街で作業着の人を見つけたら、さりげなくブランドをチェックすることにしている。といっても今時のカッコいいワークウェアはどれも似ているので、デザインだけでメーカーを特定するのは難しい。そこで決め手となるのはロゴマークだ。朝のコンビニや駐車場で、すれ違いざまにワーカーの肩やカーゴポケットあたりを凝視する。と、3割くらいの確率で出会うのが、矯正ゆるめのメガネでもハッキリわかる逆三角形のロゴ。そう、ジーベックだ。気のせいかもしれないが、姿勢がよくて清潔感があり、着こなしもキッチリした"大人っぽい職人"が多い気がする。あのストレートなコピー「ジーベックだから安心です」は伊達ではない。若者が気に入るようなヤンチャな感じの作業着を作れるメーカーは数あれど、ガテン系のワイルドな色気と制服らしい規律正しい空気を両立できるメーカーは、ひょっとしてかなり貴重なのではないか――。そんなことを考えているうちに新幹線は広島と岡山の県境を通過し、福山駅に到着した。
ジーベック
防寒アウターもフルハーネス対応
防水防寒の「562シリーズ」
●「防寒のジーベック」
「防寒特集ですか……。待ってました」
ジーベックの本社。広々とした展示フロアに案内してくれたのは、おなじみの営業部・稲葉さんである。いつも物静かな人なのに、この日は少しテンション高め。いったいどうしたのだろう。
「総合ユニフォームと安全靴のメーカーとうたっていますけど、じつはウチは直営店もやってるんですよ。それも北海道だけで。札幌や帯広をはじめ道内13店舗で、北国ワーカーに作業服を提案してきたわけですね。だから昔から冬物商品が強い。そんな背景もあって、お客さんの口からよく聞くのが『防寒のジーベック』ですよ!」
自信満々の発言に、編集部も思わず前のめりになる。ここまで取材対象が特集テーマに意欲的になるケースが過去にあっただろうか……。大手メーカーというのは、ウェアから保護具まで何でもあるから、逆に特徴がつかみにくい。「防寒のジーベック」は、そんな状況を打ち破る魔法の言葉と言える。しかも、北海道ユーザーが認めるウェアという点も、非常にロマンティックではないか。
といっても、ユーザーは日本中にいるから、すべてが北国向けというわけではない。
「2018年の冬物は軽防寒が中心でした。続いて2019年は街で着られるようなカジュアルテイストを取り入れたほか、作業着としての機能性にも力を入れました。フルハーネス対応の防寒アウター(型番122)は、2019年2月からの高所作業でのフルハーネス義務化に対応した商品で、すでに大手ゼネコンなどで導入されています。また、カジュアル風のアウターがユニフォームとして採用されるケースも増えてきました」
稲葉さんは、このように近年のトレンドを振り返る。ここ数年、暖冬が続いており、「ヒートテック」などの保温インナーも進化した結果、メーカーの間では「重防寒アウターはあまりニーズがない」というのが通説だ。ただ、ジーベックの場合は少し事情が違うようだ。
「おもしろかったのは2019年の冬に発売した防水防寒ブルゾン(型番562)ですね。暖かいだけじゃなく雨や雪も防ぐ。しかも透湿素材だから蒸れない。北国や屋外でのハードワークなんかを想定した商品で、完全に重防寒です。でも、結果を見ればすごく売れた。高機能なのに見た目がワークウェア風じゃないのがよかったんでしょう。当社ラインナップの中でも高価格な商品ですが、耐水圧や透湿性などスペックを考えれば安い。あまり人気があるので今年からはサイズ展開も広げました」
ただ暖かいだけのアウターはいらない。しかし、薄手なだけの軽防寒でも満足できない。ジーベックの「カジュアル+高機能」路線は、かなり「痒い所に手が届く」アプローチと言えそうだ。
●満を持して「電熱」へ
「で、今年の高機能防寒はこちらに……」
稲葉さんは展示フロアの端にある特設コーナーに向かう。薄手のベストが大量にそろっている……と思いきや、展示パネルには「現場服」のロゴと並んで「業界最速で暖まる!!」の文字が。そう、2020年の目玉はヒーター内蔵ベストなのだ。
「今年は何で勝負するか。たどり着いた答えがこのヒーター内蔵ベスト(型番165)でした。以前から、空調服ユーザーの『電熱ウェアはないのか』といった声があり、ショップからも冬に特化した商品のニーズがありまして、満を持して発売という感じです。今のところ、ヒーター入りのウェアはメジャーではありませんが、これから伸びていくのではないか、と。空調服も発売当初は動きが鈍かったんですけど、今やあれがないとダメという存在になってますからね~」
