まいど通信


        

まいど!まいど通信編集長の田中です。まいど屋の今後の方針について疑心暗鬼になっている読者の皆さん、どうか安心してください。まいど屋は皆さんに何かもっともらしい言いがかりをつけ、皆さんの寂しい懐から、今夜の楽しみに取っておいた晩酌代をそっくり寄こせなどと凄んでみせるつもりはありません。または皆さんがパートナーに隠れて積み立てておいた合コン用の資金が、LEONの「イタリアオヤジに学ぶ口説き服」のページに挟んであるだろうなどとドスの効いた声で指摘するつもりもありません。そうしたいのは山々なんですが、仮にそうしたコワモテ路線を試そうとすると、逆に皆さんから何だこの野郎と逆襲を受ける恐れがあり、また現に、過去には某ゾゾタウンの社長が同じような趣旨の発言をしたところ、各方面から袋叩きに遭ったという事例もありますから、万事事なかれ主義を信条とするまいど屋としては、そうしたリスクを極力避けるため、ここは下手に動かないよう、自制を働かせることにしたのです。
ただ、まいど屋が一度はそうしたチャレンジをしてみようかという誘惑に駆られたことは正直に打ち明けておきます。まいど屋にはそうしようと思わざるを得ない正当な理由がありました。そうです。とうとうヤツがまいど屋にやってきたんです。連日やかましく喚き立てるニュースを見て、もしかしたらここにも来るんじゃないかと恐れていたのですが、そして一方で、まいど屋ごときの店なら気にも留められずにスルーされるに違いないと楽観していたのですが、甘かったです。ヤツに言わせると、まいど屋はヤツの攻撃目標のトップにリストされているほどの要注意店であり、まず真っ先に血祭りにあげるべき存在だったらしいのです。
飛脚のマークが入った青と白の縞々を身に纏い、まいど屋の物流センター内をいつもせかせかと走り回っているヤツのことです。いや、正確に言うと、ヤツの上にいる上層部が、まるで腹痛でも起こしたような難しい顔をして編集部のあるオフィスに入って来たんです。お分かりかとは思うのですが、とその男は言いました。物腰は丁寧で友好的な口調を保っていましたが、それに続く言葉の意味するところはそうした態度と正反対で、反則切符を切る婦人警官のように問答無用の冷酷さに貫かれていました。男はしばらくにこやかに談笑した後、「まいど屋もおわかりであって当然」の値上げを通告して悠々と帰っていきました。わずか30分の滞在で、編集部の予算の10年分以上が消えてなくなりました。
ヤマト運輸が例の件で騒ぎ始めて以来、値上げの動きは運送業全体に広がり始めています。そしてまいど屋の荷物を運んでくれる佐川急便も、物流のことならお任せ下さいなどと私たちの味方であることを強調する織田裕二のCMとは裏腹に、やはり頼りになる存在ではありませんでした。跳ね上がった運送費は皆さんに請求しない限り、そっくりそのまままいど屋の持ち出しになります。しかしながら、どうもコワモテを演じきれないまいど屋は、ムダであることが最初からわかりきっている検討をダラダラと続けた末、結局は皆さんと面倒を起こさない道を選んだのです。本当はゾゾの社長みたいに、一度でいいから「商品がタダで届くと思うんじゃねえ」なんて威勢のいい啖呵を切ってみたいのだけれど。

今月のテーマは梅雨対策
毎回のことなんだけど、このテーマ、結構しんどいです。レポート本文の中でも少しグチをこぼしましたが、雨具の差別化ポイントってすごくマニアックで、絞るべき焦点の種類が限られていますから、書くネタがすぐに尽きてしまうんです。ぼんやりと取材をしていたら、聞いたことのある話ばかりになりかねない。で、どうにか視点を変えてみようとあれこれ苦労をするわけです。もちろん今回も予想通りの苦労の連続で、取材後もそれをどうやってまとめればいいのかよくわからなくなり、レポートのいくつかはとうとうホールデン的口調の冷笑的語りで話を進めることになってしまいました。そうです。事ここに至っては、自分自身に対して、そして周囲に対して、皮肉たっぷりに物語るあの少年を模倣しなければ、自分がはまりつつある状況を脱出できるような気が全くしなかったのです。号タイトルの「ライ麦畑で雨に降られて」にはそうした意味を込めています。ヒネリすぎて全然わからないという苦情も周囲からはチラホラと聞こえてくるけれど。でも、それにしても、まさか読者の皆さんがこれを読んで欺瞞に満ちた月刊まいど屋がイヤになり、編集部の前で待ち伏せしてピストルを撃ったりしないでしょうね。こっちには自分の遺志を継いでくれるポールも、オノ・ヨーコもいないんだから、そしてまだこれといったヒットを飛ばしたこともないんだから、それだけは勘弁してください。

