【PUMA】衝撃の日本デビューを総括するimage_maidoya3
プーマと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるか。古くは1986年ワールドカップにおけるマラドーナの華麗なステップワーク。最近では北京五輪でのボルトの神がかり的に加速するストライド。そんな数々の栄光のシーンには、いつもあの、獲物に襲い掛かろうとするアメリカライオンのロゴマークがあった。プーマはスポーツ史のドラマには必ず登場する世界的フットウェアである---世間で広く共有されているイメージを最大公約数的にまとめるとするならば、多分そうなるのではないだろうか。
  そう、プーマはその設立当初から、多くのトップアスリートたちに愛されている、いわばサラブレッドのようなブランドである。なぜプーマがスタート時からそれほどのステータスを持っていたのかについては、本欄の趣旨とはあまり関係がないし、又聞きの知識を基に知ったような解説をするほど厚顔でもないので、詳細はウィキペディアに譲ろう。ただひとつ、ここで自信を持って確かに言えることは、それが昔から間違いなく、我々の憧れであり続けたことだ。学生時代に運動部に所属していたひとなら覚えているだろう。プーマを履くということは、自分が運動部員であるということを確認するための、そしておそらく、自分がライバルよりも優れた能力を持っていると信じるための、ひとつの重要な儀式でさえあったのだ。
  さて、そんなプーマがまいど屋のラインナップにデビューを飾ってほぼ一年が経過した。デビューを高らかに宣言することもなく、ある日、わりとひっそりと商品一覧に登場し、その他の安全靴コレクションの中に隠れるようにしてそこにあった。その間、まいど屋は皆さんに対し、特に告知らしい告知もせず、ただ時間が過ぎていくのを待っていた。編集部がこれほどのブランドをこれだけ長く放っておいたのにはワケがある。一言で言って、まいど屋はプーマを試したのだ。我々があれこれと手助けせずとも、実力があるならばひとりで勝手に輝き始めると信じていたのだ。日本に来た当時のジーコが、彼が持っていた華々しい経歴によってではなく、ただその時点における周囲との圧倒的なパフォーマンスの差によって尊敬を勝ち取ったように。
  もうそろそろいいだろう。一年経って、実力は十分証明されたと思う。予想通り、プーマはそのスポーツシューズとしての知名度や、我々が抱くノスタルジックな心象によってではなく、安全スニーカーとしての性能の高さで数多くのワーカーに受け入れられたようである。だからここらで月刊まいど屋読者の皆さんに対し、正式にプーマを紹介するのも悪くない。遅くなってしまい、ファンの皆さんには申し訳なかった。今回の特集は、あのPUMAである。
 

PUMA
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和歌山県有田市にある(株)ユニワールド
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商品説明をする中井部長(手前)と藤田常務(奥)
「2014年夏に販売をスタート。おかげさまで当初販売計画より伸びています」。そう話すのは、ドイツのPUMA本社とライセンス契約を結び、日本におけるPUMAブランドの安全スニーカーを独占的に手掛ける(株)ユニワールド(和歌山県有田市)の常務取締役・藤田健太郎さん。「我々が皆さんにお届けしているPUMAセーフティーシューズは、ドイツ本社が出しているヨーロッパモデルを基本として日本仕様にアレンジしています。ヨーロッパのセーフティーシューズは黒ベースなので、日本向けのカラーパターンを特別に作ったり。また、また本革使用モデルは高い関税がかかるので、素材を替えてみたりと」。
  ちなみにヨーロッパではスニーカータイプも安全靴とされ、革製の安全靴と同様、ヨーロッパ統一の安全基準『EN規格』に準じて作られている。日本のように革の安全靴(JIS)とプロテクティブスニーカー(JSAA)とに分けて規格されているわけではないので、安全スニーカーであっても革製と同等の信頼性があるというということだ。「ただ、日本では革製でないとJISが通らないですから、日本市場に投入したプーマは安全靴ではなく、あくまで安全スニーカーという分類になります。JSAA適合品でもほとんど合格しないと言われるあの厳しいEN規格をクリアしているので、安全スニーカーの中でも最上級クラスのセーフティー仕様なんですけどね」。