ただバッテリーで暖まるだけのウェアなら、すぐにでも作れた。実際、バイクなどのアウトドア用品店では、電熱アウターは何年も前から「特別な装備」として売られている。しかし、ジーベックの狙いは、ヒーター付きウェアを特殊な防寒アイテムではなく「普通の防寒具」にしていくことである。ワーキングからタウンユースまで普及させていくことを考えると、さまざまな課題をクリアする必要があったという。
「いちばんの問題はメンテナンスですよね。ワークウェアなんだからガシガシ洗いたい。洗濯機に入れると内蔵ヒーターにダメージがあるようじゃ困る。というわけで、発熱ユニットは、こういうのを使いました」
そう言って稲葉さんが取り出したのは、うすっぺらい不織布。書道で使う半紙のようなものである。が、よく見ると、中に金色のシートが透けて見える。これがウェアに内蔵された発熱シートだ。昔の電気毛布のように電熱線が織り込まれた中綿をイメージしていたが、テクノロジーは遥か先を行っていた。
「薄くてびっくりしたでしょう……。でも、それだけじゃないんです!」
と言いながら、稲葉さんは親の仇かと思うほどの勢いで発熱シートをぐしゃぐしゃに握りつぶした。えええ、それはさすがにダメなのでは?
「いいんです! ワークウェアですから。これくらいの扱いに耐えられないと!」
たしかに、汗がしみ込んだウェアは手洗いなんかじゃなく洗濯機に突っ込みたい。冬はなかなか乾かないから脱水もしっかりかけたい。この「ヒートベスト」は内蔵ユニットだけでなく、バッテリーに差し込むUSB端子まで(傷めないようにキャップをかぶせる)、そのまま洗濯機で洗えるというから恐れ入る。空調服のようにファンを着脱する手間もない、忙しい朝のことを考えた実用的ウェアなのだ。
●「ベスト」の一点勝負!
「あと、知恵を絞ったのは形ですね。今回はベストのみ。ベスト一点だけで勝負です」
ここは少しひっかかる。作業着メーカーなら「同デザインで、ブルゾンとベストを2タイプを用意」とかやりそうなものだけれど、どんな思惑があるのだろう?
「決め手は使い勝手の良さですね。長袖ならアウターとしてしか使えないけれど、ベストならインナーやミドラーとしてブルゾンの下に着たりできる。ヒーターのおかげで薄手になってますから、スーツのジャケットの中に着てもモコモコしない。もちろんアウターとして使っても違和感のないデザインにしています。空調服もベストが登場してさらに売れるようになったし、やはり普及させていくにはベスト型で、幅広い提案をしていくのがいいんじゃないか、と」
使い勝手がいいのはウェアだけではない。電源も純正のバッテリー(型番166)に限らず、条件さえクリアしていれば市販のモバイルバッテリーなども使用できる。つまり、スマホの充電用に持ち歩いているモバイルバッテリーを、ヒートベストにつないで暖をとったり、あるいは暖かくて電熱が不要な場合にはバッテリーをモバイル機器の充電に使ったり、といった具合に柔軟なバッテリー運用ができるのだ。
「空調服は基本的に日中つけっぱなしにするものですが、ヒーターベストはきっとON・OFFの操作が多くなる。だからバッテリーも『これだけ必要』と決めなくていい。すでにモバイルバッテリーを持っている人はそれを使ったらいいし、もし容量が足りないなら自分の使い方に合わせて選んで下さいね、というわけです」
メンテナンス性、使いまわし、融通の利く電源の扱い。ここまで行き届いた「ユーザー目線」ぶりを見せられると、だんだんヒーターベストの普及は間違いないような気がしてくる。流行り出してから買うとカッコ悪いから、今のうちに手に入れて” アーリーアダプター”として自慢しようかな……。
そんなことを考える編集部を前に、満足げな笑みを浮かべる稲葉さんだった。
「防寒特集ですか……。待ってました」
ジーベックの本社。広々とした展示フロアに案内してくれたのは、おなじみの営業部・稲葉さんである。いつも物静かな人なのに、この日は少しテンション高め。いったいどうしたのだろう。
