安全スニーカーの新商品や業界動向を知るためドンケル、ミズノと巡ってきた編集部だったが、ここで大きな壁にぶち当たってしまった。なんとアシックスの取材ができないのである。
いや、正確には「広報を通した取材」ならOKなのだが、これまでのようなざっくばらんなスタイルのインタビューは難しい、とのことだった。
さあ、どうするべきか。
ちなみに前の編集長と同じく筆者も広報を通した取材は嫌いである。とくに大企業になると、広報を通すと聞けるのは社内で揉みまくったオフィシャル情報だけになるし、挙句には記事チェックを……みたいな話になる。単に手間がかかるだけならまだいいけれど、そうやってできあがる記事がつまらなくなってしまうのは耐え難い。
うーん、もう諦めようか? しかし、アシックスは1999年に産業用シューズを売り出して成功を収めたこの世界の雄。同社抜きで安全スニーカーを語ることはできない……。
途方に暮れつつ、東京駅の八重洲口周辺をトボトボ歩いていると、突如、筆者の前に真っ黒な高級車が止まった。うわ、どんな因縁をつけられるんだ……、と怯えながら目を向ける。と、半分ほど開いた窓の奥から聞き慣れた声がするではないか。
「やれやれ、あと残り1社だというのにやめるのかい?」
真っ白なスーツ姿の木津川君が運転席にいた。
「こちらでの君の動きはすべて尾行させてもらったよ。なかなか頑張ってたじゃないか」
「ああ、でも次の取材先がないんだよ」
「ふーん……、ホントに打つ手がないなら、そうだな、どうだい? 旧友のよしみで情報源を紹介してやってもいいが……」
彼がいたずらっぽく片目をつぶるのがサングラス越しに見えた。
筆者を乗せたクルマは、高速道路に入るやいなや急加速し、猛スピードで"情報源"の元へ向かっていく。
いや、正確には「広報を通した取材」ならOKなのだが、これまでのようなざっくばらんなスタイルのインタビューは難しい、とのことだった。
さあ、どうするべきか。
ちなみに前の編集長と同じく筆者も広報を通した取材は嫌いである。とくに大企業になると、広報を通すと聞けるのは社内で揉みまくったオフィシャル情報だけになるし、挙句には記事チェックを……みたいな話になる。単に手間がかかるだけならまだいいけれど、そうやってできあがる記事がつまらなくなってしまうのは耐え難い。
うーん、もう諦めようか? しかし、アシックスは1999年に産業用シューズを売り出して成功を収めたこの世界の雄。同社抜きで安全スニーカーを語ることはできない……。
途方に暮れつつ、東京駅の八重洲口周辺をトボトボ歩いていると、突如、筆者の前に真っ黒な高級車が止まった。うわ、どんな因縁をつけられるんだ……、と怯えながら目を向ける。と、半分ほど開いた窓の奥から聞き慣れた声がするではないか。
「やれやれ、あと残り1社だというのにやめるのかい?」
真っ白なスーツ姿の木津川君が運転席にいた。
「こちらでの君の動きはすべて尾行させてもらったよ。なかなか頑張ってたじゃないか」
「ああ、でも次の取材先がないんだよ」
「ふーん……、ホントに打つ手がないなら、そうだな、どうだい? 旧友のよしみで情報源を紹介してやってもいいが……」
彼がいたずらっぽく片目をつぶるのがサングラス越しに見えた。
筆者を乗せたクルマは、高速道路に入るやいなや急加速し、猛スピードで"情報源"の元へ向かっていく。
アシックス
新製品の「CP202」
CPソール(左)と従来のソール
●新商品の目玉は「CPソール」
筆者の目の前には、アシックス「ウィンジョブ」の春夏モデル新商品が並べられている。ともにマジックテープを採用したFCP202(ローカット)とFCP203(ハイカット)、靴ひもでもマジックテープでもないスリッポンタイプのFCP204、そして帯電防止モデルFCP20Eである。
"情報源"の男は丁寧なしぐさでテーブルの上に靴を並べると、「さあ、何でも聞いてくれ」とばかりに、ソファーにどっかりと腰を下ろした。この人物に関しては、「ウィンジョブのことなら何でも答えてくれる。ただし、それ以外のことは何も質問してはならない」と事前に忠告を受けている。
何をおいても聞いておかねばならないのは、どんな現場で使えそうな汎用性の高いモデルFCP202(ローカット)とFCP203(ハイカット)である。想像以上にカラフルなデザインに驚きつつ、話を切り出すタイミングを計る。「この商品は……」と言いかけたとき、その声を遮るように男は口を開いた。
「このFCP202は、同じくローカット・メッシュ素材・マジックテープが特徴だったFIS41Lの後継モデルだね。目玉は靴底がCPソールという耐滑性の高いタイプになったこと。まあ、今までも滑らないことで評判だったんだけど。新しいソールに乗せ換えたことでより盤石になった、と考えればいいかな。ウィンジョブには靴ひもタイプもあるんだけど、近ごろはマジックテープに人気が出てるねェ……」
CPソールの「CP」とは「クラフトマン・プライド」の略。職人の誇り、いや「職人気質」と解釈すべきだろうか。なかなか心憎いネーミングである。このソールを採用したことによって旧モデルより耐油・耐滑性能が大幅にアップしているという。このソールはFCP203にも搭載している。
FCP202、FCP203の両者とも、デザインはスポーツシューズを意識したものというのは従来通りだが、かかと部分の「切り返し」が特徴。「CP」のロゴがアクセントになっている。とくにハイカットの203は、このかかとまわりのデザインが際立って見える。
カラーは、FCP202が4色(赤・オレンジ・ブルー・黒)。203が3色(黒・ブルー&オレンジ・赤&青)となっており、ビビッドからシックまで色展開は幅広い。
●派手派手カラーの秘密とは?
