【寅壱】“上下エア”で行こうimage_maidoya3
白状すると寅壱が苦手だった。いや、取材どうこうではなくて「立地が」である。岡山から高松行きのマリンライナーに乗って児島駅で下車--ここまではいい、問題はこの先だ。駅から寅壱までは1.6kmほど。歩ける人にとってはなんでもない距離だけれど、それなりに時間がかかるので朝が忙しくなる。じゃあタクシーにすれば、と思うかもしれないが、あまりにも乗ってすぐ降りる感じなのだ。帰りはもっとややこしい。タクシーを呼んでもらう時間があれば半分くらい歩けてしまうからだ。結局、次のアポもあるので汗をかきながら児島駅へと急ぐことになる。今回も「なんとかならないか」と考えつつ児島駅で時間を調整していた。そして何気なく構内を歩き回っているうちにあるものを発見した。観光用のレンタサイクルである。料金500円を払ってママチャリで走り出すと、10分も経たないうちに寅壱に到着。つまり帰りも10分以下だ。ついに「正解」にたどり着いた満足感にひたりつつ、寅壱のエントランスに足を踏み入れた。

寅壱
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企画開発部の内藤さん
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穴をふさいでも使える1076ベスト
●限定カラーが大人気!
 
  「あ、カタログに載ってるそれ、もう在庫がなくってすいません。現物をお見せしたかったんですが……」
 
  商談スペースに入ってくるやいなやこう切り出したのは、企画開発部の内藤さん。「それ」というのは、限定カラーの空調服デバイス「寅壱スターターキット」のことで、(株)空調服の最新デバイスが黄色と金色に塗装されている。まるで往年のRCカーやミニ四駆のようなド派手なカラーリングである。これを寅壱ウェアに付けたら目立っていいなぁ……とつい若い職人のようなことを考えてしまう。
 
  「当社が空調服を手掛けるようになってこの夏で3年目。そろそろ遊び心がいるんじゃないか、というわけで、こういう独自カラーを企画してみました。黒系のスタンダードなものだけじゃなく、変わったものもあると選ぶ楽しさが増えますよね。空調服ってもはや夏の必需品といえるアイテムなのに、デバイスのバリエーションがまだまだ少ない。Tシャツを買うとき、いろんな色や柄、プリントの中から手に取るように、空調服のファンも好みや気分で選んでもらいたい。そんな提案です」
 
  なるほど、確かに他社に比べると(株)空調服のデバイスは、大人しいというか、質実剛健なイメージがある。昨年に発表された新型デバイスでは有機的なデザインの赤いファンカバーが登場し、イメージは少し柔らかくなった。しかし、ファッション性を有するアイテムになるための“踏み込み”は今ひとつ足りない印象だった。寅壱オリジナルカラーのスターターキットは、作業服メーカーがいつも直面しているユーザーの要望、つまり「もっと派手に!」「もっと目立つものを!」との声に応えた商品といえる。
 
  ●着こなし広がるハーフパンツ
 
  続いては新作の空調服対応ウェアについて教えてもらおう。内藤さんが取り出したのは、独特のガラ使いが目を引く「1077シリーズ」。解説は、まず特大インパクトのベストから。
 
  「今回のイチオシはこのベストです。空調服ベストは前回も出したんですが『ちょっとガラが大人しいのでは』という声がありまして『じゃあ、めちゃくちゃ派手にしてやろう!』と。凝りに凝ったカモフラ風のガラをダズルカラーと呼ばれる鮮やかな色調であしらいました。インパクトのあるロゴにポケット部分には反射材も付いています。ただガラを変えただけじゃなくて、デザインは一から書き直しているのでシルエットの違いも味わってほしいです」
 
  今回はベストに加えて、ベスト・半袖・ハーフパンツがそろった上下ものとして展開しているのが特徴だが、これにはどんな狙いがあるのだろう。
 
  「半袖は今回が初です。空調パンツも裾が外れるデュアルタイプではなく、完全なハーフパンツとして売り出すのは初めてのこと。空調服じゃないハーフパンツは以前も作ったことがあったものの、売れ行きがパッとしなかったので二の足を踏んでいたんです。しかし最近、西日本を中心にハーフパンツ姿の職人さんが増えてきた。禁止されていない現場も多いらしい、というわけで今回、ハーフパンツを空調服でやってみよう、と」
 