「総合ユニフォームと安全靴のメーカーとうたっていますけど、じつはウチは直営店もやってるんですよ。それも北海道だけで。札幌や帯広をはじめ道内13店舗で、北国ワーカーに作業服を提案してきたわけですね。だから昔から冬物商品が強い。そんな背景もあって、お客さんの口からよく聞くのが『防寒のジーベック』ですよ!」
自信満々の発言に、編集部も思わず前のめりになる。ここまで取材対象が特集テーマに意欲的になるケースが過去にあっただろうか……。大手メーカーというのは、ウェアから保護具まで何でもあるから、逆に特徴がつかみにくい。「防寒のジーベック」は、そんな状況を打ち破る魔法の言葉と言える。しかも、北海道ユーザーが認めるウェアという点も、非常にロマンティックではないか。
といっても、ユーザーは日本中にいるから、すべてが北国向けというわけではない。
「2018年の冬物は軽防寒が中心でした。続いて2019年は街で着られるようなカジュアルテイストを取り入れたほか、作業着としての機能性にも力を入れました。フルハーネス対応の防寒アウター(型番122)は、2019年2月からの高所作業でのフルハーネス義務化に対応した商品で、すでに大手ゼネコンなどで導入されています。また、カジュアル風のアウターがユニフォームとして採用されるケースも増えてきました」
稲葉さんは、このように近年のトレンドを振り返る。ここ数年、暖冬が続いており、「ヒートテック」などの保温インナーも進化した結果、メーカーの間では「重防寒アウターはあまりニーズがない」というのが通説だ。ただ、ジーベックの場合は少し事情が違うようだ。
「おもしろかったのは2019年の冬に発売した防水防寒ブルゾン(型番562)ですね。暖かいだけじゃなく雨や雪も防ぐ。しかも透湿素材だから蒸れない。北国や屋外でのハードワークなんかを想定した商品で、完全に重防寒です。でも、結果を見ればすごく売れた。高機能なのに見た目がワークウェア風じゃないのがよかったんでしょう。当社ラインナップの中でも高価格な商品ですが、耐水圧や透湿性などスペックを考えれば安い。あまり人気があるので今年からはサイズ展開も広げました」
ただ暖かいだけのアウターはいらない。しかし、薄手なだけの軽防寒でも満足できない。ジーベックの「カジュアル+高機能」路線は、かなり「痒い所に手が届く」アプローチと言えそうだ。
●満を持して「電熱」へ
「で、今年の高機能防寒はこちらに……」
稲葉さんは展示フロアの端にある特設コーナーに向かう。薄手のベストが大量にそろっている……と思いきや、展示パネルには「現場服」のロゴと並んで「業界最速で暖まる!!」の文字が。そう、2020年の目玉はヒーター内蔵ベストなのだ。
「今年は何で勝負するか。たどり着いた答えがこのヒーター内蔵ベスト(型番165)でした。以前から、空調服ユーザーの『電熱ウェアはないのか』といった声があり、ショップからも冬に特化した商品のニーズがありまして、満を持して発売という感じです。今のところ、ヒーター入りのウェアはメジャーではありませんが、これから伸びていくのではないか、と。空調服も発売当初は動きが鈍かったんですけど、今やあれがないとダメという存在になってますからね~」
ただバッテリーで暖まるだけのウェアなら、すぐにでも作れた。実際、バイクなどのアウトドア用品店では、電熱アウターは何年も前から「特別な装備」として売られている。しかし、ジーベックの狙いは、ヒーター付きウェアを特殊な防寒アイテムではなく「普通の防寒具」にしていくことである。ワーキングからタウンユースまで普及させていくことを考えると、さまざまな課題をクリアする必要があったという。
「いちばんの問題はメンテナンスですよね。ワークウェアなんだからガシガシ洗いたい。洗濯機に入れると内蔵ヒーターにダメージがあるようじゃ困る。というわけで、発熱ユニットは、こういうのを使いました」
そう言って稲葉さんが取り出したのは、うすっぺらい不織布。書道で使う半紙のようなものである。が、よく見ると、中に金色のシートが透けて見える。これがウェアに内蔵された発熱シートだ。昔の電気毛布のように電熱線が織り込まれた中綿をイメージしていたが、テクノロジーは遥か先を行っていた。
「薄くてびっくりしたでしょう……。でも、それだけじゃないんです!」
と言いながら、稲葉さんは親の仇かと思うほどの勢いで発熱シートをぐしゃぐしゃに握りつぶした。えええ、それはさすがにダメなのでは?
