東京でユニフォームメーカーの取材といえば、いつも通り繊維問屋街が立ち並ぶ横山町や馬喰町だろう――。そう思っていた編集部が今回、取材に向かったのは、なんと市ヶ谷である。自衛隊の駐屯地があるエリアに事務服とは、一体どういうことなんだ? いやひょっとして「制服つながり」なのか? いろんな疑問を抱えつつ編集部は市ヶ谷駅で下車。約束の時間はしばらく後なので、ちょっと防衛省でものぞいてみようと歩き出した。公官庁の食堂って安くて美味しいんだよ、ランチに海上自衛隊のカレーなんかあったら完璧だな……、と門をくぐろうとすると「一般の方は入れません!」の声が。コロナ感染対策として見学客をシャットアウトしているのだ。あきらめて取材先に向かうと、川沿いに立派なオフィスビルが立っていた。いや、正しくは川ではなく江戸城の外堀らしい。市ヶ谷台地の緑に水辺の景観が相まって、環境はバツグン。上品な事務服にはピッタリの立地だなぁ、と独りごちつつ編集部はセロリー東京支店のエントランスに入っていった。
セロリー
湯川さん(左)と河野さん
セロリーお得意のチェック柄
●ベーシック+少しフェミニン
話を聞かせてくれたのはデザイナーの湯川夏美さんと営業の河野傑さん。岡山県の倉敷市児島に本社を構え、介護や清掃用のユニフォームも展開しているセロリーだが、創業以来、主力は女性用の事務服。二人はオフィス文化の最前線・東京でユニフォームの提案を続けている。秋冬コレクションの話に入る前に、まずはブランド「セロリー」の特徴から教えてもらおう。
「うーん、デザイン的に『セロリーと言えばコレだ!』っていうのは特にないんです。パッと見て『かわいい』とか『大人っぽい』とか、そういうのはあまり意識していなくて、ベーシックで信頼できるものを作る、という感じですね。なにしろ1966年から女子ユニフォームをやってる老舗ですから。バシッと特徴を打ち出していくんじゃなく、新しいものを取り入れつつも"事務服らしさ"を大事にしていこう、という感じです」(湯川さん)
セロリーのウェブサイトにある「ヒット商品でふりかえるセロリー50年の歩み」を見ると、湯川さんの言っていることがよくわかる。つまり、セロリーは「事務服といえばコレ」というスタンダードを作ってきた側であって、後発企業のように"どこもやっていない路線"を追い求める必要がなかったのだ。メーカーごとに多岐にわたる商品を見ているときは、独自性や派手なコンセプトに目を奪われがちだが、実際に商品を買うときは「安定感のあるデザイン」を求めるケースが多い。要するに、失敗したくない、普通の事務服がいい、というオフィスには「ぜひセロリーを」という話になる。
ただし「ベーシック」とはいっても、無難でつまらないデザインというわけではない。
「心がけているのは、ベーシックに加えて『ちょっとフェミニン』ですね。メーカーによって事務服の解釈にもいろいろあると思うんですが、セロリーでは、柔らかくて女性らしい印象を大事にしています。スタイリッシュ過ぎない優しい雰囲気というか。カタログを飾るモデルの倉科カナさんも美しさに加えて親しみやすさがあるでしょう? たとえば定番のデザインにチェック柄を使ったりして少しだけカワイイ雰囲気を出すとか、こういうのがセロリーらしさじゃないかな? と思っています」(湯川さん)
●ニット事務服のパイオニア
「あと特徴といえばニット素材ですね。セロリーは1970年代からニットのユニフォームを手がけているパイオニアなんです」(河野さん)
ニットの制服ってOLが羽織っているカーディガンとか? と思っていたら、湯川さんが実物のジャケットを出してきてくれた。もちろんセーターのようなものではなく、まったくもってオーソドックスな事務服に見える。が、手に持ってみるとすごく軽い。生地そのものの伸縮性もあって、一般的なユニフォームに使われている布帛(ふはく)とは大違いだ。「ホントは着てもらうのがいちばんいいんですけどね」と湯川さんが説明する。
「ニットの最大の売りは着心地の良さです。締め付けや圧迫感がない上に、生地が伸縮するから動きやすく、着用時のストレスがない。しかもシワにもなりにくい。ニットの制服というと『カジュアルすぎるんじゃないか』『きっちりした雰囲気が出せないのでは』と心配する人も多いのですが、セロリーでは、表面の質感から仕立て、シルエット、フィット感まで、スタンダードな事務服として作り込んでいます。耐久性もマイナス点はありません。見た目の面では、近くで見たとき布帛のユニフォームよりややソフトな印象になるのもポイント。しかも、女性らしさもしっかり出せるセロリーの人気商品です」
続いて、河野さんがセロリーにおけるニット素材の歴史を語る。
「ニットユニフォームの開発は、当時の営業マンがお客さんからのリクエストを受けたことがきっかけです。そして1972年に業界で初めて製品化しました。発売当初は『ニットなんて制服にならない』と言われて売れ残ったこともあったそうです。しかし、根気強く研究開発や営業を続け、新作の半分程度をニットにするといったチャレンジも重ねてきました。そういう長年の蓄積によって、見た目は布帛の事務服にまったく見劣りしなくて、着心地もよく長持ちする、というニットユニフォームが実現したわけです」
セロリーのニット商品は、半世紀近くにわたって培われた技術の結晶なのだ。
●「衛生ニーズ」に対応!
