まいど通信
まいど!まいど通信編集長の田中です。ずいぶん懐かしい言い方ですが、私の記憶が正しければ、今日は全国的に4月30日、土曜日だったはず。間違いないですよね。では、まだ4月であるのに、なぜ皆さんは月刊まいど屋5月号の扉を開き、こうしてまいど通信を読んでいるのか。これは明日の世界を覗き見ることができる未来新聞なのか。このまま読み進めていくと、そこには伊勢志摩サミットの晩餐会で酔っ払ったメルケル首相がオバマ大統領に馬乗りになって首を絞めたこととか、雨の天皇賞で16騎が落馬し、残った2頭のワンツーフィニッシュで10万馬券が出たこととか、こうした与太原稿を目にすることでストレスをためた月刊まいど屋の読者によってまいど屋が盛大に炎上したこととか、とにかく4月の時点で誰も知るはずのないことがいろいろ書いてあるのだろうか。
そうであったらどんなに楽しいだろうと思うけど、実は全く違います。タネ明かしをすると、明日5月1日からまいど屋はゴールデンウイークのお休みで、それで仕方なく本日、5月号をアップしちゃったというわけなんです。編集部の誰一人、休日出勤の労を取り、きっちり当日に本稿を掲載しようと考える者がいないんだから、もうどうしようもありません。先日、部員を集めて全員に目を閉じてもらい、自分が犠牲になってもいいと思うひとは手を上げてくれと言ったら、全ての両腕がだらりと垂れさがったままでした。結局、震災後に日本の隅々まで浸透したと思われたボランティア精神は、少なくともここ編集部には根づかなかったようなんです。悲しいけれど。
え、自分が手を上げればいいじゃないかって?残念ながら、そうはいきません。私の大切なゴールデンウイークは、このようなしょうもない原稿の取り扱いごときでつぶされてしまうほど価値のないものではないのです。それによく考えれば、皆さんにとっても、4月号の月刊まいど屋の掲載期間が1日短くなったからといって世界の終わりが来るわけでもなく、逆に未来を先取りしたような、希望に満ちた連休を迎えられることになるわけです。
今日4月30日。本日中に月刊まいど屋5月号を読んでしまえば、あなたは未来について少しだけ学んだことで命拾いをしたバックトゥーザフューチャーのドクのように、自らの運命を大きく変える手がかりをつかめるかもしれません。明日のことは誰にもわからない。でも未来はあなたの意思で変えられる。さあ、先を読んでください。さあ。
というわけで、今月のテーマはあなたの仕事観まで変えちゃう安全靴
足元をご覧ください。あなたが今履いているその安全靴。本当に、心の底から、他に乗り換えるなんて考えることもできない最高の相棒だと思っていますか。どんなことがあっても、一生添い遂げる覚悟があると自信を持って言い切れますか。周りには誰もいないから、そしてまいど屋はあなたの告白を他言することなど絶対にないから、今心に浮かんでいるありのままを話してください。そうですよね。それは運命なんかではなかった。あなたはたまたま近所の店に出掛け、ただ成り行きに任せて買ってしまっただけなんです。若気の至りだったんです。深く考えもせず、ただパッと見の第一印象だけで決めて家に持ち帰った。熟慮を重ねた末の決断だったと自分自身に嘘をつき、自分は幸せ者だと繰り返し何度もつぶやくことでやっと正気を保ち、そのくせ心のどこかで深く後悔をしているんです。そして、あなたはあなたが選ぶことのなかったもう一つの人生があったはずだと時々考えたりする。あくまで今の生活を壊すことのない空想の世界の中で、誰を傷つけることもなく、悲しくも平和的に。
あったかもしれない人生を自分のものにする勇気がないのなら、今回の特集はあなたのそんな空想癖をさらに悪化させてしまう恐れがあります。レポートを読んでも、それはご自身とは関係のない、どこか異国の話であると思ったほうが身のためです。今あなたと共にいるパートナーとは間違っても比べてみたりしないことです。これほどの上玉にはめったにお目にかかれないのだから、比較する自体、無意味なことです。あなたには元々そんな縁がなかった。ただそれだけです。
