突然だが、一億二千万人の作業着ファンに質問したい--。洋服の説明で「ボアのジャケット」や「裏ボア素材」とかよく言うけれど、あの「ボア(BOA)」とは一体どういう意味なのか? ほら、暖かくてふんわりしたアレでぇ、羊みたいにボワーンとしてるから「ボア」なんでしょ? なんて答えた貴方は、まだまだ修行が足りない。ワークウェア愛好家としては幕下レベル。ボーっと生きてんじゃねーよ! といった五歳児からの叱責も免れまい。……というわけで正解を発表すると、「ラテン語で大蛇」である。貴婦人が毛皮を首に巻いた様子が、絡みついた蛇のように見えることからついたネーミングらしい。つまり、いわゆる「ドカジャン」の襟はもちろん、ホステスのマフラーやコートの毛皮も大蛇だ。となると、仕事帰りのキャバクラで「なぁ、今夜はヘビのごとく絡みあわへんか? ボアだけに!」といった口説き文句も完全にキマるわけだ。当レポートで紹介するボアを着こなしたモテ話のご報告、編集部はお待ちしております。
クロダルマ
開発秘話を語る上引地さん
「社名を見られたくない」の声が……
●「人目が気になる」
クロダルマのショールームの奥に、それはあった。噂のリバーシブル・ボア「54384」である。一見すると何の変哲もないワーキング系のアウターといった印象だが、裏地には、ポリエステル素材のモコモコが襟元から裾までビッシリと張り付いている。それも触ると指が沈み込むほどのボリュームだ。
即座に思った。たしかに暖かいだろうけど……これっていいの? このままボアを表にしたら、まるでダスキンじゃないか? こんなモコモコ姿で建設現場や工場に行ったらどんだけゴミや砂埃が付着するか、想像しただけでゾッとする--。
こちらの訝しむ顔に気づいたのか、すかさず企画部の上引地さんが語り始めた。
「言いたいことはわかります。ワークウェアの世界では、ボアは禁じ手であり嫌われ者ですよね。とくに精密部品を扱う現場なんかでは、ホコリや静電気が大敵とされています。当社もご多分に漏れず、『作業着にボアなんかダメだ!』と思っていました。そう、あの日が来るまでは……」
あ、なんかテンプレな展開が来た、と思いつつ合いの手を入れる--。「あの日」とは!?
「ユニフォーム納入でお付き合いしている大手メーカーの担当者が、こうおっしゃったんです。『完全にオンとオフを分けられる制服がほしいなぁ……』。聞いてみれば、工場の従業員がボヤいているらしい。『休憩時間やアフター5にユニフォーム姿で街を歩いていると、なんとなく人目が気になる』とか。べつに近所の人からクレームが入るとかじゃないけれど、『△△社の工員だ』と噂されているようで、とくに若い子なんかはかなりストレスを感じている、と。で、この方から『この問題をなんとか解決したい。工場を一歩出たら、なんの心配もせず遊べるようにしてあげたい』とリクエストを受けたわけです。」
スタッフがふざけている写真や動画を勝手に撮られ、会社がSNS上で炎上させられた、といった話は今や珍しくもなんともない。スマホ育ちの若い工員なら、その脅威を肌身で感じているだろう。名札は外せても社名のネームは隠せない。ユニフォームのデザインで特定されることだってある。つまり、制服がある種のリスクになりうる時代なのだ。
●声を上げた女性
「そこで浮上したのが、リバーシブル構造です。完全に裏返しちゃえば社名のネームは見えないし、見た目もガラリと変わります。ただし、その工場のユニフォーム採用には安全上のルールがあって、『綿100%』でなければなりません。綿の作業着をリバーシブル仕様にするとすごく重くなるし、洗濯したらなかなか乾かない。アイデアはいいんだけど、うーん、困ったなぁ、と」
リバーシブル仕様のウェアは、生地をたくさん使う。裏返したらポケットなし、というわけにもいかないので、縫い付けるパーツも増える。当然そのぶん、重量やカサは増すし、価格も上がる。言ってしまえば、裏返しのデザインを楽しめることを除くと、ほとんどメリットがないのだ。
「そうこうするうちに、うちの企画マンがひらめきました。『リバーシブル仕様』であっても、必ずしも『リバーシブル作業着』じゃなくていいんじゃないか、と。この工場のように『アフター5に裏返して気分転換したい』『勤務中にリバーシブルする必要はない』といった話であれば、裏面は作業着じゃなくていい。こうなってくると、生地も『表さえ綿にしておけば裏はなんでもいい』ということになるわけです」
これこそがブレイクスルーの瞬間だったという。
「じゃあ、裏はどうしようか、と。もうまるっきり作業着じゃなくていいよね? いっそ絶対に会社のユニフォームだとバレないようなデザインのほうがいいんじゃない? と話が展開していった中で、『冬のアウターとして保温力も欲しい』『ドカジャンは根強い人気がある』『襟ボアは暖かくていい』といった案が出てきました」
あれ、いつの間にか、作業服の路線にUターンしていったような……。
「このとき、若い女性スタッフから声が上がったんです。『ボアにするなら、ジ◯◯ー◯・ピ◯(※有名ルームウェアブランド)みたいなファンシーなモコモコにしたいです!』と。登下校で小学生の女の子が着てるようなヤツですね。正直、え? そこまでやるの? と思いました。工員さんがそんなの着るかなって。でも、どうせ今までにないものを作るんだし、思い切ってやっちゃおう、という結論になった。そして実際に作ってみると、工場の担当者さんは前代未聞のカジュアルなボアに喜んでくれて、大発注。すぐ、お店でも大人気のアイテムになりました」
ノリのよさで知られるクロダルマ開発チームらしいエピソードである。
●退勤革命!