へぇー、ニット事務服にそんな長い歴史が……と感心していると、さらに河野さんが付け加える。
「あと、今すごく注目されているのがTioTio(ティオティオ)プレミアムですよ!」
なにそれ? そう思った瞬間、河野さんと湯川さんのマスクに「TioTio」のロゴが入っているのに気づいた。そう、TioTioとはコロナ時代のマストアイテム「衛生機能素材」なのだ。
「TioTioプレミアムの効果は、大きく分けて抗ウイルス・抗菌・防汚・消臭の4つ。汗や生乾きの臭いを防ぐほか、ボールペンのインクやランチ時に付いてしまったお醤油やカレーの汚れも洗濯するだけでほぼ落とせるし、付着した花粉もはたくだけでほとんど落ちる。感染予防の面では、まだ新型コロナウイルスへの効果は実証されていませんが、A型インフルエンザウイルスとノロウイルスの場合は、繊維に付いたときウイルスの数が減少することが確認されています。毎日洗濯できなくても快適に着られるし、各種の安全性試験をパスした加工なので、肌の敏感な方にも安心してお使いいただけますよ」(湯川さん)
新型コロナウイルスの流行以前から、ニオイエチケットやインフルエンザ予防などの観点で、衛生機能に対する要望は増えていた。ここ数カ月は、こういった清潔ニーズがさらに高まってきた格好だが、ハイスペックな素材加工、TioTioプレミアムならじゅうぶん対応できるだろう。
しかし、ベーシックなデザインにニット素材、衛生加工といった得意ジャンルだけで、話は終わりではない。湯川さんがいま見据えているのは「コロナ後の事務服」の姿だ。
「コロナの感染拡大で在宅勤務も増えている今、改めて事務服というものを捉え直すべきタイミングではないかと思っています。これからはマスクに対応した新たな着こなしや、接客スタイルでも従来とは違うものが求められるでしょう。事務服の老舗として、ユニフォームの再評価というか、時代の変化にマッチした新たな価値観を示していきたいですね」
セロリーなら、きっと「新時代の定番」を作ってくれるに違いない。
話を聞かせてくれたのはデザイナーの湯川夏美さんと営業の河野傑さん。岡山県の倉敷市児島に本社を構え、介護や清掃用のユニフォームも展開しているセロリーだが、創業以来、主力は女性用の事務服。二人はオフィス文化の最前線・東京でユニフォームの提案を続けている。秋冬コレクションの話に入る前に、まずはブランド「セロリー」の特徴から教えてもらおう。
「うーん、デザイン的に『セロリーと言えばコレだ!』っていうのは特にないんです。パッと見て『かわいい』とか『大人っぽい』とか、そういうのはあまり意識していなくて、ベーシックで信頼できるものを作る、という感じですね。なにしろ1966年から女子ユニフォームをやってる老舗ですから。バシッと特徴を打ち出していくんじゃなく、新しいものを取り入れつつも"事務服らしさ"を大事にしていこう、という感じです」(湯川さん)
セロリーのウェブサイトにある「ヒット商品でふりかえるセロリー50年の歩み」を見ると、湯川さんの言っていることがよくわかる。つまり、セロリーは「事務服といえばコレ」というスタンダードを作ってきた側であって、後発企業のように"どこもやっていない路線"を追い求める必要がなかったのだ。メーカーごとに多岐にわたる商品を見ているときは、独自性や派手なコンセプトに目を奪われがちだが、実際に商品を買うときは「安定感のあるデザイン」を求めるケースが多い。要するに、失敗したくない、普通の事務服がいい、というオフィスには「ぜひセロリーを」という話になる。
ただし「ベーシック」とはいっても、無難でつまらないデザインというわけではない。
「心がけているのは、ベーシックに加えて『ちょっとフェミニン』ですね。メーカーによって事務服の解釈にもいろいろあると思うんですが、セロリーでは、柔らかくて女性らしい印象を大事にしています。スタイリッシュ過ぎない優しい雰囲気というか。カタログを飾るモデルの倉科カナさんも美しさに加えて親しみやすさがあるでしょう? たとえば定番のデザインにチェック柄を使ったりして少しだけカワイイ雰囲気を出すとか、こういうのがセロリーらしさじゃないかな? と思っています」(湯川さん)
