三木市(兵庫県)は関西で“刃物の街”として知られる。堺の包丁に対し、三木の刃物はノミやカンナといったいわゆる「金物」。昔ながらの工作用ナイフ「肥後守」も三木の名産品として有名だ。
今回、訪問するトーヨーセフティーもノコギリなどのサック(サヤ状の袋)製造から始まった保護具の総合メーカー。取り扱い商品は、産業用ヘルメットだけでなく、保護メガネ、マスク、安全帯と非常に幅広い。
大阪から新快速で神戸に向かい、新開地で神戸電鉄に乗り換えると列車は北へ。神戸市のニュータウン、鈴蘭台を超えると六甲山越えの登りに入る。窓から見える緑がどんどん濃くなっていくのを眺めながら、「ああ、やっぱり三木は遠いな……」と思い始めたあたりで列車は三木駅に到着。タクシーで工場公園に入るとすぐトーヨーセフティーの白い社屋が見えてきた。
今回、訪問するトーヨーセフティーもノコギリなどのサック(サヤ状の袋)製造から始まった保護具の総合メーカー。取り扱い商品は、産業用ヘルメットだけでなく、保護メガネ、マスク、安全帯と非常に幅広い。
大阪から新快速で神戸に向かい、新開地で神戸電鉄に乗り換えると列車は北へ。神戸市のニュータウン、鈴蘭台を超えると六甲山越えの登りに入る。窓から見える緑がどんどん濃くなっていくのを眺めながら、「ああ、やっぱり三木は遠いな……」と思い始めたあたりで列車は三木駅に到着。タクシーで工場公園に入るとすぐトーヨーセフティーの白い社屋が見えてきた。
トーヨーセフティー
折りたためるヘルメット「MOVO」
「内装が自慢です」と語る近藤さん
●折りたたみメットが“産ヘル化”
話を聞かせてくれたのは営業部参与の近藤廣幸さん。注文対応に忙しそうな事務所の脇を通って、奥の大きなフロアに入れてもらうと、ヘルメットだけでなく自転車用のヘルメット、野球用の防具までトーヨーセフティーの製品がズラリと並んでいた。まるで展示会である。さすが保護具の総合メーカーだな、と感服していたら「こんなのもありますよ」と近藤さん。
見せてくれたのはこぶしくらいの厚みがある緩衝材をたくさん取り付けた背中プロテクターだった。救助隊が噴石や落石から体を守ることを考えて作った防災グッズのひとつ。防災用保護具は、同社が近年力を入れているジャンルである。石が降ってくるような現場での活動なんて想像もしたくないが、異常気象に地震、火山活動などの災害が日本で毎年のように起きていることを考えれば、今後は必要な装備になってくるかもしれない……。
そんな同社では、防災ジャンルの主力商品として、5年前から折りたたみヘルメットを販売している。
「防災用のヘルメットが人気を集めているのもあって、当社でも『保護具メーカーとして優れた折りたたみヘルメットを作りたい』という声があったんです。そして2013年に「BLOOM(ブルーム)」、2014年に「BLOOMⅡ」を発表しました。ブルームⅡは折りたためば厚みはわずか45mmと、収納しやすさは素晴らしかったもののクリアしている保護帽の規格は『飛来落下物』の方だけだった。うちとしてはやはり『墜落時保護』もクリアする折りたたみヘルメットを作りたいな、と。そこで2017年に開発したのが『BLOOMⅢ MOVO(ムーボ)』です」
三代目となる「BLOOMⅢ MOVO」は、同社の折りたたみヘルメットとして初めて、飛来落下物・墜落時保護の両検定をクリア。折り畳み時の厚さは74mmとⅡより大きくなったものの、防災用だけでなく産業用ヘルメットとしても使えるのは大きな利点だ。おかげでユーザーの幅も広がっているという。
「これまでの折りたたみヘルメットは、防災グッズとして官公庁や大手企業、自治体、学校などへ納入するのがメインでした。一方、『MOVO』は作業用としても使われています。あちこちの現場を見て回る建設会社のスタッフや設計士の方などです。車に積みっぱなしにしても邪魔になりませんからね。デザインも現場になじむアメリカンタイプで、帽体に社名が入れられる点もウケています」
折りたたみ機構は、帽体の上半分をトイレの蓋のように持ち上げ、180度ひねって反転させてからまた閉じる、というもの。凝った構造をしている割には、通常のヘルメットとほぼ変わらない「普通っぽい見た目」が魅力だ。
●カラー展開で「選ぶ楽しみ」
折りたたみヘルメットに続いて近藤さんが紹介してくれたのが、同社の主力ヘルメット「Venti(ヴェンティー)」だ。
最大の特徴は、前面から頭頂部にかけてのベンチレーション。単に帽体に穴をあけただけでなくクリアカラーの通気孔カバー(ポリカーボネート製)を取り付けている。このカバーはひさしと同色となっており、帽体との組み合わせによるカラーリング選択が可能(帽体8色・ひさし&通気孔カバー6色)。白い帽体にピンクやパープル、グリーンを合わせたり、黄色や青の帽体にグレーのひさし・通気孔カバーを合わせたりすると、ヘルメットらしからぬポップな印象となる。住民を不安にさせたくない災害ボランティアなんかにいいかもしれない。
それにしても、なぜこんなにたくさんカラーを用意しているのだろうか?
