【寅壱】トレンドを超えて跳べ!image_maidoya3
ここに書いているような本題に入る前の文章のことを、ライター業界では「リード」や「導入文」と呼ぶ。たとえば「はたして○○という噂は本当なのか? 編集部は××へ向かった」といった具合に、その記事を読むべき理由や問題意識、テーマを設定し、読み手を誘う"引き"とするのが目的だ。本誌『月刊まいど屋』では、だいたい紹介するメーカーのよくあるイメージを語った上で「でも、今回の新商品は違うらしい」などと興味を惹いたりするのがお約束。そういう角度付けができないときはメーカーへと向かう道中の描写や会社、人物の紹介をすることで、名前しか知らない作業服の会社を身近に感じてもらえるように工夫している。予定通りなら、今回の寅壱のレポートも、瀬戸内の風に吹かれながら作業服の聖地・倉敷市児島を旅する――といった楽しい読み物になっていただろう。新型コロナウイルスの感染拡大さえなければ……。しかし嘆いても仕方ない。寅壱が新たな春夏ウェアを発表したなら、本誌は何としてでもその詳しい情報を読者に届ける。それだけだ!

寅壱
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接触冷感デニムの「8970シリーズ」
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パンツ「9274」は空調服にもオススメ
●寅壱流「アスリージャー」
 
   電話取材に応じてくれたのは、企画開発部の内藤さん。上下ものワークウェアだけでなく鳶ズボンなども手掛ける寅壱の作業服デザイナーだ。まずは、今回の新作を貫くコンセプトから語ってもらおう。
 
  「春夏モデルのテーマは『アスリージャー』。アスリートとレジャーを組み合わせた造語で、アメリカで始まったファッションです。要するにスポーツやアウトドア用のウェアを普段着にしちゃおう、と。このトレンドが日本のアパレル業界に広まり、ついにワークウェアの世界にも波及してきた。作業服メーカーとしては今回、見た目だけじゃなくて動きやすくて使いやすいウェアになるよう、機能性や高度な仕様などに力を入れました」
 
   とはいえ、単にスポーティーなワークウェアなら、他社でもたくさん作っている。売り場には同じような細身&ストレッチの作業服があふれるなか、鳶ズボンをはじめ独自性のある良品を出してきた寅壱は、いま何を思うのだろう?
 
  「トレンドを追う一方で"寅壱らしさ"も常に意識しています。いまテレビの情報番組でワークマンが取り上げられたりと、作業服に注目が集まっていますから、埋没しないような商品を作っていかなくちゃいけない。そのためには縫製などの品質の良さだけでなく、他社がやらない色使いやガラを取り入れたりと、遊び心や個性を出せるウェアを展開していくことですね。独自の感性を持ったユーザーにこだわりの商品を届けていく。それが寅壱だろう、と」
 
   このような考え方は、今回の2020年春夏モデルカタログにも表れている。巻頭では「ユージが訪ねるニッポンの職人」と題して、雑誌風に家具工房のレポートを掲載。建設や土木の現場ではなく、ハンドメイドの木工家具というのは少し意外だが、これも「寅壱を着るこだわり派のユーザー」を意識してのことという。
 
  ●「他社にはできない迷彩ガラ」
 
   カタログの表紙を飾るのは、ユージさんが着る「9334シリーズ」。スマートな細身シルエットの長袖ブルゾン(型番9334-124)に乗馬ズボン由来の「トラスタイルパンツ(型番9334-720)」を合わせた。カラーは上下とも今シーズンから追加された新色「迷彩クロ」。男くささの一方でどこか上品な雰囲気もある。寅壱ならではの個性派スタイルだ。
 
  「ただカッコいいだけじゃなく、"寅壱らしさ"の面でもこの迷彩ガラは自信作です。ここまで大胆な柄使いは他のメーカーにはできないだろう、と。サバイバルゲームやミリタリー用ウェアなどで使われている『幾何学迷彩』をヒントに考えだしました。一見すると派手なガラのように見えるんですが、遠くからだと周囲に溶け込む迷彩になっていて、さりげなく個性をアピールできる。こういうガラ使いも"寅壱らしさ"の答えのひとつかな、と思っています」
 
   この「9334シリーズ」はカラーリングだけでなく、パンツの選択肢が多いのものポイント。表紙のトラスタイルパンツだけでなく、裾を絞ったカーゴジョガーパンツ(型番9334-235)、さらには膝丈のカーゴハーフパンツ(型番9334-241)までそろっている。
 
  「現場でのハーフパンツを使った着こなしは、(寅壱のある)中国地方でも増えてきました。夏場の猛暑日が増えて、少しでも涼しいパンツを求める人が多い。中にコンプレッションのタイツを履いたり膝までのレッグカバーを付けたりして、肌を出さないようにする。こういう着こなしはワークウェアでもスタンダードになっていくでしょうね」
 