「いいんです! ワークウェアですから。これくらいの扱いに耐えられないと!」
たしかに、汗がしみ込んだウェアは手洗いなんかじゃなく洗濯機に突っ込みたい。冬はなかなか乾かないから脱水もしっかりかけたい。この「ヒートベスト」は内蔵ユニットだけでなく、バッテリーに差し込むUSB端子まで(傷めないようにキャップをかぶせる)、そのまま洗濯機で洗えるというから恐れ入る。空調服のようにファンを着脱する手間もない、忙しい朝のことを考えた実用的ウェアなのだ。
●「ベスト」の一点勝負!
「あと、知恵を絞ったのは形ですね。今回はベストのみ。ベスト一点だけで勝負です」
ここは少しひっかかる。作業着メーカーなら「同デザインで、ブルゾンとベストを2タイプを用意」とかやりそうなものだけれど、どんな思惑があるのだろう?
「決め手は使い勝手の良さですね。長袖ならアウターとしてしか使えないけれど、ベストならインナーやミドラーとしてブルゾンの下に着たりできる。ヒーターのおかげで薄手になってますから、スーツのジャケットの中に着てもモコモコしない。もちろんアウターとして使っても違和感のないデザインにしています。空調服もベストが登場してさらに売れるようになったし、やはり普及させていくにはベスト型で、幅広い提案をしていくのがいいんじゃないか、と」
使い勝手がいいのはウェアだけではない。電源も純正のバッテリー(型番166)に限らず、条件さえクリアしていれば市販のモバイルバッテリーなども使用できる。つまり、スマホの充電用に持ち歩いているモバイルバッテリーを、ヒートベストにつないで暖をとったり、あるいは暖かくて電熱が不要な場合にはバッテリーをモバイル機器の充電に使ったり、といった具合に柔軟なバッテリー運用ができるのだ。
「空調服は基本的に日中つけっぱなしにするものですが、ヒーターベストはきっとON・OFFの操作が多くなる。だからバッテリーも『これだけ必要』と決めなくていい。すでにモバイルバッテリーを持っている人はそれを使ったらいいし、もし容量が足りないなら自分の使い方に合わせて選んで下さいね、というわけです」
メンテナンス性、使いまわし、融通の利く電源の扱い。ここまで行き届いた「ユーザー目線」ぶりを見せられると、だんだんヒーターベストの普及は間違いないような気がしてくる。流行り出してから買うとカッコ悪いから、今のうちに手に入れて” アーリーアダプター”として自慢しようかな……。
そんなことを考える編集部を前に、満足げな笑みを浮かべる稲葉さんだった。
ヒーターは握り潰しても大丈夫!
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「冬はヒーターベストで!」と稲葉さん
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カジュアルなのに超ハイスペック! 防水防寒&透湿素材の「562シリーズ」 厳しい寒さだけでなく、雨や雪もしっかり防げる全天候型アウター。高い耐水圧に加えて、ダブル前立て、止水ファスナーなどで、水の浸入をガッチリ防ぎながらも透湿素材なのでムレ知らず。フードはヘルメットの上からかぶれる大型設計。中綿には保温性の高い極細繊維を使っているから、北国の冬でも安心。 |
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