「やはりユーザーさんは、たくさんの選択肢の中から選びたいんです。企業がコーポレートカラーでそろえたり作業チームごとにカラー分けしたりしている一方で、個人購入では『作業服のカラーと合わせよう』『黒や紺色がカッコいい』『ブルーや黄色がおしゃれだ』という具合に選ばれています。このVentiは、通気性やかぶり心地も優れているハイスペックなモデルですが、デザインとツートンカラーの多色展開もヒットの要因でしょう。これがもし2、3色だったら、ちょっといいなと思っても結局は白に落ち着いてしまうと思うんです。でも10以上もカラーがあって、しかも組み合わせまで選べるとなると『白以外でもいいかも』という気がしてくるんですね。おかげさまでヘルメット業界での当社のシェアも伸びてきています」
産業用ヘルメットで圧倒的に売れるカラーは白、というのが常識だ。ところが、同社では黄色や青、紺、黒もよく売れているという。堅実なイメージの総合保護具メーカーが、派手な色とデザインのヘルメットをたくさん売っているというのは、なんだか愉快な話である。
●「かぶり心地」は総合力で
ユニークなのはデザインだけではない。
同社では送風機内蔵ヘルメット「Windy Helmet」も展開中。涼しいヘルメットを作るならベンチレーションつけて通気性を高めたり、遮熱加工をしたりするのがセオリーなのに対し、このモデルでは、電動ファンでヘルメット内に直接風を送る。近藤さんが「たぶんうちだけ」と語る独自路線の熱中症対策ヘルメットだ。
単に外気を取り込むだけではない。スイッチを切り替えればファンを逆回転させてヘルメット内部の空気が排出できるなど、なかなか芸が細かい。単三電池3本で8時間稼働。ファンの音が少し気になるものの、風通しの悪い現場ではうれしいパワーだ。空調服ならぬ「空調ヘルメット」として個人買いなどで人気があるという。
このような個性的なデザインや機能を持つ商品の展開について、近藤さんは次のように語る。
「産業用として売られているヘルメットは、どれも飛来落下物・墜落時保護・電気用といった国の検定をクリアしています。だから安全性では差が付かない。そこで、デザインやカラー、かぶり心地の良さなどが選ばれる決め手になるんです。しかも、それらはすべて複合的なものなんですね。たとえばデザインなら、透明バイザーのアメリカンタイプ帽体もパッと見てカッコいいけれど、内部構造を工夫して、ヘルメット天頂の内部空間を小さくすることでもカッコよくできます。つまり、あまり頭から浮いていない方がスッキリと見えるわけです。
また『かぶり心地』にも、軽さ・涼しさ・フィット感など、さまざまな要素が絡み合っています。スペック的にはそれほど軽量のモデルでなくても、うまく荷重を分散できるようにフィットする内装にすれば、着用したとき軽く感じます。ほかにも、内装に消臭素材を使ったり、外して洗いやすくしたりといった工夫、それにシールドやひさしのクリアさや汚れにくさといったこともかなり快適度に関わってくる。当社は保護メガネメーカーでもあるので、シールドにも良質な素材を使うようにしています」
このような付加価値を生むたくさんの要素の中で、「トーヨーセフティーの売り」と近藤さんが語るのが内装である。
ヘルメットの内装は、主に布を使った「テープ内装」とプラスチックの「樹脂内装」の2つがあり、それぞれフィット感が異なる。テープは柔らかくてつけ心地がいいものの、洗って乾かすのは面倒だ。一方の樹脂はやや硬い付け心地だが洗浄はラク。このメンテナンスのしやすさから、他メーカーでは樹脂内装が主流になってきている。
ところがトーヨーセフティーの場合は、テープと樹脂の両方を組み合わせた複合内装。そのためどんな頭にもフレキシブルにフィットし、長時間付けていても疲れにくいという。