●ニット事務服のパイオニア
「あと特徴といえばニット素材ですね。セロリーは1970年代からニットのユニフォームを手がけているパイオニアなんです」(河野さん)
ニットの制服ってOLが羽織っているカーディガンとか? と思っていたら、湯川さんが実物のジャケットを出してきてくれた。もちろんセーターのようなものではなく、まったくもってオーソドックスな事務服に見える。が、手に持ってみるとすごく軽い。生地そのものの伸縮性もあって、一般的なユニフォームに使われている布帛(ふはく)とは大違いだ。「ホントは着てもらうのがいちばんいいんですけどね」と湯川さんが説明する。
「ニットの最大の売りは着心地の良さです。締め付けや圧迫感がない上に、生地が伸縮するから動きやすく、着用時のストレスがない。しかもシワにもなりにくい。ニットの制服というと『カジュアルすぎるんじゃないか』『きっちりした雰囲気が出せないのでは』と心配する人も多いのですが、セロリーでは、表面の質感から仕立て、シルエット、フィット感まで、スタンダードな事務服として作り込んでいます。耐久性もマイナス点はありません。見た目の面では、近くで見たとき布帛のユニフォームよりややソフトな印象になるのもポイント。しかも、女性らしさもしっかり出せるセロリーの人気商品です」
続いて、河野さんがセロリーにおけるニット素材の歴史を語る。
「ニットユニフォームの開発は、当時の営業マンがお客さんからのリクエストを受けたことがきっかけです。そして1972年に業界で初めて製品化しました。発売当初は『ニットなんて制服にならない』と言われて売れ残ったこともあったそうです。しかし、根気強く研究開発や営業を続け、新作の半分程度をニットにするといったチャレンジも重ねてきました。そういう長年の蓄積によって、見た目は布帛の事務服にまったく見劣りしなくて、着心地もよく長持ちする、というニットユニフォームが実現したわけです」
セロリーのニット商品は、半世紀近くにわたって培われた技術の結晶なのだ。
●「衛生ニーズ」に対応!
へぇー、ニット事務服にそんな長い歴史が……と感心していると、さらに河野さんが付け加える。
「あと、今すごく注目されているのがTioTio(ティオティオ)プレミアムですよ!」
なにそれ? そう思った瞬間、河野さんと湯川さんのマスクに「TioTio」のロゴが入っているのに気づいた。そう、TioTioとはコロナ時代のマストアイテム「衛生機能素材」なのだ。
「TioTioプレミアムの効果は、大きく分けて抗ウイルス・抗菌・防汚・消臭の4つ。汗や生乾きの臭いを防ぐほか、ボールペンのインクやランチ時に付いてしまったお醤油やカレーの汚れも洗濯するだけでほぼ落とせるし、付着した花粉もはたくだけでほとんど落ちる。感染予防の面では、まだ新型コロナウイルスへの効果は実証されていませんが、A型インフルエンザウイルスとノロウイルスの場合は、繊維に付いたときウイルスの数が減少することが確認されています。毎日洗濯できなくても快適に着られるし、各種の安全性試験をパスした加工なので、肌の敏感な方にも安心してお使いいただけますよ」(湯川さん)
新型コロナウイルスの流行以前から、ニオイエチケットやインフルエンザ予防などの観点で、衛生機能に対する要望は増えていた。ここ数カ月は、こういった清潔ニーズがさらに高まってきた格好だが、ハイスペックな素材加工、TioTioプレミアムならじゅうぶん対応できるだろう。
しかし、ベーシックなデザインにニット素材、衛生加工といった得意ジャンルだけで、話は終わりではない。湯川さんがいま見据えているのは「コロナ後の事務服」の姿だ。
「コロナの感染拡大で在宅勤務も増えている今、改めて事務服というものを捉え直すべきタイミングではないかと思っています。これからはマスクに対応した新たな着こなしや、接客スタイルでも従来とは違うものが求められるでしょう。事務服の老舗として、ユニフォームの再評価というか、時代の変化にマッチした新たな価値観を示していきたいですね」
セロリーなら、きっと「新時代の定番」を作ってくれるに違いない。
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