  ベストに半袖、ハーフパンツまでそろったことで、現場の環境や気分によってさまざまな着こなしが可能になるという。
 
  「普通は上着を空調服にしますが、作業内容によってはパンツだけファン付きにするのもアリだと思うんです。もちろんものすごく暑いときはデバイス2つとパンツ用のロングケーブルを用意して、上下で4ファンにすればいい。1077シリーズはすべてファンの取付穴がメッシュ仕様になっていて穴が隠れるので、ファンを外しても違和感がありません。ただの暑さ対策ではなくファッション性の高いアイテムに仕上げたので、気分によってベストと半袖を使い分けたり、コンプレッションウェアにハーフパンツだけといったシンプルな着こなしもいいですね」
 
  ●「好きな人は好き」
 
  ファン取り付け穴のメッシュカバーは、もちろん高所作業を意識しての仕様だ。もし作業中にファンが外れても、メッシュのポケットが受け止めてくれる。そして高所作業といえば鳶、鳶といえば寅壱--。そんなことを口にすると、内藤さんはまた別のウェアを広げながら言った。
 
  「うーん……鳶服は当社のルーツではあるんですが、商品開発としては、もうほとんど意識せずカジュアル衣料として作ってますね。で、もし鳶服のような個性あふれるアイテムがほしいという人には、こういうのをオススメしています。新作の空調服ベスト『1076』です」
 
  非常にクールでかっこいい。が、ひと目見ただけで、細部までこだわりが詰まっているのがよくわかり、情報量の多さにたじろぎそうになる。ちかごろ流行っている表現に「クセがすごい」というのがあるけれど、あれに近いかもしれない。あ、そういえば千鳥って岡山出身だったな……。
 
  「これはハッキリ言って『好きな人は好き』という商品です。普通、夏のウェアって真っ黒は避けるんですけど、空調服ならイケるんじゃないかと思って企画しました。遮熱コーティング仕様なので、黒でも温度が上がる心配はありません。フルハーネス対応で、ファンを外したときに穴を隠せる。そして、なにより好きな人が限られると思うのはルックス面ですね。丸いロゴはこのウェアのために作ったオリジナルで、ほかにもフードやポケットのディテールなど、非常にデザイン性の高い、外見重視のアイテムです」
 
  ●キープ・オン・寅壱
 
  凝りに凝った新作を出しておいて「好きな人は限られる」というのは、なかなかヘンな話に聞こえるかもしれない。しかし、そんな路線のウェアをあえて出すことに寅壱らしさがある、と内藤さんは語る。
 
  「ここまでこだわったウェアにしちゃうと、いくら高価格にしてもほとんど利益にならないんです。数もそんなに出ませんから。しかし、これも自社ブランディングにおいて大切なことだと考えています。他社がやらないようなことをするから寅壱なんですね。先ほどの1077シリーズのように、幅広い層に売れるものを展開しつつも、毎年ひとつふたつくらいはものすごく特徴的なルックスのアイテムを出していく。そうすることで寅壱のブランドイメージを守っていけるんじゃないか、と」
 
  先鋭的なウェアを作ることは、寅壱の生存戦略でもあるという。
 
  「鳶服も同じで、職人さんの根強い支持で作っている面もありますが、言ってしまえば広報ツールなんです。有名人にファッション雑誌で着てもらったり、ステージイベントの衣装にしてもらったりすることで、寅壱の認知度がアップする。もう昔と同じようなものを作っていれば売れる時代ではありません。頭を切り替えて、毎年毎年、店頭で目立つようなデザイン性の強いものを、手を替え品を替えながら見せていくしかない。つまり、他社が出しているような数が出るユニフォームとの明確な差別化ですね。これからも、1076のような訴求力のあるやつを限定生産で出していきますよ。」
 
  鳶服の成功は忘れて、またゼロからワークウェアに変革をもたらす--。「過去に囚われない」のも寅壱らしさなのかもしれない。
 
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ハーフパンツはポケットからも風が抜ける
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新作の半袖は派手なガラが特徴

    

ガラで選ぶならコイツで決まり! 新生スタンダード「1077シリーズ」

独特のガラとビビッドなカラーが印象的な「空調服」対応ウェア。襟や袖に黒を使って引き締めることで派手ながら端正なルックスを実現。生地は遮熱&UVカット仕様なので炎天下の現場でもデバイスの実力を発揮する。上下ともファンの落下防止メッシュ付き。ハーフパンツはバッテリーやファンに加え、パンツ用の専用ケーブルが必要。


空調服もハイグレードで魅せろ! “ギア感”バリバリの「1074シリーズ」

全体的なルックスから端々のディテールまで凝りに凝った「空調服」対応ウェア。ベストはフルハーネス対応でフードの着脱可能。パンツは裾が切り離せる2wayモデル。生地は軽量タフタに裏アルミコーティング加工を施した遮熱仕様。直射日光による温度上昇を防ぐ。上下ともファン付きにすれば炎天下の高所作業も快適。