本誌の読者ならうすうす気づいているだろうが、編集長は「専業」が大好きだ。看板に「新鮮な刺身と串カツが自慢」と書いてある居酒屋なんて毛の先ほども信用しないし、豚骨スープと鶏白湯スープから選べるラーメン屋なぞには死んでも足を踏み入れない。反対に、魚しかない、鶏しかないといった潔いメニューを見ると思わず前のめりになってしまう。取材でも「うちはツナギしかやってないんで」なんて言葉を聞くと、がぜんやる気が出る。そんな性分なのだ――。というわけで今回の取材先、富士ゴムナースである。社名からしてナース服の会社かな、と普通は思うじゃないですか? ところが、なんとナースシューズ専門! 看護師用のスニーカーやサンダルだけを手掛けているメーカーなのだ。ナース用品専業というだけでもときめくのに、さらにシューズときたもんだ……。思わず息づかいが荒くなってしまうが、ここは抑えないと靴フェチだと勘違いされてしまう。品川区大森駅すぐの同社オフィスへ、平静を装って訪問した。
富士ゴムナース
ナイチンゲールが見守るオフィス
「フルスペックナース」は通気性バツグン
●ナースシューズの3条件
「当社は2020年で創業60年。初代社長が戦後の焼け野原からミシンを拾い集めて修理をはじめたのが始まりと言われています。その後、ナイチンゲールに影響を受けてナース用シューズの製造を始めたのですが、当初はまったく受け入れられず、病院に配って歩いていたという話もあるくらいです」
こう語るのは企画営業部の中野敬介さん。会社の応接フロアの真ん中には、医療機関などの感謝状に加えて、額縁に入れたナイチンゲールの写真が神棚のごとく掲げられている。さすがは「ナース」の名を冠する会社だ。
会社の沿革を押さえた上で、まず聞きたいのは「ナースシューズとは一体どのようなものなのか」である。普通のスニーカーやサンダルと比べてどういう違いがあるのだろうか?
「ナースシューズの条件は、①疲れないこと②安全であること③快適であること――の3点だと考えています。長時間勤務の負担を少しでも和らげ、ケガや感染などのリスクを避け、しかも蒸れなどの不快感がないこと。まあ、全部クリアするのはなかなか難しいんですけど。たとえばメッシュを使えば涼しいけれど、もし注射器を足に落としてしまったら? じゃあ覆えばいいのかというと今度は蒸れる。こんな具合に、あちらを立てればこちらが立たず、というケースはよくあります」
病院の規定もあって色は白が好まれるが、医療系の専門学校では学年を見分けるためにベルトのカラーを変えられる「スクラビングシューズ」が使われたりもする。また小規模なクリニックや歯科医院、介護施設などではサンダルが、医療事務では黒のシューズを履く人が多いという。
●通気性がすごい!「フルスペックナース」
「ほら、こんなふうに」と中野さんが自分の足元を指さした。なるほど、黒ならばオフィスワークや接客といった場面でも、まったく違和感なく使えることがよくわかる。では、着用中のモデル「フルスペックナースⅠ(720)」の履き心地はどうなのだろう?
「このフルスペックナースⅠの売りは、現行ラインナップの中でもトップクラスの通気性です。とにかく風通しよくて快適なので、私も会社でいつも履いていますし、当社の物流倉庫のスタッフも使っているらしいですよ」
サンプルを手に取って見せてもらった。ソールの側面に穴が開いているのはただのデザインかと思ったら、穴はそのままメッシュの中敷きの下までダイレクトにつながっている。見た目はスニーカーでも構造的にはサンダルに近いシューズなのだ。また、アッパー部分もストレッチ性のあるメッシュ素材を使い、上下両方から風を通す仕組みとなっている。
「かかとをつぶしてスリッパ感覚で履いてもいいし、中敷きを取れば通気性をさらにアップさせることもできます。さらにクッション性と屈曲性も高いので、たくさん歩いても疲れにくいのも特徴です。メッシュでは安全性が心配だという方には、アッパーに合皮をつかったフルスペックナースⅡ(730)をおすすめしています」
これなら病院や介護施設だけでなく、会社勤務の「上履き」としても活用できそうだ。出勤や外回りは革靴でして、社内ではロッカーに置いてあるナースシューズに履き替える。さりげなく「ナーズシューズは長時間勤務用に作られているから、疲れにくいんだ」とでも蘊蓄を述べれば、かなりクールだろう。