「安全性は当たり前。当社はデザインやカラー、内装など、すべてを合わせた総合力で勝負していきます」
和やかな表情ながら、あらゆる保護具を扱うオールラウンダーとしての自負がにじみ出る言葉だった。
話を聞かせてくれたのは営業部参与の近藤廣幸さん。注文対応に忙しそうな事務所の脇を通って、奥の大きなフロアに入れてもらうと、ヘルメットだけでなく自転車用のヘルメット、野球用の防具までトーヨーセフティーの製品がズラリと並んでいた。まるで展示会である。さすが保護具の総合メーカーだな、と感服していたら「こんなのもありますよ」と近藤さん。
見せてくれたのはこぶしくらいの厚みがある緩衝材をたくさん取り付けた背中プロテクターだった。救助隊が噴石や落石から体を守ることを考えて作った防災グッズのひとつ。防災用保護具は、同社が近年力を入れているジャンルである。石が降ってくるような現場での活動なんて想像もしたくないが、異常気象に地震、火山活動などの災害が日本で毎年のように起きていることを考えれば、今後は必要な装備になってくるかもしれない……。
そんな同社では、防災ジャンルの主力商品として、5年前から折りたたみヘルメットを販売している。
「防災用のヘルメットが人気を集めているのもあって、当社でも『保護具メーカーとして優れた折りたたみヘルメットを作りたい』という声があったんです。そして2013年に「BLOOM(ブルーム)」、2014年に「BLOOMⅡ」を発表しました。ブルームⅡは折りたためば厚みはわずか45mmと、収納しやすさは素晴らしかったもののクリアしている保護帽の規格は『飛来落下物』の方だけだった。うちとしてはやはり『墜落時保護』もクリアする折りたたみヘルメットを作りたいな、と。そこで2017年に開発したのが『BLOOMⅢ MOVO(ムーボ)』です」
三代目となる「BLOOMⅢ MOVO」は、同社の折りたたみヘルメットとして初めて、飛来落下物・墜落時保護の両検定をクリア。折り畳み時の厚さは74mmとⅡより大きくなったものの、防災用だけでなく産業用ヘルメットとしても使えるのは大きな利点だ。おかげでユーザーの幅も広がっているという。
「これまでの折りたたみヘルメットは、防災グッズとして官公庁や大手企業、自治体、学校などへ納入するのがメインでした。一方、『MOVO』は作業用としても使われています。あちこちの現場を見て回る建設会社のスタッフや設計士の方などです。車に積みっぱなしにしても邪魔になりませんからね。デザインも現場になじむアメリカンタイプで、帽体に社名が入れられる点もウケています」
折りたたみ機構は、帽体の上半分をトイレの蓋のように持ち上げ、180度ひねって反転させてからまた閉じる、というもの。凝った構造をしている割には、通常のヘルメットとほぼ変わらない「普通っぽい見た目」が魅力だ。
●カラー展開で「選ぶ楽しみ」
折りたたみヘルメットに続いて近藤さんが紹介してくれたのが、同社の主力ヘルメット「Venti(ヴェンティー)」だ。
最大の特徴は、前面から頭頂部にかけてのベンチレーション。単に帽体に穴をあけただけでなくクリアカラーの通気孔カバー(ポリカーボネート製)を取り付けている。このカバーはひさしと同色となっており、帽体との組み合わせによるカラーリング選択が可能(帽体8色・ひさし&通気孔カバー6色)。白い帽体にピンクやパープル、グリーンを合わせたり、黄色や青の帽体にグレーのひさし・通気孔カバーを合わせたりすると、ヘルメットらしからぬポップな印象となる。住民を不安にさせたくない災害ボランティアなんかにいいかもしれない。
それにしても、なぜこんなにたくさんカラーを用意しているのだろうか?