しかし、もしもあなたに全てを清算して一からやり直す覚悟があるのなら、今月のレポートはあなたの人生を変えてしまうことになるかもしれません。ご紹介している3メーカーのアイテムは、どれも選りすぐりの粒ぞろいですが、実はあなたが、あなたの現在のパートナーを選んだ時と同様、手を伸ばせばあっけないほど簡単に手に入るものだからです。
深いため息をつきながら馴染みのある道を歩んでいくか、思い切って自分の理想を現実のものにするか。どちらを取るにせよ、それはあなたの人生ですから、まいど屋はあなたの選択に対して何も言うつもりはありません。もちろん、あなたの告白を口外することもありません。心の内を聞かせてくれてありがとう。そして、Good Luck。
ところで今月号は、月刊まいど屋第100号(どうでもいいけど)
読者の皆さんはだからどうしたと言うかもしれないけど、編集長としてはそれなりに感慨深いものがあります。創刊以来、せっせと書きつづけてとうとう100回目。休むことなく、読者の皆さんにまいど屋の「今」をお届けしてきました。作り置きのお惣菜みたいに書き溜めておくこともせず、わりと真面目に鮮度にこだわってレポートを掲載していますから、編集作業は皆さんが想像する以上にいつもバタバタで、プレッシャーも大きいんです。日々カレンダーを見て、ああ、時間が足りない、もうあと○日しかない、なんてぶつぶつ言いながら、何とかやってきました。本当に、冗談抜きで、けっこう大変なんですよ。それでも皆さんがほめてくれないのなら、ささやかながらセルフでお祝いしときます。パチパチ。
振り返ってみると、月刊まいど屋が誕生したのは、まいど屋がネット通販のお店としてオープンしたのと同時でした。まいど屋に来店してくれるお客さまに、何か特別なおもてなしができないかと考えたんです。単に品物を販売するだけじゃなく、皆さんと一緒になって商品について考えたり、批評したりすることはできないか。参考にしたのが「通販生活」のカタログです。商品スペックの羅列みたいな無味乾燥の情報なんかじゃない、その裏側に潜む、人肌の温かみがあるストーリーを通じて商品を知ってもらおうと思ったんです。
ただ、そう意気込んで始めてみたものの、やってみるとそう簡単にはいきませんでした。メーカーさんも忙しいから、そうそううまくアポが取れるわけでもないし、何より取材した後、原稿を上げるのに時間がかかるんです。今だから白状しますが、このコーナーを始めるまでは、生まれてこのかたまともに文章など書いたこともなかったもんですから、要領がわからない。で、書きながら、少しずつ自分で学んでいった。自分なりのコツみたいなものをつかむのに、何年もかかりました。だから初期のころの特集と、最近のものとでは、かなり文章の雰囲気が違います。昔のはなんだか肩に力が入っているというか。ま、それはそれで初々しくていいのかもしれないけど。
あ、そうそう、苦労話のついでにもう一つ、結構しんどい思いをしているのがトップページの特ダネ紹介文です。この月刊まいど屋が100号目なら、特ダネも100回目です。そして特ダネ商品は毎月10個あるから、作った特ダネ文は1000個にもなります。1000個ですよ、1000個!替え歌考えたり、下ネタや時事ネタにしてみたり、ない知恵を絞っていつもうんうん唸ってるんだけど、こっちは一向にコツがつかめず、慣れません。1000も考えれば、ネタも尽きるんですよね。継続は力なんて言うけれど、本音を言うともうやめたい。誰か代わりにやってくれるひといないですかね。
おまけの話