●デボーションナースに込めた想い
フルスペックナースに加えて、「ナースクールⅠ(4700)・Ⅱ(4800)」など、同社のヒット商品は、通気性などの機能に特化したものが多い。だが一方で、看護はまだ女性の多い世界。女心に訴えかけるデザイン重視のモデルもしっかりラインナップされている。モカシン風のアッパーが特徴的なシューズ「デボーションナース(512)」だ。
「これはかなり開発に力を入れたシューズです。デボーション(devotion)の意味は『献身的』で看護の理念を表しています。そして型番は『512』。これは近代看護学の祖、フローレンス・ナイチンゲールの誕生日5月12日にちなんでいます」
ネーミングと番号だけでもお腹いっぱいという感じだが、デザイン面でも富士ゴムナースの思い入れの強さを感じる。アッパーにはヒモ靴に見えるようにゴムが取り付けられており、インナー生地と中敷きは桜色。医療用シューズであることを忘れるほど可憐な雰囲気だ。
「革靴風のデザインを採用した理由は、ベテランナースを中心に要望が多いからです。昔のナースシューズは革靴が多く、革の方が足になじむという声は今でも根強い。このデボーションナースでは、価格を抑えるために、合皮を使って本革のような着用感を出しています」
中野さんによると、女性ユーザーの要望の中には、軽さや通気性などに加えて「かわいさ」を求める声も多いという。しかし、一方で看護の世界には男性も増えてきており、女性心理を狙いすぎるとユーザーを狭めてしまうことになりかねない。なかなか難しいさじ加減が要るのだ。
では、最後にナースシューズ選びのヒントを聞いておくことにしよう。
「まず、ピッタリのサイズを選ぶことですね。普段の靴が××cmだからそれよりゆったりしたのを……、とやや大きめサイズを選んでしまう傾向があるので、ちゃんと試着することが大事です。さらに、病院経営が厳しいせいで、靴は個人購入のケースが増えてきていますが、それでも安さだけで決めないこと。シューズひとつで疲労度がまるで違ってきたりするので、看護師の皆さんには自分の体のことを考えてじっくり選んでほしいです」
60年前、創業者がナイチンゲールに憧れたことから始まった富士ゴムナース。昭和、平成、令和と時代は移り変わっても、ナースに対する敬愛の念は何も変わらない。
「当社は2020年で創業60年。初代社長が戦後の焼け野原からミシンを拾い集めて修理をはじめたのが始まりと言われています。その後、ナイチンゲールに影響を受けてナース用シューズの製造を始めたのですが、当初はまったく受け入れられず、病院に配って歩いていたという話もあるくらいです」
こう語るのは企画営業部の中野敬介さん。会社の応接フロアの真ん中には、医療機関などの感謝状に加えて、額縁に入れたナイチンゲールの写真が神棚のごとく掲げられている。さすがは「ナース」の名を冠する会社だ。
会社の沿革を押さえた上で、まず聞きたいのは「ナースシューズとは一体どのようなものなのか」である。普通のスニーカーやサンダルと比べてどういう違いがあるのだろうか?
「ナースシューズの条件は、①疲れないこと②安全であること③快適であること――の3点だと考えています。長時間勤務の負担を少しでも和らげ、ケガや感染などのリスクを避け、しかも蒸れなどの不快感がないこと。まあ、全部クリアするのはなかなか難しいんですけど。たとえばメッシュを使えば涼しいけれど、もし注射器を足に落としてしまったら? じゃあ覆えばいいのかというと今度は蒸れる。こんな具合に、あちらを立てればこちらが立たず、というケースはよくあります」
病院の規定もあって色は白が好まれるが、医療系の専門学校では学年を見分けるためにベルトのカラーを変えられる「スクラビングシューズ」が使われたりもする。また小規模なクリニックや歯科医院、介護施設などではサンダルが、医療事務では黒のシューズを履く人が多いという。
●通気性がすごい!「フルスペックナース」
「ほら、こんなふうに」と中野さんが自分の足元を指さした。なるほど、黒ならばオフィスワークや接客といった場面でも、まったく違和感なく使えることがよくわかる。では、着用中のモデル「フルスペックナースⅠ(720)」の履き心地はどうなのだろう?