いろんな角度から靴を見ているうちに、明るいブルーやオレンジというのは一体どうなのだろう? という疑問が浮かんでくる。自分がワークシューズを買うとしたら、赤や黒ならともかくこんな目立つ色を選ぶだろうか……。
派手なカラーと言えば、ひときわ目を引くのが新商品のFCP204である。脱ぎ履きしやすいスリッポンタイプ。靴ひももマジックテープもなくすっきりした甲の部分にこの「ターキッシュタイル」というブルーがあいまって、つい目が釘付けになってしまう。
「新製品じゃないけど、こんな色もあるよ」
こちらの当惑ぶりを面白がるかのように、机の上にはさらに蛍光イエローの「ウィンジョブ」ハイカットモデルが登場した。防水性と透湿性が特徴の素材「ゴアテックス」を搭載した全天候モデル「FCP601」である。
「すごい色でしょ。しかもこの601は2万円近くもする。ところが、これが思ったより売れてるんだよ。雨上がりでドロドロになる現場とか水を使う作業とかに需要があるんだね。おれも最初はオレンジ色なんて売れるのかよ? と思ってたよ。でも、売れるんだよなぁ……、オレンジや蛍光イエローの作業靴が」
派手な色が好まれる理由は「目立ちたい」という以外に、「他人と"色カブリ"したくない」という心理もあるという。ビビッドな色ならなんでもいいわけでなく、自身をアピールするための装いになっていることが重要なようだ。
「職人さんには『安い靴なら目立たない方がいい。反対に高い靴なら目立つ方がいい』という心理があるらしいね。アシックスはたしかに値は張るけれど、1年は確実に持つし履き心地もいい。そういう面まで考えると『決して高くない』という人も多いんだよ」
なるほど、耐久性や履き心地といった性能の裏打ちがあってこそ「派手なカラーが売れる」という現象が起きるのだ。
●秋からも意欲的な新商品続く
さて、改めて今回の新商品を見ると、安全規格はすべてJSAAの「A種」。旧モデルでは「B」だったタイプも、後継モデルでは「A」となった。プロテクションもソールも性能アップしたわけだが、今後の商品展開はどうなるのだろうか。
「去年から今年にかけての新商品の傾向を見ると、CPソールへの切り替えがどんどん進んでるのが特徴だね。スペック的に上回る後継モデルが発売した以上、旧モデルはそのうち廃版になるだろう。これから登場するモデルは、ほぼすべて『JSAA規格A種&CPソール搭載』という流れになっていくんじゃないかな」
すべての商品が今回のようにハイスペックになっていく、という言葉に驚きつつ、新製品を手に取って眺めてみた。「安全スニーカーが1万円もするのか……」と思う一方で、確かにその値打ちも感じる。シューズ店の奥にうやうやしく陳列されている競技用スニーカーのような存在感だ。
「まぁそれにしても、アシックスはすごい会社だよ。前のモデルだって充分売れているのに、新モデルに切り替えていくっていうんだから。普通のメーカーだったら売れてる商品をわざわざやめるなんてことはしないよ。そのままでいけるんだから。まあ、価格が高いぶん、がんばってブランドイメージも高く保っていかなきゃならないってことなんだろうねェ……」