開発秘話から商品説明に入ろう。これまで表や裏といった言葉ばかり繰り返してきたが、じつはこのアイテムは4通りの使い方ができる「4WAY防寒アウター」なのだ。ボアをすべて内側に入れた「作業着」、それを裏返した「フルボア」に加えて、襟だけボアを出した「ドカジャン風」、その反対の「襟だけコットン」の4つの着こなしを楽しめる。
「ボアを全部しまうと工場仕様になり、安全かつ、きちんとした見た目になります。そして、襟だけボアにすると、アップデートした“現代風ドカジャン”といった感じですね。で、全部ボアにすると、ワークウェアっぽさがゼロになって、めちゃくちゃカジュアル。若い男性や女性にもよく似合います。この姿の人を見て、裏返すと社名のネームが入っているとは夢にも思わないでしょう。アフター5は安心して街に出て、英気を養っていただけます」
さっきから頷きすぎて首が痛い。そう、モコモコの存在感は、作業着のワイルド感やいかつさとは正反対という点がミソ。逆に言えば、この小動物みたいなボアはまったく現場にはそぐわないのである。だが、そこがいい。これによって「結局いつも気に入った面ばかり着てしまう」といった「リバーシブルの矛盾」が起きないからだ。
想像してみてほしい。仕事を終えたあと、一斉に作業着を裏返してボアの姿に変身し、夜の街に消えていく工員たちを--。世界でも類を見ない革命的なオンとオフの切替ではないか。
許されるなら、そんな“モコモコ退勤”の光景を撮影したい。TM NETWORKの「Get Wild」を動画にシンクロさせ、YouTubeで公開するのだ。おそらく日本が誇るユニフォーム文化の極致として、世界の称賛を集めるだろう。
クロダルマのショールームの奥に、それはあった。噂のリバーシブル・ボア「54384」である。一見すると何の変哲もないワーキング系のアウターといった印象だが、裏地には、ポリエステル素材のモコモコが襟元から裾までビッシリと張り付いている。それも触ると指が沈み込むほどのボリュームだ。
即座に思った。たしかに暖かいだろうけど……これっていいの? このままボアを表にしたら、まるでダスキンじゃないか? こんなモコモコ姿で建設現場や工場に行ったらどんだけゴミや砂埃が付着するか、想像しただけでゾッとする--。
こちらの訝しむ顔に気づいたのか、すかさず企画部の上引地さんが語り始めた。
「言いたいことはわかります。ワークウェアの世界では、ボアは禁じ手であり嫌われ者ですよね。とくに精密部品を扱う現場なんかでは、ホコリや静電気が大敵とされています。当社もご多分に漏れず、『作業着にボアなんかダメだ!』と思っていました。そう、あの日が来るまでは……」
あ、なんかテンプレな展開が来た、と思いつつ合いの手を入れる--。「あの日」とは!?
