってタフな綿じゃないと!という貴兄を、中綿入りのホットなスタイリングで粋にサポート。綿100%防寒の売れ筋No.1の031-1は、衿フリースボア、内ポケット付き。0133-1は衿フリースボア、取り外しのできるデカフード付き。ベストは肩刺し子でタフさをアップ。カラーはダークオリーブ、グレー、ブラック、アーバングレーの4色。 |
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