東京駅東側のビル街にある「MARUGO TOKYO」。2019年、倉敷の地下足袋メーカー・丸五が創業100年を記念してオープンしたコンセプトショップである。海外ブランドを思わせる高級感のあるショーウィンドウに並ぶのは足袋型のシューズ。子供から大人まで日常使いできるカジュアルモデルから、ジョギングやウォーキングにちょうどいいスポーツモデル、そしてややフォーマルなジャケットスタイルにも合う革靴タイプと、野心的でハイクオリティな足袋型シューズがそろっている。コロナ禍が始まる前は、足指の動きを重んじるトレーニング志向のユーザーや通常のスニーカーでは飽き足らなくなったランナー、日本の履物文化に興味を持つ外国人などで人気のスポットだったが、今は雌伏のときだ。インバウンド観光客に地下足袋をアピールできないのは残念だけれど、そのうっぷんはぜひ本誌にぶつけてもらおう。丸五のもうひとつの顔、安全靴メーカーとしての実力を!
丸五
「空調靴」のマンダムドライ
新作の「かかとが踏めるミッドカット」
●人気の「空調靴」
さっそくFW営業部の小椋さんに、最近の作業靴の展開について聞かせてもらおう。丸五といえばお手頃価格の安全スニーカー「マンダム」シリーズや個性的な地下足袋シューズでおなじみだが、ここ数年は価格や機能だけでなく、デザイン性やブランドイメージを重視するこだわり派のユーザーも増えてきている。そんな中で、丸五はどのように存在をアピールしているのだろう。
「私たちは大手スポーツメーカーのような知名度はないので、価格をはじめワーキング分野で培ってきたブランド力、作業靴としての機能といったことで勝負していくしかありません。つまり靴の実力をアピールしたいわけですが、去年からコロナ禍で営業ができなくて……。とはいえ着実に手応えを感じている商品もあります。ただかっこいいだけじゃなくて、涼しさや視認性、脱ぎ履きの簡単さといったよそにはない特別な機能を打ち出した商品ですね。とくに去年からスゴイ商品を立て続けに出すことができたおかげで、近頃は『知る人ぞ知る安全スニーカー』といったポジションになりつつあるんです」
そう言って小椋さんが取り出したのは、2020年秋発売の「マンダムドライ(型番006)」。本誌2020年4月号で「開発中」とレポートした先芯に穴を開けた画期的モデルで、ダイヤモンド・ホームセンターの年間ヒット商品2018の第1位に輝いた「マンダムニット(型番001)」のパワーアップ版だ。商品に付けられた販売用タグには「空調靴」の文字が踊っている。
「発売から1年ほど経ったマンダムドライは、いまSNSやクチコミでじわじわ人気を集めています。マンダムニットも快適性がウケてヒットしましたが、やはり涼しさを求める声は強いし、通気性の高い商品は売れ続ける。夏はもちろん冬でもクルマの中とか、けっこう暑くて足も蒸れるんですよ。スポーツ系のメーカーも通気性をうたった商品を出していますが、こちらはアッパーからソール、先芯まで風が通り抜ける全方位通気。そこを訴えたくて『空調靴』という売り文句を考えました。空調服の性能にこだわるような『ギア好き』なユーザーさんにアピールしたいですね」
●「高視認」を売るアプローチ?
