まいど通信
●ケッタイなこと始めます
はじめまして。今回から「月刊まいど屋」の編集長を務めることになりました、ライターの奥野です。大阪在住のフリーライターで、主にビジネス系の記事や書籍を書いています。
そんな僕に今回の仕事の依頼が来たのは、11月中旬のことです。
マスコミ業界ではめったにお目にかかれない丁寧なメールで、月刊まいど屋を新体制でリニューアルしたい旨が書かれてありました。
「なるほどねー、自社サイト掲載のPR記事か。フフ、お安い御用で……」
と思いつつ、メールに貼られていた「月刊まいど屋」のリンクを何気なく開いた瞬間、それまでの笑みは完全に消え失せました。
「こ、これは要注意案件だぞ!」(ガタッ)
条件を確認した上で何日か考えさせてほしいとメールを送り、数日後、腹を据えて「月刊まいど屋」のバックナンバーを読んでみました。
大阪では奇異なもの、よくわからないものに対して「ケッタイな」という表現を使います。そして、この言葉には、どちらかといえば肯定的なニュアンスがある。つまり「ケッタイなやっちゃ」は「ヘンなやつ!」ではなく「おもろいやつ!」という意味に近いのです。
個性的な企画、独特の文体、そして過度なボリューム……。しかも10年も続いている。
なんてケッタイな依頼だろう!
月刊のウェブマガジンを丸ごと請け負うわけですから、生半可な覚悟ではできません。日ごろから企画も考えておかなくてはならないし、締め切り日から逆算して、取材スケジュールや執筆の段取りもつけておかねばならない。
大変ではある、しかしおもしろい仕事だ。
とにかく何か答えなくては、と田中氏に電話をかけました。
まいどブラやズラ、空調オフィスウェアをはじめ、過去の企画を楽しそうに語る田中氏の声を聞いているうちに僕の心は固まっていました。
●私、作業服の味方です
法律や医療といった特に専門性の高いジャンルを除けば、「そこそこ読ませる文章を書ける」というのがライターの職能です。
とはいっても、個人的にまるで興味のない分野について書くのは苦痛を伴うもの。人間ですから、好きなものもあれば「なんとなく合わない」というものもあるわけです。
ところが、この点でも「月刊まいど屋」の仕事はバッチリでした。
というのも、僕は普段から作業服の店で、日ごろ着る服を買っているからです。
昔から、服でも何でも長年使いこめるヘビーデューティーなものが好きです。「機能美」という言葉に強く惹かれることもあり、軍用品やアウトドアウェアを好んで着ていました。ここ数年はもっぱら近くの作業服の店で、上着やズボンを買うのが定番になっています。
そんなわけで家族や友達には、
「作業服は安くて機能的でいいよー!」
なんてことを言ってたわけですが、そんな話は誰も聞きたくないだろうし、個人の(かなり偏った)嗜好に過ぎないので、どこにも書いていません。
それなのに作業服について書いてほしいという依頼が来る――。
奇遇というか、ちょっと気味が悪いくらいだなぁ、と。
いくら依頼者と波長が合っても、ジャンルが美容器具や金融商品だったら受けられないでしょう。
つまり、月刊まいど屋は、個人的にもかなり「書きたいもの」なわけです。
●自転車と作業服
メーカーさんはきっと御存知かと思いますが、アウトドアを趣味にする人の一部(本気で競い合うのではなく、自分のペースで気楽にやってる人)は作業服メーカーの製品に熱い視線を注いでいます。
理由はひとつ。コストパフォーマンスがいいからです。
ウインドブレーカーや雨具など、アウトドアウェアブランドの製品とほとんど同性能のものが半分以下の値段で買える。しかも、百貨店のテナントに入っている登山用品店と違って、作業服の店はだいたい近所にあるので、ほしいと思ったらすぐ手に入れられます。
僕はと言えば、ハイキングやサイクリングが趣味です。
特にここ数年は自転車にハマっていてママチャリとロードバイクの中間のような自転車で旧街道や山をのんびり走っています。
悩みはウェア選びです。スピード志向ならレーサーパンツとサイクルジャージにすればいいだけの話ですが、僕のような中途半端なサイクリストは着るものが難しい。
ジーンズはサドルとこすれてすぐ穴が開いてしまうからダメ。夏でもずっと風を受けてると寒くなってくるから上着は持ってなきゃいけない。冬にスニーカーで乗っていると風が入ってつま先がしもやけになるし……。
そんなわけで作業服の出番になるわけです。
ナイロンやポリエチレン製のニッカボッカやストレッチパンツならペダルを回すのも快適。屋外作業用のヤッケなら畳んでドリンクホルダーに入れておける。つま先が寒いときは、食品工場などで使うディスポーザブルのシューズカバーをつけるという「裏技」もあります。
雨具も、作業服の店でゴアテックス(快適だけどすごく値が張る)と同じような透湿素材のものを買いました。これを着て雨の日でも3人乗り自転車に子供を乗せて走っています。
最近のお気に入りは作業靴でのウォーキングです。ソールが薄くて裸足感覚なので、不整地を軽く走ったりすると普段使わない筋肉を使う。これが気持ちいい。
一般人としては、かなりの「作業服ファン」だと思うのですが、いかがでしょう?
●作業服が「語られるジャンル」になる
個人的に好きなだけではなく、作業服というジャンルには可能性を感じます。
今はマイナーだけれど、もっとメジャーなものになるのでは、と。
いや、僕だって「将来は日本人がみんな作業服を着るようになる」なんて考えているのではありません。そういう方向性ではなく、
「ワークウェアはもっとあれこれ語られるジャンルになってもおかしくない」
と言いたいのです。
知る人ぞ知るマニアックなジャンルが、あっという間にたくさんのファンを獲得するということは、意外とよくあるものです。
焼酎だって、ひと昔前は九州人と一部の(わりとどうしようもない)酒呑みだけが愛する酒でした。それが今や、都市部の高級店にボトルが並び、テレビや雑誌で特集が組まれ、ワインのように味わってウンチクを語り合うような、ひとつの「ジャンル」になりました。
いまや超メジャーな存在である新選組や坂本龍馬だって、子母澤寛や司馬遼太郎の小説がヒットするまでは、世間では「誰それ?」という感じだったといいます。
最近では、NHKの朝ドラ「あさが来た」でディーン・フジオカが演じた経済人・五代友厚がそうですね。大阪人でも、経済史を学んでいる人でもなければ、誰も知らない人でした。昔から大阪証券取引所に銅像が立ってるのに。
このように、ラーメンにしろご当地キャラにしろ、もともとは「語られるようなジャンル」ではなかったわけです。
ならば、作業服という豊饒なカルチャーが、もっと多くの人に語られるメジャーなものになって不思議はない、と。
そもそも、ファッションにおける20世紀最高の発明といわれるジーンズだって、鉱山で働く人のための作業服だったわけですから、ポテンシャルはある。
というわけで、今後この「月刊まいど屋」は、商品のPRをするだけでなく、作業服カルチャーの発信地にしていくつもりです。
どうぞみなさま、ご期待ください。