  ところで、プーマといえばナイキ、アディダスと並ぶ世界3大スポーツブランド。セーフティー部門とはいえ、なぜ一般的には無名に近いユニワールドがライセンスを獲得できたのか?「きっかけは、5年ほど前にプーマの方と知り合ったことでした。その後、ちょくちょくコンタクトをとって、“日本で人気の高いプーマをワークの分野でどうブランディングしていくか”“ブランドイメージをどう広げていくか”など、日本市場について丁寧に分析して提案していったんです。それで何年か経って、ようやく相手もこちらが本気であると理解してくれた。当社の熱意を感じていただけたんだと思いますよ」。ちょうどプーマセーフティーがアメリカ進出を果たそうという時期で、次はアジアへという頃だったことも幸いしたようだ。アジア進出ならまず日本からとなるが、日本市場は特殊で、事情の分からないヨーロッパの人間だけでは動くに動けない。そんなプーマ側の事情もあったのだろう。
  さて、そろそろこの辺でPUMA日本進出にまつわる裏話は止めにして、本題である各商品のレビューに移ろう。2016年5月1日現在、プーマの安全スニーカーは全6モデル(色違いは除く)。大別すると、落ち着いた黒ベースの3モデルと、鮮やかなカラー系の3モデルだ。その中からまずは黒ベースに4本の細いカラーラインが入った樹脂先芯の『ヒューズモーション ローカット(メンズ)』を解説する。話し手は商品企画部の中井部長だ。「一番の特長はカカトの衝撃吸収性ですね。ソールに埋め込んだ2層構造の『デュオセル』が着地の衝撃を大幅にカットし、足腰への負担を軽減してくれます。また、ソール中央部の『トーションコントロールシステム』が前後、左右、ねじれの3方向の動きをサポートし、非常に安定した履き心地を実現しています」。
  黒ベースシリーズの中でよりスポーティーなデザインの『スピード』も同様のソール仕様。また、同じ『ヒューズモーション ローカット』でも女性モデル(ウィメンズ)は、スチール先芯。メンズモデル同様に『トーションコントロールシステム』を搭載し、カカト部の衝撃吸収ジェルパッドがトランポリンのような役割をして軽やかに歩ける。
  一方、鮮やかなカラーリングのモデルは、ミドルカットの『フルツイスト』、スエード調で質感重視のローカット『エアーツイスト』、ビビッドなカラーONカラーのローカット『キックフリップ』で、アッパーの素材こそ違うが、機能は3モデルとも同じ。「どのモデルもグラスファイバーで強化した新開発の合成樹脂先芯を採用しています。そしてやはりこちらも一番の特長は、そのクッション性でしょうね。カカト部には柔らかな衝撃吸収材『iDセル(アイディーセル)』を搭載しています。『デュオセル』同様、非常に性能が高く、長時間履くとはっきり実感できるほど身体への負担が軽減されていることがわかるんです」。
  シューズをひっくり返して靴底を見ると、親指の付け根にあたる部分に500円玉大の丸いカラー切り替えがある。これはデザインなのか?「ここは歩行時に最も力がかかる部分なので、グリップ力があって摩耗に強い素材をポイント的に入れています。カカトのカラー部分も同じ素材を使って強化しています」。さらにインソールは解剖学的にデザインされたもので、制電糸のステッチ入り。靴内の湿気を調整し、快適な履き心地を生み出すという。
  最後に再び藤田常務に戻って話の続きを。何やら読者の皆さんに伝えたいことがあるらしい。「価格が高めなのは、ライセンスブランドだからではなく、使っている部材が違うからです。働くひとが8時間、10時間と履いても気持ちよく。そして、買ったら早く履きたい!仕事がしたい!と、履くのが楽しみになるものを出していきたいんです。6月には、縫い目が一切ない完全無縫製のセーフティーシューズが世界同時発売されます。そしてさらに今年の冬には、日本人の足に合った幅広・甲高仕様のモデルもリリース予定です。全力疾走できるくらい履き心地がいいものをね(笑)。どうぞ、楽しみにしていてください」。
 
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6月に世界同時発売予定の完全無縫製シューズ