【サンダンス】底に秘める”反骨の気風”image_maidoya3
サンダンスってどこかで聞いたことがあるなぁ……? という人もいるかもしれない。いちばん有名なのは、米国で毎年開かれている「サンダンス映画祭」だろう。その主催者はごぞんじ俳優で映画監督・プロデューサーとしても成功したロバート・レッドフォード。彼は1969年の映画『明日に向かって撃て!』で、西部開拓期に実在したアウトローを演じて高い評価を得たが、その悪漢のあだ名こそ「サンダンス・キッド」なのである――。と長くなってしまったけれど、要するに「サンダンス」とは反体制の雰囲気を色濃くまとった言葉であることをわかってほしい。そんな“反逆のヒーロー”の名を冠するこのメーカーがあるのは大阪の南船場。知る人ぞ知る「繊維の街」船場のすぐそば、御堂筋沿いのビルである。さて、大阪ミナミのど真ん中で「安全靴のサンダンス」はどんな反骨精神を見せてくれるのか? 期待に胸を膨らませつつ、インバウンド観光客でにぎわう街を抜け、サンダンスのオフィスを訪ねた。

サンダンス
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代表取締役の山尾健治さん
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サンダンスの代名詞「デイトナ」
●人気の秘密は「薄底」
 
   応接室に並ぶ歴代の安全靴に見とれていると、代表取締役の山尾健治さんが登場した。さっそく、サンダンスの来歴から聞いていこう。
 
  「うちは大昔には履物を中心に長靴や安全靴、ブルーシートといった作業用品の卸をしており、20年ほど前から安全スニーカーのメーカーになりました。今でこそ安全スニーカーを出している会社はたくさんありますが、当時はまだ鉄芯の安全靴や地下足袋の時代で、スニーカータイプの安全靴を作っている会社は非常に少なかった。黎明期から手がけている当社は、名前も通っているし、この分野では老舗といえますね。現在は主力の安全スニーカーのほか長靴なども展開しています」
 
   そんなサンダンスの歴代商品の中でも、特別なヒット作と言えるのが、2003年に発売した「デイトナ」である。安全靴のイメージを打ち破ったこの商品は、いま世の中にあふれる「カッコいい安全スニーカー」の源流となった。その後も同社は、スポーティーなルックスを受け継いだ「GT-3」など、幅広い層に愛されるロングセラー商品を生み出し続けている。
 
   大きい会社でもなく、有名ブランドの名も借りず、どうしてキラリと光るヒット商品を出せるのだろうか。
 
  「独自のカラーリングやデザインのカッコよさはもちろんあるんですが、当社の人気の秘訣は『薄底』だと思っています」
 
   といって山尾さんは靴底を示す。見ただけではさほど感じなかったけれど、手を入れてみると確かに薄い。イボの付いたソールは側面下部までカバーしており、考えてみれば他メーカーであまり見ない構造だ。では、この独特のソールには何の意味があるのだろう?
 
  「この薄底が鳶などの高所作業をする人に受け入れられたんです。昔から鳶の職人さんは、踏ん張りがきくのと、足裏の感触がわかりやすいといった理由で地下足袋を履いていた。いわば地下足袋こそが『滑らない』の代名詞だったわけですけれど、近年はつま先を守るために安全スニーカーを履かなければならない現場も多くなってきた。と、こんなケースで薄底が好まれるわけです。底が厚いと足場の微妙な感覚がわからなかったりして危険ですから。そんなわけで人気を得ていたソールですが、2018年には、さらに滑りにくくした『耐滑薄底』にリニューアルしています」
 
   ちなみに山尾さんの趣味はキャンプ。アウトドア用シューズを履き比べて、滑りににくいソールの研究をしたりといった体験を楽しそうに語る。
 
   地下足袋の流れをくむ薄底ソールと革新的なデザインを武器に、国内でイチから育て上げたブランドが「サンダンス」。その名の通りインディペンデントなのだ。
 
  ●自信をもって「安くていいもの」を
 
   そんなサンダンスの安全靴の価格帯はだいたい3000円台。スポーツシューズメーカーなどの1万円前後の商品と比べれば、価格は非常に抑えられている。街でも履けるカッコいい安全靴として、サンダンスはかなり「お求めやすい」。
 
  「大手メーカーの高価格な商品が売れているのは、安全スニーカーの単価が上がるという意味では喜ばしいことですよ。ただ、ユーザーの二極化というか、高級なものを長く履く人と安いのを次々と履き潰す人に分かれてきているのは気になりますね。うちはメガブランドの高級路線にも一方の激安路線にも乗らず、ちょうどいいところで勝負していくつもりです」
 