「このフルスペックナースⅠの売りは、現行ラインナップの中でもトップクラスの通気性です。とにかく風通しよくて快適なので、私も会社でいつも履いていますし、当社の物流倉庫のスタッフも使っているらしいですよ」
サンプルを手に取って見せてもらった。ソールの側面に穴が開いているのはただのデザインかと思ったら、穴はそのままメッシュの中敷きの下までダイレクトにつながっている。見た目はスニーカーでも構造的にはサンダルに近いシューズなのだ。また、アッパー部分もストレッチ性のあるメッシュ素材を使い、上下両方から風を通す仕組みとなっている。
「かかとをつぶしてスリッパ感覚で履いてもいいし、中敷きを取れば通気性をさらにアップさせることもできます。さらにクッション性と屈曲性も高いので、たくさん歩いても疲れにくいのも特徴です。メッシュでは安全性が心配だという方には、アッパーに合皮をつかったフルスペックナースⅡ(730)をおすすめしています」
これなら病院や介護施設だけでなく、会社勤務の「上履き」としても活用できそうだ。出勤や外回りは革靴でして、社内ではロッカーに置いてあるナースシューズに履き替える。さりげなく「ナーズシューズは長時間勤務用に作られているから、疲れにくいんだ」とでも蘊蓄を述べれば、かなりクールだろう。
●デボーションナースに込めた想い
フルスペックナースに加えて、「ナースクールⅠ(4700)・Ⅱ(4800)」など、同社のヒット商品は、通気性などの機能に特化したものが多い。だが一方で、看護はまだ女性の多い世界。女心に訴えかけるデザイン重視のモデルもしっかりラインナップされている。モカシン風のアッパーが特徴的なシューズ「デボーションナース(512)」だ。
「これはかなり開発に力を入れたシューズです。デボーション(devotion)の意味は『献身的』で看護の理念を表しています。そして型番は『512』。これは近代看護学の祖、フローレンス・ナイチンゲールの誕生日5月12日にちなんでいます」
ネーミングと番号だけでもお腹いっぱいという感じだが、デザイン面でも富士ゴムナースの思い入れの強さを感じる。アッパーにはヒモ靴に見えるようにゴムが取り付けられており、インナー生地と中敷きは桜色。医療用シューズであることを忘れるほど可憐な雰囲気だ。
「革靴風のデザインを採用した理由は、ベテランナースを中心に要望が多いからです。昔のナースシューズは革靴が多く、革の方が足になじむという声は今でも根強い。このデボーションナースでは、価格を抑えるために、合皮を使って本革のような着用感を出しています」
中野さんによると、女性ユーザーの要望の中には、軽さや通気性などに加えて「かわいさ」を求める声も多いという。しかし、一方で看護の世界には男性も増えてきており、女性心理を狙いすぎるとユーザーを狭めてしまうことになりかねない。なかなか難しいさじ加減が要るのだ。
では、最後にナースシューズ選びのヒントを聞いておくことにしよう。
「まず、ピッタリのサイズを選ぶことですね。普段の靴が××cmだからそれよりゆったりしたのを……、とやや大きめサイズを選んでしまう傾向があるので、ちゃんと試着することが大事です。さらに、病院経営が厳しいせいで、靴は個人購入のケースが増えてきていますが、それでも安さだけで決めないこと。シューズひとつで疲労度がまるで違ってきたりするので、看護師の皆さんには自分の体のことを考えてじっくり選んでほしいです」
60年前、創業者がナイチンゲールに憧れたことから始まった富士ゴムナース。昭和、平成、令和と時代は移り変わっても、ナースに対する敬愛の念は何も変わらない。
軽量モデルも人気という
|
中野さんとナス子ちゃん
|
吹き抜ける、風が足を包みこむ! 最上級の快適性を誇る爽快ナースシューズ 同社ラインナップの中でも最高の通気性を実現した快適モデル。中底は強度の高いハニカムメッシュ仕様で、ソールのサイド部分からダイレクトに風を取り入れる。中敷を外せばさらに通気性がアップ。かかとを踏んでサンダル感覚で履くこともできる。男女兼用。黒カラーは訪問介護や病院事務用としてもオススメ。 |
|
涼しさ&安定性で疲労を軽減! 安心感のあるデザインも魅力の定番モデル 正統派な"ヒモ靴ルック"を踏襲した快適ナースシューズ。脱ぎ履きはベルクロで行い、靴ヒモに見えるゴムが適度なフィット感を生む。靴底には5つの通気孔があり(一部サイズを除く)、足裏部分の蒸れを防ぐほか、安定感のある中敷、クッション性の高いソールとの合わせ技で足の疲れを軽減させる。男女兼用。 |
|