「ユニフォーム納入でお付き合いしている大手メーカーの担当者が、こうおっしゃったんです。『完全にオンとオフを分けられる制服がほしいなぁ……』。聞いてみれば、工場の従業員がボヤいているらしい。『休憩時間やアフター5にユニフォーム姿で街を歩いていると、なんとなく人目が気になる』とか。べつに近所の人からクレームが入るとかじゃないけれど、『△△社の工員だ』と噂されているようで、とくに若い子なんかはかなりストレスを感じている、と。で、この方から『この問題をなんとか解決したい。工場を一歩出たら、なんの心配もせず遊べるようにしてあげたい』とリクエストを受けたわけです。」
スタッフがふざけている写真や動画を勝手に撮られ、会社がSNS上で炎上させられた、といった話は今や珍しくもなんともない。スマホ育ちの若い工員なら、その脅威を肌身で感じているだろう。名札は外せても社名のネームは隠せない。ユニフォームのデザインで特定されることだってある。つまり、制服がある種のリスクになりうる時代なのだ。
●声を上げた女性
「そこで浮上したのが、リバーシブル構造です。完全に裏返しちゃえば社名のネームは見えないし、見た目もガラリと変わります。ただし、その工場のユニフォーム採用には安全上のルールがあって、『綿100%』でなければなりません。綿の作業着をリバーシブル仕様にするとすごく重くなるし、洗濯したらなかなか乾かない。アイデアはいいんだけど、うーん、困ったなぁ、と」
リバーシブル仕様のウェアは、生地をたくさん使う。裏返したらポケットなし、というわけにもいかないので、縫い付けるパーツも増える。当然そのぶん、重量やカサは増すし、価格も上がる。言ってしまえば、裏返しのデザインを楽しめることを除くと、ほとんどメリットがないのだ。
「そうこうするうちに、うちの企画マンがひらめきました。『リバーシブル仕様』であっても、必ずしも『リバーシブル作業着』じゃなくていいんじゃないか、と。この工場のように『アフター5に裏返して気分転換したい』『勤務中にリバーシブルする必要はない』といった話であれば、裏面は作業着じゃなくていい。こうなってくると、生地も『表さえ綿にしておけば裏はなんでもいい』ということになるわけです」
これこそがブレイクスルーの瞬間だったという。
「じゃあ、裏はどうしようか、と。もうまるっきり作業着じゃなくていいよね? いっそ絶対に会社のユニフォームだとバレないようなデザインのほうがいいんじゃない? と話が展開していった中で、『冬のアウターとして保温力も欲しい』『ドカジャンは根強い人気がある』『襟ボアは暖かくていい』といった案が出てきました」
あれ、いつの間にか、作業服の路線にUターンしていったような……。
「このとき、若い女性スタッフから声が上がったんです。『ボアにするなら、ジ◯◯ー◯・ピ◯(※有名ルームウェアブランド)みたいなファンシーなモコモコにしたいです!』と。登下校で小学生の女の子が着てるようなヤツですね。正直、え? そこまでやるの? と思いました。工員さんがそんなの着るかなって。でも、どうせ今までにないものを作るんだし、思い切ってやっちゃおう、という結論になった。そして実際に作ってみると、工場の担当者さんは前代未聞のカジュアルなボアに喜んでくれて、大発注。すぐ、お店でも大人気のアイテムになりました」
ノリのよさで知られるクロダルマ開発チームらしいエピソードである。
●退勤革命!
開発秘話から商品説明に入ろう。これまで表や裏といった言葉ばかり繰り返してきたが、じつはこのアイテムは4通りの使い方ができる「4WAY防寒アウター」なのだ。ボアをすべて内側に入れた「作業着」、それを裏返した「フルボア」に加えて、襟だけボアを出した「ドカジャン風」、その反対の「襟だけコットン」の4つの着こなしを楽しめる。
「ボアを全部しまうと工場仕様になり、安全かつ、きちんとした見た目になります。そして、襟だけボアにすると、アップデートした“現代風ドカジャン”といった感じですね。で、全部ボアにすると、ワークウェアっぽさがゼロになって、めちゃくちゃカジュアル。若い男性や女性にもよく似合います。この姿の人を見て、裏返すと社名のネームが入っているとは夢にも思わないでしょう。アフター5は安心して街に出て、英気を養っていただけます」
さっきから頷きすぎて首が痛い。そう、モコモコの存在感は、作業着のワイルド感やいかつさとは正反対という点がミソ。逆に言えば、この小動物みたいなボアはまったく現場にはそぐわないのである。だが、そこがいい。これによって「結局いつも気に入った面ばかり着てしまう」といった「リバーシブルの矛盾」が起きないからだ。
想像してみてほしい。仕事を終えたあと、一斉に作業着を裏返してボアの姿に変身し、夜の街に消えていく工員たちを--。世界でも類を見ない革命的なオンとオフの切替ではないか。
許されるなら、そんな“モコモコ退勤”の光景を撮影したい。TM NETWORKの「Get Wild」を動画にシンクロさせ、YouTubeで公開するのだ。おそらく日本が誇るユニフォーム文化の極致として、世界の称賛を集めるだろう。
モコモコで明るく退勤!
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「リバーシブルを楽しもう!」
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仕事が終われば「モコモコ変身」! リバーシブルの裏ボア防寒「54384」 裏地に保温力の高いボアを使ったリバーシブル仕様の防寒アウター。表面は綿100%のアクリルコーティング加工で、工場などのユニフォームに最適。裏返しにすれば全面ボアのモコモコ姿になって、会社のユニフォームな雰囲気はゼロに。襟だけを裏返してボアにしたり、その逆にしたりもできる4WAY仕様。 |
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これが「令和のドカジャン」だ! 温故知新の襟ボア防寒「54385」 古き良き「ドカジャン」のテイストに加えて、暖かさや軽さも兼ね備えた防寒アウター。表面はしなやかでツヤのあるツイル生地。背中側にはアルミプリントを施すことで保温性をアップさせた。インパクト大の襟ボアは取り外し可能。1着でさまざまな着こなしを楽しめる。 |
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