   たしかに、サンダンスの商品をネット検索してみると、「○○は高すぎるのでこっちを買った」「品質とデザインの割に安い」といった評価が目立っている。あまりメーカーの前で「安い」を連発するのはどうかと思ったけれど、どうやら「安くていいもの」というのはサンダンスの基本姿勢でもあるようだ。
 
  「近ごろは、安くて品質がいいからとワークウェアを普段使いする人も増えてますからね。ユニクロ感覚というか、コストパフォーマンスで選んでもらうのもアリだと思いますよ。たとえば、アウトドアショップでたき火をするとき使う革手袋を買うと何千円もすしますけど、作業服の店で買えば数百円ですから。ワークウェアや作業用品のうち、安くて使い勝手のいいものが一般に浸透していくのはいいことですよ。メーカーとしては専門ショップでのプロ向けの販売だけでなく、普通の人もネット通販などを使って『安くていいもの』を見つけてほしいと思っています」
 
   その上で、山尾さんが「たとえばコレなんか」と見せてくれたのが、梅雨前に出荷予定の新作レインブーツだ。こちらも安全スニーカーと同様に、長靴と同じ防水性能を持ちながらも、街でも履けるファッショナブルなルックスとなっている。よく百貨店などで売られているものと比べれば破格の安さだ。これは欲しい……売れますよ! と思わず取材を忘れてしまう。
 
  「長靴も、野外作業やアウトドア用とは限らないんです。たとえば、近年では音楽の野外フェスティバルに行く人の必須装備になっていて、ロックフェスのシーズンになると急にamazonで売れ始めたりする。こういうニーズもバカにできません。最近では、厨房用のシューズが『滑らない靴』として一般の人が買い求めるようになった話もありましたけれど、あんなふうにワーク系商品の機能をアピールしていくことも大事だと思います」
 
  ●「脱ぎ履きニーズ」に応える
 
   と、山尾さんは職人向けのプロショップだけでなく、ウェブでよく売れている商品として「SL-250」を挙げた。スリッポンでかかとを踏んで履くこともできる軽量の安全スニーカーだ。好評を追い風に、今後、新色のグリーンとブラックも投入するという。
 
  「このモデルの売りは脱ぎ履きしやすいこと。内装工事をはじめエアコンの設置、引っ越しなど、靴を脱ぐシーンの多いユーザーに人気があります。また日本の場合、そういう業種じゃなくてもみんなでランチを食べに行ったお店で座敷に通されたりとか、意外と脱ぎ履きするケースが多いんですよね。今のところスリッポンはこのモデルだけですが、ベルクロを使ったりした”着脱簡単モデル”はまだまだニーズがありそうです」
 
   最後に山尾さんは、安全スニーカーを選ぶときのポイントを教えてくれた。
 
  「まずは、どんな作業に使うのか、用途に合わせて選ぶことが肝心です。高所作業には軽い靴が向いている一方、たくさん歩く仕事なら、ある程度は重い靴の方が良かったりする。また、薄底は疲れやすいという人もいるので、よく考えて自分の仕事内容に適したものを選んでください。あとはサイズ選びですね。日本人はやや大きめを選びがちなのですが、本当はちゃんとフィットするものを選んだ方がいい。同じサイズでもメーカーによって大きさは違うので、試し履きした上で選ぶのがもっとも確実だと思います」
 
   言われてみれば、たしかにスニーカーはゆったりしたものを選びがちだ。革靴に対するカジュアルな靴と捉えると、なんとなくラクでルーズに履けるものを求めてしまう。しかし、安全靴は命を預ける保安具であり、パフォーマンスを左右する仕事道具。街で履くスニーカーより競技用シューズに近い感覚でシビアに選ぶべきなのだろう。
 
   黎明期から安全スニーカーというジャンルを牽引してきたサンダンス。それは、カッコいいのに気取らず、サービス精神も旺盛という”下町のお兄ちゃん”のようなブランドだった。
 
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新型薄底ソール搭載の「GT-EvoX」
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街で履ける長靴も開発中

    

圧倒的存在感に、漂う気品! サンダンスのカッコよさが凝縮されたハイカット安全スニーカー

くるぶしまでがっちりカバーするハイカットモデル。新型の薄底ソールは、“地下足袋感覚”で高所作業の安全性もアップする。屈曲性もあってしかも耐油と、万全の性能。調節しやすい足首のマジックテープ、クッション性を高めたインソールなど、履き心地にも妥協なし。JSAA「A種」認定品。