   足さばきのいいジョガーパンツやトラスタイルパンツだけでなく、ハーフパンツと小物を組み合わせた足元の涼しい着こなしまで提案。さすが鳶服メーカー、と言いたくなるラインナップだ。
 
  ●「ジョガー」は定番アイテムへ
 
   さらに、内藤さんが「売れ筋のモデル」と紹介するのが、ストレッチデニムの「8970シリーズ」だ。流行のストリート系カジュアルを思わせる細身シルエットで、鉱物練り込みナイロン糸による「接触冷感」もセールスポイント。従来のライダースジャケット(型番8970-554)とカーゴパンツ(型番8970-219)の上下に、今シーズンはジョガーパンツ(型番8970-235)を追加した上、それぞれに新色「アイスブルー」を用意した。
 
  「2年前からあるモデルですが、今回は夏らしい明るい色というわけでアイスブルーを追加しました。デニムの作業服はよく色落ちしたユーズド加工強めのものが好まれる、という背景もあります。暑さ対策で薄くて軽くしてあるわりに、生地は綿とナイロンを組み合わせているため耐久性も高い。若者に人気のライダース風ですが、幅広いユーザーに着てもらえるよう、シルエットはタイトになり過ぎないようにしています」
 
  「上下ものにジョガーパンツを追加」という水平展開は、これ以外にも見られる。ユニフォームとして導入しやすいオーソドックス感が持ち味の「3301シリーズ」にも、今シーズンからカーゴジョガーパンツ(型番3301-235)が加わった。
 
  「シリーズにジョガーパンツを追加しているのは、カジュアル衣料の影響ですね。ファッションアイテムとして人気があるものは、ワークウェアにも需要がある。また、裾を絞ったジョガースタイルは、ただカッコいいだけじゃなく足さばきも非常にいい。その点でうちが長年手掛けてきた鳶服にも通じるところがあります。もはやジョガーパンツはワークウェアの新しい定番と捉えています」
 
   3301シリーズは、耐久性が高くて企業ユニフォームとしてもちょうどいいスタンダードなデザイン。これまでは長袖のブルゾン(型番3301-124)かシャツ(型番3301-125)にカーゴパンツ(型番3301-219)を合わせるという二択問題だったのが、ジョガーパンツの登場で「ブルゾン&カーゴ」「ブルゾン&ジョガー」「シャツ&カーゴ」「シャツ&ジョガー」の四択へ。ちゃんとユニフォームに見えないと困るけれどオーソドックス過ぎるのもつまらない、といったユーザー心理に訴える面白いシリーズに変貌した。
 
  ●「パンツ単品企画」も
 
   ジョガーパンツの展開に感心していると、「新作にはパンツ単品企画もありますよ」と内藤さん。「3301」のような上下モノではなく、パンツだけの「9274シリーズ」だ。こちらもミリタリー風のデザインで、カーゴパンツ(型番9274-219)とハーフパンツ(型番9274-241)の二種類がある。
 
  「360度ストレッチにさまざまなポケット、再帰性反射材など機能満載のパンツです。上に着るのはシャツでも空調服でもお好みでどうぞ、というわけですね。開け閉めしやすい縦ファスナーに横ファスナー、ループつきカーゴポケットなど収納性もバツグンです。肌触りもサラリとしていて快適ですよ」
 
   パッと見たところ「アスリージャー」のコンセプト通り、アウトドア系スタイルなのだが、ちょっとヤンチャな味を混ぜ込んでいるのが面白い。Tシャツやコンプレッションウェアといったシンプルな格好に合わせたとき、このパンツはちょうどいい主張となるだろう。
 
   トレンドに乗ったストリート風ワークウェアを作っても、独特の存在感を醸すことは忘れない――。電話でもしっかりと「寅壱イズム」が感じられるのだった。
 
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「9334シリーズ」の迷彩ガラ
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信頼感あるルックスの「3301シリーズ」

    

「クール」は見た目だけじゃない! 接触冷感デニム「8970シリーズ」

鉱物練り込みナイロン糸によるヒンヤリした肌触りが魅力のストレッチデニム作業服。デザインはストリートで人気のライダース風。薄くて軽いのにタフ仕様なのでハードな現場にオススメ。パンツは従来のカーゴに加えて「カーゴジョガー」が登場。ジョガーパンツの裾は同系色フライス仕様で、見た目もスッキリ。


この"ベーシック感"がいいね! ユニフォームにぴったりの「3301シリーズ」

現代的ですっきりした見た目が特徴の夏ものワークウェア。シンプルで落ち着いた襟付きデザインは企業ユニフォームとしても好印象。ポリエステル100%の変わり織り素材は、汗を吸収してもすぐ乾くほか、ストレッチ性も長持ちする。パンツはカーゴとカーゴジョガーの2タイプを用意。