男は、商品を検査するように新商品の靴を持ち上げて、目の前でゆっくりと回しながら見ている。そろそろインタビューも終わりにしなければいけない、と考えていると、彼はつぶやくように「この次に出てくる商品は……なんだったっけなぁ?」と言った。大慌てでペンを走らせる。
「まず女性用モデルだな。単にサイズの問題だけじゃなくて男と女は足の形が違うから、専用タイプを作るわけ。女性が働く現場も増えているからね。で、次にちょっと足幅狭めのタイプ。これも足幅が細めの人が増えているという統計があるから、らしい。それから、夜間作業なんかを想定した視認性アップモデル。蛍光カラーと反射板で見えやすいようにしたタイプの靴だね……。秋からもどんどん出てくるよォ」
アシックスの旺盛な商品開発は今後も続く、いや一段と加速しそうだ。
取材を終え、お礼を言って事務所を出る。駐車場に戻ると、もう木津川君のクルマはなかった。スマートフォンで地図を見ると最寄り駅までは5キロ。なんとか歩ける距離だ。
トラックが轟音を立てて通り過ぎる郊外の道路をひとり歩く。決して気持いい道ではなかったが、東京駅の周辺をうろついていたときとは違って、足取りは軽かった。
筆者の目の前には、アシックス「ウィンジョブ」の春夏モデル新商品が並べられている。ともにマジックテープを採用したFCP202(ローカット)とFCP203(ハイカット)、靴ひもでもマジックテープでもないスリッポンタイプのFCP204、そして帯電防止モデルFCP20Eである。
"情報源"の男は丁寧なしぐさでテーブルの上に靴を並べると、「さあ、何でも聞いてくれ」とばかりに、ソファーにどっかりと腰を下ろした。この人物に関しては、「ウィンジョブのことなら何でも答えてくれる。ただし、それ以外のことは何も質問してはならない」と事前に忠告を受けている。
何をおいても聞いておかねばならないのは、どんな現場で使えそうな汎用性の高いモデルFCP202(ローカット)とFCP203(ハイカット)である。想像以上にカラフルなデザインに驚きつつ、話を切り出すタイミングを計る。「この商品は……」と言いかけたとき、その声を遮るように男は口を開いた。
「このFCP202は、同じくローカット・メッシュ素材・マジックテープが特徴だったFIS41Lの後継モデルだね。目玉は靴底がCPソールという耐滑性の高いタイプになったこと。まあ、今までも滑らないことで評判だったんだけど。新しいソールに乗せ換えたことでより盤石になった、と考えればいいかな。ウィンジョブには靴ひもタイプもあるんだけど、近ごろはマジックテープに人気が出てるねェ……」
CPソールの「CP」とは「クラフトマン・プライド」の略。職人の誇り、いや「職人気質」と解釈すべきだろうか。なかなか心憎いネーミングである。このソールを採用したことによって旧モデルより耐油・耐滑性能が大幅にアップしているという。このソールはFCP203にも搭載している。
FCP202、FCP203の両者とも、デザインはスポーツシューズを意識したものというのは従来通りだが、かかと部分の「切り返し」が特徴。「CP」のロゴがアクセントになっている。とくにハイカットの203は、このかかとまわりのデザインが際立って見える。
カラーは、FCP202が4色(赤・オレンジ・ブルー・黒)。203が3色(黒・ブルー&オレンジ・赤&青)となっており、ビビッドからシックまで色展開は幅広い。
●派手派手カラーの秘密とは?