「特別な機能」は通気性だけではない。続いて登場したのは「マンダムニットHi-Vis(型番005)」。ヒット作マンダムニットのバリエーションモデルだが、反射材と派手な蛍光イエローのおかげでまったく別モデルのような雰囲気。マンダムシリーズのイメージをはみ出したインパクト大の商品だ。しかし、このデザインはただ「目立つ」だけではないという。
「このHi-Visは『高視認ウェアに合わせる安全靴』として企画しました。黄色の反射ベストやオレンジの作業服を着て働く道路工事やロードサービスなんかですね。こういった現場の安全性を考えると靴も高視認のほうがいい。そんなわけで、うちも以前は黄色やオレンジのモデルを用意していたんですけど、売れなかった。そこで今回は『カッコいい高視認』を目指して、人気のあるマンダムニットの同型で作ってみました。いくら安全性が高くてもかっこ悪いと履いてもらえないし、残念ながら視認性を評価して買ってくれる人は少ない。でも、蛍光イエローと反射材を使った派手なデザインならカッコよさで売れる。そうやって履いてもらえれば『安全性も高くていいね』という話になってくるわけです」
高視認だけを目的とした靴はダサくて売れない。また視認性で靴を選ぶ人などほとんどいない。しかし、安全のために高視認の安全スニーカーは着用されるべきだ。ではどうすればいいのか、と考えたとき「カッコよさ」というまったく別のアプローチが浮上したわけである。時流に乗った派手な安全スニーカーと見せかけて、じつは「反射ベストの友達」と。作業靴メーカーの企みは意外と深い。
●「かかとが踏めるミドルカット」
さらに「こんなのも作りました」と小椋さんが紹介するのは新作の「マンダムEZ(型番007)」。一見するとファッション性の高いミドルカット安全スニーカーだが、なんと、かかとが折り畳める。休憩中など、かかとを踏んで靴をスリッパ感覚で使いたいユーザーが多いことから企画したという。
「業界初の『かかとが踏めるミドルカット』です。私たちは開発のために職人さんの声をヒアリングしているのですが、やはり『靴を脱ぎたい』という声はよく聞くし、休み時間に靴のかかとを踏んでいる職人さんは多い。メーカーとしては靴が傷むからオススメできないけれど、そういう履き方をされるのが現実ならば、いっそそっちのニーズに対応しちゃおうか、と」
とは言うものの、単にかかとが踏める仕様にするだけならローカットでいいはずだ。そちらのほうが構造もシンプルだし、売り場でお客さんが手にとったときも一目瞭然だろう。それなのになぜ、わざわざハードルを上げてミドルカットで作ったのか。
「インパクトのある商品にしたかったんです。ミドルカットはカッコよくて安全性も高いけれど、脱ぎ履きしにくくて当然かかとなんて踏めない。でも、『この商品なら気楽にミドルカットを履けますよ』というわけです。ローカットのかかとを潰して履いているとちょっとだらしない感じですが、ミドルカットならかなり印象が変わる。それ以前に、この商品の場合、ぱっと見てつっかけているように見えないのも利点です。スケートシューズ風のしっかりしたミドルカットなのにめちゃくちゃ楽。そんな意外性がウケています」
先芯に通気孔を開けた画期的モデル「マンダムドライ」に続いて、今度は常識を覆すラクチンなミドルカット「マンダムEZ」が登場--。スポーツ系メーカーからは出てこないユニークな発想で、これからも一芸に秀でた商品を打ち出していく。
さっそくFW営業部の小椋さんに、最近の作業靴の展開について聞かせてもらおう。丸五といえばお手頃価格の安全スニーカー「マンダム」シリーズや個性的な地下足袋シューズでおなじみだが、ここ数年は価格や機能だけでなく、デザイン性やブランドイメージを重視するこだわり派のユーザーも増えてきている。そんな中で、丸五はどのように存在をアピールしているのだろう。
「私たちは大手スポーツメーカーのような知名度はないので、価格をはじめワーキング分野で培ってきたブランド力、作業靴としての機能といったことで勝負していくしかありません。つまり靴の実力をアピールしたいわけですが、去年からコロナ禍で営業ができなくて……。とはいえ着実に手応えを感じている商品もあります。ただかっこいいだけじゃなくて、涼しさや視認性、脱ぎ履きの簡単さといったよそにはない特別な機能を打ち出した商品ですね。とくに去年からスゴイ商品を立て続けに出すことができたおかげで、近頃は『知る人ぞ知る安全スニーカー』といったポジションになりつつあるんです」
そう言って小椋さんが取り出したのは、2020年秋発売の「マンダムドライ(型番006)」。本誌2020年4月号で「開発中」とレポートした先芯に穴を開けた画期的モデルで、ダイヤモンド・ホームセンターの年間ヒット商品2018の第1位に輝いた「マンダムニット(型番001)」のパワーアップ版だ。商品に付けられた販売用タグには「空調靴」の文字が踊っている。
「発売から1年ほど経ったマンダムドライは、いまSNSやクチコミでじわじわ人気を集めています。マンダムニットも快適性がウケてヒットしましたが、やはり涼しさを求める声は強いし、通気性の高い商品は売れ続ける。夏はもちろん冬でもクルマの中とか、けっこう暑くて足も蒸れるんですよ。スポーツ系のメーカーも通気性をうたった商品を出していますが、こちらはアッパーからソール、先芯まで風が通り抜ける全方位通気。そこを訴えたくて『空調靴』という売り文句を考えました。空調服の性能にこだわるような『ギア好き』なユーザーさんにアピールしたいですね」
●「高視認」を売るアプローチ?
