【特集3】真夏の発掘現場でワークウェアを考えるimage_maidoya3
涼しい部屋で働けるって、なんて恵まれたことなんだろう――。発掘現場から帰ってきた今、心からそう思っている。
   街の暑さとは現場の暑さは別格。まだ暑さがピークになる前に、たった小一時間ほど現場を歩いて見学させてもらっただけでヘロヘロになってしまった。毎朝1時間、外で運動しているので暑さには強いつもりだったし、「太陽の下で働くなんて健康的でいいなあ」とも頭の隅で思っていたわけだが、完全に世間知らずのぺーぺーのたわごとだった。全面撤回した上で、こう言っておきたい。
   夏の発掘現場は予想よりはるかにハードです!
   と、そんなとんでもない暑さにも関わらず、案内してくれた調査機関の方々は、長袖長ズボンの作業着にヘルメット・長靴に身を包んで平然としている。作業員のみなさんも、こまめに水筒の水を飲みながら一定のペースでショベルをふるい続けていた。本当に頭が下がる思いだ。
  「なにか暑さ対策は……」
  「熱中症には気を付けていますけど、暑いのはもう仕方ないですね」
   取材中、こんなやり取りを何度もした。確かに風も通らず湿気もこもる夏の発掘現場では、たとえTシャツ1枚だろうと死ぬほど暑いことに変わりないだろう。
   とはいえ「支給の作業服」が常にベストとは限らない。作業によってはウェアによって効率の上げられるものもあるだろう。
   そこで、ここでは現場で聞いた声を紹介しつつ、発掘現場に最適なワークウェアについて考えてみることにする。
 

特集3
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風通しが悪く湿気もこもる現場
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中腰の作業も多い
●空調服はコストが課題
 
   まず、酷暑の作業のウェアといえばこれ。今や熱中症対策の代名詞となった感のある空調服である。
   取材でも「興味はある」という声を何度か聞いた。やや保守的な雰囲気がある文化財の世界にしては意外である。それだけ今年の暑さはトンデモないということなのだろう。
  「見た目はあんな感じですが、涼しいのは事実。この現場なら砂埃を防ぐフィルターも必要ですね」
   と説明する。作業のすべてを見たわけではないため無責任に勧めることはできないものの、欠品するので買うなら早めの方がいいことも付け加えておいた。
   ただ「1着あたり2万円」と値段の相場を伝えると「あ、ウチじゃ無理ですね」。
   昔からよく言われる「考古学ではメシが食えない」は就職の話であって、実際の発掘スタッフはちゃんとメシを食えている。しかし、考古学が儲かる仕事ではないことだけは確かだ。
  「現地説明会で記念Tシャツとか売ったらどうっすか?」
   と、冗談半分で提案してみたりもしたのだが、「そういった商売をすると、事業の公益性、学術的な公正性といったものを維持するのが難しくなってしまう」とのことだった。何でもやったもん勝ち、みたいな風潮がはびこる現代、日本中の人に聞かせてやりたい言葉である。
   コスト以外では、空調服の膨らみについて疑問が出た。
  「袖口までボワンと膨らむと、書きにくいんじゃないないですか?」
   これは確かにあるかもしれない。遺物や遺構の出土状況、3次元データなどの記入は、ただのメモ書きとはまったく違う緻密な作業。不安定な画版の上では、膨らみだけでなく袖口から出る風も気がかりだ。記録を取るときだけ電源をオフにするというのも、あまり現実的ではないし、半袖やベストタイプの空調服もあるものの、あまり売れ筋ではないし……。
   結局のところは、実際に現場で使ってみるしかないのかもしれない。
 
  ●メッシュ・ストレッチの選択も
 
   発掘調査にあたって作業服のポケットに入れておかねばならないのは、記録のためのコンベックス(メジャーの一種)や野帳、地面に印をつけるための釘やナイフなど。ユニフォーム選びでは、過去に「野帳の入らないウェアを買ってしまった」といった失敗談もあった。
   また、ナイフの場合、地面に線を引くという用途に合う既製品がないようで、
  「食事用のナイフでちょうどいいサイズのものを使っている」
  「バターナイフで尖ったものがあれば買っている」
   といった話を聞いた。削れて丸くなっているものの、一応は刃物なので袖のペン差しなどに入れておきたいところだ。
   ウェアの素材は、綿100%の支持する声が多い。編集部も現場では綿100%作業服の上下(バートル/型番5511・5512)を着用。やはり綿はソフトで着心地がよかった。ただ、今風の細身シルエットのせいか、汗をかいた後はちょっと動きにくい気がした。発掘作業はかがんだりすることが多いので、ダボっとした昔ながらの作業着の方が向いているのかもしれない。
   また、素材に速乾性や通気性を求める声もあった。この点では、見えにくい部分にメッシュを多用したり、ざっくりした鹿の子織にしたり、とメーカーも工夫を凝らしている。また、コンプレッション素材のシャツやアームカバーなど、ストレッチ性のあるものも選択肢に入ってくるだろう。
 
  ●見た目は「どうでもいい」のか?
 
   予想通りというべきか、ウェアにカッコよさを求める声は、ほぼゼロだった……。
   第一に機能性、次に着心地、以上。という感じである。暑さと湿気に耐えながら泥だらけになって行う発掘作業では、「見た目になど気にする余裕はない」というのが本音だろう。
   そんな朴訥な雰囲気も考古学の世界の魅力……ではあるものの、同時にこうも思うのである。
   せっかく特殊な仕事をしているのだから、もっと特徴のあるウェアを着てみてもいいんじゃないか? ただの工事じゃなくて発掘をやってることが一目でわかって、子供が「アレやってみたい!」と思うような……。
   たとえば天王寺動物園(大阪市)は2015年、ユニフォームを市役所の作業着からサバンナのレンジャー風のウェアに刷新し、イメージを一新させている。以前は、飼育員が餌のバケツを運ぶ姿が掃除の人みたいだったけれど、新ウェア採用後はお客さんに動物の説明をする様子もサマになっている。と、こんなケースもひとつのヒントになるのではないか。
   さらに、カッコよさに加えて「楽しさ」をアピールするのも大切なことだろう。
   今回の取材では
  「発掘は何年やっててもワクワクする」
  「何が出るかわからないからおもしろい」
   といった言葉を何度も聞いた。
   子供の「宝さがし」のように、「発掘」という行為には何か人間の本能に響くものがあるような気がする。
   ウェアをうまく使えば、公益性や学問的な意義に加えて、そんな魅力も発信できるのではないだろうか。
 

    

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「エアークラフト」専用のポリエステル100%ブルゾン。AC1021は透湿性のタフレックス(高密度ファインデニール)素材を採用し、カラーはシルバー・デューク・ライトキャメルの3色を用意。AC1021Pは高密度のマイクロソフトシェル素材で、カラーはカモフラブラックのみ。両者ともSサイズのみ、女性もOKなユニセックス対応シルエット。


このストレッチならしゃがみ作業も快適♪ 野帳も入るファスナーポケット付きモデル

やや細身のシルエットに伸長率15%のストレッチ性能が自慢のシリーズ。素材はポリエステル80%・綿20%。測量野帳の入るファスナー付きポケットに、袖と胸のペン差し、スマホ収納ループなど機能面も万全。カラーは、インディゴ・ネイビー・オリーブグレー・シルバー・カーキの5色。インディゴのみポリエステル40%・綿60%なので注意。Sサイズ、SSサイズは女性もOKなユニセックス対応シルエット。