ラスコー洞窟の鳥人間
ちょっと前からまいど屋のトップページにとんでもないものがくっついています。それは顔の真ん中に突如現れた巨大なできもののように醜悪で、目を背けたくなるほど奇怪な姿をしていますが、諸事情によりどうしても除去することができずに、まいど屋としては仕方なく、しばらくそれを放置することにしております。そして全てのできものが常に人をそうさせるように、まいど屋は先日来、自身のトップページを占拠してしまったその異物を、しきりと撫でさすってはイライラを募らせているのです。
何故そんなものが出現したのか。理由はあまり大きな声では言いたくないのですが、恥を忍んで打ち明けると、まいど屋の財務上の問題です。そう、まいど屋は近い将来、カネ回りが悪くなってこんな月刊まいど屋など続けていけなくなる可能性があるのです。諸悪の根源は、できものの中に収められている空調服です。来月号で詳しく特集しますが(そのときまで月刊まいど屋が存続していればの話ですが)、今や夏の現場の風物詩となったあの空調服に関して、現在、業界ではとんでもない事態が持ち上がっており、各メーカーから数多くの空調服が続々と発売されています。そして、すべてのお客さまに対していい顔をしたがるまいど屋は、後先考えずに全メーカーと契約を交わし、遂には物流センターの床が抜けるほどの在庫を抱え込む羽目に陥りました。皆さんご存じの通り、空調服は季節ものの商品です。ハロウィンの後のかぼちゃの被り物みたいに、時期が過ぎればそれは無用の長物となり果て、再び引く手あまたの脚光を浴びるまでおよそ一年の歳月を要してしまいます。まいど屋にはそれを待つような余裕はありません。仕入れた在庫を皆さんに買ってもらえなければ、そしてそれがちゃんと現金になってまいど屋の口座に戻らなければ、編集部には予算が回ってこなくなり、読者の皆さんと共に歩んできたこの月刊まいど屋も今月で廃刊となってしまうかもしれないのです。それで背に腹は代えられず、あのようなバナーを目立つ場所に設置して、皆さんの目を空調服に引き付けようと目論んだのです。
ところがここで新たな問題が起こります。まいど屋のシステム開発を担当する開発部のエンジニアたちが、独自の主張をし始めたのです。こちらでは全く気付かなかったのですが、彼らの編集部に対する反抗心は予想以上に高まっていました。そして長年の不満を爆発させるように、今回、彼らは具体的な行動に打って出ました。今この瞬間、まいど屋トップページを汚している例のできものをクリックしてみてください。その先にはこれまでのまいど屋とは雰囲気を全く異にする、妙に取り澄ましたビジュアル系の世界が広がっています。それは昭和的ロマン主義を大切に守ってきたまいど屋の世界観とは相いれないもので、編集部の人間にすればトップページからの画面の切り替わりの非連続性は、ほとんどラスコー洞窟の壁画にある鳥人間の飛躍のごとくシュールに思えるのですが、この特集ページ制作を強行した開発部のメンバーに言わせれば、新たに作ったページこそが彼らの目指す洗練で、その他の部分のまいど屋はどれも恥ずかしくて人さまにお見せできるような代物ではないということらしいのです。まいど屋社内で開発と編集の権力闘争が激化した挙句、万一開発側が勝利してまいど屋を乗っ取るようなことになれば、まいど屋全体があのようなスピルバーグまがいのSF的ショップになりかねません。そんな事態を回避するため、苦渋の妥協を強いられて、彼らの自治権を認めてしまった結果が、異界への口を広げた、世にも不思議な鳥人間のような現在のトップページなのです。
人間、生きていると、そして通販をやっていると、いろんなことが起こります。そしてそれに付き合わされる皆さんもまた、いろんなことに巻き込まれて奇妙な体験をすることになります。例えばひとのできものが気になって仕方がなくなり、よせばいいのに自分も触ってみようかなどと出来心を起こしたり。その結果、気が付いたらショッピングリストになかった空調服を買ってしまっていたり。おまけに後からこんなロクでもないまいど通信を読まされて、衝動買いを誘った罠の後ろに潜んでいた、何の義理もない編集部の都合を知って嫌な思いをたっぷりと味わったり。月刊まいど屋の読者をしていても、やはりいろんなことが起こるようです。