「特別な機能」は通気性だけではない。続いて登場したのは「マンダムニットHi-Vis(型番005)」。ヒット作マンダムニットのバリエーションモデルだが、反射材と派手な蛍光イエローのおかげでまったく別モデルのような雰囲気。マンダムシリーズのイメージをはみ出したインパクト大の商品だ。しかし、このデザインはただ「目立つ」だけではないという。
「このHi-Visは『高視認ウェアに合わせる安全靴』として企画しました。黄色の反射ベストやオレンジの作業服を着て働く道路工事やロードサービスなんかですね。こういった現場の安全性を考えると靴も高視認のほうがいい。そんなわけで、うちも以前は黄色やオレンジのモデルを用意していたんですけど、売れなかった。そこで今回は『カッコいい高視認』を目指して、人気のあるマンダムニットの同型で作ってみました。いくら安全性が高くてもかっこ悪いと履いてもらえないし、残念ながら視認性を評価して買ってくれる人は少ない。でも、蛍光イエローと反射材を使った派手なデザインならカッコよさで売れる。そうやって履いてもらえれば『安全性も高くていいね』という話になってくるわけです」
高視認だけを目的とした靴はダサくて売れない。また視認性で靴を選ぶ人などほとんどいない。しかし、安全のために高視認の安全スニーカーは着用されるべきだ。ではどうすればいいのか、と考えたとき「カッコよさ」というまったく別のアプローチが浮上したわけである。時流に乗った派手な安全スニーカーと見せかけて、じつは「反射ベストの友達」と。作業靴メーカーの企みは意外と深い。
●「かかとが踏めるミドルカット」
さらに「こんなのも作りました」と小椋さんが紹介するのは新作の「マンダムEZ(型番007)」。一見するとファッション性の高いミドルカット安全スニーカーだが、なんと、かかとが折り畳める。休憩中など、かかとを踏んで靴をスリッパ感覚で使いたいユーザーが多いことから企画したという。
「業界初の『かかとが踏めるミドルカット』です。私たちは開発のために職人さんの声をヒアリングしているのですが、やはり『靴を脱ぎたい』という声はよく聞くし、休み時間に靴のかかとを踏んでいる職人さんは多い。メーカーとしては靴が傷むからオススメできないけれど、そういう履き方をされるのが現実ならば、いっそそっちのニーズに対応しちゃおうか、と」
とは言うものの、単にかかとが踏める仕様にするだけならローカットでいいはずだ。そちらのほうが構造もシンプルだし、売り場でお客さんが手にとったときも一目瞭然だろう。それなのになぜ、わざわざハードルを上げてミドルカットで作ったのか。
「インパクトのある商品にしたかったんです。ミドルカットはカッコよくて安全性も高いけれど、脱ぎ履きしにくくて当然かかとなんて踏めない。でも、『この商品なら気楽にミドルカットを履けますよ』というわけです。ローカットのかかとを潰して履いているとちょっとだらしない感じですが、ミドルカットならかなり印象が変わる。それ以前に、この商品の場合、ぱっと見てつっかけているように見えないのも利点です。スケートシューズ風のしっかりしたミドルカットなのにめちゃくちゃ楽。そんな意外性がウケています」
先芯に通気孔を開けた画期的モデル「マンダムドライ」に続いて、今度は常識を覆すラクチンなミドルカット「マンダムEZ」が登場--。スポーツ系メーカーからは出てこないユニークな発想で、これからも一芸に秀でた商品を打ち出していく。
ソールには工具のデザインが
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FW営業部の小椋さん
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安全靴でもリラックスしたいよね! かかとが踏めるミドルカット「マンダムEZ」 休憩時などに足を自由にしたいという声を受けて開発した「業界初のかかとが踏めるミドルカット」。かかと部分を内部に倒れ込ませられる構造で、ミッドカットのルックスはそのままにスリッパ感覚で使える。前から見てもつっかけているように見えないのも高ポイント。JSAA規格(A種)認定品。 |
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「蒸れない安全靴」といえばコレ! 快適な履き心地の「マンダムニット」シリーズ 高い通気性で人気の定番モデル。アッパーからソールまで空気が通り抜ける構造になっているため、夏の作業だけでなく暖房の効いたクルマの中など、移動中も快適に過ごせる。「マンダムニットHi-Vis(型番005)」は路上作業などでの安全性に配慮した高視認タイプ。JSAA規格(A種)認定品。 |
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