いろんな角度から靴を見ているうちに、明るいブルーやオレンジというのは一体どうなのだろう? という疑問が浮かんでくる。自分がワークシューズを買うとしたら、赤や黒ならともかくこんな目立つ色を選ぶだろうか……。
派手なカラーと言えば、ひときわ目を引くのが新商品のFCP204である。脱ぎ履きしやすいスリッポンタイプ。靴ひももマジックテープもなくすっきりした甲の部分にこの「ターキッシュタイル」というブルーがあいまって、つい目が釘付けになってしまう。
「新製品じゃないけど、こんな色もあるよ」
こちらの当惑ぶりを面白がるかのように、机の上にはさらに蛍光イエローの「ウィンジョブ」ハイカットモデルが登場した。防水性と透湿性が特徴の素材「ゴアテックス」を搭載した全天候モデル「FCP601」である。
「すごい色でしょ。しかもこの601は2万円近くもする。ところが、これが思ったより売れてるんだよ。雨上がりでドロドロになる現場とか水を使う作業とかに需要があるんだね。おれも最初はオレンジ色なんて売れるのかよ? と思ってたよ。でも、売れるんだよなぁ……、オレンジや蛍光イエローの作業靴が」
派手な色が好まれる理由は「目立ちたい」という以外に、「他人と"色カブリ"したくない」という心理もあるという。ビビッドな色ならなんでもいいわけでなく、自身をアピールするための装いになっていることが重要なようだ。
「職人さんには『安い靴なら目立たない方がいい。反対に高い靴なら目立つ方がいい』という心理があるらしいね。アシックスはたしかに値は張るけれど、1年は確実に持つし履き心地もいい。そういう面まで考えると『決して高くない』という人も多いんだよ」
なるほど、耐久性や履き心地といった性能の裏打ちがあってこそ「派手なカラーが売れる」という現象が起きるのだ。
●秋からも意欲的な新商品続く
さて、改めて今回の新商品を見ると、安全規格はすべてJSAAの「A種」。旧モデルでは「B」だったタイプも、後継モデルでは「A」となった。プロテクションもソールも性能アップしたわけだが、今後の商品展開はどうなるのだろうか。
「去年から今年にかけての新商品の傾向を見ると、CPソールへの切り替えがどんどん進んでるのが特徴だね。スペック的に上回る後継モデルが発売した以上、旧モデルはそのうち廃版になるだろう。これから登場するモデルは、ほぼすべて『JSAA規格A種&CPソール搭載』という流れになっていくんじゃないかな」
すべての商品が今回のようにハイスペックになっていく、という言葉に驚きつつ、新製品を手に取って眺めてみた。「安全スニーカーが1万円もするのか……」と思う一方で、確かにその値打ちも感じる。シューズ店の奥にうやうやしく陳列されている競技用スニーカーのような存在感だ。
「まぁそれにしても、アシックスはすごい会社だよ。前のモデルだって充分売れているのに、新モデルに切り替えていくっていうんだから。普通のメーカーだったら売れてる商品をわざわざやめるなんてことはしないよ。そのままでいけるんだから。まあ、価格が高いぶん、がんばってブランドイメージも高く保っていかなきゃならないってことなんだろうねェ……」
男は、商品を検査するように新商品の靴を持ち上げて、目の前でゆっくりと回しながら見ている。そろそろインタビューも終わりにしなければいけない、と考えていると、彼はつぶやくように「この次に出てくる商品は……なんだったっけなぁ?」と言った。大慌てでペンを走らせる。
「まず女性用モデルだな。単にサイズの問題だけじゃなくて男と女は足の形が違うから、専用タイプを作るわけ。女性が働く現場も増えているからね。で、次にちょっと足幅狭めのタイプ。これも足幅が細めの人が増えているという統計があるから、らしい。それから、夜間作業なんかを想定した視認性アップモデル。蛍光カラーと反射板で見えやすいようにしたタイプの靴だね……。秋からもどんどん出てくるよォ」
アシックスの旺盛な商品開発は今後も続く、いや一段と加速しそうだ。
取材を終え、お礼を言って事務所を出る。駐車場に戻ると、もう木津川君のクルマはなかった。スマートフォンで地図を見ると最寄り駅までは5キロ。なんとか歩ける距離だ。
トラックが轟音を立てて通り過ぎる郊外の道路をひとり歩く。決して気持いい道ではなかったが、東京駅の周辺をうろついていたときとは違って、足取りは軽かった。
ベルト仕様が好評のCP301
|
スリッポンタイプの「CP204」
|
CPソール搭載で滑りにくさUP!どんなファッションにも合わせやすいローカットモデル 涼しげなメッシュにベルクロを合わせたスポーティなデザイン。配送・建設・整備などの作業に最適なだけじゃなく通勤スタイルにもハマりそう。旧モデルと比べてプロテクションが強化されたほか、CPソール採用で耐滑性もさらにアップ。赤・青・オレンジ・黒の4種類のカラーで展開。JSAA「A種」認定合格品。 |
|
メッシュの風合い&かかとの切り返しが超クール!マジックテープで脱ぎ履きしやすいのも◎ 「くるぶしまでしっかり守りたい」。プロテクション重視なあなたのニーズに応えるハイカットモデル。耐滑性の高いCPソール採用。足首のホールド性も抜群で、メッシュ素材を使ったデザインも涼し気。つま先部の耐久性を高めるためラバー補強もうれしい。カラーは赤・青・黒の3種。JSAA「A種」認定合格品。 |
|