あれはやっぱりやめるわ、と彼女は言った。まるで今夜の夕食用にせっせと準備したラタトゥイユを中止して、昨日のカレーの残りで済ませましょうとでもいうような気軽な調子だった。もしそれが本当に夕ご飯の話だったのなら、僕としても特に異存はなかったろう。彼女がレシピ本を斜め読みして挑戦する珍奇な新メニューよりも、一日経って味の沁み込んだカレーの方がずっとおいしいに決まっているからだ。だが、もちろん、僕はそんな本心は彼女に言わない。残念そうな顔を作って見せ、そうか、残念だけど、君の好きにすればいいさ、と残念そうに言う。
いつもはそれがルールだ。それが、ゲームを支障なく進めるのに一番いいやり方だ。だが、この日の夕方、彼女がやめるわと言ったとき、僕は全く、一言も気の利いた言葉を思いつくこともできず、ただ自分の耳を疑ってその場に立ち尽くしてしまった。
「急にどうしたの?」胸苦しさを覚えながら、僕はやっと言葉を吐き出した。
やめるのよ、と彼女はもう一度僕に向かってきっぱりと言い切った。そこには僕の事情などは一切考慮される余地がない、鉄のように冷え冷えとした彼女の意思だけが存在していた。でも、と言いかけて僕は諦めて口をつぐんだ。彼女が一旦口に出したことは、たとえアメリカ第七艦隊の原子力空母を差し向けたとしても、撤回させることは不可能だと知っていたからだ。君の好きにすればいいさ、と僕は言った。
僕が彼女に不信感を覚えたのは、「あれ」というのが晩御飯の献立のことなんかではなく、僕らが何か月もの間、めくるめくようなスリルと恍惚感を覚えながら密かに準備を進めてきた秘密の完全犯罪計画のことだったからだ。世の中にあふれる弱者にターゲットを絞り、誰にも気づかれることなく彼らの生き血を吸うはずだったのだ。それは確かにいいアイデアに思えた。あの名作「罪と罰」で主人公のラスコーリニコフが良心の呵責に苛まれることなく老婆を殺害したように、僕らは僕ら自身の論理に従って、正義の犯罪を遂行する義務があると信じていたのだ。少なくとも、その時まで、僕自身は、心の底から。
なぜ僕はこんな話を始めたんだろう。こうしてまいど通信の原稿として書き始めるまでは、僕自身の記憶からすっかり消えていた、僕がまだずっと若かったころの物語などを。もしかしたら、それはつい最近、あのときの衝撃とまではいかないまでも、ある意味ではそれに極めて近い感情的な起伏を経験したからかもしれない。そう、僕はそれを聞いたとき、あの日と同じように、何も言えずに立ちすくむことしかできなかった。頭の中で相手が言っていることの意味を理解するまでに、かなりの時間が必要だった。やっぱりやめたとその相手は言った。まいど屋が相手の言われるままに時間をかけて作業を完了させ、ようやく画面にアップした全アイテムの値上げをだ。カタログには新しい定価が印刷され、すでに相当数のお客さまにも配られてしまっているというのに。そして値上された価格で購入してしまったお客さまが全国に数えきれないほどいるというのに。
君の好きにすればいいさ、と僕は言った。あの日と同じように。ジーベックがつい最近僕らに対して通知してきた値上げ撤回は、つまりは僕の心に長い間しまってあったあの苦い思い出の、メタファーのようなものなのだと思う。
【編集部より】はっきりと大きな声で言いにくいので、小説仕立てにしてみましたが、わかりにくかったでしょうか。要は、ジーベックさんの値上げが突然中止になったということです。よって、最新の春夏カタログに記載されている定価は、全て誤植ということになり、まいど屋の販売価格も急ぎ元の価格に戻しました。値上げ価格で販売していた4月中頃までにジーベックの商品をお買い上げいただいたお客さまには、本当に申し訳なく思います。それにしても、メーカーさんもいろいろ事情があるのでしょうが、こういうのは金輪際勘弁してほしいです。これからお買い物をされる圧倒的多数のひと達が救われたという意味では、喜ぶべきことなのだろうけど。