「やはりユーザーさんは、たくさんの選択肢の中から選びたいんです。企業がコーポレートカラーでそろえたり作業チームごとにカラー分けしたりしている一方で、個人購入では『作業服のカラーと合わせよう』『黒や紺色がカッコいい』『ブルーや黄色がおしゃれだ』という具合に選ばれています。このVentiは、通気性やかぶり心地も優れているハイスペックなモデルですが、デザインとツートンカラーの多色展開もヒットの要因でしょう。これがもし2、3色だったら、ちょっといいなと思っても結局は白に落ち着いてしまうと思うんです。でも10以上もカラーがあって、しかも組み合わせまで選べるとなると『白以外でもいいかも』という気がしてくるんですね。おかげさまでヘルメット業界での当社のシェアも伸びてきています」
産業用ヘルメットで圧倒的に売れるカラーは白、というのが常識だ。ところが、同社では黄色や青、紺、黒もよく売れているという。堅実なイメージの総合保護具メーカーが、派手な色とデザインのヘルメットをたくさん売っているというのは、なんだか愉快な話である。
●「かぶり心地」は総合力で
ユニークなのはデザインだけではない。
同社では送風機内蔵ヘルメット「Windy Helmet」も展開中。涼しいヘルメットを作るならベンチレーションつけて通気性を高めたり、遮熱加工をしたりするのがセオリーなのに対し、このモデルでは、電動ファンでヘルメット内に直接風を送る。近藤さんが「たぶんうちだけ」と語る独自路線の熱中症対策ヘルメットだ。
単に外気を取り込むだけではない。スイッチを切り替えればファンを逆回転させてヘルメット内部の空気が排出できるなど、なかなか芸が細かい。単三電池3本で8時間稼働。ファンの音が少し気になるものの、風通しの悪い現場ではうれしいパワーだ。空調服ならぬ「空調ヘルメット」として個人買いなどで人気があるという。
このような個性的なデザインや機能を持つ商品の展開について、近藤さんは次のように語る。
「産業用として売られているヘルメットは、どれも飛来落下物・墜落時保護・電気用といった国の検定をクリアしています。だから安全性では差が付かない。そこで、デザインやカラー、かぶり心地の良さなどが選ばれる決め手になるんです。しかも、それらはすべて複合的なものなんですね。たとえばデザインなら、透明バイザーのアメリカンタイプ帽体もパッと見てカッコいいけれど、内部構造を工夫して、ヘルメット天頂の内部空間を小さくすることでもカッコよくできます。つまり、あまり頭から浮いていない方がスッキリと見えるわけです。
また『かぶり心地』にも、軽さ・涼しさ・フィット感など、さまざまな要素が絡み合っています。スペック的にはそれほど軽量のモデルでなくても、うまく荷重を分散できるようにフィットする内装にすれば、着用したとき軽く感じます。ほかにも、内装に消臭素材を使ったり、外して洗いやすくしたりといった工夫、それにシールドやひさしのクリアさや汚れにくさといったこともかなり快適度に関わってくる。当社は保護メガネメーカーでもあるので、シールドにも良質な素材を使うようにしています」
このような付加価値を生むたくさんの要素の中で、「トーヨーセフティーの売り」と近藤さんが語るのが内装である。
ヘルメットの内装は、主に布を使った「テープ内装」とプラスチックの「樹脂内装」の2つがあり、それぞれフィット感が異なる。テープは柔らかくてつけ心地がいいものの、洗って乾かすのは面倒だ。一方の樹脂はやや硬い付け心地だが洗浄はラク。このメンテナンスのしやすさから、他メーカーでは樹脂内装が主流になってきている。
ところがトーヨーセフティーの場合は、テープと樹脂の両方を組み合わせた複合内装。そのためどんな頭にもフレキシブルにフィットし、長時間付けていても疲れにくいという。
「安全性は当たり前。当社はデザインやカラー、内装など、すべてを合わせた総合力で勝負していきます」
和やかな表情ながら、あらゆる保護具を扱うオールラウンダーとしての自負がにじみ出る言葉だった。
フロアには保護具がずらりと並ぶ
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業界初! ヘルメットの中に風が吹く! “逆風”も可能な送風機内蔵モデル ヘルメット内に風を起こす電動ファン内蔵ヘルメット。ただ外の空気を採り入れるだけでなく、スイッチを切り替えることで内部の空気を排出することもできる。光触媒の内装テープ、抗菌加工の汗止め、備長炭入り繊維のあごひもなどで真夏の作業も快適。バッテリーは単三電池3本で8時間稼働。白い帽体にクリア・スモーク・グリーンの3色からひさしカラーを選べる。 |
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大きな通気孔でとっても涼しい! ポップなカラーも魅力のひさし付きモデル 頭頂部と左右サイドに大きな通気孔がある風通しのいいヘルメット。透明のひさしは紫外線99.9%カットに加えて、キズが付きにくい特殊コーティング加工済。帽体カラーは白・うす黄・ロイヤルブルー・紺の4色で、ひさしはスモーク・クリア・グリーンの3色。認識用として「白&ピンク」「白&ライム」などのツートンカラーも選べる。 |
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